M16
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M16A4 |
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M16 | |
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種類 | 軍用ライフル |
製造国 | アメリカ合衆国 |
設計・製造 | アーマライト・コルト、FN |
年代 | 現代、ベトナム戦争 |
仕様 | |
種別 | アサルトライフル |
口径 | 5.56mm |
銃身長 | 508mm |
ライフリング | 6条右回り |
使用弾薬 | 5.56mm×45 |
装弾数 | 30・20発 |
作動方式 | ガス直圧作動、ターンロックボルト |
全長 | 1,000mm |
重量 | 3,500g |
発射速度 | 900発/分 |
銃口初速 | 975 m/s, 884 m/s |
有効射程 | 500m |
歴史 | |
設計年 | 1957年 |
製造期間 | 1960年~現在 |
配備期間 | 1960年~現在 |
配備先 | アメリカ軍 |
関連戦争・紛争 | ベトナム戦争, 湾岸戦争, イラク戦争 |
バリエーション | M4 |
製造数 | 800万丁以上 |
M16はユージン・ストーナーによって開発されたアメリカ軍の小口径アサルトライフル(自動小銃、突撃銃)である。商品名はAR-15でM16はアメリカ軍制式採用名称。
目次 |
[編集] 概要
M16はフェアチャィルド社のアーマライト事業部が開発した7.62mm口径のAR-10を5.56mm用にサイズダウンしたものである。この小型化は当初アジアや南米の親米政権諸国向けの援助武器として、小柄な人種でも扱いやすいように考慮した結果である。その後コルト社が製造権を得て、アメリカ軍に提示し、小口径アサルトライフルとして初採用された。従来のM14ライフルから小口径化することにより、兵士一人当たりの携行弾数を大幅に増加させることに成功した。
M16が採用した小口径弾、アルミ合金製の本体という開発当時としては斬新な設計思想は、その後多くの国やメーカーに影響を与え、M16のコンセプトに倣ったアサルトライフルが現代の主流になっている。
M16はコルト社や同社の委託でGM社やH&R社が生産しアメリカ軍に納入していたが、コルト社の経営危機により製造権がアメリカ政府に移り、現在ではFN社が主に生産している。コルト社はM4を受注しているもの国内では生産しておらず、カナダ国内でカナダ・コルトとC7(M16A2のライセンス品)を生産するディマコが生産している。
[編集] 独特のガスシステム
M16の作動方式はダイレクト(直接)・ガスアクション、あるいはリュングマン方式と解説される事が多いが、これは誤りである。リュングマン方式では、銃身の中途から抽出した高圧の発射ガスを小径のチューブで誘導し、ボルトキャリアの正面に吹きつけることでメカニズムを動作させる。
一方、M16ではボルトをピストン、それを包み込むボルトキャリアをシリンダーとし、ガスチューブによって誘導した発射ガスの圧力で両者の位置関係を変化させる他に類を見ない独自の方式である。ボルトは銃身の延長部と噛み合い、回転する事しか出来ないため、結果としてボルトキャリアが後退することになる。ボルトキャリアが一定距離後退すると、ガスチューブとのかみ合いが外れ、余分のガスは排莢口から吐き出される。
このような方式をとった理由はといえば、通常は銃身長の2/3ほどにも達する長く丈夫なガスピストン(あるいはピストンが押すコネクティングロッド)を省き、極限までの軽量化を果たすためである。最初期のM16が銃身さえもアルミ化し、弾丸の通過によって摩耗する銃腔にのみチタンの内張を施すなど偏執的なまでに重量対策に気を遣っていたことを考えれば、驚くに値しない。設計者であるユージン・ストーナーは、一芸に秀でた銃の設計を得意とする「発明家」としての面が強く、軽量化をテーマにして創意工夫を凝らした結果がAR10そしてAR15だったのだろう。 この特異なガスシステムは、本体重量2kg強という軽さに一役買っているが、同時に重大なトラブルの原因にもなった。
そうでなくともタイトなボルト周りに、高腐食性のうえにススなどを大量に含んだ発射ガスを流し込むため、頻繁なクリーニングが必要である。ベトナムでの実戦に供された当初は、カーボンの多い不適切な弾薬の制定、「M16はハイテク小銃でメンテナンスフリーである」という誤った認識、高温多湿環境等によって故障が頻発、兵士から散々な評価を受ける事になる。その後、弾薬の改良、ボルトにクロームメッキを施す、強制閉鎖装置の追加など段階的な改良を施し、充分な信頼性を得るに至る。だが対処療法であるという認識はM16に関係する誰しもが持っているらしく、AKのような一般的なガスシステムに改造するキットも事あるたびに発表され、後述のH&K社製クローンもそのように設計変更されている。コルト社自身もかつて、銃身上にガスピストンをもつ試作品を制作した事がある。
また、作動機構がストックの内部にまで及ぶために、全長を短縮するカービン・モデルではフォールディング・ストックが使用できず、テレスコピック・ストックに限定される。
[編集] バリエーション
[編集] M16 (604)
M16(AR-15 モデルNo.604)はアメリカ空軍に採用、南ベトナム軍に供与されたモデルである。
ガス直圧機構が原因で燃焼ガスでボルトが汚れ回転不良や不完全閉鎖が多発したこと、ボルトチャージハンドルはボルトを開放できるものの、構造的に不完全閉鎖したボルトを閉鎖する事ができないためその対処を問題とする。
[編集] M16A1 (603)
M16A1(AR-15A1 モデルNo.604)はアメリカ陸軍に採用されたモデルである。
空軍に採用された初期のM16と外見上の大きな差は、銃口の消炎器が先割れ型から鳥かご型へ変更されたことと、ボルトフォワードアシストと呼ばれる完全閉鎖しなかったボルトを強制的に閉鎖させるためのボタンが追加されたことである。
ボルトのコッキングハンドルとボルトが分離しているため、汚れなどによりボルトが不完全閉鎖をおこすと射撃ができなくなるという理由で陸軍側は強硬に追加を要求したとされる。ストーナーは不完全閉鎖は銃に問題があることを示すものでそれを強制的に閉鎖させ発射することは銃の破壊につながり危険であると主張したが結果的に陸軍側の主張どおりボルトフォワードアシストは追加された。
またベトナムという高温多湿な気候下での実戦投入を通して、ボルトのクロームメッキ処理、ストック内へのメンテナンスキット収納といった小改良が加えられた。また、それまでのライフルに比べて頻繁なメンテナンスが必要であったにもかかわらず、当時の陸軍兵士たちの間では先進的な銃という印象から逆にメンテナンスを疎かにする傾向が見られたため、活字ばかりのマニュアルからグラマーな女性の漫画入りのマニュアルに改め注意を喚起した。
M16A2との一目でわかる違いはおにぎり断面型のハンドガードである。
[編集] M16A2 (645)
M16A2(AR-15A2 モデルNo.645)は、M16A1の改良型アサルトライフルである。
- 使用弾薬をそれまでのM193 (.223Rem: 5.56mmx45) より防弾素材への貫通力を増すためスチール弾芯を採用したM855(NATO制式弾SS109準拠: 5.56mmx45)に変更。M855を使用できるようにライフリングのピッチ変更などの改良を施した。
- リアサイト(照準器)をそれまでのL型2段階切り替えからダイヤル方式の多段階調整式に変更した。
- フロントハンドガードを三角断面から円断面のものに変更、リアストックも形状変更。材質もナイロン系の高強度プラスティックに変更された。
- ケースディフレクターをイジェクションポートの後ろに追加した。これによりエンプティケースが後方ではなく真横から斜め前方に排出され、レフトハンダーでも使用しやすくなった。
- バレル(銃身)強度を上げるために太いものに変更した(しかし、着剣戦闘を非推奨としていることから、「A1よりはまし」という程度のようだ)。
- 弾薬の節約及び点射による命中精度向上の為、フルオート機構から3発バースト(点射)機構に変更した。
これらの改良を経て今なお、アメリカ合衆国軍正式ライフルとして使用が継続されているが、3発バースト機構について兵士からは「命中精度にバラつきがあり、使い勝手が悪い」との意見もある。
[編集] M16A3 (901)
M16A3(AR-15A3 モデルNo.901)は、M16A2の改良型アサルトライフルである。
セレクターの3点バーストをフルオートに置き換え、信頼性を向上させたもの。
[編集] M16A4 (905)
M16A4(AR-15A3 モデルNo.905)は、M16A3の改良型アサルトライフルである。
M16A4はM16A3のフルオート機構を3発バースト機構に変更した。またピカティニーレイルを持つフラットトップレシーバーを採用したことでキャリングハンドルが着脱式になり、各種光学機器の装着が容易になった。
[編集] M4 (720)
M4(CAR-15A2 モデルNo.720)はM16A2のカービン型である。
特殊部隊などに実験配備されたXM177やCAR-15の前例はあるものの、朝鮮戦争時に採用されたM3カービン(暗視装置つきM2カービン)以来の米軍制式カービン。コンセプトはXM177の短銃身と伸縮式銃床を継承している。
[編集] M4A1 (927)
M4A1(CAR-15A3 モデルNo.927)は、M4カービンの改良型カービンである。
M4A1は特殊部隊用にM4の3発バースト機構をフルオート機構に変更したもの。 キャリングハンドルは着脱式となる。
[編集] M4E2 (925)
M4E2(CAR-15A3 モデルNo.925)は、M4カービンの改良型カービンである。
ハンドガードにアクセサリー装着用のピカティニーレイルを持つMWS (Moduler Weapon System) を装着したもの。MWSとしてナイツアーマメント社のRIS (Rail Interface System) が採用される。
[編集] HK416 (HKM4)
HK416 (HKM4) は、H&K社が開発したM4カービンの改良近代化カービンである。同社はエンハンスドカービン(Enhanced Carbine=強化カービン、改良カービン)と呼称している。
HK416 (HKM4) はコールドハンマー製法による長寿命の銃身とショートストローク化したガスピストンを採用している。作動方式をショートストロークガスピストンに改めたことにより、メンテナンスサイクルと対塵性が向上している。リング型フロントサイトガードやドラム型リアサイトとH&K社特有の意匠が採用されたほか、マグウェル形状やマガジン、エキストラクタなどの細部も強化され、新弾薬である6.8mmx43SPCの口径バリエーションも存在する。またM203に替わるH&K AG416グレネードランチャーも装備可能である。アメリカ軍特殊部隊の一部には既に納入実績があり、次期制式ライフルもしくはそれまでの繋ぎとして軍も注目している。詳細は未発表だが同社はM16ファミリーのAR-10に相当する7.62mm版のHK417(一部ではHK418とも言われている)も開発している。(2005年10月現在)
[編集] SPR Mk12
SPR Mk12は、M16A4、M4A1を狙撃銃として改良した特殊目的ライフル (Special Purpose Rifle) である。
SPR Mk12はアメリカ陸軍特殊部隊第5SFGとUSAMU(United States Army Marksman Unit=アメリカ陸軍射手育成部隊)が特殊部隊用の狙撃と精密射撃任務用ライフルとして共同開発したもので、量産型にMod0とMod1がある。精密射撃を実現するため、この銃には専用弾薬として弾頭重量を4g(62グレイン)のM855から5g(77グレイン)に増した新設計のMk 262 Mod0/1を使用し、ライフリングのツイストも適合するように1/7"へと変更されている。銃身は高精度と軽量化を実現したもので、ハンドガードとともにフローティング式になっている。銃口には専用のサイレンサーの取り付けが可能である。標準のスコープはリューポルド社のTS-30A2で、マウントレールにも精度が高く耐久性もあるSWANスリーブを採用している。
[編集] SAMR
SAMRはM16A4を狙撃銃として改良した分隊上級射手ライフル (Squad Advanced Marksman Rifle) である。
SAMRはアメリカ海兵隊に配備されているM14をベースとしたDMR (Designated Marksman Rifle) の後継として開発された。競技銃用ステンレス銃身のクリーガーSSを採用し、ハンドガードはナイト社RASでフローティング式なっている。標準のスコープはリューポルド社のTS-30A2である。SPR Mk12とのコンセプトや仕様の共通点も多い。
[編集] AR-15
AR-15はM16の民間用モデルの商品名。制式採用前はAR-15(モデル No.602)としてアメリカ政府に納入された。現在はセミオートのみの民間版にこの名称が使用されている。
民間版のAR-15はM16からフルオート機構を割愛した以外は基本的に構造は同じで、外観はM16/M4の各バリエーションに準じたものがある。また標的射撃用にはフローティングしたヘビーバレルやハンドガードを採用し、スコープ装着のためフロントサイトを省略したモデルもある。フルオート用トリガーブロックを組み込む違法改造防止のため、レシーバ内の部品構成や配置はM16と意図的に変えている。
コルト社はアサルトライフル販売規制による市場イメージを考慮し、コルト社はコルトスポーター、コルトマッチターゲット等の名称に変更した。コルト社以外にもアーマライト社 (M15) やナイツアーマメント社 (SR-15) 、ブッシュマスター社 (XM-15) など数社が類似商品を販売しているが、一部についてコルト社はライセンス侵害を訴えている。
[編集] アメリカ軍次期制式ライフル
M16はレールシステムを採用するなどの改良により、近年主流のアサルトライフルに戦闘用各種アクセサリーを装着するという流れに対応している。しかしこの後付け的機能追加は、銃としてのバランスや操作性を欠くなど運用面での問題点も少なくないため、次期制式ライフルの開発が進んでいる。
M16の後継ライフルは、当初銃本体に連装式グレネードランチャーや電子スコープのモジュールを一体化したOICW (Objective Individual Combat Weapon) と呼ばれる次世代型ライフルの採用が予定されており、H&K社がXM29を開発していた。この銃の電子スコープには暗視装置や火器管制装置も組み込まれ、グレネードの電子信管は火器管制装置により距離の調停ができる最新のテクノロジーを導入した銃であった。しかしながら戦場での電子機器の耐久性に対する不安や重く大きすぎる本体、高いコストなどが問題になり次期採用は見送られた。
このためH&K社はXM29のライフルモジュールのスピンオフであるXM8を提案した。コンセプトも形状もドイツ軍が制式採用した同社のG36 (HK50) に似たこの銃は採用が内定していたものの、海兵隊や特殊部隊の強い反発により次期制式ライフルの新要求仕様が策定されたために採用は白紙に戻された。
新要求仕様に基づき現在M16を製造するFN社は、既にアメリカ軍特殊部隊向けの導入が決定しているモジュールの組替えにより歩兵用アサルトライフルにも分隊支援火器にもなり、5.56mmと7.62mmの口径バリエーションを備えるSCAR-L/H (Special Forces Combat Assault Rifle-Light/Heavy respectively) を提案している。
一方H&K社も、SCAR同様の口径バリエーションを備え一部特殊部隊向けに納入実績のあるHK416とM417で対抗する動きがある。
次期制式ライフルが5.56mmを踏襲するのか新弾薬の6.8mmx43SPCへ移行するのかも未決定であるため、これらの候補は6.8mmモデルも前提に設計されている。(2005年10月現在)
[編集] その他
[編集]
AR-18
アーマライトは親米政権向け援助武器として、M16の思想を受け継いだ姉妹銃とも言えるAR-18を開発した。基本的な機構はM16のものを踏襲しつつ、発展途上国の生産技術でもライセンス生産が可能なようにM16の本体がアルミ合金製であるのに対し、AR-18はH&K G3にも見られる加工が容易なスチール板プレスを採用している。日本でも豊和工業がAR-18と民間版のAR-180のライセンス生産を行った。
豊和工業はAR-18のライセンス生産で得たノウハウにより小口径アサルトライフル開発を開始、その後同社のHR15試作ライフルは89式小銃として自衛隊に採用された。
[編集] 日本での所持
民間人の銃砲所持に対して規制の多い日本だが、M16の民間版であるAR-15(販売価格30万円前後)の所持は可能であり所持者も少なくない。所持のためには銃砲所持許可を取得し散弾銃を10年間継続所持した後、狩猟免許を取得する必要がある。ただし狩猟用猟銃の口径は6mm以上でなければならず、5.56mmのままでは登録できないために、コンバージョンキット(改修部品)を使用し6mmx45や7.62mmx39へ変更しなければならない。またピストルグリップ(独立握把)は握り部分に穴が開いたサムホール型ストックへ、マガジンは5発に制限するなどの改修も要する。しかし近年の銃規制強化や9.11テロによる銃器輸出入規制に呼応し、現状では登録が難しくなっている。
[編集] M16の派生型など
- SR16(アメリカ/ナイツアーマメント):米軍、特殊部隊で採用されている。民間版はSR15。
- C7(カナダ/ディマコ):カナダ軍制式銃。M16A2のライセンス品
- M16A1-603K(韓国/大宇):韓国軍制式銃。M16A1のライセンス品。
- K2(韓国/大宇):韓国軍制式銃。M16をベースにガス圧利用にした派生型。
- 68式(台湾/興和):中華民国軍制式銃。M16をベースにガス圧利用にした派生型。
- M15(アメリカ/アーマライト):主に民間用。
- XM15(アメリカ/ブッシュマスター):主に民間用。
- XR15(イギリス/セイブルディフェンス):主に民間用。
- OA15(ドイツ/オバーランドアームス):主に民間用。
- CQ M311(中国/ノリンコ):M16A1のデッドコピー品。セミオートのみの欧米民間市場向け。