五島慶太
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五島 慶太（ごとう けいた、1882年（明治15年）4月18日 - 1959年（昭和34年）8月14日）は日本の実業家。東京急行電鉄の事実上の創業者。正三位勲一等
東京帝大卒業後、官僚を9年勤めた後に現在の東急東横線の前身である武蔵電気鉄道常務に就任。実質的な経営権を獲得し、池上電気鉄道を始めとする数々の競合企業を乗っ取る形で次々と買収。その強硬な手口から「強盗慶太」の異名を持った。ただし、鉄道事業では優れた経営を行い、阪急電鉄の小林一三と並び、「西の小林、東の五島」と賞された。
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[編集] 幼少期～大学卒業
長野県小県郡青木村に農業を営む小林菊右衛門・寿ゑ夫妻の二男として生まれる。父･菊右衛門は熱心な法華経の信者で朝起きたとき、夜寝る前、南無妙法蓮華経を少なくとも五百編から千編ほども唱えていたという。その両親の姿勢を受け、慶太もまた仏教に感化を受けていった。父は製糸事業などに手を出し失敗していたため、家計はとても楽と言える状況ではなかったのだが慶太の志は高く、両親を説得して旧制長野県立上田中学校（現･上田高校）に入学、4年からは松本の知人の家に下宿し、松本中学校（現･松本深志高校・当時上田中は松本中の支校（分校）で4年次以降は本校である松本中への転校が必要だった）へ通った。
慶太は更に上級学校への進学を夢見たが、経済的理由により進学をあきらめて中学卒業後、青木村の小学校の代用教員をしていた。しかし、慶太の向学心は強く、1902年の夏に上京し東京高等商業学校（現･一橋大学）を受験するが、英語で失敗し不合格。その翌年に、学費のいらない東京高等師範学校（現･筑波大学）へ合格し、代用教員を辞し英文科へ進学した。卒業後、三重県の四日市市立商業学校（現、四日市商業高校）で英語教師をしたが、教員の世界に飽き足らず、さらに最高学府への進学を志し、1907年9月に東京帝国大学政治学科の専科に入学。10月には、当時難関中の難関とされた旧制第一高等学校の卒業資格試験に挑戦、見事これに合格し、法学部本科に転学した。しかし、またまた学資に窮してしまい、東京高師の校長で在学中に世話になった嘉納治五郎の紹介により、富井政章男爵の息子の家庭教師として居候することになった。富井の息子の第二高等学校が決まると、次は富井の紹介で加藤高明の息子の家庭教師として加藤邸に居候することとなった。またこの頃精力のハケ口を求めてたびたび吉原や浅草六区、根岸の遊女屋に出入していたという。1912年、東京帝国大学法学部を卒業する時にはすでに29歳になっていたが、高等文官試験に合格し、加藤高明の斡旋で農商務省に入り、工務局に配属となった。工場法施行に伴い、工場監督官に採用されるが、施行が3年延期になったため、鉄道院に移ることとなった。
[編集] 鉄道業界へ
鉄道院転属の前年の1912年2月24日、五島が30歳の時、工学博士古市公威の仲人で、皇居二重橋の設計者であり、日本や台湾、そして朝鮮半島の鉄道建設を手がけたことで知られる実業家、久米民之助の長女・万千代と見合い結婚をした。万千代は2歳の時に久米民之助の祖母の実家で、絶家になっていた五島姓を名乗るようになって五島家を再興していた。慶太は万千代と結婚した後に五島姓を名乗ることになった。万千代との間には2男2女を儲けた。東急社長・日本商工会議所会頭等を歴任した五島昇は慶太の長男。長女は曾禰益に嫁ぎ、次女は早世、次男・五島進は東京帝大を卒業後、海軍に入隊、ソロモン諸島に出征中に敵機の機銃掃射に撃たれ、絶命。
鉄道院では、文書課、監督局、監督局内の総務課と職場を移り、1919年には総務課長に就任したのだが、五島は当時高等官七等という身分であったために、「課長心得」という肩書きになった。しかし、この処遇が気に食わず、稟議書の認可を押す時に、わざと「心得」の2字を消してから、上へと回した。すると、次官がそれに気づき、かくして五島は「課長」なる事ができた。その後、課長を1年半ばかりやっていたが、官吏の生活に嫌気がさしてきた。ちょうどその頃、武蔵電気鉄道社長の郷誠之助が資金集めに難航し、鉄道建設に専門の知識を持った常務が欲しいと、鉄道院次官に掛け合ったところ、次官は「課長心得が気に入らないと言って「心得」を消してくる面白いやつがいる」と五島を紹介した。五島にとっては渡りに舟と、1920年5月11日に鉄道院を辞め、武蔵電気鉄道常務に就任した。こうして、五島の9年に渡る官吏生活は終わりを告げた。
たまたまその頃、実業家の渋沢栄一が荏原郡の田園調布や洗足等に分譲用として45万坪の土地を購入し、目黒駅と蒲田駅から同経営地まで鉄道を敷設すべく、荏原電気鉄道が創立された。しかし、みな素人ばかりで事業が不振に陥っていた。そこで、大株主の第一生命社長の矢野恒太に相談したところ、第一生命相談役の和田豊治が阪急電鉄総帥の小林一三を推したが、小林は忙しいということで、代わりに五島が推薦された。小林からは「荏原電鉄を先にやって、45万坪の土地を売り、その利益で武蔵電鉄をやればいい」と説得され、荏原電鉄の専務に就任した。荏原電鉄は目黒蒲田電鉄と名前を変え、1924年に全線開通をするが、時期が関東大震災と重なったために、都心を焼け出された人が次々と沿線に移住し、業績は一気に回復した。その利益で武蔵電鉄の株式過半数を買収し、名前を武蔵電鉄から東京横浜電鉄と変え、1932年に渋谷～桜木町間を開通させた。しかし、昭和恐慌の煽りを受け、業績は悪化。自殺を考えるまで苦しい状態に陥った。その時、五島は「予算即決算主義」というものを確立した。これは後々まで五島の事業経営の哲学として生きていくことになる。
また1924年、関東大震災で被災した東京工業大学を蔵前から東横電鉄沿線の大岡山に移転させることに成功した。その後も、1931年に日本医科大学に武蔵小杉駅近くの土地を無償で提供し、1932年に東京府立高等学校を八雲に誘致した。1934年には慶應義塾大学に日吉台の土地を無償提供し、日吉キャンパスが開設された。1936年は東京府青山師範学校（現在の東京学芸大学）に資金援助を行い、下馬に誘致するなど、東横沿線は学園都市として付加価値が高まっていくことになる。それと同時に、多くの通学客という安定的な乗客を獲得した。
1933年7月、競合していた池上電気鉄道の株を川崎財閥から譲り受け、一夜にして買収を成し遂げた。しかし3ヶ月後の10月、東京市長選に関連して盟友牛塚虎太郎への選挙資金を目蒲電鉄が拠出したという投書が警視庁に届き、目蒲電鉄に家宅捜索が入った。池上電気鉄道買収の際に川崎財閥に渡した手付金の小切手10万円が市長選に使われたとの嫌疑がかかり、五島は市ヶ谷刑務所に送致された。一審では有罪判決を受けるが、二審で逆転無罪となり、大審院が上告を却下したため無罪が確定し、釈放された。この間半年であったが、五島は後に「私はこのときが人間として最低生活であった」と回想している。獄中では読書に明け暮れ、「菜根譚」といった難解な書物にも挑戦したようだ。
その後の株主総会で、五島に感謝金5万円を贈呈することが決議された。五島は以前にも教師を務めていた事から、教育事業には関心を持っており、その資金に私財12万を投じて、東横商業女学校が設立された。その後も、財団法人東横学園（現、学校法人五島育英会）を設立したり、東横学園中学校や東横学園女子短期大学を開校するなど、晩年まで教育活動には熱心だった。
1934年、渋谷に関東初の電鉄系ターミナルデパートである東横百貨店を開業した。当時、呉服が中心だった百貨店事業のなかで、東横は日用品中心の品揃えを展開する。ターミナルであった渋谷駅は当時でも30万人近い乗降客があり、都心に行かずして買い物ができる東横百貨店は人気を呼んだ。また、東横百貨店のとなりに本社ビルを持っていた玉川電気鉄道の株式を内国貯金銀行の前山久吉から譲り受け、買収。1938年、東京横浜電鉄に合併した。
[編集] 「強盗慶太」
1938年、前山久吉の所有していた三越株の譲渡の話が持ち上がった。そこで五島は東横百貨店を三越と合併させ、東横を三越の渋谷支店にしようと考え、10万株を購入した。しかし、三井財閥の中枢企業である三越を乗っ取りを阻止するために三井銀行は東横への融資を停止。三井の要請を受けた三菱銀行頭取の加藤武男も慶応閥の牙城だった三越の買収に手を貸せば非難が向くと判断し、融資を停止した。五島は三井・三菱を相手に戦いを挑まねばならなくなった。もちろん資金繰りは悪化。慶応閥に大いに顔が利く小林に助力を依頼したのだが、小林に「渋谷のような片田舎の百貨店がそんなことをするのは、蛙が蛇を飲み込むより至難」と諭され、やむなく断念した。
1934年、五島は渋谷～新橋間に地下鉄を敷設するために、大倉組や東京地下鉄道と協力して東京高速鉄道を発足させ、常務に就任した。1938年には渋谷～虎ノ門間を開通するに至るが、社長門野重九郎が東京駅への延伸を主張するのに対し、五島は新橋より東京地下鉄道へ乗り入れ、浅草に至るルートを主張し、2人は対立した。そこで1939年、五島は大日本電力社長の穴水熊雄より東京地下鉄道株式45万株を譲り受け、東京地下鉄道社長の早川徳次を退陣に追い込んだ。早川は早稲田出身であったために、慶応閥の銀行からは擁護されず、退かざるを得なかった。しかし、この騒動によって、地下鉄事業に全力を尽くした早川を会社から追い出した五島には世間から大きな非難が湧き上がった。その後、1941年に陸上交通事業調整法に基づく帝都高速度交通営団成立に伴い、両社の株券は営団債券に振り替えられたが、五島はその株券が転じた債券の山を見て人知れず号泣したとも言われている。
こうして五島は乗っ取り王として「五島」ならぬ「強盗慶太」の異名をとり、本人も「白昼札片を切って堂々と強盗を働く」と豪語していた。1942年には、陸上交通事業調整法の趣旨に基づき、既に五島の経営下にあった京浜電気鉄道、小田急電鉄を合併し、東京急行電鉄を発足させ、さらに1944年には京王電気軌道を合併。また、相模鉄道など東京西南部全域の私鉄網を傘下に収め、俗に言う「大東急」となった。
[編集] 東條内閣に入閣、公職追放
1943年、内閣顧問に任ぜられ、木造船の行政査察使として青森から関西の造船所を回った。巡回の後、箱根の強羅ホテルでレポートを仕上げているところに次男の戦死を耳にした。1944年、東條英機内閣の運輸通信大臣に就任し、名古屋駅の交通緩和や船員の待遇改善などに貢献する。
終戦後の1947年、東條内閣の閣僚だったという事でGHQ（連合軍最高司令官総司令部）によって公職追放者指定を受けた。公職追放後も影のご意見番として事実上企業活動に参加。大東急分割騒動の際も、むしろ自ら企業分割を推奨し大東急再編成の推進役を果たした。
追放解除後は再び東急電鉄会長に就任し、まずは各系列会社の運営実態を確認。倒産寸前にまで陥っていた東映に対して東急専務で「経理の専門家」として五島が多大な信頼を寄せていた大川博を社長として派遣し、見事に3年で立ち直らせた。1953年には「城西南地区開発」を発表し、神奈川県北東部を中心とした地域の多摩田園都市開発に着手する。
その一方で、1955年に横井英樹の白木屋乗っ取りに手を貸し、これに東横百貨店を吸収、「強盗慶太」の健在ぶりを知らしめる。また、定山渓鉄道や北海道各地の乗合バス会社を次々と買収し、北海道開発を推進した。伊豆の観光開発にも力を注ぎ、伊東～下田間の鉄道敷設を計画するなどし、箱根の観光事業では小田急側に付き、西武の堤康次郎と激しく対立する「箱根山戦争」が繰り広げられた。1959年横井英樹と組み、東洋精糖買収に乗り出し、熾烈な攻防戦を繰り広げる。しかし、その最中に五島は病没し、東洋精糖株は死後27日目に手放された。
[編集] 死後の評価
強引な企業買収で知られているものの、東映の再建、伊豆半島や北海道の開発、田園調布を発端にした多摩田園都市の開発など、その壮大な事業構想は、企業家として高く評価されるものである。なお前述のような経緯もあって小林一三からは私鉄経営について多くを学び、ターミナルであった渋谷駅にデパートを設置したことや田園都市を開発したのは、小林の手法を模倣したものだとされている。三越乗っ取り事件は、東横百貨店の従業員研修の際に、研修先の候補のひとつに挙がっていた三越に受け入れを断られたことを逆恨みしてのものと言われている。
しかし小林より大規模に行った「学校の誘致」の様に、独自の発想によるものもいくつかあった。更に小林が官僚の天下りを嫌ったのに対し、五島は積極的にそれを政治的に使って事業を推し進めようともするなど、官僚出身者であるが故といった面も見られることがあった。その反面、小林が多用した「"隠密"を使っての事業拡大」という手法は採らなかった。戦後の買収劇に関しては、長男の五島昇が「親父が最後の10年間でやった買収は全部失敗だ」と述べている。
ライバルとして知られる西武鉄道の堤康次郎同様、美術品のコレクターとして知られ、コレクションの公開のため、死の翌年に五島美術館が創立された。
[編集] 年譜
- 1882年 - 長野県小県郡青木村に生まれる
- 1906年 - 東京高師卒業後、四日市商業学校に赴任
- 1911年 - 東京帝国大学法学部を卒業し、農商務省に入省
- 1913年 - 鉄道院に転属
- 1920年 - 武蔵電気鉄道常務に就任
- 1922年 - 目黒蒲田電鉄専務に就任
- 1934年 - 東京高速鉄道常務に就任
- 1936年 - 東京横浜電鉄、目黒蒲田電鉄取締役社長に就任
- 1939年 - 東横電鉄、目蒲電鉄を合併し、東京横浜電鉄になる
- 1942年 - 東京急行電鉄に商号変更
- 1943年 - 内閣顧問に就任
- 1944年 - 運輸通信大臣就任に伴い、東京急行電鉄社長を辞任
- 1947年 - 公職追放
- 1951年 - 公職追放解除
- 1952年 - 東京急行電鉄取締役会長に就任
- 1959年 - 死去
