米
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米(こめ)はイネ(稲)から収穫される穀物。主に、脱穀したもの(籾)、籾から籾殻をはずしたもの(玄米)、玄米からぬか層を削り落としたもの(精白米・白米)を指す。玄米は、一般的にはイネの種子と理解されているが、生物学上は果実である。また、水分を加えて加熱調理したもの(飯)の粒も、お米と呼ぶことがある。
- 古くはイネ科の植物の穀物について広く「米」という単語が用いられている。古来、稲が生産されていなかった華北(漢字発祥の地)では、長くアワ(粟)に対して用いられていた。中国後漢の許慎が著した漢字の解説書『説文解字』において、「米…粟實也。象禾實之形」(禾=粟)と書かれ、米即ちアワの実であると解説されている。
この項目では収穫物の米について扱う。植物としての解説はイネの項目を参照。[1]
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[編集] 概要
米は世界中で食用として用いられており、穀物の中では小麦に次いで2番目に多く消費されている。多くの国、特にアジアでは主食としている文化が多い。逆に、欧米圏では付け合わせの野菜の一種として利用される。また、欧米や東南アジアでは、デザート(下記)に用いられる。日本では飯として食べるほかに、酒や餅、飴、菓子、味噌、醤油、酢、糊などの原料としても用いられる。中国、ベトナム、タイなどではビーフン、ライスペーパーなどの加工原料にもされる。
イネは3つの亜種に分かれ、それぞれの米は次のような特徴がある。
- ジャポニカ(短粒種)
- 形が丸みを帯び、炊飯米は粘りがある。日本での生産は、ほぼ全量がジャポニカである。主な調理法は、炊くか蒸す。
- インディカ(長粒種)
- 形が縦長で、粘りが少ない。世界的にはジャポニカよりもインディカの生産量が多い。主な調理法は煮る。
- ジャバニカ(大粒種)
- 長さと幅ともに大きい大粒であり、粘りはインディカに近い。東南アジア島嶼部で主に生産されるほか、イタリア・ブラジルなどでも生産される。
米(うるち米)は、生薬名では粳米(こうべい)といい、健胃、滋養強壮などの作用がある。米を蒸して酵母で発酵させたものを神麹(しんきく)という(ただし、コメでなく、小麦粉、ふすまなどとする説もある)。これには滋養、消化作用などがあるとされ、加味平胃散などの漢方方剤に配合される。
[編集] 米の調製・調理・加工
米は稲穂の状態をそのまま食用とはせずに、精製を行って食用とするのが基本である。精製のプロセス(一般にこの作業を調製という)は以下のようになっている。
- 脱穀(だっこく)- 稲穂から籾(もみ)をはずす作業である。
- ふるい - 脱穀した籾、籾殻、稲ワラなどから籾を選別するために篩(ふるい)にかける。
- 籾摺(もみすり)- 籾殻をむいて玄米とする。
- 風選(ふうせん)- 籾から籾殻やしいなを取り除く。
- 選別(せんべつ)- 玄米をふるいにかけ、標準以下の大きさの玄米(くず米)を除く。
- 精白(せいはく)- 玄米の胚芽とぬか層を削り取り、精白米とする。この作業をすることを「精米(せいまい)する」あるいは「米を搗(つ)く」ともいう。
- 精選(せいせん)- 精白後の米からさらに選別を行う。
精白米は、米ぬかを洗い流した(「米を研ぐ」とか「洗う」という)のち、調理する。日本では、うるち米は炊いて(炊飯あるいは炊爨:すいさん)、もち米は蒸して食べられることが多い。米を蒸したもの(蒸し飯)を、おこわ(お強)・こわめし(強飯)とも呼ぶが、それは炊いた飯よりも「こわい」(「硬い」の古い言い方)ことに由来している。古くから、飯を乾燥させた携帯保存食「ほしいい」(糒・干し飯)としても用いられた。多目の水を加えて煮た料理は粥。
栄養分をそぎ落とさないように、胚芽部分を残した胚芽精米や七分づき、玄米をそのまま炊いて食べる場合もある。最近では玄米を若干発芽させた発芽玄米も食べられている。胚芽部分には脚気を予防するビタミンB1が豊富に含まれる。
また、うるちの精白米を粉末にしたものは上新粉とよばれ、料理や団子やせんべいなどの和菓子の原料となる。上新粉は粒子が粗いため洋菓子には適さなかったが、最近では小麦粉並の細かさのものが製粉会社各社で開発されており、それらは洋菓子やパンなどの材料に使用が可能である。 もち米を粉末にしたものには白玉粉がある。水挽き粉砕をしているため、粒子が細かくなめらかな食感が特徴である。
[編集] 一般的な品種
[編集] 代表的な品種
代表的な品種は以下の通り(順不同)。
外国種
インド
タイ
- カオ・ホーム・マリ
イタリア
- アルボリオ arborio
- カルナローリ carnaroli
- ヴィアローネ・ナノ vialone nano
[編集] 特殊な米
- 陸稲(りくとう、おかぼ)
- 黒米(くろまい、くろごめ): 黒米は種皮の色が黒い米。
黒米は赤米と共に神事の際に神饌として用いる機会が多い米である。黒く見える色素はポリフェノールの一種であるアントシアニンに起因しており、非常に濃い紫色である。炊飯した時、お米が紫っぽくなるため、紫黒米とも呼ぶ。代表的な品種はおくのむらさき、朝紫、むらさきの舞、紫黒苑。近年古代米と称し栽培が復活しつつある。 - 赤米(あかまい):赤米は種皮の色が赤い米。
玄米の表面の層が赤いのはタンニン系の色素を含有しているため。日本では8世紀の頃平城京の木簡から全国的に栽培されていたと推測される。また14世紀ころに「大唐米」という長粒種が渡来した。代表的品種は国司、神丹穂、ベニロマン、紅衣など。江戸時代に関東から西特に薩摩など南九州で多く栽培されていたが、明治以降品種改良米の普及活動により昭和中期には神事用以外は駆逐された。近年古代米と称し栽培が復活しつつある。また、日本には粳米しかなかったが品種改良により糯米ができた。 - 緑米(みどりまい):緑米は種皮の色が緑色をしたもち米。
- 香り米
- 低アミロース米
- 低グルテリン米
- α化米(加工米の一種。糒など)
[編集] その他の米
- アフリカイネ(グラベリマイネ Oryza glaberrima): アフリカ西部中央部、主にニジェール川流域で僅かに栽培される。アジア原産のイネとは別種で、Oryza barthiiもしくはその近縁種から栽培化された。
- ワイルドライス(北米大陸のマコモの果実で、正しくは米ではない)
[編集] 性状や用途による区分
[編集] 米料理
[編集] 料理
[編集] 日本料理
- 粥
- 雑炊(おじや)
- 寿司
- 稲荷寿司 稲荷という言葉は、稲成り(稲がなる、つまり豊作を願う意味)に由来している。
- 握り飯
- 茶漬け
- 炊き込みご飯
- 桜飯
- 赤飯
- そばめし
- 黄飯
- 卵かけご飯
- 油飯
- お焦げ料理
- 丼物
[編集] 洋食
[編集] 中国
[編集] 朝鮮半島
[編集] トルコ
[編集] イタリア
[編集] スペイン
[編集] インドネシア
[編集] マレーシア
[編集] ベトナム
[編集] タイ
[編集] アメリカ合衆国
[編集] デザート
米を牛乳で煮込んだプディングは、東は南アジアから西は西ヨーロッパまで広く見られるデザートである。例えばドイツではミルヒライス (de:Milchreis) といい、スペイン語圏ではアロス・コン・レチェ (es:arroz con lecheまたはアロス・デ・クレマ(es:arroz de crema)」)と呼ばれる。
東南アジアでは、マンゴー、ささげ、緑豆、里芋、スイートコーンなどと煮込んだ米のデザートがあり、ココナッツミルクをかけて食べる。
日本には、餅米を蒸して搗いた餅菓子、白玉団子、ぼたもちなどがある。
[編集] 米に関わる語彙
- しいな
- 早稲(わせ) 中稲(なかて) 晩稲(おくて)
- 糴(テキ かいよね)
- 糶(チョウ うりよね)
- おかぼ(陸稲)
[編集] 米の歴史
地球上での米作(稲作)は、原産地の中国・インド・ミャンマーが接している山岳地帯の周辺での陸稲栽培から始まり、まず中国南部、東南アジアへと広まったとされている。その後中国中・北部、南アジアに、そして日本へと伝わった。
稲作は日本においては、縄文時代中期から行われ始めた。これはプラント・オパールや、炭化した籾や米、土器に残る痕跡などからわかる。 縄文時代中期に、中国から台湾、琉球を経て九州南部に伝わり、その後九州北部、中国・四国へと伝わったという説がある。 大々的に水稲栽培が行われ始めたのは、縄文時代晩期から弥生時代早期にかけてで、各地に水田の遺構が存在する。
米は、日本においては非常に特殊な意味を持ち、長らく税金として、またある地域の領主や、あるいは単に家の勢力を示す指標としても使われた。これは同じ米を主食とする日本以外の国においては殆ど例のないことである。
[編集] 関連項目
- 食物アレルギー
- 稲作
- 食糧管理法
- 米価審議会
- 米穀通帳
- 無洗米
- 米粉
- 減反
- 生産調整
- ヤミ米(闇米)
- 米騒動
- 1993年米騒動
- 黄変米
- 二期作・二毛作・単作
- 米寿
- 石 (単位)
- 俵 (単位)
- 粟
- ライスシャワー - 結婚式で、新郎新婦に米をシャワーのようにかけて祝福すること。
- 食味官能試験
- 産地品種銘柄
- くず米
[編集] 関連書
- 原田信男 『コメを選んだ日本の歴史 』 文春新書 文藝春秋 ISBN 4166605054
- 注釈
- ↑ 欧米においては一般的に主食という概念が希薄であり、日本における「米」と「イネ(稲)」という区別が無い。そのため、例えば英語圏ではriceという同一の単語で扱われることに注意が要る。