衣笠祥雄

出典: フリー百科事典『ウィキペディア（Wikipedia）』

衣笠祥雄（きぬがささちお、1947年 1月18日 - ）は、京都府京都市東山区出身のプロ野球選手、野球解説者である。

[編集] 来歴・人物

1964年、平安高校3年時、春のセンバツと夏の甲子園にキャッチャーとして出場し、いずれもベスト8の成績を残す。翌1965年、広島カープに入団。白石勝巳監督の方針で内野手に転向し、1968年からファーストとして一軍レギュラーに定着。1975年にはジョー・ルーツ監督により、サードにコンバートされる。この年、5番打者として4番の山本浩二と共にクリーンナップの一翼を担い、球団初のセ・リーグ制覇に大きく貢献した。特に、オールスターゲームにおける山本との二打席連続アベックホームランは、現在でもオールスター屈指の名場面として語り草になっている。その後も赤ヘルの主砲として、1976年には盗塁王、1984年には打点王を獲得、同年のチームのリーグ優勝・日本シリーズ制覇に伴ってMVPにも輝いた。70年代後半～80年代の広島黄金時代を築き上げる原動力となった選手の一人である。

赤ヘル時代以前につけていた背番号28から、ファンの間では『鉄人』（横山光輝の漫画『鉄人28号』より）の愛称で親しまれていた。また、その愛称が示す通り、野球選手の中でも飛び抜けて体が頑丈であった。1970年 10月19日の対巨人戦から始まった連続試合出場記録は、1987年 6月13日の対中日戦で2131試合に達し、メジャーリーグのルー・ゲーリッグ（ヤンキース）がそれまで保持していた世界記録を更新。以降、10月22日の現役引退まで2215試合連続出場を果たし、同年国民栄誉賞を授与される。その功績を讃え、衣笠のつけていた背番号「3」はカープの永久欠番となっている。

同時代のチームメイトに山本浩二という日本野球史上屈指の強打者がおり、引退後も「鉄人」のイメージが付きまとっているためか、現役当時から現在に至るまで、連続試合出場記録以外の話題が上ることが少ない。しかし、通算本塁打504本（歴代7位）、通算打点1448（歴代10位）、通算安打2543本（歴代5位）と、長期にわたって安定した高い打撃成績を残しており、衣笠もまた山本と同じく、史上屈指の強打者であったことが窺える。

現在はTBS 野球解説者、朝日新聞嘱託で運動面のコラムを受け持つ他、「午後は○○おもいッきりテレビ」（日本テレビ系）のゲストコメンテーターなど、タレントとしても活躍している。また、ソニーの人気PC・VAIOのユーザーであり、「VAIO OWNERS：達人の選択」でVAIO愛好家としても紹介されている。

アフリカ系アメリカ人と日本人との混血である。長男の衣笠友章は俳優として活躍している。

1996年、野球殿堂入り。

現役時代から現在に至るまで、広島県呉市にある味噌メーカー「ますやみそ」のCMキャラクターを務めている。

[編集] 略歴

身長・体重 175cm・73kg
血液型 O型
投打右投げ右打ち
球歴洛東中→平安高→広島
プロ入り年度 1965年・（広島）
守備位置捕手→内野手

[編集] 所属球団

広島カープ・広島東洋カープ（1965年～1987年）

[編集] 背番号

28 （1965年～1974年）
3 （1975年～1987年）

[編集] 経歴

[編集] タイトル・表彰

MVP 1回（1984年）
打点王 1回（1984年）
盗塁王 1回（1976年）
ベストナイン 3回（1975年、1980年、1984年）
ゴールデングラブ賞 3回（1980年、1984年、1986年）
月間MVP 4回（1975年6月、1979年9月、1982年6月、1983年7月）
オールスターゲーム出場　13回（1971年、1974年 - 1977年、1980年 - 1987年）
正力松太郎賞 1回（1984年）
国民栄誉賞（1987年）
野球殿堂入り（1996年）

[編集] 記録達成歴

1976年：7月7日、サイクルヒット達成。
1983年：8月9日、2000本安打達成。
1987年：6月13日、2131試合連続出場を果たし、世界新記録を樹立。
1987年：6月14日、2500本安打達成。
1987年：6月15日、プロ野球界では王貞治に次ぐ2人目の国民栄誉賞受賞決定。
1987年：8月11日、500本塁打達成。
1987年：10月22日、現役最終戦で当時歴代4位タイの504本塁打を達成。2215試合連続出場を果たして引退。

[編集] 年度別成績

年度	チーム	試合数	打率	安打	本塁打	打点	盗塁
1965年	広島	28	.159	7	1	2	0
1966年	広島	32	.147	5	0	2	1
1967年	広島	28	.250	12	2	5	1
1968年	広島	127	.276	109	21	58	11
1969年	広島	126	.250	107	15	46	32
1970年	広島	126	.251	102	19	57	13
1971年	広島	130	.285	131	27	82	12
1972年	広島	130	.295	147	29	99	12
1973年	広島	130	.207	94	19	53	6
1974年	広島	130	.253	119	32	86	7
1975年	広島	130	.276	132	21	71	18
1976年	広島	130	.299	156	26	69	31
1977年	広島	130	.265	136	25	67	28
1978年	広島	130	.267	123	30	87	9
1979年	広島	130	.278	114	20	57	15
1980年	広島	130	.294	144	31	85	16
1981年	広島	130	.271	134	30	72	7
1982年	広島	130	.280	135	29	74	12
1983年	広島	130	.292	145	27	84	8
1984年	広島	130	.329	161	31	102	11
1985年	広島	130	.292	140	28	83	10
1986年	広島	130	.205	98	24	59	4
1987年	広島	130	.249	92	17	48	2
通　算		2677	.270	2543	504	1448	266

（表中太字はシーズンのリーグ最高記録）

[編集] エピソード

「野球選手になったら、でかい家を買って綺麗な女と結婚する」と夢見ていた衣笠少年は、入団時の契約金で自動車免許を取り、フォード製の自動車を購入した。当時のカープは創立十数年の貧乏球団であり、長谷川良平監督やコーチ・主力選手が乗っているのは大半がマツダ車で、中には自転車通勤の者も珍しくなかった。そんなチーム状況を横目に気ままにアメリカ車を乗り回していたが、何度となく事故を起こし、最終的には免許を剥奪されてしまった。
1960年代後半、ベトナム戦争の泥沼化に伴い、米軍岩国基地は前線基地となっていた。基地周辺は兵隊で溢れ、飲み屋やゴーゴークラブなど飲食店が大いに賑わっていた。衣笠はよく車で約1時間かけて岩国基地まで遊びに行き、現地で仲良くなった兵隊達とよく飲み明かしていた。そんなある日、いつものように一緒に飲んでいた米兵の友人に「明日ベトナムへ行くんだ」と告げられる。衣笠はこの言葉に大きなショックを受け、好きな野球をやりながら遊び回る自身を恥じ、以後野球に真剣に打ち込むようになったという。
1970年、最大の恩師というべき関根潤三が打撃コーチとして広島に入団。根本陸夫監督は「衣笠をリーグを代表する打者にしてくれ」と頼み、それを受けて関根は、衣笠にマンツー・マンの過酷な練習を課した。朝・昼・夜の練習が終わり、他の選手が休んだり遊びに行ったりする時間に入っても、更に宿舎の屋上でバットを振らせていた。あまりにも厳しい練習に耐えかね、ある晩衣笠は、関根を無視して飲みに出かけた。そして夜中の3時過ぎ、もうそろそろいいだろうと宿舎に帰ってくると、なんと玄関で関根が待ち構えていた。そして「さあやるぞ」と手にしたバットを渡され、観念した衣笠は、泣きながら朝までバットを振り続けた。
現役時代は「当てる」バッティングを全くせず、常にフルスイングで打席に臨んでいた。そのため、ホームランや打点が多い反面三振や凡打も多く、これほどの通算成績を残しているにも関わらず、シーズンを通して打率が3割を超えたことがたった1度しかない。通算三振数も1587個（歴代3位）に上る。
元阪神の江本孟紀は、現役時代の衣笠について「打者の目の高さに投げた明らかなボール球にもフルスイングする。当たれば確実にホームランになるだけに、全く気が抜けなかった」と語っている。また江本は、衣笠から自身通算1000個目となる三振を奪っているが、偶然にもそれは、衣笠自身にとっても通算1000個目となる三振であった。
1979年 8月9日の巨人戦、西本聖から死球を受け、左の肩甲骨を骨折する重傷を負ってしまう。しかし翌日の試合にも代打で出場し、江川卓のボールにフルスイングで挑んで三球三振という記録を残した。試合後には「1球目はファンのために、2球目は自分のために、3球目は西本君のためにスイングしました」「それにしても江川君の球は速かった」とコメントしている。衣笠が代打で打席に登場した瞬間、広島ファンのみならず、巨人ファン・ベンチからも大きな拍手が起こった。
チームメイトだった江夏豊とは無二の親友で、プライベートでは常に行動を共にしていた。江夏が日本ハムファイターズに移籍した1980年オフのキャンプでは、酒が入ると「豊がいない」と泣いていたという。
連続試合出場の世界記録を更新した時、「いつか、誰かにこの記録を破ってほしい。この記録の偉大さが本当にわかるのは、その人だけだろうから」との言葉を残した。衣笠の記録はアメリカでも非常に高く評価されており、現在でも「キヌガサ」は、アメリカで最も名前の知られている日本人野球選手の一人である。1996年 6月14日にカル・リプケンJr.（オリオールズ）が記録を更新した試合にも、来賓としてアメリカに招かれた。（余談だが、衣笠はその記録更新のセレモニーで、自身のユニフォームをリプケンに贈っているが、何故か現役時代に実際に着ていたものではなく、引退後にOBオールスターゲームやアトラクションで着たと思われる1989～1995年モデルのユニフォームだった）
一方、衣笠の世界記録更新の前後には、「記録作りのために出場しているだけ」「監督・コーチの温情」と批判する野球ファンも少なからず存在した。1986年以降は思うように成績が振るわなかった（試合にフル出場せず、中盤で交代することも多かった）ことと、1979年、当時三宅秀史が持っていた700試合連続フルイニング出場の記録にあと22試合まで迫りながら、極度のスランプのためスタメンから外されたことがある（しかし、1979年の打率は.278とそこそこの成績を残しているので完全なスランプではない）という前例が、そのような批判の根拠である。
長崎市（旧・三和町）元宮公園に衣笠の業績を称えた「衣笠球場」がある。プロ野球選手の業績を称え冠化した球場には長嶋茂雄（長島茂雄球場。熊本県天草市）と、王貞治（早稲田実業学校王貞治記念グラウンド。東京都八王子市）の事例がある。