ZSU-23-4
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ZSU-23-4 「シルカ」(ロシア語:ЗСУ-23-4 «Шилка»ゼーエースウー・ドヴァーッツァチ・チトィーリェ・シールカ)は、ソ連で開発された自走式高射機関砲である。1964年より生産に入った。「ZSU」はロシア語で「自走高射装置」を意味する「зенитная самоходная установка」の略で、防空兵器には河川名に由来する愛称をつけるというソ連の方針に沿い、シルカ川に因んだ「シルカ」という愛称がつけられた。
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[編集] 概要
[編集] 開発
ソ連最初の自走式高射機関砲であるZSU-57-2は、57 mm機関砲2 門を装備し、初期の追尾誘導コンピューターを用いていた。ZSU-57-2は大きな成功を収めたとは言えず、少数の配備に留まった。
ZPU機関砲シリーズは、多くの装甲車輌に搭載された14.5 mm重機銃をはじめ、ソ連の標準対空装備となっていた。この対空システムの23 mm口径シリーズの決定版となったのが、ZU-23-2連装機関砲であった。
こうした中、高度2.5 km1.5 kmまでの航空機と距離1.8 kmまでの地上軽装甲車輌を攻撃できる自走機関砲を開発せよという要求のもと、水陸両用戦車であったPT-76のプラットフォームに23 mm機関砲を4 門装備したZSU-23-4が開発された。この新型対空車輌は、改良されたレーダーシステムを用いていた。ZSU-23-4は優れた火力と命中率を誇り、低高度を飛行する航空機にとって大きな脅威となった。
ZSU-23-4は、280 馬力のV6Rディーゼルエンジン1 基と520 ℓの燃料タンク2 基を備え、通常で400 km走行できた。これに加え、動力補助装置として74 馬力のガスタービンエンジンも搭載した。
ZSU-23-4は、RPK-2ヴィユーガ30 mmレーダーにリンクした液冷式のAZP-85 23mm機関砲を備えた砲塔を搭載した。また、増加兵装として6 基の9K38「イグラー」、または側面に9K38-M「イグラー1」を装備できた。
各機関砲は、毎分1000発の機関砲弾を発射出来た。故に4 門で毎分4000発の砲弾を打ち上げることが可能であるとされたが、オーバーヒートから砲身を守るため、射撃には各砲につき50発ずつしか配分されなかった。従って、ZSU-23-4が実際に射撃できるのは毎分200発であった。ZSU-23-4は優れた防空兵器であったが、この冷却システムは欠陥であった。冷却不足のため、射撃を続けているとすぐにシステムがダウンするという問題がしばしば発生した。
その他、ZSU-23-4は重装甲車輌ではないので、対戦車ロケット弾や砲弾などの攻撃により容易に破壊されるという生存率の低さも指摘されている。
[編集] 発展
ZSU-23-4は、1965年より実戦配備に入った。ZSU-23-4は広く東側諸国や旧ソ連諸国で使用されており、多くの改良型も開発されている。ウクライナでは、改良型の4M4(ウクライナ語:4М4チョトィールィ・エーム・チョトィールィ)が開発され、ベラルーシでは4M5(4М4チトィーリェ・エーム・チトィーリェ)が開発されている。
また、冷戦終結後は2A38M 30 mm機関砲のような各種の異なる機関砲やレーダー・システムを搭載する発展型も開発されている。
[編集] 実戦
ZSU-23-4は、1967年の第3次中東戦争以降、多数が中東地域で実戦に投入された。中でも、第4次中東戦争では、地対空ミサイルと組み合わせて構成されたアラブ側の防空陣営が多くのイスラエル国防軍機を撃墜した。中高度を守る2K12「クープ」地対空ミサイルや低高度を守る9K31「ストレラー1」地対空ミサイルの攻撃を避けて超低空へ侵入したイスラエル軍機は、尽くZSU-23-4の餌食となった。
このほか、旧ソ連圏ではソヴィエト・アフガン戦争では輸送車列の護衛任務に就き、仰角を大きく取ることができるという性質上山の上から攻撃を仕掛けてくるゲリラへの有効な防御兵器となった。アフガンゲリラは本車の殺人的な弾幕射撃を恐れた。
[編集] 現況
後継車輌として2S6「ツングースカ」が開発されているが、価格の高騰などの理由で配備は全面的にはなっておらず、現在も多くの軍隊でZSU-23-4は運用が続けられている。
[編集] 派生型
- ZSU-23-4:1964年に開発された。前生産型で、初期量産型となった。
- ZSU-23-4V:1968年に開発された。多数が生産された量産型となった。
- ZSU-23-4V1:1972年に開発された発展型。
- ZSU-23-4M:1977年に開発された発展型。RPK-2ヴィユーガ・レーダーを搭載した発展型。射撃管制装置がデジタル・コンピューター化され、銃身のための追加装甲、1~3個の砲塔外付け式弾薬庫RPK-2により個別に作戦行動を取れるようになった。
[編集] 運用国
- ソ連
- ロシア連邦
- ベラルーシ
- ウクライナ
- ブルガリア
- アフガニスタン
- アンゴラ
- ポーランド
- ルーマニア
- チェコスロヴァキア
- チェコ
- スロヴァキア
- ハンガリー
- ドイツ
- ユーゴスラヴィア
- 朝鮮民主主義人民共和国
- ヴェトナム
- インド
- イラン
- イラク
- ヨルダン
- レバノン
- イエメン
- リビア
- モザンビーク
- ナイジェリア
- ソマリア
- キューバ
- ペルー
[編集] 関連項目
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自走式対空砲 | |||
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