上陸戦
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上陸戦(じょうりくせん)は、近代戦争における戦闘形態の一つ。この戦闘を作戦したものを水陸両用作戦(すいりくりょうようさくせん, amphibious warfare)という。海上から敵の支配下にある陸地への上陸を試みる着上陸作戦を主にさす。
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[編集] 概要
味方の陸上戦力を海洋・河川など水に囲まれた島嶼、大陸などの陸地に本格的に進行させるために、海岸線、川岸などの支配権を奪取することを目的とした戦闘を、上陸戦と呼ぶ。その規模は場合によってさまざまであり、海岸の支配権奪取を目的として、敵の妨害を排除しつつ大規模部隊を上陸させる戦略的な敵前上陸作戦から、偵察を目的とした上陸といった小規模特殊部隊によって遂行されるコマンド作戦もある。この場合は少数の兵士が闇夜にまぎれて海岸線まで小さなゴムボートで進入を試みる場合が多い。
[編集] 困難性
大規模な上陸戦においては陸軍、海軍(軍事構成によっては空軍も含む)という、政治世界において反目しがちな組織が複雑に連動して動く統合作戦が実施される。あらゆる戦闘の中でもっとも戦術的・作戦的に複雑なものであり、また異なる軍種の連携が求められるので計画立案や指揮権などの分野で齟齬が発生しやすい。(アメリカ海軍などは水陸両用作戦を専門とした海兵隊を保有しているので、ウォッチタワー作戦などに見られるように海軍のみでの上陸作戦も可能であるが、それでも戦術においてもっとも複雑さにであることに変わりはない)また着上陸側から考えれば敵の支配圏に不利な条件で乗り込むという意味で最も困難で危険な戦闘であると考えられる。対上陸側はしばしば上陸可能な地域に強固な戦闘陣地を築城している場合が多いためである。敵前上陸となれば、敵部隊の戦闘力を3倍以上超える戦闘力が上陸部隊には必要となる上に、被害が拡大する傾向が強い。また敵地に本格的に進行するために迅速な橋頭堡などの拠点確保が急務である。また上陸戦においてもっとも大量に運び込む必要があるのは、人員や武器だけではなく、その後の本格的な侵攻作戦のための弾薬、食料と言った補給物資である。
[編集] 歴史的事例
兵数については、島嶼に対する上陸戦には相手兵数の3倍もの兵力を投入することも珍しくはない。これは、圧倒的不利な条件に対する戦闘であるからに他ならない。大規模上陸が多く行われ、現在に続くノウハウが確立された第二次世界大戦の連合軍においては、グアムの戦いで約3倍、硫黄島で3倍強の兵力が投入されたほか、ウォッチタワー作戦では日本軍の戦闘要員600人(全体では戦闘要員含め2600人が駐留)に対し、20倍もの兵力である12,000人が上陸した。ただし、これは日本軍の防御を過大に見積もっていたためであり、マキンの戦いにおける約10倍などといった特殊な例を除き、基本的には3倍程度を上陸させた。
また、ガダルカナル島上陸作戦(ウォッチタワー作戦)やディエップ上陸作戦(ジャビリー作戦)以降の大規模上陸作戦で上陸前に入念な艦砲射撃(海軍)や航空攻撃(空軍。ただし多くは海軍航空隊)を加え、相手の防御能力を奪った上で上陸するのが第二次世界大戦後期の連合軍ではセオリーとなった。しかし、強固な地下防衛陣地について、艦砲射撃や航空攻撃では相手の防御陣地に決定的打撃を与えることはできないということが、ペリリュー島(ペリリューの戦い)や硫黄島(硫黄島の戦い)で証明されている。
上陸戦はその陸海空が同時進行で展開する戦術面での複雑さから、その作戦中よりも作戦前の入念な確認が成功の鍵である。また、作戦中の混乱が命取りとなる可能性も多分に含んでおり、侵攻作戦の中では最も綱渡り的な要素が強いとも言える。第一次世界大戦のガリポリの戦い(近代戦において当時としては史上最大の上陸作戦であった)では統合作戦参謀が置かれず、統制が取れなかったと伝えられる。また、ウォッチタワー作戦では物資の揚陸が遅れ、日本軍の艦隊突入により深刻な物資不足に陥り危険な状態に置かれた(ただし、日本軍の物資を流用することで難を逃れた)。
なお、現在までにおける史上最大の上陸作戦は、1944年に行われたノルマンディー上陸作戦(オーバーロード作戦)であり、第一波のみでの上陸兵力は15万を越え、使用された船舶は約6,000隻とされる。これだけ大規模な上陸が可能だったのは、地理的にイギリス本土が目と鼻の先にあったのが大きく、1942年からブリテン島に物資を集めていたからこその結果である(それ以前ではハスキー作戦が最大であった)。また、第二次世界大戦後に行われた上陸作戦では、朝鮮戦争のインチョン上陸が有名。その後、フォークランド紛争などでも上陸作戦はおこなわれた。
[編集] 主な上陸作戦
- ガリポリの戦い
- 杭州湾上陸作戦
- コタバル上陸作戦
- ウェーク島上陸作戦
- ウォッチタワー作戦
- トーチ作戦
- ハスキー作戦
- アンツィオ上陸作戦
- ディエップ上陸作戦
- アッツ島上陸
- タラワの戦い
- マキンの戦い
- サイパンの戦い
- グアムの戦い
- オーバーロード作戦
- レイテ島の戦い
- ペリリューの戦い
- 硫黄島の戦い
- 沖縄戦
- ダウンフォール作戦(中止)
- 仁川上陸作戦
- フォークランド戦争