水力発電
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水力発電(すいりょくはつでん)は、水が落下するときのエネルギーで発電を行う方式のことである。
現在最も一般的なのは発電用水車を水の力によって回転させることで発電を行う。 発電用水車と発電機を組み合わせたものを水車発電機(すいしゃはつでんき)という。
落差さえあれば発電が可能であり、高いところにあるダムやため池、タンクなどから水道用水や農業用水などを供給するときに、途中に水車発電機を設置すれば発電できる。 適応可能な範囲が非常に広い発電方法である。
水力発電と同様に再生可能エネルギーを利用する太陽光発電や風力発電に比べて単位出力あたりのコストが非常に安く、また発電機出力の安定性や負荷変動に対する追従性では、数ある再生可能エネルギーの中で王者とも言われる。
また世界的に見ると、特に開発途上国において大量の未開発水力地点があるといわれ、この未開発水力の合計は年間発電量として17兆キロワット時であり、世界の全電力消費量が12兆キロワット時程度であることを考えると、これは莫大な資源量である。
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[編集] 歴史
水の力を動力として利用するという考えは、古代より続くものである。 流れる水の力を水車によって抽出し、得た動力で製粉・紡績などを行っていた。
電気をエネルギーとして利用され始めたころ、水車に発電機を結合した水力発電は発電の主力だった。 この時代は水主火従の時代(すいしゅかじゅうのじだい)と呼ばれている。
やがて産業の発展により電力需要が伸びてくると、多くの大容量火力発電所が建設されるようになる。 いつしか火力発電が台頭し、火主水従の時代(かしゅすいじゅうのじだい)となった。 揚水発電所の建設も始まったが、この当時は豊水期に貯水し、渇水期はその水を繰り返し発電に利用することで年間を通じて発電を行うようにするという、年間調整が主だった役割であった。
その後、原子力発電所の運用が始まったとき、昼間と夜間との電力需要の格差拡大が問題となっていた。 原子力発電所は高効率で運用させる方針から、需要にあわせてその出力を変動させるということはせず、一定の出力で運転している。 従って夜間の軽負荷時は原子力以外の発電所(主に火力発電所)の出力を押さえる運転は効率の面で好ましいものではない。 そこで、夜間の余剰電力は揚水発電所において揚水運転として消化するという考えが持ち上がった。 揚水発電所はいつしか夜間に揚水・貯水し、昼間のピークに備えるという目的へと移っていき、それに特化するように大規模な純揚水発電所が建設されるようになった。
[編集] 理論
[編集] 水のエネルギー
流水は位置エネルギー・運動エネルギー・圧力エネルギーを持っている。流水の持つこれらのエネルギーを水力(すいりょく)という。
流水を作用させる点を基準点とすると、高さ h (m) にある質量 m (kg) の水は、mgh (J) の位置エネルギーを有している。
質量 m (kg) 、密度 ρ (kg/m³) の水が自由落下するとき、ある一点における流水の速度(流速)を v (m/s)、圧力(水圧)を p (Pa) とすると、この流水のエネルギーは以下の三形態によって表すことができる。
- 位置エネルギー:
[J]
- 運動エネルギー:
[J]
- 圧力エネルギー:
[J]
水管路でのエネルギー消費を考えないものとすれば、流路のどの点においても流水が持つエネルギーの総和はエネルギー保存の法則により等しい。これが、ベルヌーイの定理である。それぞれを mg (N) で除したものを水頭(すいとう)という。
[m]・・・ 位置水頭(いちすいとう)
[m]・・・ 速度水頭(そくどすいとう)
[m]・・・ 圧力水頭(あつりょくすいとう)
水頭はヘッド (head) ともいい、高さの単位によって表す。
[編集] 理論水力
実際の水路には流水と壁面との間の摩擦によりエネルギーの消費(損失)がある。したがって、高さ h (m) にある質量 m (kg) の水が持つエネルギーのうち、損失分を減じたものが水車に作用する有効なエネルギーとなる。
損失を水頭によって示したものが損失水頭(そんしつすいとう)である。水頭の有効分である有効落差(ゆうこうらくさ)を H (m)、損失水頭を hl (m)、総落差(そうらくさ) Ha (m) には以下の関係がある。
- H = Ha - hl
断面積 A (m²) の水管路を、流速 v [m/s] で水が流れたとき、その流量 Q [m³/s] は次式で表せる。
- Q = v・A
1 (m³) の重量が 1,000 (kg) の水が水車に作用する理論上のエネルギー、すなわち理論水力(りろんすいりょく) P0 は、流量 Q (m³/s) のとき、
- P = mgh = 1000 × Q × 9.8 × H = 9800 Q H [J]
- = 9800 Q H [W]
- = 9.8 Q H [kW]
となる。P0 のエネルギーは水車に作用し、水車出力 Pw が取り出され、最終的には発電機出力電力 P となる。これは水車効率 ηw と、発電機効率 ηg を乗じたものである。
- P = 9.8 Q H ηw ηg [kW]
- = 9.8 Q H η [kW]
水車効率と発電機効率の積 η を、総合効率(そうごうこうりつ)という。
水力発電所の出力には、以下の三種類がある。
- 最大出力(さいだいしゅつりょく)
- 発電所で発生できる電力の最大値。この値は、ある程度の時間連続して発生できるものでなければならない。
- 常時出力(じょうじしゅつりょく)
- (流れ込み式発電所)一年間のうち355日間以上発生することができるとされる、発電所出力の基準値。渇水期の取水量を基準として計算される。
- (貯水池式発電所)一年間のうち365日間以上発生することができるとされる、発電所出力の基準値。
- 常時尖頭出力(じょうじせんとうしゅつりょく)
- 一年間のうち355日間以上で毎日、少なくとも4時間は発生することができるとされる発電所出力。
[編集] 水力発電の構成
[編集] 取水口
取水口(しゅすいこう)は、水力発電に利用する水を得る(取水する)ため、河川や池、湖沼などに設けた設備である。 より効率よく取水するよう、えん堤(堰堤)やダムを設ける場合が多い。 また、取水口には上流より漂着したごみを取り除く、くし状のスクリーンと、スクリーンにたまったごみをかき上げる除塵機(じょじんき)が備えられている。
許可を得た以上の取水は違反であるため、取水口では取水量を監視する必要がある。
[編集] 沈砂池
沈砂池(ちんさち)は、水から土砂を取り除く設備である。 取水口から得た水は一時的に沈砂池に蓄えられ、土砂を沈殿させる。 水への土砂混入は、水車の摩耗の原因となる。
ダム式・ダム水路式水力発電の場合は、ダムが沈砂池を兼用する。
[編集] 水路
水路(すいろ)は、水の通り道である。 水を発電所まで導く設備で、導水路(どうすいろ)ともいう。 水路をつなげるため、時としてトンネルや橋梁も利用される。
内壁は摩擦による流速低下を最小限に抑えるため、滑らかに仕上げられる。 しかし、水棲生物の付着などにより出力の低下がみられるような発電所では、水路の清掃が定期的に実施される。
[編集] 水槽
水槽(すいそう)は、発電所の出力変動による水の流量変化を吸収する設備である。 発電所より急斜面を登った上部にあり、上部水槽(じょうぶすいそう)ともいう。 水路を流れてきた水は水槽で一時的に蓄えられる。
水槽まで至る水路が圧力水路であった場合には、発電所の急激な出力変動によって発生した水撃作用を吸収するため、より深さに余裕をもたせた水槽が用いられる。 これをサージタンク、もしくは調圧水槽(ちょうあつすいそう)という。 発電所の上部にポットのような寸胴の塔があったとすれば、それはサージタンクである。
なお、ダム式水力発電の場合は、ダムが水槽・サージタンクを兼用する。
[編集] 水圧管
水圧管(すいあつかん)は、水槽から発電所までの水の通り道となる管路である。 水槽にためられた水は、これより発電所まで至る急斜面を水圧鉄管によって導かれる。 大変高い水圧が加わるため、鋼鉄など頑健な素材を用い、堅牢な構造とする。
発電所の急激な出力変動によって、水圧鉄管はダメージを受ける。 それを吸収し緩和する設備として、サージタンクや制圧機がある。 水撃作用の大きさによっては最悪の場合、水圧鉄管は破裂、もしくはつぶれてしまう。
水圧鉄管の本数は発電所にある水車発電機の台数に等しい場合もあるが、発電所で水圧鉄管を分岐させ、各水車発電機に接続する場合もあるので一概には言えない。
[編集] 水力発電所
水力発電所(すいりょくはつでんしょ)は、狭義では水車発電機、調速機、補機、制御装置、保護装置、変電設備などによって構成された建築物(建屋)を指す。 また、この中に水をくみ上げる装置を設けた水力発電所は、揚水発電所(ようすいはつでんしょ)と呼ばれる。 現在、水力発電所の多くは無人であり、遠方の制御所より遠隔操作されている。
水力発電所は建屋の内部に水車発電機やその補機類、制御装置などを収めた屋内式(おくないしき)が一般的である。 水車発電機の分解・組み立て作業用として建屋天井にクレーンが設けられる。
一部では水車発電機を屋外に設置した屋外式(おくがいしき)や、天井を着脱可能なふた(天蓋)とした簡易な建物の内部に収めた半屋外式(はんおくがいしき)がある。 いずれも屋外に門形クレーンが設置される。 なお、屋内式であっても変電設備は屋外や屋上に設けられることが多い。
以上の発電所は地上に建設された地上式発電所であるが、これらを地下空間に収めた地下式発電所もある。 地下式発電所は堅固な地盤を必要とすることから、建設にあたっては建設予定地の入念な地質調査が必要である。 必然的に建設費が高額なものとなるが、落差を有効利用するための機器配置に制約が少ないことや、発電所の規模が大きなものとなっても豊かな自然景観を損ねることがないなど利点は大きい。
水力発電所の規模は水車発電機の台数のほか、設置方法によっても左右される。 軸を水平に寝かせた横軸形(よこじくがた)水車発電機は接地面積を広く占有するものの、建屋を一階平屋建てとすることができる。 小容量のものに適用される。 また、軸を垂直に立てた立軸形(たてじくがた)水車発電機は構造が複雑で建屋の階層も多くなるが、接地面積が少なくて済むことと落差を有効利用できるという利点がある。
立軸形は水車発電機を支持する基礎の設計によって多床式と単床式とに分類される。 前者は発電機がある発電機室と、その一階層下に水車室を設けるもの。 二階建て構造をとることが多く、その場合は特に二床式と呼ばれる。 後者は発電機室の床を省略し、発電機部分を水車室に立てたバレルと呼ばれる円筒状の基礎によって支持するもので、バレル式とも呼ばれる。 大容量機では大荷重を支持するためバレル式が主に用いられる。 なお、バレル式でありながらも発電機室と水車室とで階層を分けた、複合的なものも存在する。
[編集] 放水口
放水口(ほうすいこう)は、水車の回転に利用された水を排出する設備である。 その後は河川に放流されるか、下流に位置する他の水力発電所で利用される。
なお、取水する河川と放流する河川とは、必ずしも一致するわけではない。
[編集] 水力発電の分類
[編集] 構成上の分類
ダム式水力発電の例: |
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- 水路式
- 発電所から見て上流に位置する河川・湖沼などより取水し、水路によって発電所まで導くもの。多くは流れ込み式で、落差の変動はほとんどない。
- ダム式
- 河川内にダムを設けて貯水し、その水の落差を利用して発電するもの。発電所はダム付近に建設される。ダムの水位変化によって、落差変動が大きくなる。
- ダム水路式
- ダムと圧力水路により落差をつくるもの。ダムの水量が少ないときでもある程度の落差が確保できる。
[編集] 運用上の分類
- 流れ込み式
- 河川の流量をそのまま利用するもの。発電所の出力は河川流量に比例し、任意での出力調整は難しい。総電力需要のうちベース部分をまかなう。建設費用は安価。
- 調整池式
- 日間・週間の負荷変動に対応するため、軽負荷時に出力を落として貯水し、重負荷時の発電運転に備えるもの。総電力需要のうちピーク部分をまかなう。
- 貯水池式
- 豊水期に貯水し、渇水期でも安定した発電ができるだけの水量を確保するもの。調整池式が日間・週間の負荷変動であるのに対し、季節間の調整を行う。総電力需要のうちピーク部分をまかなう。
- 逆調整池式
- 調整池式・貯水池式の下流流量変動を防止するための逆調整池の落差を利用し、一定の出力で運転するもの。
- 揚水発電
- 上下二つの調整池を持つもので、軽負荷に下部調整池から上部調整池へ水をくみ上げておき、調整池式や貯水池式でも足りなくなる重負荷時に発電するものである。総電力需要のうちピーク部分をまかなう。
- 揚水発電には貯水池式水力発電をさらなる重負荷へ対応させるために揚水発電機を設置した混合揚水式と、上池を山の頂上近くなどに置いた自然流入量がほとんど無い純揚水発電がある。
- 揚水発電に対して、流れ込み式・調整池式・貯水池式・逆調整池式は普通水力発電あるいは自流水力発電という。
- 揚水発電のエネルギーの源は、揚水をするための電力を供給した原子力や大規模火力のものであり、普通水力の源は雨や雪を降らせる元になる海水を蒸発させた太陽の力だという違いがある。つまり普通水力発電は再生可能エネルギーであるが、揚水発電は一種の電池である。
[編集] 出力規模による分類
- 大水力: 出力 100MW 以上
- 中水力: 出力 10~100MW
- 小水力: 出力 1~10MW
- ミニ水力: 出力 100kW~1MW
- マイクロ水力: 100kW 以下
[編集] 水力発電のコスト問題
現在の水力発電のコスト算出方法は殆どの電力会社で、揚水発電と普通水力を合わせて計算がされている模様である。
普通水力は河川の自然の流れを使うために燃料は全く不要である上、揚水発電は夜間、発電量のコントロールが難しい他の原子力・火力などで発電した従来捨てられていた電力を貯蔵するバッテリーとしての役割も担う。
その為に、普通水力は単に安いコストの電力であるのに対して、揚水発電は原子力や火力の運転コストを下げる役割もあるので、水力発電のコストを論じる際には注意が必要である。