餅
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餅(もち)とは、日常的に食べるうるち米に比べて粘り気のあるもち米を磨ぎ、水気を切り、蒸し布で包んだものを蒸篭(せいろ)等の蒸し器で蒸して、木製の杵と石や木を底の平たい擂り鉢状に穿って作られた臼の中で搗(つ)いておもな餅の種類に掲げる形状に成形したもの、または加工した食品。
「餅」は中国・東南アジアに数種みられ古くは主に小麦を粉にして固めた粉食のことを指していたが大麦、粟、モロコシなど他の食材の粉食のことも含めるようになった。中華料理由来の月餅や饅頭は小麦の「餅」が発達・改良されてきたものであり、麺類もその派生であるともいわれている。
その中で日本では米などの稲系のもので作った餅が簡便で作りやすく加工しやすいため種類が多い。日本の文化のハレ事に使われ正月など、行事には欠かせない食材である。
マッチ箱程度の大きさの切り餅1個がご飯茶碗1杯分のカロリーがあり、個包装された保存の利く袋詰め商品が簡単に入手できることから災害時の非常食としても使える。
市販品の切り餅の主な原材料は水稲・餅米粉であり、原材料を前者とした場合と後者では販売価格は大きく異なる。食味・歯ごたえを左右する腰の強さ・焼いた際の膨れ具合・煮た場合の溶け具合・伸ばした時の伸び具合や粘り具合等は後者が格段に劣る。廉価な切り餅には餅米粉に芋の澱粉等を加えたものもある。
2003年は例年に比べて米作が不作であった。それに伴なって原材料不足が生じ需要の多い年末年始のテレビコマーシャルが減少した。
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[編集] 餅つき(餅搗き)
一般に年末の12月29日は「苦を搗く」音韻から九日餅(くんちもち)と呼び、年の暮れの数日間のうちその日だけは餅を搗いたり購入を避ける風習がある一方で二九を音韻からフク(福)と読み29日を迎える地域もある。
20世紀に小型の電動(自動)餅つき機(右上の写真)が普及し、一般家庭で古典的餅つき風景(右下の写真)を見ることは少なくなった。電動餅つき機は大量の餅を作る精米店や餅菓子を販売する和菓子店、高齢化が進んだ農家等で人手が足りず人力による餅つきができなくなってきた場合により多く利用されている。杵と臼で搗く機構の機械は商業化された場合に多く、小型のものは蒸した米をメーカー独自の特殊形状のヘラで練って十数分で搗いた餅と同じ状態になる。ヘラで練る方式の機械で作った餅は、杵搗き餅と比べて細かい気泡が多く含まれ、雑煮に入れた場合に柔らかくなりすぎる、伸ばした時の表面の肌目の細かさなどといった食味の違いがあるが、一般には杵と臼で搗く餅を比較する機会が少ない理由から同等の食味を持つものとして扱われている。
[編集] 餅の搗きかた
- 餅搗きをする前に杵の頭が欠けたり木片が餅に入るのを防ぐために水を張った桶の中に杵の頭を漬けて水分を含ませておく。木臼の場合はよく洗い、臼に水を張って水分を含ませておく。枯れた状態のまま杵で搗くと臼が割れる場合がある。
- もち米は水洗いし、6~8時間程度水に浸し、ザルに開けて水切をする。
- 蒸し器の蒸篭に清潔なサラシやサラシより粗めの蒸し布を敷き、水切りしたもち米を開けて蒸し布でくるんだ後、蒸す。炊けた状態は蟹の穴と呼ばれる孔が表面に見えるか、箸を挿してもち米が付着しなければ良いとされるが、米の芯が残っていない赤飯程度の固さに炊けていれば良い。
蒸し器がない場合は炊飯器のもち米の指標を選択すれば足りる。 - 炊けたもち米は蒸し布に包んだまま臼の中に開ける。この時の米の状態は祝いごとの時に食べる赤飯と同じか若干固い程度である。
- 臼に開けたもち米は臼の外周に沿って杵の柄を腰に当てるか沿わせて体重をかけ、もち米を臼に圧し付ける。適宜、ヘラや杓文字(しゃもじ)を用いて裏返し、満遍なく手早く粘りを出すようにする。
- もち米全体がヘラや杓文字で持ち上げたときに一体になる程度に粘りが出始めたら搗き始めの目安とする。最低限度の状態としては杵で搗いたときに蒸した米が飛散しない程度である。この時の表面は米の形が識別できるものと餅状になったものが混ざった状態である。
- 日常的に目にする餅つきのように杵で搗き始めるが、粘りが増すごとに杵と餅がくっつくので手水(てみず)する。手水とはあらかじめ桶に水を入れておき、手を水で濡らし餅の表面に水分を与えることである。なお、蒸して数分しか経過していないので表面は炊きたてのご飯と同じに相当に熱いので、餅の表面を濡れた手のひらで叩く程度で良い。
- 手水が多いと餅を搗いている最中は柔らかいが、後で延ばしたり成形するときに固くなりやすく、先々カビが生えやすくなる。
- 搗き終わった餅は餅取り粉をまぶした板の上に置き、好みの形状に成形する。
- 餅つきが終わった後の杵と臼はタワシ等で表面の餅を必ず取り去る。
cf.杵や臼の大きさは尺貫法の寸で直径を指す。
[編集] おもな餅の種類
- のしもち(延し餅・伸し餅)、切り餅
- 搗いた餅を1cm内外の厚さに手で延ばし板状にした餅。包丁で好みの大きさに切断して食べる。切り餅と呼ばれるのは延し餅を切ったもの。
- なまこ餅
- 搗いた餅を海に棲むナマコ状の半楕円形に伸ばした餅。包丁等で適当な厚さに切って食べる。焼いたり、油で揚げて食べる。
- 海苔なまこ餅
- 餅に青海苔を加えて搗き、なまこ餅にしたもの。
- 豆なまこ餅
- 餅に黒豆や大豆を加えて搗き、なまこ餅にしたもの。
- 丸餅
- 搗いた餅を丸く成形したもの。大きさや厚みによってそのまま食べたり板状に切断して食べる。
- 鏡餅
- お供えとして大小の丸餅を二段に置いたもの。正月の間は食べず鏡開きのときに固くなったものを包丁を用いず、木槌等で砕き割る。適当な大きさになったものは焼いたり煮て食べる。水に漬けてから蒸し、搗き直して食べる場合もある。
- 粽
- ササの葉で巻かれた餅。
- 五平餅(五兵衛餅、御幣餅、吾平餅)
- うるち米の餅を板に付け火であぶり、味噌が塗られている餅。
- あぶり餅
- 竹串にさして炭火であぶった餅。
- 鳥の子餅
- 鳥の子供の姿に似せてずん胴のひょうたん型に成形した餅。子供の一生に擬えて一升餅で作る。餅を二分して食紅(しょくべに)で赤く着色したものを紅白餅ととして祝う風習があるが、一生を二分するのは不遜として紅白に分けない場合もある。
- 磯辺餅(いそべもち)
- 切り餅を焼き、熱いうちに醤油を付けて海苔を巻いたもの。
- からみ餅
- 大根おろしにからませて食べる。
- きなこ餅
- 焼いた餅または煮た餅に大豆を臼で引いて粉状にしたきな粉に砂糖を若干加えたものをまぶして(混ぜて)食べる。
- ずんだ餅
- 茹でた枝豆を擂り鉢等を用いて潰したものに搦めて食べる。
- 揚げ餅
- 餅を 1cm 内外のサイコロ状に切断、または前記鏡餅で砕いた破片等を油で揚げた餅。揚げた際に醤油・薬味などをまぶして食べる。
- 草餅
- ヨモギを混ぜてついた緑色の餅(ヨモギ餅)。
- 栃餅
- 栃の実を混ぜてついた茶色の餅。
- 菱餅
- 雛祭りの際に雛壇に飾る餅。
- あんころ餅・ぼたもち
- 小豆でつつんだ餅。
- あん餅
- 中にあんこが入った餅。
- 花びら餅
- 牛蒡を餅でつつんだもの。
- 月見団子
- ピンポン玉程度の大きさの丸餅をピラミッド状の三角錐に積み、月に供えてから食べる。
- 串団子
[編集] おもな餅料理
- 焼き餅
- 雑煮
- 汁粉・おしるこ
- 小豆を煮た汁の中に餅を入れたもの。前記の鏡開きのときに食べる。
- 大福餅・餡餅(あん餅)
- 餅の中に具として餡を入れて包んだもの。餅を搗く時に豆を入れたものは豆大福餅と呼ぶ。餅が柔らかいうちはそのまま、固くなった場合は焼いたり油で揚げて食べる。
- 啜り餅(すすりもち)
- 水気を多く入れて柔らかく搗いた餅を水を張った盥(たらい)等に入れて、手で細長く紐状にしてすすりながら食べるが、慣れないと危険。
- 小袖餅
- 宇土餅
[編集] その他
- 木の実などの灰汁(あく)を抜くために数日間から一週間程度水に晒した後、粉状にして蒸して搗いたものの総称。栃餅(とちもち)など。
- 煎餅(せんべい、いりもち)。餅を薄く切断したものを天日で乾燥させ、醤油等を塗って焼いたもの。
- 砂糖を加えて搗いた餅は寒中でもすっかり硬くはならないので、昔は猟師や登山者の食料として重宝された。
- 伝統的な臼と杵を使用した餅つきを表す擬音はペッタン、あるいはペッタンコ。
- 飲み込む力の低下した高齢者がのどに詰まらせる事故が高齢化社会の進行とともに増えている。正月三が日においては必ずこれを原因とした救急車の出動があるといわれている。