鉄道
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鉄道(てつどう)とは、狭義では平行して設置された二本の鉄製のレール(軌条)が案内路となり、鉄製の車輪が鉄製レール上を回転するものである。
最も広い意味では、車両がその内部または外部の動力により、ルート上に設置された固定式案内路(レール、案内軌条など)に誘導されてルートを踏み外さずに走行し、旅客や貨物を輸送するシステムまたは輸送を行う交通機関をいう。広義の鉄道には、懸垂式・跨座式のモノレール、案内軌条式の新交通システム、鋼索鉄道(ケーブルカー)、浮上式鉄道を含み、日本ではいずれも鉄道事業法の許可または軌道法の特許を得て敷設される。トロリーバス(無軌条電車)は、架線が張られたルートを集電装置(トロリー)により集電した電気を動力として走行するバスであるが、鉄道事業法に基づく鉄道である(軌道法においては、「軌道に準ずるもの」として扱われる)。またロープウェイも鉄道事業法の対象であるが、索道という扱いで鉄道と区別される。
なお、本項では狭義について解説する。広義の鉄道に関しては、上記の各交通システムの記事を参照のこと。
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[編集] 概要
英語ではrailroadまたはrailwayといい、案内路の材質を問わないが、ドイツ語・フランス語・中国語をはじめ多くの言語で「鉄の道(路)」という表現をするように、狭義の鉄道が鉄道の原初形態である。この形態は、鉄道事業法に基く国土交通省令である鉄道事業法施行規則において 普通鉄道と分類され、 新幹線、地下鉄等を含む多くの鉄道がこの形態である。また、英語でtramwayと呼ばれる路面電車も同じ形態であるが、日本の法律では軌道法 により管轄され、鉄道ではなく軌道と区分される。
[編集] 特徴
[編集] 利点
[編集] 大量輸送
鉄道は、専用の鉄軌道上で案内されて運転される特性を活かし、多数の車両を連結して一括運転できる。このため連結する車両が多いほど一度に大量の旅客や貨物を運送できる。東京が世界最大の都市圏に成長したのは、鉄道の輸送力なしには考えられない。
[編集] エネルギー効率が良い
軌道や車輪に鉄を使用しているため、走行時に鉄同士が触れ合うことになるが、この際の摩擦力による走行時の抵抗は、地上に接触して移動する交通機関としてはかなり少ない部類に入る。例えば平坦な線路を20km/hで走行した場合の走行抵抗は1~2kgf/tと、ゴムタイヤを使用した自動車の10kgf/t(舗装道路)に比べるとおよそ10分の1程度である。そのため鉄道は船と並んで、エネルギー効率のよい大量輸送システムといえる。
電車及び電気機関車においては、電動機のエネルギー変換効率が高く、また自動車で使われる内燃機関に比べ発電所の効率ははるかに良いので、鉄道システム全体としてもエネルギー効率は非常に高い。また、たとえ自動車と同様に燃料の軽油をタンクに抱えて走る気動車であっても、単位輸送量当たりのエネルギー消費は、自動車よりはるかに少なく、したがって単位輸送量当たりのCO2排出量も少ない。例えば、JR東日本の気動車の1km当たりの炭素排出量は476g、平均的な自動車は75gであるとされ、輸送量当たりの燃料消費では鉄道がはるかに有利なことがわかる(上岡直見『自動車にいくらかかっているか』コモンズ、2002年)。
[編集] 大気汚染が少ない
電車では外部から電気エネルギーを供給されるため、排出される二酸化炭素や窒素酸化物などの有害物質が少ない。蒸気機関車のばい煙がかつては大きな問題であったが、すでにほとんど淘汰されている。気動車の排気ガス対策は遅れているが、輸送量当たりの汚染物質排出量は少ないといえ、気動車の排気ガスが沿線に深刻な問題を与えることは通常ない。
[編集] 公害対策が容易
電化鉄道では発電の材料を問わないため、新エネルギー(クリーンエネルギー)の切り替えも可能である。さらに、騒音対策にかかる費用も、自動車に必要なそれよりはるかに安い。非電化鉄道であっても、汚染されうる空間が軌道の周辺域に抑制される為、対策は比較的容易である。
[編集] 事故率が低い
統計的なデータから見ると、同一の人員を輸送するために発生する事故の発生率や、被害者数とも自動車事故にくらべ少ない。これは専用軌道を走行するためハンドル操作が自動車に比べ容易な点や、輸送人員における運転手の割合が極めて低いことが関係している。それに自動車事故の多くが道路の交差点で発生しているが、鉄道には他の交通との交差部分が少ないこともある。鉄道事故の多くは道路交通と平面交差する踏切や、利用客と鉄道との接点である駅のホームで発生している。
踏切は、鉄道側に通行優先権があるので、踏切に於いては道路交通を一方的に遮断することとなる。制動時間が長いので、踏切の遮断は列車通行時よりかなり前から行わなければならない。列車運行本数が多い場合、遮断の時間が長くなり、甚だしい場合には「開かずの踏切」が生まれる。そこまでいかずとも、交通渋滞を引き起こしたり、鉄道路線で分断された地域が疎遠になることはある。待ち時間を解消するためには、鉄道を高架化したり、地下化したりして立体交差に切り替える方法(連続立体交差化事業)がある。
[編集] 定時運行を確保できる
専用軌道を走行しない軌道(路面電車)などのような例外を除けば、基本的に専用の走行路を使用するので、定時運行を確保しやすい。厳密な時間管理を要求する文化圏(日本など)においては定時運行の需要は大きい。もっともそうでない文化圏においては定時運行性に優れない場合がある。また定時性を重視する傾向の地域では、故障や災害等で定時性を維持できなくなった際の混乱や社会的損失といった社会的影響が大きい傾向にある。
[編集] 欠点
[編集] 設備投資が大きい
線路・駅などのインフラに対する投資コストが大きく固定費率が大きいため、損益分岐点が高い。すなわち、採算がとれるには、ある程度以上の輸送量を必要とする。このため、利用者数が減少したローカル線では採算がとれず、路線廃止問題が発生する。これの解決案の一つとして線路と道路の上の両方を走らせることができるデュアル・モード・ビークルが開発されたがこれも別の問題がある。
[編集] 軌道の制約
鉄道車両は、基本的に異なる軌間の区間に乗り入れることは、困難である。軌間を切り替える手法としては、スペインの「タルゴ」で特殊な設備を用いて乗客を乗せたまま自国の1668mmと周辺他国の1435mmを切り替える方法が実用化されているほか、貨物列車では境界駅で台車を交換する方法もヨーロッパの一部で行われているが、いずれも多くの設備と手間を要し、一度に多数の列車を直通させることができない。また日本では乗客を乗せたまま軌間切り替え可能なフリーゲージトレインの実用化試験が行われている。それに建築限界や車両限界が路線によって異なれば、乗り入れの障害となる。例としては車両限界の大きい新幹線と、車両限界の小さい在来線を改軌した区間を直通するミニ新幹線のように、在来線の車両サイズで作らざるを得なくなる。直流、交流といった電気方式が区間によって異なる場合には、直通するためには製作コストの高い双方の電気方式に対応した車両を使用するか、機関車を付け替えるなどの必要が生じるが、電気方式が同じでも、電圧が区間によって異なる場合は、複電圧方式の車両が必要となる。
[編集] 制動距離が長い
鉄軌道の走行抵抗が少ない利点の反面、摩擦力に依存するブレーキ力も低いため、ブレーキをかけ始めてから停止するまでの距離(制動距離)を長く必要とする。また踏切を有する在来線では、高速運転の上限が車両の動力性能ではなく、制動距離で制約を受ける場合が多い。
[編集] 勾配に弱い
鉄軌道の走行抵抗が少ないという理由により、自動車ほどの加速を得ることもできず、自動車ほどの急勾配を上り下りすることもできない。しかし勾配の問題は、ラックレール等を用いることで解決できる場合もある。
[編集] 歴史
20世紀の初めには未来派によって先端技術、力、速度の象徴のように扱われたが、20世紀後半には一部の蒸気機関車が懐古趣味の対象となるなど、鉄道は先進国では社会に浸透し、人々の生活の一部にもなった。
19世紀から20世紀にかけては産業だけでなく軍事上の観点からも各国が積極的に鉄道を敷設した(→モルトケ)。
現在の鉄道の状況については、交通の鉄道の項目を参照のこと。
[編集] 関連項目
[編集] 鉄道の形態
[編集] 技術
[編集] 乗車券、運賃
[編集] 趣味
[編集] 事件・事故
[編集] 鉄道と食事
[編集] 鉄道の歴史、歴史的資料の保存
[編集] 用語
[編集] 参考文献
- 「鉄道工学ハンドブック」,久保田 博著,グランプリ出版(1995-96)