ヘリコプター
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ヘリコプター (Helicopter) は、航空機の一種で回転翼機に分類される。エンジンの力で機体上部にある細長い翼(ローターや回転翼と呼ばれる)を回転させ、揚力を起こして飛行する。ヘリコプターの名前はギリシャ語の螺旋 (helico-) と翼 (pteron) に由来する。
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[編集] 概説
ヘリコプターはローターの垂直方向の角度(ピッチ角)や回転軸の傾きを調整することによって、非常に複雑な動きができるようになっている。例えば、垂直上昇や垂直降下、空中停止(ホバリング)のほか、機体の向きを保ちながら真横や後ろに進む事もできる。また一般的には不可能だが、宙返りができる特別な機体もある。
このようなヘリコプターの性質は、狭い場所や複雑な地形での活動に向いており、軍用以外にも山岳地や海上などにおける物資の輸送や、遭難者の救助、報道取材、農薬散布などの産業航空用に適している。
しかし、翼の固定された航空機(固定翼機、飛行機)に比べると、一般に速度が遅く、燃費も悪く航続距離も短い。また、アメリカではヘリコプターの騒音が社会問題になっている。この点を改善しようという試みが、ティルトローターやティルトウィングである。
[編集] 飛行の原理
[編集] 操縦
ヘリコプターの操縦系統は固定翼機の操縦桿に代わり、上下方向の操縦は左手でコレクティブピッチレバー(CP)でメーンロータブレードの迎え角を増減して行い、前後左右の操縦は右手でサイクリックコントロールスティック(サイクリック)でメーンロータの回転面の傾きを調整して行う。また方向の操縦は両足を用いてラダーペダルを操作し、テールロータブレードの迎え角を増減させて行う。
単発エンジン搭載、シングルメーンロータ(ロータ回転方向は機体を上から見て反時計方向)という条件であれば、CPを引き上げて機体が除じょにと、メーンロータのトルクが増大して機体が右に回り始めようとするので機首方位を保つために、左ラダーペダルを踏み込みテールロータの推力を増大させてこれを打ち消す必要がある。しかしテールロータの推力が増大すると機体が右側進を始めるので、サイクリックを左に操作して右側進を止めなければならない。これをカップリングという。全ての飛行形態で3つの舵を調和させて操縦しなければならない。
[編集] 反トルクについて
ヘリコプターはローターが回転し、揚力を生み出すことで浮遊する。 このとき、機体側がローターを回転させることの反作用として、ローターが機体を逆方向に回転させようとするモーメントが生じる。これは反トルク・カウンタートルク・トルク効果などと呼ばれる。この反トルクを打ち消すために、以下のような方法が使われている。
- テールローター - 尾部に備えたローターにより横向きの揚力を生み出す。この揚力によるモーメントで打ち消す。機体の回転方向と揚力の向きの関係により、プッシャータイプ(テールローターの推進力で尾部を押す)とトラクタータイプ(テールローターの推進力で尾部を引っ張る)がある。
- ノーター - テールブーム内部から横方向に空気を噴出してブームに循環を起こし、ローターから吹き下ろされる空気流を曲げることで横向き推力を得る。
- 2重反転式ローター - 上下にローターを備え、互いに逆方向に回転させることにより打ち消す。→カモフ Ka-8
- ツインローター - 前後または左右にローターを備え、互いに逆方向に回転させることにより打ち消す。前後にローターを備えたものはタンデムローターと呼ばれる。
- チップジェット - ローターの翼端に推進装置を取り付けてローターを回転させることで、反トルクを生じさせないようにするものであるが、色々な技術上の問題も抱えておりガスタービンエンジンの一般化によって姿を消した。→YH32 ホーネット (航空機)
- 参考外部リンク - Helicopter Yaw Control Methods(英文)
なお、飛行機のプロペラでも反トルクは生じている。ヘリコプターの場合と比較して、プロペラが小さく主翼がある機体が大きいので問題度合いは低い。それでも、機体やエンジンマウントを左右非対称にしたり、パイロットが操縦で調整したりしている。さらに、一部の飛行機では2重反転プロペラを採用している。
[編集] オートローテーション
ヘリコプターはエンジンが停止してしまった場合、すぐ墜落してしまうと誤解されていることが多い。実際は、単純にエンジンが停止しただけであれば、パイロットがしっかり対応できればオートローテーションにより安全に着陸できる。
オートローテーションとは、ローターとエンジンはクラッチで切り離され、ローターのピッチが最小にされた状態をいう。機体の降下によりローターが回り、ローターの回転により若干の揚力が得られる。つまり、基本的にはエンジンが止まった飛行機が滑空しているのとほぼ同じ状態になる。ヘリコプターは、飛行機と比べて着陸する場所を選ばないので、そのまま着陸できるのである。
オートローテーションは、ヘリコプターに必須の操縦技術であり、パイロットはその訓練を受けなければならない。技能試験においても通過する事が要求されている。
[編集] 歴史
ヘリコプターは、16世紀、レオナルド・ダ・ヴィンチが最初に構想した。しかし、当時は空想上の産物でしかなく、その構想が現実味を帯び始めたのは20世紀になってからであった。(かの有名なエジソンも燃焼の反動を利用したヘリコプターを研究したが、爆発事故が発生した為(負傷者無し)、研究を打ち切っている)
1907年フランスのポール・コルニュ(Paul Cornu)が約2mの高さで20秒間のホバリングに成功した。 実際に、きちんと飛行できるヘリコプターが最初に飛行したのは、ハインリッヒ・フォッケにより1936年にベルリンで開発されたFocke-Wulf Fw61である。
ロシアから米国へ亡命したイゴーリ・シコルスキーもヘリコプターのパイオニアの一人で単ローター、尾部ローター付という、現在の主流の形式のVS-300を1939年に初飛行させた。
軍事目的で始めて利用されはじめたのは、ヴェトナム戦争からである。
日本では1988年6月20日~1991年10月18日まで、「シティエアリンク」という会社がヘリコプターによって羽田空港と成田空港を結ぶ路線を運行していたが、一般飛行機に比べ騒音や運行コストが高く、航空路線としては不採算なためか廃止となった。 現在では「東邦航空」という会社が八丈島~御蔵島~三宅島~伊豆大島~利島の往復と、八丈島~青ヶ島の往復で東京愛らんどシャトルと名付けられた定期航路を運行している。これが日本で唯一の定期乗合ヘリコプター航路である。
香港とマカオではこの2点間を結ぶヘリコプターの定期航路があり、かつてはこれは世界で唯一のヘリコプターによる国際線の定期航路であったが、どちらも中国に返還されたため、現在では(出入境にパスポートが必要ではあるものの)国内便として運航されている。その他、利用客の多い定期路線としてはモナコ~ニース(フランス)間やバンクーバー~ビクトリア間などがある。
[編集] 関連項目
- ヘリコプターの一覧
- 回転翼機: ヘリコプター - オートジャイロ - ティルトローター
- 攻撃ヘリコプター
- ヘリボーン
- ヘリコプター救急 - 捜索救難や、いわゆるドクターヘリについて
- イーゴリ・シコールスキイ
- ヘリポート
- General MIDI - 音色番号126番にヘリコプターが割り当てられている。
- ヘリコプター弦楽四重奏曲 - ヘリコプターを楽器として使用した曲
[編集] 外部リンク