歩兵
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歩兵(ほへい、英:infantry)は、軍隊における兵科の一つであり、主として徒歩で部隊行動し、ライフル銃などの個人用の武器を持ち、比較的近距離での戦闘を担う兵士のこと。第二次世界大戦以降は機械化が進み、アサルトライフルや機関銃等を装備し火力が増大している。移動にあたっては装甲車歩兵戦闘車に搭乗することも多い。 最も基本的な兵科で歴史があり、加えて最も柔軟性の高い兵科でもある。なお、自衛隊用語では普通科という。
「陸戦の女王」とも称される。いかに無人化が進んでも、都市・拠点の確保を目的とする場合には歩兵の存在が不可欠である。特に近年、軍隊や警察の特殊部隊を編成するにあたって、特別な訓練を受けさせた歩兵の重要性が高まっている。
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[編集] 歩兵の概要
歩兵は歴史を通じて陸上戦力の基幹であり、地形への柔軟な対応力、戦術運用の多様性、戦車や火砲と違い、高度な技術がなくても入手可能な戦力であることなどから、全世界の軍隊、警察などの武装組織に採用されている。現代の戦争において、火力や機動力が非常に重視されており、歩兵は補助的な戦力として考えられる場合が多いが、拠点制圧、市街戦、ジャングル戦、上陸戦、人質救助、カウンターテロ、精密兵器誘導などの火力が制限される局面においては、高度に組織化し訓練された歩兵部隊は必須の存在である。特殊部隊はその歩兵の特性に注目して、人質救助、カウンターテロなどに特化した歩兵で編成した部隊が多い。
[編集] 歩兵の歴史
歴史を通じて見ても、歩兵はほとんどの軍隊において核となる存在であった。これは歩兵の持つ戦闘能力の柔軟性や多様性による部分が大きい(安価な戦力という側面もある)。
[編集] 古代
古代ギリシアでは、ポリス(都市国家)の市民を担い手とする重装歩兵が誕生し、ファランクスと呼ばれる密集隊形を組んで戦う戦術が用いられるようになった。ペルシャ戦争においては、この戦術によりペルシャ軍を何度も打ち破っている。ギリシアではこの他にもパノプリア(完全な鎧の意)やぺルタステス(軽装兵)といった歩兵も登場した。古代ローマは、これをいわゆるローマ軍団におけるレギオンという形でより洗練された編成、隊形、戦術に発展させ、その構成要員も数千人にまで達するようになった。
[編集] 中世 火力の時代へ
民族大移動によりローマ帝国が崩壊すると、ヨーロッパにおいてはその後一千年程、歩兵に代わり騎兵が優位を占める時代となった。しかし、その後の長弓の発達を背景に、百年戦争のクレシーの戦いやポワティエの戦いにおいて、よく訓練された弓兵、歩兵によりフランス騎士団が大打撃を被ったことが転機となった。これ以降、騎兵はより軽装に、より機動性が重要視されるようになり、一方歩兵は再び軍隊における最も重要な存在に復権した。
その後、マスケット銃などの初期の銃火器が登場したが、長弓は、それらよりも射程・命中率・攻撃力の集中・発射速度の点で優れており、銃火器と並行して数百年の間使用されつづけた。しかし長弓は効果的に使うためには非常な熟練を要する武器であり、実戦で戦えるまで訓練するのには長い時間がかかった。このような欠点とは反対に、テルシオ隊形や三兵戦術の研究が進み、また数週間から数ヶ月訓練した多数の人員と豊富な資金と銃や火薬の製造所さえあれば編成可能なマスケット銃兵の部隊が用いられるようになった。また中世末期より産業化が進行し、田園的な貴族制は廃れて、都市に人と富が集中したことが、訓練は十分ではないものの大規模な歩兵部隊の迅速な召集を可能にした。
騎兵の機動性の向上、強い打撃力に対応して、歩兵にとっては槍が身を守る為の重要な武器となった。当初はマスケット銃兵に槍兵(パイク兵)が混成され、発砲の合間銃兵を護衛していたが、銃剣が普及するようになり銃兵に刀剣戦闘力が付加されるに至り、槍兵は姿を消し、近代の歩兵の姿が確立され始めた。
[編集] 近代 機械化へ
歩兵の輸送手段は、それまでは徒歩や船、馬であったが、19世紀より鉄道が使われ始め、1890年代以降いくつかの国では自転車が採用された(馬もしばらく併用されている)。第二次世界大戦では日本陸軍の歩兵が自転車で移動し、大成功を収めた。機動性における大きな革新は、1920年代以降より始まり、自動車を使った自動車化歩兵の部隊が生まれた。この頃から、移動中の兵士の安全を確保することの重要性が認識されるようになり、移動時に装甲車を使用する機械化歩兵が編成されるようになった。
[編集] 現代 新たな歩兵
現代の歩兵は、装甲車や火砲、ヘリコプター等航空機に支援されて行動するが、依然として地上の特定の地域を占領、確保することができる唯一の兵種であり、このため戦争遂行にとって必要不可欠な存在でありつづけている。また個人が携帯出来る武器の火力が大きくなり、ゲリラ戦や市街戦などの非対称戦争が増加する傾向から歩兵に高度に専門的な訓練を施した特殊部隊が各国で配備されつつある。
[編集] 歩兵の部隊構成概略
歩兵部隊の編成は組織や時代によって非常にばらつきがあり一概には言えない。
基本的に現代の軍隊では二人から六人程度で構成される班が戦闘の最小の行動単位となり機関銃などの制圧火器がしばしばこの部隊に配備される。二個から三個の班から構成される分隊があり(分隊支援火器として制圧火器がこの分隊に配備される場合もある)、三個から四個ていどの分隊で構成されるものは小隊、小隊が三個から四個ほど集まった部隊を中隊とする。中隊の規模になってくると歩兵の人員数は100~250人程になり、歩兵の部隊での比率は60%から90%程度になってくる。中隊がさらに三個から五個ほど集まって大隊となり、大隊は部隊を支援するための火砲や車両などのを装備し、おおむね少佐や中佐の士官が指揮を執る。その大隊を三個から四個ほど擁するのが連隊または旅団と呼ばれる。この連隊や旅団は大体1500~2500人程度の人員を抱え、中佐や大佐が指揮を執り、支援として戦車隊や工兵隊なども部隊を構成する場合がある。この程度の規模の部隊になれば歩兵の比率は25%から60%当たりになってくる。ちなみに旅団や連隊よりも大規模な師団という部隊の単位も存在する。
時代によっても歩兵の編成は変わってくる。例えば古代中国では卒、伍、隊、旅、軍というような編制の記述が兵法書にみられる。この影響からか近代の日本にも伍長、一兵卒、部隊、旅団というような名称があるように一部名残があるようである。
[編集] 歩兵に求められる能力
歩兵には非常に多岐にわたる実践的な能力が求められる。その歩兵がどのような任務につく部隊に所属しているか、またどのような適性があるのか、予算がどのていど充実しているのかなどによって大きくその教育内容などが変わるので、概略することは難しい。平均的な歩兵の能力について以下は述べる。
- 徒歩での移動能力に関しては歩兵は徹底的に訓練で鍛えられる。歩兵はしばしば50kg以上の装備を担いで、車両が入ってこれないような険しい地形を突破する必要があるため、マラソンや山岳地域の行軍などで体力と強い足腰を鍛える必要性がある。歩兵だけにいえることではないが、歩兵の根本的な任務は徒歩で複雑な地形を走破、また隠密的に移動することであるので、特に重要な事項であるといえる。
- 格闘技は近接戦闘における技術を獲得するためにどの歩兵でも訓練される。国によって訓練される格闘技の種類はそれぞれ異なる。ナイフの取り扱いもこの一環で訓練され、閉所での戦闘に生かされる。また銃剣の取り扱いを含めた総合的な閉所での戦闘訓練を受ける場合もある(詳しくはCQC、CQB)。
- 射撃能力によってその歩兵の戦闘力が大きく左右される。銃の操作・メンテナンス方法や射撃時の姿勢、基本的な射的訓練、次々と現れる的を素早く的確に狙う訓練は特に重要であり、反射的に銃を目標に対して的確な姿勢で向けるようになり、素早く銃が取り扱えるようにならなければ実戦で優位に立つことは難しい。
- 戦闘陣地の建設のノウハウを歩兵がきちんと把握しておけば、あらゆる局面で敵の攻撃の被害を軽減できる。塹壕を掘る位置や形、また人員の配置などには一定の理解に基づいて建設されなければ、十分に機能しない。また建設の要領を歩兵全員がわかっていれば短時間で戦闘陣地を建設できる。こういったノウハウはすべての歩兵が熟知することが望ましい。塹壕の底に50cm程度の溝を作っておけば、手榴弾が投げ込まれても溝に落ちるので比較的安全、などといった細かい知識が戦場では生死を分けることもある。
- 歩兵はその自己完結性が強く求められる兵科であるのでサバイバルの技能も重要視される。野生の動植物を食べられるか判別する知識や、潜入技術やナイフ格闘、負傷した際の応急処置(野戦衛生学など)や地図やGPSがない状況での地形把握などの幅広い技能がこれにあたる。しかし全ての歩兵がこの技能を身につけられるわけではなく、選りすぐられた人員で編成する特殊部隊などが主に訓練を行う。日本の自衛隊ではレンジャーが特にサバイバルを重視した訓練を受けている。
[編集] 歩兵の運用と戦術
本来、歩兵の運用は大変デリケートな問題である。何故なら、戦争の損害のほとんどが陸上戦闘で発生し、その損害の大部分は歩兵であるからだ。しかし敵の陸上戦力を掃討し、歩兵によって敵の拠点を征圧しなければ戦争の勝敗を決定的なものにすることは難しい。
基本的に、歩兵は戦車や火砲、航空機などの兵器と連携し、兵器の高度な破壊力で敵の勢力圏を攻撃し、敵戦力に損害を与えてから歩兵が投入される。故に作戦戦略における重要要素はこういった一連の兵器の火力ではあるものの、その後に歩兵が敵の息の根を止め、地域や拠点を制圧する必要性がある。
[編集] 現代における歩兵の基本的な仕事
歩兵の仕事の大部分は移動、残りは拠点の建設と維持であり、その余禄に一割にも満たない戦闘が含まれる。映画などの娯楽作品では、往々にして歩兵は常に撃ち合いをしている様に描かれるが、実際にそのような状況下では、敵も味方も疲弊して精神障害(戦場ノイローゼ、shell shock)を患ってしまう。第二次世界大戦の研究によれば、100日~200日にわたって戦闘を生き延びた兵士のほとんどが心身共に磨耗し、戦闘不能になってしまっている。実質的に頻繁な戦闘行動が行われるのは、どちらかが一方的に大量の人材や物資を投入して、攻め上げている場合のみである。今日のアメリカがこの様式で、相手を疲弊させ、戦争の早期決着を目指す作戦を取っている。しかしながら、近年の湾岸戦争やイラク戦争などでは即席爆発装置(IED)で手足を失う兵士や心的外傷後ストレス障害などを患う兵士も多く、アメリカは国内外から強い反発を受けている。
- 移動は古来からの歩兵の主要な仕事の一部であり、第二次世界大戦までほとんどの歩兵が徒歩で移動していた。しかし機械化歩兵が一般化してくるにつれて歩兵の移動の方法は装甲兵員輸送車やトラック、ヘリコプターなどで移動することが一般的になっている。このことが部隊の機動力を大幅に引き上げ、戦場をより流動的なものにし、電撃戦のような機動的な戦術をも作り出した。戦闘における歩兵の移動は一定の論理に基づいており、その隊形や移動ルート、姿勢、チームワークのパターンはすべての歩兵が熟知し、速やかに行われなければならない。基本的に、まず壁や壕、くぼ地などのあらゆる遮蔽物を活用し、銃火にさらされる時間を可能な限り縮めなければいけない。そしてどうしても敵に姿を見せなければ移動できない場合は次に移動する場所を予め決め、すばやく低姿勢で2~5秒ていどで隠れなければ、敵の狙い撃ちを受ける危険性が高まる。背が低い遮蔽物の後ろを移動する際には匍匐で移動する。また部隊規模で効率的に移動を行おうとするならば、部隊を分割し、一方が移動している間はもう片方が敵に制圧射撃を加え、味方が狙い撃ちされるのを防ぎながらの移動することが重要である。また煙幕などを利用することも効果的であると考えられている。
- 偽装(camouflage)と隠蔽(concealment)とおとり(decoy)はCCDと呼ばれる。CCDを使いこなすことは歩兵に限った仕事ではなくが、特に前線にいる間はやはりできるだけ敵に発見されないように、また敵に友軍の情報を与えないようにあらゆる装備や陣地、兵士を偽装し、隠蔽する努力が歩兵には求められる。敵の意思決定における情報を不確実なものにすることで戦術的に優位に立つことができ、また発見されないようにすることで生存の確率を上げる。偽装を行う際は地形や天候だけでなく、季節や色や輪郭線にも気をつけ、視認性を低めるようにすることが重要であると考えられている。迷彩服は最も基本的な歩兵の偽装であり、各国が独自に迷彩のパターンを研究している。森林などにおいては緑のフェイスペイントをつけ、枝葉で体の輪郭を隠せば視認性が低下する。
- 築城(戦闘において地形上優位を確保するための陣地や塹壕や土塁などの建設の総称)は歩兵にとって塹壕や戦闘陣地の設営や維持のために欠かせない仕事の一つである。これらの仕事によって地形における優位を確保することは戦闘という混乱した状況において歩兵の生存率を確実に引き上げる。地雷原を設置し、警戒用のワイヤを張り、壕を掘り、バリケードを築き、重要地点に銃座を接地し、安全な移動経路を確保すれば多少敵の戦力が自軍よりも大きくても戦術的な優位を保つことができる。一般論的には敵の三分の一の兵力でも築城が的確に行われていれば、対抗できると考えられている。第一次世界大戦からの近代戦において、戦力差が小さい状況における歩兵の仕事のほとんどは、敵の砲撃を避けるための塹壕掘りに費やされ、長期間にわたって塹壕の中で敵軍とにらみ合う戦いが続いた。現代でも戦闘陣地として壕は掘られており、ほとんどすべての歩兵はこの戦闘陣地の設営の仕方を訓練で叩き込まれる。陣地の前方は見晴らしがよく、また陣地の深さは最低でも50cm程度の深さが必要である事、また偽装をしっかりと施し、他の戦闘陣地と射撃区域を分担する事で効率的に攻撃をするなどのあらゆるノウハウが歩兵に要求される。
- パトロールは基本的に偵察、攻撃、追跡の三つの意味がある。特に偵察活動は歩兵にとっては危険ではあるものの、現在の戦況を確実に把握し敵よりも優位に立つための情報を収集するために必要な行動である。パトロールは敵の勢力圏やその境界において行われるために、敵の待ち伏せ攻撃やトラップによる負傷、不意の遭遇戦などが発生する。歩兵の戦闘のほとんどはパトロール中に行われるものである。パトロールはその地域の支配権を左右する重要な活動であると考えられており、敵陣地の位置や部隊配置、敵戦力の規模などの情報が確実であれば、本格的な攻撃を加える際にも支援の空爆や火砲で効率的な攻撃が可能であり、また歩兵部隊が敵陣地を制圧していく手順や役割を決める際にも無駄なく戦力が分配できる。
- 戦闘は歩兵にとってもっともつらく苦しい仕事となる。戦闘はその目的や環境、参加戦力の規模や種類によってさまざまな形態がある(塹壕戦、市街戦、上陸戦など)。戦闘においては歩兵は基本的に班、分隊ごとに編成され部隊単位で動き、基本的に各々が別々の方向を警戒することで死角をなくす隊形をとりながら移動する。その地域の危険度によって歩兵が移動する際の手順は若干異なる。危険度が比較的低い場合においては全員が全方位に対して警戒を払いつつ、一度の攻撃で全滅しないように歩兵間の間隔をあけながら一斉に移動する(この間隔はジャングル戦、野戦などによって違う)。実際に戦闘に入れば、基本的に二つほどの班に分かれ、敵に対して制圧射撃(機関銃での射撃や煙幕を張ることを指し、敵の殺傷が目的ではなく、敵の行動を封じることが目的である)を交互に繰り返す。一方が射撃を行っている間にもう片方が敵よりも優位な地点を確保し、より優位な状況で戦闘を展開していく。これは現代における歩兵機動戦術の基本であり、こういった過程において敵味方戦力の分析ミスによる間違った戦術や、武器装備の不調、火力の不足、機動力の不足、部隊の士気低下、指揮官の失敗、チームワークの欠落などにより歩兵はしばしば死傷する。戦車や装甲車、迫撃砲などがあればより重火器で攻撃することができ、歩兵の負担は軽くなる。
[編集] 戦車と歩兵
戦車と歩兵は戦場においては非常に密接なチームワークが求められる相互補完的な関係である。なぜなら戦車の保有する火砲は歩兵部隊にはない威力を持ち、また歩兵部隊にも機動力や柔軟性など戦車にはない能力があり、これらの事実を認識した上で両者が緊密に連携しなければ戦車の能力は半減する。故に戦車部隊と歩兵部隊は直接無線通信している。戦車の強力な打撃力で歩兵の大きな脅威である敵の装甲車、戦車、戦闘陣地、銃座などを破壊すれば歩兵の攻撃はよりスムーズに行うことができる。また歩兵部隊は戦車を全力で支援し、敵の対戦車ミサイルなどから友軍の戦車を守らなければならない。
戦車との比較した場合、戦車部隊に対して歩兵部隊は非常に弱い、もしくは無力ように誤解されがちではあるが、部隊としての運用コスト換算で言えば、かなりの部分で勝っている。また火力や機動力、地形への対応力、編成の柔軟性などを含めて戦力を比較分析すればむしろ歩兵側に有利な点も多々ある。 歩兵部隊は何割かの人的被害を出しても戦闘続行が可能ではあるが、戦車では足回りが何割も壊れたら、戦車その物を放棄するしか無い。歩兵の方が戦闘後に部隊再編成を行い、弾力的に運用する事が可能であるという点でも、勝っているといえる。いずれにしても戦車や戦闘車両は全般的に視界が非常に悪く、接近戦における戦力は、過去の戦史によれば概ね歩兵一~二個分隊程度で、1個小隊~1個中隊(戦力は部隊の熟練度によって大きく変化する)を相手にした戦車一台の生存確率は非常に低いと云える。特に戦車は戦場において、遠距離から砲撃するか装甲と補助の火力(戦車砲は使用できないことがあるため、大抵の場合は補助火器の機関銃と随伴歩兵の携帯火器のみである)を頼りに突入するしかない訳だが、小さな塹壕に飛び込んで隠れる事も、廃墟によじ登る事も、瓦礫の隙間に隠れる事も出来ないため、単独で突入すれば適切な武器で集中砲火を浴びせられたり、敷設された罠に掛けられる危険性も高い。歩兵なら難なく踏破できる湿地帯では、湿地帯走破に特化した特殊な物を除いては、立ち往生を余儀なくされるため、移動経路が限られ、それだけに罠を仕掛けられ易い。
[編集] ゲリラ戦
恐らく、過去現在問わず歩兵の柔軟性・有能性が一番発揮されるのは市街地やジャングルなどの閉鎖的地形でのゲリラ戦である。孫子にも書かれているように、太古の昔から、戦術的に複雑な機動が出来る少数精鋭によるゲリラ戦は、動きが鈍い重武装かつ大規模な敵戦力に対して有効な戦法として見られてきた。敵に気付かれず接近、奇襲攻撃で損害を与え、本格的な反撃が始まる前に撤収するのが基本であり、一方的に戦闘の主導権を維持することで精神的ストレスも敵に与えることができる。現在でもその図式は変わらず、また火器性能の著しい発達もあり、巨大勢力にとって小規模かつそれなりの練度があるゲリラ兵は脅威に他ならない。ただし、この戦術が有効なのは市街地やジャングルなどの遮蔽物が多数存在する場所に限られ、また敵情を確実に把握するための情報網や人脈、地形に通じた誘導員などが必要である。正規軍の特殊部隊によるゲリラ戦術(例・第二次世界大戦における、北アフリカでの英軍の特殊部隊)以上に、武装した民間人によるゲリラ戦術(例・第二次世界大戦でのドイツ占領下の各国のレジスタンス、パルチザン、日中戦争における便衣兵、ベトナム戦争でのベトミン、ベトコン)の方が活発である。しかし武装した民間人や、便衣兵の場合はハーグ陸戦条約の制服の着用義務などを怠っており、違法行為である。したがってスパイ扱いで捕虜として保護されずに処刑されることが多い。またゲリラの疑いのかかった民間人の虐殺行為の発生を招きやすい。故にゲリラ戦はしばしば戦争の敗者による一方的な勝者への延長戦、または圧倒的な戦力差がある敵への戦術としてとられる。
[編集] 戦争以外での仕事
平時における歩兵は戦闘とは無縁の駐屯地や基地で訓練や雑用に追われる日々を送る。国によって差はあるが、欧米の軍隊では普通一日八時間程度の勤務で週五日か六日の勤務である。演習がなければ、早朝六時ごろから決められたスケジュールに沿って行動する。訓練においては徹底的に歩兵は苦しい状況に慣れさせられることで、部隊の結束を強め、部隊戦術を覚え、実戦に備える。
また冷戦終結後は、戦争以外の仕事について歩兵の重要性が高まっている。具体的には、国連の平和維持活動、テロなどの緊急事態における、また対ゲリラ活動などの治安維持活動、災害救援活動などである。こうした任務をMOOTW(Military operations other than war)と呼ぶことがある。 テロ事件などにおいては歩兵は柔軟な戦闘力を持ちえることから、人質をとった立て篭もり、ハイジャックなど精密かつ迅速な攻撃が求められるテロの対応においては非常に優秀であり、各国の警察や軍隊でもこういった人質救出を専門とした訓練を受けた歩兵の部隊が特殊部隊として保有されている。彼らは建物や飛行機だけでなく、列車、自動車、バスなどありとあらゆる閉鎖空間で的確な動きができるように日々訓練を受けている。
[編集] 歩兵の装備
現代戦を戦う歩兵の装備はその国の軍隊によってさまざまだが、一般的に使用される装備がある。しかしその種類は非常に多様であり、ここでは主な装備に限って取り上げる。
- 小銃や拳銃などの軽火器は現代戦における歩兵の主力武器である。主にAK-47やM16などの突撃銃がその殺傷力と連射速度から多くの歩兵に用いられるが、室内などの閉鎖的な空間での戦闘が予想される場合はMP5などの銃身が短く取り扱いやすいサブマシンガンが用いられる場合がある。また歩兵の火力をより高めるためにミニミ軽機関銃などの機関銃が班や分隊には配備される。これらの火力は銃撃戦を有利に進めるために欠かせないものになっている。拳銃は閉所での戦闘などの状況以外では歩兵の補助的な武器として装備される。工兵や衛生兵などの特殊な兵士でも、戦闘になればこういった武器で歩兵として戦うように全員が訓練を受けている。
- 爆薬や手榴弾は設備の爆破やブービートラップの設置などに必要だ。工兵がこういった分野の訓練を集中的に受けるが、普通の歩兵でも一通りの取り扱いは心得ることが求められる。高性能爆薬であるプラスチック爆弾は英陸軍などによって使用されており、橋や建物などを破壊するために一部の歩兵に渡されている。また手榴弾などは遮蔽物に隠れた敵を攻撃するときなどに使用されるが、市街戦などで特にその効果を発揮する。敵が立て籠もった室内に突入する直前に手榴弾で敵を攻撃しておけば、敵は出入り口に対する待ち伏せ攻撃ができなくなる。また地雷や手榴弾は戦闘陣地を構築する時にも重要な武器であり、対戦車地雷や手榴弾を使ったトラップを侵入予想経路に仕掛けておけば、敵に損害を与えることが出来る。
- 防護装備は歩兵の生命を部分的だが守ってくれる。防弾チョッキやヘルメットは(口径にもよるが)弾丸の直撃から身体を守る。一部で防弾チョッキなどは重く、機動力を削ぐと考えられているが、防弾チョッキには負傷者を25%減少させた実績があるため、決して無駄とは考えられているわけではない。しかしこれらの装備は高価なので米国やイスラエルなどの先進国で採用されている。また迷彩服はその視覚効果で視認性を下げ、敵に発見されにくくする効果がある。狙撃兵など絶対に敵に発見されないことが求められる兵士は、さらに偽装と隠蔽を施し、視認性を落とす努力をしている。
- 無線通信機器は特定の歩兵にのみに渡されているものだが、他の部隊との連携を維持し、指揮統率を維持するためにも重要である。特に歩兵部隊は火砲や航空機、戦車などの支援なしで攻撃を行うことは不可能に近い。敵の探知システムに傍受されることや、ジャミングで妨害される場合もある。
- 生活用品として歩兵たちは雑多な道具を携帯している。食料セットや水筒、携帯用のシャベル、ナイフ、通信機器、鎮痛剤や消毒液などが入った救急セットなど非常に多くのものを装備することとなり、これが近年歩兵の装備の重量を飛躍的に重くしており、各国は近年歩兵装備の見直しを推し進めている。
[編集] 歩兵の未来
アメリカなどの先進国では、歩兵の人的被害が国内世論に取って致命的な反戦ムードを与える事が、ベトナム戦争以降の教訓として残っているため、歩兵の生存帰還率を引き上げる機械化に極めて熱心である。戦争以外の任務など任務の多様性は増す一方であり、歩兵の教育・訓練コストの上昇もこの歩兵の人的損害を軽減させる研究の推進を後押ししている。
2006年現在、欧米の軍隊を中心とした歩兵装備の見直しの研究や装備の改良などが進められており、パワードスーツの導入や、通信や情報伝達・相互連携にコンピュータとのインターフェースの改良による総合的な情報処理技術の導入なども長期的な視点で検討している。携帯情報端末は既にアメリカ軍の様々な分野(兵站や整備)で利用されているが、ウェアラブルコンピュータの導入などにより、歩兵一人辺りへの個別指示の密度も高くなることも予測される。これらの状況から、軽量なHMDを内蔵する動力付きの甲冑を装備した歩兵や、NBC兵器によって汚染された地域でも行動できる防護性の高いスーツを着込んだ歩兵などの将来像が考えられている。
しかし銃器の威力向上や電子戦技術の発展、また現在のバッテリーの技術力などから考えて、歩兵の将来は安全で快適なものになることは非常に難しいと現時点では考えられている。火器の攻撃力は高まり、センサの精度が上がったことで夜間や悪天候における殺傷力は大きく飛躍している。また生物兵器や化学兵器などが世界的に拡散しており、歩兵を取り巻く武器や兵器はより強力になる一方、歩兵はより強力な防御力が要求され、本質的には「矛と盾」の永遠と続く競争の延長に過ぎない。また、歩兵が取り扱わなければならない通信装備などが高度化し、市街戦などの増加もあって戦闘の中身も複雑化しているので、教育水準の高い人材がますます歩兵として求められている。
戦場の機械化・無人化の行き着く果てには、究極的には完全無人のロボット兵士があるという考えもあるが、近年増加傾向にある市街戦のような敵味方以外に民間人などが混在する複雑な戦場におけるロボットの敵味方識別能力や交戦規定を考慮した行動能力にはまだまだ問題があり、将来の歩兵がロボット化することの現実性はロボット技術やAIの技術的な面から難しいのが現状である。ただ攻撃など最終的な判断は操作する兵士に委ねられるようなリモートコントロール式のロボットの実戦配備は進められており、これらは従来歩兵が携帯している武器の延長的な運用をされるほか、歩兵に先行して周囲を偵察するために利用されている。このほか、輸送や負傷者の後方への搬送など非戦闘任務においての活躍が期待される自動走行するロボット自動車も研究中である(→ロボット#兵器としてのロボット)。
[編集] 関連項目
- 陸軍 - 海兵隊
- 普通科
- 自動車化歩兵 - 機械化歩兵
- 装甲車 - 装甲兵員輸送車 - 歩兵戦闘車
- 騎兵 - 砲兵 - 工兵 - 輜重兵 - 特殊部隊
- 戦術 - 市街戦 - ジャングル戦 - 上陸戦 - エアボーン - CQB - CQC
- 小火器 - 小型武器 - 自動小銃
- レーション(食料等の配給物資)
- 幕府歩兵隊