小田急50000形電車
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50000形電車(50000がたでんしゃ)は、小田急電鉄の特急形車両(ロマンスカー)。愛称は「VSE(Vault Super Express)」。2004年度に10両編成2本(20両)が落成し、2005年(平成17年)3月19日に営業運転を開始した。
2005年度グッドデザイン賞受賞、2006年度第49回ブルーリボン賞受賞。
小田急50000形電車 | |
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鶴川駅に進入中のVSE | |
起動加速度 | 2.0km/h/s |
営業最高速度 | 110km/h |
設計最高速度 | 130km/h |
減速度 | 4.0km/h/s(通常) 4.5km/h/s(非常) |
車両定員 | |
編成定員 | 358人 |
全長 | 13800(先頭車・18200)mm |
全幅 | 2800mm |
全高 | 3915mm |
車両重量 | |
編成重量 | 260.2 t |
軌間 | 1067mm |
電気方式 | 直流1500V |
駆動装置 | |
モーター出力 | |
編成出力 | 135kW×16=2160kW |
歯車比 | |
制御装置 | VVVFインバータ制御(IGBT素子) |
ブレーキ方式 | 回生制動併用電気指令式電磁直通空気制動 |
保安装置 | OM式ATS |
備考 |
目次 |
[編集] 概要
通勤輸送における着席サービスと中間駅利用客の需要にも配慮した先代ロマンスカーの30000形「EXE」から、再び箱根への観光客を主要なターゲットに想定し、目的地までの快適な旅を演出する事を目標とした。
10000形「HiSE」以後は途絶えていた3100形「NSE」に始まる前面展望車を復活させたのを始め、幅4mと大型の連続窓による眺望の確保や広い車内空間、ゆったりとした機能的な座席、車内売店などを装備し、さらには内装に暖色系の色や木面を駆使して、ときめきと落着きが溢れる特急形車両に仕上げた。
車両の総合デザインは、関西国際空港旅客ターミナルの設計を指揮した建築家の岡部憲明および岡部憲明アーキテクチャネットワークが担当した。製造費用は2編成で約34億円である。
[編集] 車両の特徴
[編集] 外観
前面は展望席がある歴代ロマンスカーと同様、流線型になっているが、ライトを中央下部の1箇所に集約したため、3000形「SE」の編成短縮化改造前の前面を思わせる表情に仕上がっている。
車体外装の塗装は、天井を含めた全体に白を配色し、それに加えて小田急ロマンスカー伝統の「バーミリオン・オレンジ」の帯をまとった物になっている。
また、車体の側面下部は騒音を抑えるため床下機器を覆い隠すカバーが取り付けられている。
[編集] 車両長・編成
ハイデッカー仕様の10000形「HiSE」の車体構造が「交通バリアフリー法」を満たさないための置き換えであると同時に、それまで増備していた30000形「EXE」の20m級車両による6両編成+4両編成では運用時間帯によっては供給過多になる事から、10000形と同様に20m車両換算で約7両分となる編成長約145mの連接車両とした。10000形など他の連接車は11両編成であるが、車室を拡大するため車体を延長したので、10両編成で組成して編成長を揃えている。
[編集] 車内
ハイデッカー仕様の10000形「HiSE」と同じ車体高さでありながら、7000形「LSE」と同じ床面高さとしており、その結果「HiSE」より天井が45cm高くなっている。全体的には英語でドーム型の天井、天空、空間を意味する「Vault」の名称に象徴される上下方向にも広い車内空間を確保した。
車内および座席は、不燃加工された木材を多用し、広い車内空間や暖色系の間接照明に白色LEDの照明を付け加えた照明演出と相まって、自然感溢れる落ち着いた温かみのある空間に仕上がっている。
車内は喫煙コーナーを除いて全面禁煙になっている。
3号車にはコンパートメント席の「サルーン席」がある。
[編集] サービス
3・8号車に身体障害者などが使用できる「ゆったりトイレ」と男性用・男女用のトイレ、「ロマンスカーカフェ」(車内売店)、喫煙コーナーがある。
ロマンスカーカフェは歴代ロマンスカーの車内売店には無かった大型窓とタッチパネルを使用した情報ディスプレイを配置し、乗車客のちょっとした社交場になるように開放的な造りになっている。さらには「ロマンスカーアテンダント」と称する客室サービス要員をカフェに同乗させ、かつて「走る喫茶室」と呼ばれた喫茶サービスを行っている。
「ゆったりトイレ」にはベビーベッドを設置したほか、鉄道車両では初めてオストメイト対応設備を設けた。
[編集] ミュージックホーン
初代ロマンスカー3000形「SE」で採用した「オルゴール警笛」を復活し、到着時と発車時にそれぞれ2回演奏している。
[編集] 技術的な特徴
[編集] 車体
アルミニウム押出型材を用いてA-trainのようにダブルスキン構造としており、軽量化・低騒音化を図ると共に従来の連接車に比べて延長された構体の強度を確保した。大型の窓を多用したため、窓枠には一体型の部材を採用して開口部の強度を保つ様にしている。なお、先頭部分はシングルスキン構造である。
[編集] 駆動方式
走行音を抑えるためにモーターを全密閉式とするとともに、低出力モーターを多数使用する方式を採用した。IGBT素子を用いたVVVFインバータ制御を採用するが、30000形「EXE」の6両編成は24軸中8軸の195kWモーターを使用するのに対し、この50000形「VSE」では22軸中16軸を135kWのモーターで駆動する。
[編集] 台車
カーブ走行時に空気バネの力で車体を傾ける傾斜装置(通称「簡易振り子」)も営業車としては初めて採用し、曲線での乗り心地の改善策としている。また、空気バネの支持点を通常より1m高くして車両の重心高さに近づける事で揺れの減少を図っている。
[編集] 営業開始までの流れ
9年振りとなる「新しいロマンスカー」故に、鉄道ファンのみならず小田急の一般利用客や報道機関(マスコミ)などからの注目も大きかった。
[編集] 小田急入線まで
日本車輌製造豊川製作所にて落成した50000形「VSE」第1編成は、日車専用線から飯田線、東海道本線、御殿場線を経由して、2004年11月23日深夜に新松田駅近くにある御殿場線と小田急線の連絡線から入線した。
甲種輸送の際に第1編成は全面を白くラッピングし、その全容は明かされず、多くの鉄道ファンの注目を集めた。
[編集] 報道発表と試運転
2004年11月29日、相模大野駅近くの大野工場にて報道機関向けに「新型ロマンスカーお披露目式」を開催した。当日は、社長の松田利之(当時)とデザインを担当した岡部憲明も出席し、50000形「VSE」に関する概要などを説明した。
同年12月24日、50000形「VSE」の初の日中試運転を海老名駅→小田原駅→新宿駅→海老名駅間で実施した。その後も随時小田原線や多摩線、江ノ島線で試運転を実施した。
[編集] 試乗会と撮影会
2005年1月28日に、報道関係者向けの試乗会を新宿駅→唐木田駅間で実施し、多くの報道関係者が訪れ、「新しいロマンスカー」に対する注目度を報じた。
同年3月5日には一般向けの試乗会を撮影会と併せて実施した。参加者は抽選で選ばれ、AコースとBコースの2行程で行なった。Aコースは、新宿駅→小田急多摩センター駅間を乗車後、同駅1番線で撮影会を実施し、Bコースは、唐木田駅→小田急多摩センター駅間の試乗と同駅4番線での撮影会を行った後、小田急多摩センター駅→新宿駅間で試乗会を実施した。なお唐木田駅構内では試乗会列車と試運転列車2本が並んだ。 当初は喜多見検車区唐木田出張所で撮影会を行なう予定であったが、前日の降雪のため変更したものである。 3月11日には、海老名検車区内にて、当時運行していたロマンスカーのすべての形式(7000形「LSE」・10000形「HiSE」・20000形「RSE」・30000形「EXE」)50000形「VSE」が勢揃いし、報道機関や鉄道趣味誌向けに撮影会を行なった。
[編集] 営業運転初日
2005年3月19日の営業運転1番列車となる「スーパーはこね9号」の特急券は予約開始から5分で完売した。そして営業開始当日、新宿駅では「出発式」が、小田原駅と箱根湯本駅では「到着式」をそれぞれ行ない、車内では記念の「乗車証明書」や「箱根寄木細工」、VSEの絵入り鉛筆などを無料で配布した。
小田急では広告宣伝に注力し、小田急線全駅に50000形「VSE」のポスターを掲示するとともに、「新しいロマンスカー」として50000形「VSE」を宣伝するテレビコマーシャルなども放映した。
[編集] 使用列車
2006年5月現在、「スーパーはこね」・「はこね」の次の列車に限定的に充当している。
[編集] 平日下り
- スーパーはこね13号 新宿10:00→箱根湯本11:18
- (※)スーパーはこね17号 新宿11:10→箱根湯本12:36
- スーパーはこね27号 新宿13:40→箱根湯本15:05
- (※)はこね31号 新宿14:40→箱根湯本16:05
- はこね41号 新宿17:10→箱根湯本18:37
[編集] 平日上り
- はこね14号 箱根湯本11:48→新宿13:21
- (※)はこね18号 箱根湯本12:48→新宿14:21
- はこね28号 箱根湯本15:18→新宿16:49
- (※)はこね32号 箱根湯本16:18→新宿17:50
- はこね42号 箱根湯本18:59→新宿20:26
[編集] 土曜・休日下り
- (※)スーパーはこね9号 新宿9:00→箱根湯本10:25
- スーパーはこね13号 新宿10:10→箱根湯本11:27
- (※)はこね23号 新宿12:40→箱根湯本14:05
- スーパーはこね27号 新宿13:40→箱根湯本15:05
- (※)はこね37号 新宿16:10→箱根湯本17:36
- はこね41号 新宿17:10→箱根湯本18:36
[編集] 土曜・休日上り
- (※)はこね10号 箱根湯本10:47→新宿12:19
- はこね14号 箱根湯本11:49→新宿13:19
- (※)スーパーはこね24号 箱根湯本14:18→新宿15:48
- スーパーはこね28号 箱根湯本15:18→新宿16:48
- (※)はこね38号 箱根湯本17:48→新宿19:19
- はこね42号 箱根湯本18:48→新宿20:19
- (※)の列車は検査時に50000形以外の車両(展望席を持つ7000形LSEまたは10000形HiSE)で運用する日もある。車両運用については小田急電鉄公式サイトの「空席照会」を参照の事。
[編集] 主な受賞
- 2005年度:「グッドデザイン賞」(日本産業デザイン振興会、商品デザイン部門 公共機器・設備/公共交通関連機器・設備分類)
- 2005年度:「照明普及賞優秀施設賞」 (照明学会)
- 2006年度:「第49回ブルーリボン賞」 (鉄道友の会)
[編集] 歴史
- 2004年11月23日 第1編成(50001F)小田急線入線。
- 2004年12月23日 第1編成(50001F)竣工。
- 2005年2月6日 第2編成(50002F)小田急線入線。
- 2005年2月15日 第2編成(50002F)竣工。
- 2005年3月19日 第1・2編成(50001F・50002F)就役。
- 2006年9月10日 2006年鉄道友の会ブルーリボン賞受賞。営業列車である「スーパーはこね13号」の一部を鉄道友の会が貸切をし、受賞記念列車として運行。
[編集] その他
- 2006年4月13日の夕刊フジ(zakzak[1])によれば、4月8日の「はこね14号」で町田駅を出発して数分後に展望室での雨漏りが発生し、その後展望室の雨漏り対策の補修を完了したと報じている。
- トミーテック(TOMIX)がNゲージ鉄道模型を製品化している。またフィギュアつきのバンダイ・Bトレインショーティーも販売されたことがある。HOゲージ鉄道模型はカツミが製品化している。
- 2006年11月現在、ブルーリボン賞受賞記念マークの装飾を施して運用している。
- 2007年1月1日未明に運転される「ニューイヤーエクスプレス」7号で初の江ノ島線営業運転が行われる予定である。(大晦日から元日にかけての終夜運転実施のお知らせ(PDF)[2])
[編集] 外部リンク
- 小田急電鉄:ロマンスカーラインナップ50000形VSE
- 小田急電鉄プレスリリース2004年11月30日:VSE落成発表
- 小田急電鉄プレスリリース2005年1月13日:VSE営業開始案内
- 小田急電鉄プレスリリース2005年1月25日:試乗会開催案内
- 日本車輛製造:小田急電鉄50000形連接特急電車
- 財団法人日本産業デザイン振興会 JIDPO:グッドデザイン賞受賞情報
- 社団法人照明学会:平成17年照明普及賞(No.24/東京8)
- 小田急電鉄プレスリリース2006年6月16日:VSEブルーリボン賞受賞情報(PDF)
- 鉄道友の会:2006年ブルーリボン賞選定車両
[編集] 関連項目
小田急ロマンスカー |
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現行列車 |
「スーパーはこね」・「はこね」・「さがみ」・ 「えのしま」・ 「あさぎり」・ 「ホームウェイ」・ 「ニューイヤーエクスプレス」 |
現用車両 |
7000形「LSE」・ 10000形「HiSE」・ 20000形「RSE」・ 30000形「EXE」・ 50000形「VSE」 |
導入予定車両 |
過去の車両 |
1600形・1700形・1910形・ 2300形・2320形・ 3000形「SE」・「SSE」・ 3100形「NSE」・ キハ5000形・キハ5100形(御殿場線直通用) |
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