茶漬け
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
茶漬け(ちゃづけ)は、米飯に茶や近年ではだし汁もしくは白湯をかけたもの、またはそのような食べ物のこと。通常はお茶漬けと呼ばれる。なお、白湯をかけたものは一般に、湯漬けという。
この料理・もしくは食べ方は、お好みでご飯の上から茶(主に緑茶(煎茶)・ほうじ茶)やだし汁をかける。主に味の濃い食材を副菜として食をすすめる。 好みで梅干や漬物、鮭や海苔・佃煮・塩辛・山葵・たらこ(辛子明太子)などの具をのせる。
目次 |
[編集] 歴史と概要
日本でのお茶漬けの始まりは、江戸時代に商家に奉公していた使用人(奉公人)らがその仕事の合間に食事を極めて迅速に済ませる為に、とった食事法であるといわれている。当時の奉公人らは一日の殆どを労働に充てており、また食事時間も上役に管理されていたため、自然とこのような食事形態が発生した。奉公先の質素な食事の中で「漬け物」は、奉公人にとって自由に摂れるほぼ唯一の副菜(おかず)であり、巨大なサイズの大鉢などに山のように盛られることが多かった。そのことも、お茶漬という食形態の定着に大いに関係したと推測される。
このような事からお茶漬けは、下層階級の食事形態とされ支配階級以上の家庭では大っぴらには食べず、やむを得ない場合の軽食とされた。しかし、実利を尊ぶ庶民には、お茶漬けはその利便性から非常に重宝がられ普及した。
なお飯に汁をかけるという供食方法としては平安時代以前に遡ることは確実で、例えば『枕草子』や『源氏物語』にも湯漬けが登場する。さらに中世には芳飯(法飯とも書く)という料理が存在していた。これは白飯もしくは混ぜご飯に七種類の具(野菜類が多い)を乗せ、その上からだし汁を掛けた料理である。正式な本膳料理や精進料理にも供され、おかわりする事も可能な料理であった。現在でも長野県善光寺等で精進料理の一種として供されたり、沖縄には菜飯(セーファン)という芳飯に類似した料理が残されている。
1950年代には、画期的な商品であるインスタント食品の「お茶漬けの素」が考案され、市販されるようになった。これらは乾燥させた具(かやく)と茶(抹茶もしくはフリーズドライした緑茶)や出し汁の粉末を混ぜたもので、ご飯の上にかけて湯を注ぐとそのまま茶漬けになるという簡便な製品である。
1990年代以降、このインスタントお茶漬けでは、実験的にバラエティーに富んだ具材のものが開発・発売されている。「ラーメン茶漬け」、「中華茶漬け」、「ウーロン茶漬け」などである。元より茶漬けが気取らない喫食方法であるがために、それらも含めてコンビニエンスストアやスーパーマーケットの定番商品の一つになっている。
インスタント茶漬けに入っているあられであるが、この原型は京都のぶぶづけに求める事ができる。ぶぶづけでは、米粉から作られたあられや餅を揚げたおかきが加えられ、香ばしさを添えている。
[編集] 世代とお茶漬け
古くから食べられていたのは名の由来の通り熱い白湯、茶をかけたものである。その手軽さから軽便食としては元より、豪勢なご馳走を食べた後の後口をさっぱりさせるため、また山岳食としても長らく親しまれている。これらでは、冷えて固くなった飯を急いで食べるために、飯だけを詰めた弁当箱に茶を掛ける人も見られる。
しかし、若い世代には市販のインスタント茶漬けのみを小さい頃から食べ慣れている事から、ご飯にインスタント食品の同製品でなく味のしない「お茶」をかけるのを好まない者もいる。ただ1990年代以降に日本で発生した朝粥ブームもあって、粥の類似料理である茶漬けに凝る人も見られた。
[編集] 茶漬けにまつわる儀礼
お茶漬けは京都弁でぶぶづけとも呼ばれるが、京都で他人の家を訪問したときに「ぶぶづけでもいかがどすか」と勧められたり出されたりした場合、それはたいていの場合において暗に帰宅を勧めるものである。勧められた場合は丁重に断って帰宅するか、実際に出された場合には食べ終わったら退散することが好ましいとされている。この場合はお代わりを要求したりはしないのが無難であり、また常識とされる。
日本では一般に麺類などを食事ですする際は、音を立てても無作法とはされない。同じく汁物(味噌汁など)も、音を立てても問題とされない。しかし粥と茶漬けは、音を立ててすするとマナーに反する場合もあるので注意が必要である。汁と固形物の比率が、他の汁物料理と比較して、固形物の割合が高いためであろうと考えられる。これらでは椀を傾け、箸の先端で大きくあけた口の中に適量を流し込んで咀嚼、飲み下す。なお作法にうるさい向きでは、箸は余り汁に深く浸す事も無作法だと云うことである。
ただ、あまり気取らない食べ方である場合も多い。食品メーカーの永谷園は1990年代末より、お茶漬けを豪快に食べるコマーシャルを展開、美男の広告代理店社員や公募された一般の消費者等による「フーフー、ジュルジュル、ハフハフ、モシャモシャ」と音を強調したシリーズをテレビ放映、ラジオでも音のみの広告を展開した。同シリーズは、音が汚らしいという不評も聞かれはしたが、それ以上に視聴者に食欲をそそらせる事に成功したともいわれる。この辺りは賛否両論が激しく、意見が別れる所でもある。
[編集] 茶漬けにまつわる話題
- 明治の文豪、森鴎外は、饅頭茶漬けが好物だった。饅頭を四つにわけて、ご飯の上に載せ、煎茶を掛けて食べたという。
- 戦国時代の武将織田信長などは出陣の前に湯漬けを食べたという話がある。
- 新宿「すずや」の「とんかつ茶漬け」は特異な茶漬けの例として有名である。