Privacy Policy Cookie Policy Terms and Conditions 国鉄4110形蒸気機関車 - Wikipedia

国鉄4110形蒸気機関車

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

国鉄4110形蒸気機関車(こくてつ4110かたじょうききかんしゃ)とは、日本国有鉄道の前身である鉄道院が製作した急勾配路線用のタンク式蒸気機関車である。動輪5軸を有する強力型機関車であり、奥羽本線等の主要幹線の急勾配区間で運用された。

本項では、4110形の設計の母体となった4100形蒸気機関車についても記述する。

目次

[編集] 4100形蒸気機関車

[編集] 誕生の経緯

奥羽本線福島米沢間は1899年(明治32年)に開業したが、そのうち庭坂-米沢間の板谷峠越え区間は、急峻な1000分の33勾配が連続する区間であった。ラックレールを用いるアプト式軌道の信越本線碓氷峠を除けば、通常鉄道における最急レベルの勾配である。

1910年頃、この区間の列車は、1905年(明治38年)にアメリカのボールドウィン社から輸入したD型蒸気機関車9200形と、1898年(明治31年)から1905年にかけて各国から導入されたC型タンク機関車である2120形の重連に牽引されていた。しかしこの組み合わせでも150トンを牽引するのがやっとで、輸送需要に見合ったより高性能の蒸気機関車が求められていた。

この要望に応え、1912年(明治45年)にドイツマッファイ社から輸入された勾配線蒸気機関車が4100形である。

[編集] 構造・性能

4100形の最大の特徴は、軸配置が0-10-0、すなわち動輪を5軸持ち、従輪をもたないE型機であるという事である。従輪をもたないために、車体重量全てを牽引のための粘着力として有効に活用する事ができた。

蒸気機関車は各車軸の横動性に制限があるため、動輪の数が増えるにつれ、曲線の通過が困難になるという問題がある。このため4100では、3番目の動輪をフランジレスとし、更に1番目と5番目の動輪の横動を可能とする「ゲルスドロフ式機構」を採用する事でこの問題を解決した。

台枠には圧延鋼板からの切り抜きで作られた「棒台枠」が用いられたほか、効率の良い過熱式ボイラーが採用され、出力の割には消費炭水量も少ないなど、構造上の面でも画期的な機関車であった。

4100形は4両(製番3338~3341・4100~4103)が輸入された。1913年(大正2年)に日本での組み立てが完了し、板谷峠で試運転が行われた。カタログ上の出力は動輪周出力で750馬力、シリンダー牽引力は15.4tf(重量トン)で、特に牽引力は当時の日本の機関車としては最強の部類に属し、実際の試験でも1000分の33の勾配上において、単機で120トンから150トンの列車牽引を行うという、当時としては驚異的な性能を示した。

[編集] 主要諸元

  • 全長:11483mm
  • 全高:3787mm
  • 軸配置:0-10-0(E)
  • 動輪直径:1245mm
  • 弁装置:ワルシャート式
  • シリンダー(直径×行程):533mm×610mm
  • ボイラー圧力:12.0kg/cm²
  • 火格子面積:1.86m²
  • 全伝熱面積:132.4m²
    • 過熱伝熱面積:27.3m²
    • 全蒸発伝熱面積:105.1m²
      • 煙管蒸発伝熱面積:92.2m²
      • 火室蒸発伝熱面積:12.9m²
  • ボイラー水容量:5.1m³
  • 大煙管(直径×長サ×数):127mm×3200mm×22本
  • 小煙管(直径×長サ×数):45mm×3200mm×164本
  • 機関車運転整備重量:62.06t
  • 機関車空車重量:48.84t
  • 機関車動輪上重量(運転整備時):62.06t
  • 機関車動輪軸重(第1動輪上):13.21t
  • 水タンク容量:6.3m³
  • 燃料積載量:1.78t

[編集] 経歴

4100形は奥羽本線の庭坂機関庫に配備され、後に登場する4110形とともに運用された。1917年(大正6年)7月には、4110形の増備により4101~4103が北海道に転属し、根室本線狩勝峠で試用されたが、1919年(大正8年)10月に庭坂に戻っている。これは、運転速度が極端に遅いため、他形式との併用が困難であったためと思われる。

その後、羽越本線上越線などの開業や、不景気の影響により、板谷峠を通過する貨物が減少したことにより、1920年代後半から休車となり、さらに鹿児島本線で運用されていた4110形が、輸送量の減少に伴い奥羽本線に転属してきたため、1935年(昭和10年)に全車が廃車となった。

[編集] 4110形蒸気機関車

4110形は、上記の4100形の機構を元に、日本で設計を改良して国産された機関車である。基本的な機構面では4100形を踏襲している。

[編集] 製造

1914年(大正3年)に30両(4110~4139)、1917年(大正6年)に9両(4140~4138)が、それぞれ川崎造船所により製造された。1917年製の9両は、歩み板を第2動輪上部で切り下げ、それにともなって蒸気管覆いの形状が丸みのあるものに変更されており、若干印象が異なる。

[編集] 構造

4100形は動輪の間に幅の狭い火室を設けた設計であった。これは欧州で作られた蒸気機関車の設計としては標準的なものであったが、線路幅が狭く、石炭の質がやや低い日本の場合、火力の面でやや制約が存在した。

動輪が大きい旅客用機関車の場合であれば、従輪の上に火室を設ける手法がとられるが、貨物用機関車や急勾配用機関車は動輪がさほど大きくないために、ボイラー中心高を上げて動輪上に火室を設ける「広火室」設計を採り得る。これは同時期に開発された貨物用の9600形蒸気機関車で採用された形態で、4110形も同様の手法を採用した。

これにより火床面積を広げることが可能になったが、ボイラー中心高を上げることは、車両の重心を上げる事にもつながる。同様の設計を行った9600形は高速運転時の安定の悪さが問題になったが、4110形では、従来ボイラー脇に設けていた水槽の一部をボイラー下部に設ける事で重心の上昇を防止した。なお、棒台枠の製造は当時の日本においては困難で、4110形では板台枠を使用している。

火室を広げた効果により、4110形は4100形を上回る出力を発揮した。シリンダー出力は15.4tfと4100と同じであるが、動輪周上出力は890馬力で、これは同時期に製作された9600形蒸気機関車を上回る(33パーミル勾配における牽引量は180トン)。

[編集] 主要諸元

  • 全長:11507mm
  • 全高:3787mm
  • 軸配置:0-10-0(E)
  • 動輪直径:1245mm
  • 弁装置:ワルシャート式
  • シリンダー(直径×行程):533mm×610mm
  • ボイラー圧力:12.0kg/cm²
  • 火格子面積:2.23m²
  • 全伝熱面積:140.5m²
    • 過熱伝熱面積:32.8m²
    • 全蒸発伝熱面積:107.7m²
      • 煙管蒸発伝熱面積:98.8m²
      • 火室蒸発伝熱面積:8.9m²
  • ボイラー水容量:4.6m³
  • 大煙管(直径×長サ×数):127mm×3962mm×21本
  • 小煙管(直径×長サ×数):45mm×3962mm×136本
  • 機関車運転整備重量:65.27t
  • 機関車空車重量:52.22t
  • 機関車動輪上重量(運転整備時):65.27t
  • 機関車動輪軸重(第3動輪上):13.38t
  • 水タンク容量:6.5m³
  • 燃料積載量:1.78t

[編集] 運用

1914年製の4110形は、奥羽本線用として4116~4133の18両が庭坂機関庫に配属された他、鹿児島本線(現・肥薩線)の峠越え区間である人吉吉松間専用として、4110~4115,4134~4139の12両が人吉機関庫に配属された。1917年製については、4140~4146は奥羽線、4147~4149が鹿児島線の配置となった。

急勾配区間での性能は良好であったが、特殊な構造のため運用線区は限られており、上記以外の区間で使用されることはあまりなかった。奥羽本線は1919年(大正8年)の電化調査線区の選定の際、優先的な電化の必要性が高い路線とされていたが、実際の電化は戦後1949年の事であった。このずれ込みの理由として、4110形の高性能ぶりが引き合いにだされることがよくある。

4110形は上記の両区間で長らく他形式の進出を許さずに活動を続けたが、1927年(昭和2年)には川内経由の海岸線開通で人吉-吉松間が鹿児島本線から外れ、支線の肥薩線に格下げされたことに伴い、輸送需要が減少した。これにより、人吉機関区所属4110形の一部(4138,4139,4148)が休車となり、4147が広島に転属した。広島への転属は、操車場でのハンプ押上げ用とも、瀬野八での補助機関車用ともいわれるが、結局どちらにも適さず、そのまま休車となってしまった。

その後、1930年代以降は老朽化が目立つようになったが、代替機関車への置き換えは戦後にまでずれ込んだ。1933年(昭和8年)6月末現在、肥薩線用は人吉の4110~4115,4134~4137の10両が使用中で、前述の3両が第2種休車。奥羽線用には庭坂の4126,4128,4140~4146および米沢の4119,4122,4124の12両が使用中で、4116,4118,4120,4121,4127は第2種休車であった。

1936年(昭和11年)5月には、休車中であった4116,4118,4120,4121,4127,4138,4139,4147,4148の9両が廃車となり、1938年9月には4125,4130,4131,4133の4両が廃車となった。この際、6両は次節のとおり民間に払下げられ、残りは解体された。

その後、1941年(昭和16年)3月には4115、1943年(昭和18年)6月に4134が奥羽本線に転用されたが、肥薩線では1945年(昭和20年)にD51形重連への置き換えが行われ、同年11月に4113,4137、1946年(昭和21年)9月に4116,4136を奥羽本線に転属させた。しかし、4116,4136は状態が悪く、奥羽本線では使用されることなく同様に休車となっていた4146および肥薩線の余剰車4両とともに1947年(昭和22年)6月に廃車された。

奥羽本線ではE10形の登場によって1948年(昭和23年)5月に4115,4122,4137が廃車。板谷峠電化によって、1949年(昭和24年)9月には4113,4117,4119,4123,4124,4126,4128,4129,4132,4134が、1950年(昭和25年)1月に4140~4145が廃車となり国鉄から姿を消した。4145は岡山に転属となり、そこで廃車となっている。

[編集] 譲渡

一部は松尾鉱業鉄道美唄鉄道に譲渡され、松尾鉱業鉄道では1951年の電化まで、また美唄鉄道では1971年の廃線まで使用された。他に、これに先立つ1938年には、4両が標準軌に改軌の上で朝鮮半島鴨緑江水力発電に移っているが、その後の行方は定かではない。

  • 4115(1941年) - 松尾鉱業鉄道4119(1951年廃車)
  • 4116(1936年) - 松尾鉱業鉄道4116(1951年廃車)
  • 4122(1948年) - 美唄鉄道4122(1971年廃車)
  • 4125,4130,4131,4133(1938年) - 平北鉄道1~4(鴨緑江水力発電。標準軌に改軌)
  • 4137(1948年) - 美唄鉄道4137→三菱鉱業茶志内炭鉱専用鉄道(1964年譲受。1967年廃車)
  • 4142(1949年) - 美唄鉄道4142→北海道炭礦汽船真谷地炭鉱専用鉄道5056(1967年譲受)
  • 4144(1949年) - 美唄鉄道4144(1967年廃車)
  • 4148(1938年) - 松尾鉱業鉄道4117(1951年廃車)
  • 番号不明(時期不明。戦前) - 端豊鉄道(朝鮮)

[編集] 同形機

[編集] 台湾総督府鉄道部

台湾総督府鉄道の西海岸の勾配区間用(形式はE300形)として1915年に6両(E300~E305)、1916年に5両(E306~E310)の計11両が汽車製造会社により製造されている。太平洋戦争後は台湾鉄路管理局に引き継がれ、EK900形EK901~EK911)となっている。

[編集] 三菱鉱業美唄鉄道

美唄鉄道向けに、1920年に2両(2,3)、1926年に1両(4)が三菱造船所により製造されている。2は、三菱造船所製蒸気機関車の第1号である。こちらは、ボイラーの容量が国鉄のものよりやや大きく、蒸発伝熱面積は118.26m²、過熱伝熱面積は33.72m²で、大煙管は1本増の22本となっている。運転整備重量は65.29t、水槽容量は7.29m³で機関車自体もやや大型となっている。1926年製の4は、運転整備重量67.42t、水槽容量6.95m³であった。

その後、国鉄払下げの4122,4137,4142,4144を加えて7両体制となったが、1969年までに3,4137,4142,4144が廃車となり、4137と4142はそれぞれ三菱鉱業茶志内炭礦専用鉄道、北炭真谷地炭鉱専用鉄道に転じた。4122は1971年に廃車。2,4が1972年の美唄鉄道廃止まで使用された。

[編集] 保存機

美唄鉄道の2が、美唄市東明 旧美唄鉄道東明駅跡に保存されているほか、同社の4も江別市内の個人が保存している(非公開)。

4122も、道内のファンにより福島市での保存が働きかけられたが、こちらは不調に終わった。同車も4と同じ個人の所有となっている。

[編集] 参考:その他の動輪5軸の機関車

[編集] 国内の動輪5軸の機関車

国鉄の動輪5軸の機関車としては、4100形、4110形のほかに、E10形がある。

[編集] 海外の動輪5軸の機関車

動輪5軸の機関車は、高い牽引力を必要とする急勾配線区や重貨物列車の牽引に適し、アメリカやドイツ、旧ソ連中国などで大量に製作された。

蒸気機関車発祥の地、イギリスではこの種の機関車は稀であったが、ユニークな機関車として、1902年にグレートイースタン鉄道で製作された3シリンダーの0-10-0形機を挙げる事ができる。通常2-10-0に与えられる「デカポッド」の呼称を与えられたこの機関車は地下鉄電車に対抗するための高加速の旅客列車を運行する目的で製作されたもので、満載の通勤客を乗車させた場合と同じ重さの客車を牽引して、時速48キロまで30秒という高加速性能を発揮した。しかし、大型の蒸気機関車を導入するための軌道強化などのコストは電化するのと同様に高額で、この機関車は実用されずに終わっている。

日本国有鉄道鉄道院・鉄道省)の制式蒸気機関車
タンク機関車
9601000II・1070・1150B10B202700II・2900・3500C10C11C124100・4110E10
テンダー機関車
6700・67506760B50
86208700880088508900C50C51C52C53C54C55C56C57C58C59C60C61C62C63(計画のみ)
90209550・958096009750・9800・9850D50D51D52D60D61D62
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