フリーター
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フリーターとは、15歳~概ね34歳までの若年者の中で、アルバイトやパートタイマーなどの就業形態で働き、生計を立てている者のこと。ただ、最近では中高年齢層が増える等して高齢化しており、年齢での区分が形骸化している。
尚正式には「フリーランス・アルバイター」と称すが本項では一般的な俗称である「フリーター」で記述する(この他にも「フリー・アルバイター」と言う呼称もある)。
目次 |
[編集] 語源
1980年代後半のバブル経済の時期に、歌手や俳優になると言う夢を持ちながら、日々の生活の糧はアルバイトで賄うと言う若者に対し、プータローと蔑視するのではなく、人生を真剣に考える若者として応援したいと言う意味からフリーターという言葉が生まれた。語源は
- 英語のフリー free (時間の自由なという意味、或いはフリーランスの略)
- ドイツ語で労働を意味し日本語では非正規雇用を意味するアルバイト Arbeit
- 「~する人」という意味の英語-er(ドイツ語でも同様に-erだが、1.でドイツ語のフライ frei でなく英語のフリーを使った事を考えると英語と取るのが自然)
の3つをつなげた和製英語風の造語(「フリーランス・アルバイター」の略称)である。
1987年に「フロムエー」(リクルート社のアルバイト情報誌)の編集長、道下裕史が生み出した言葉で、同社によって制作された映画「フリーター」が話題を呼んだ事から、その名称が定着した。尚現在では広辞苑にも記載される程に一般化している。
[編集] 変遷
バブル経済初期の1980年代後半、建設業界の慢性的な求人難や、深夜営業を行う店舗の拡大等により、アルバイトの需要が高まっていた。そうした中、リクルート社が提唱したフリーターと言う就業形態が、企業に隷属しない新しい働き方として注目を集める様になる。当初は、若者が仕事を安易に捉えるのではないかと言う否定的な意見もあったが、現実に人材の供給が不足していた事や、当時、正社員の勤務は週6日が基本であり、有給休暇制度も定着していなかった事から、特に芸能や芸術分野での成功を目指す若者の中には、敢えてフリーターを選択する者も多かった。しかし1991年にバブル経済が崩壊し、景気が急速に悪化すると、企業は経費削減を至上命題に正社員の採用を抑制し、それに代わる労働力としてアルバイトの採用を促進させた。その為多くの若者が失業に追いやられ、止むを得ずフリーターになる者が増え始める。こうした状況は数年を経ても改善されず、やがて就職氷河期と言われる様になるが、2003年頃から景気は回復し、団塊世代の大量退職とも相まって、正社員の採用を増やす企業が現れた。しかしその対象は新卒者に絞られた為、就職の機会を奪われた氷河期世代の若者は救済されず、問題は今も未解決の状態にある。更に、1999年に施行された改正男女雇用機会均等法で、男女差別が原則禁止されたにも関わらず、「何でも良いから働きたい」と言う意思を示して就職活動をするも、中々就職に至らず、結局フリーターになってそのまま定着、本採用に向けての就職活動をすると、フリーターを理由に不採用になると言う悪循環も発生しており、本採用で働く事に意欲がある者の就職活動も大きな問題になっている。
[編集] 定義
[編集] 内閣府の定義
内閣府は平成15年版 国民生活白書において「15~34 歳の若年(但し,学生と主婦を除く)の内、パート・アルバイト(派遣等を含む)及び働く意志のある無職の人」と定義している。
[編集] 厚生労働省の定義
厚生労働省は平成16年版労働経済白書において、年齢15歳から34歳、卒業者であり、 女性については未婚の者とし、更に
- 現在就業している者については勤め先に於ける 呼称が「アルバイト」、「パート」である雇用者で、
- 現在無業の者については家事も通学もしておらず「アルバイト・パート」の仕事を希望する者と定義している。
[編集] 無職との違い
無職とは無職業の略称であり、職業が定まっていない状態を示す。それに対しフリーターは、アルバイト等に従業しており、以下の何れかの要件を満たしていれば、それが職業と看做される。尚フリーターとは雇用形態を現す用語であり、職業の区分として用いるのは誤りである。
- 毎日・毎週・毎月等の周期を持って行われている。
- 季節的に行われている。
- 明瞭な周期を持たないが続けて行われている。
- 現に従事している仕事を引き続きそのまま行う意志と可能性がある。
日本標準職業分類一般原則より、職業の定義
[編集] 正社員との違い
法律上、正社員とフリーターとでは明確な区別は無い、しかし正社員が書面によって雇用契約を交わすのに対し、フリーター(アルバイト)は口頭によって雇用契約を交わすため、待遇が曖昧になりやすいという特徴がある。なおパートタイム労働者は、パートタイム労働法によって保護されているため、待遇はフリーターと比較して安定している場合が多い。
[編集] ニートとの違い
フリーターは、しばしばニートと混同して語られることがあるが、これは両者がいずれも労働経済問題であるためで、本来はフリーターが非正規雇用という形で労働を行う一方、ニートはそれを行わないという違いがある。しかし分析の切り口、使用統計によって、ニートとフリーターの両方に該当する者が現れる場合もある(例えば、就職活動等を行ってはいないが意識としては働きたい者をフリーターに含めると、ニートと一部重複する)。
[編集] 慣用
一般的に用いられる場合には、上記定義よりさらに広範である場合が多い。
[編集] 就業形態
フリーターの就業形態には、アルバイト、パート、派遣社員、契約社員、などがあり、これらを総称して非正規雇用と言うこともある。但し非正規雇用とは便宜上の区分であり、法律上の区分を現す用語ではない。
[編集] アルバイト
正社員との法律上の明確な区分は無いが、就業日時や勤務地または契約期間に制限のあることを前提に雇用されている場合が多く、臨時雇用とも言われる。但し実情はフリーターの半数以上がフルタイム(またはそれ以上)で就業しており、待遇の改善が求められている(アルバイトも参照)。
[編集] パート
パートタイマーまたはパートタイム労働者の略称。パートタイム労働法では「1週間の所定労働時間が同一の事業所に雇用される通常の労働者よりも労働時間が短い労働者」とされ、労働力調査(総務省)では、「勤め先での呼称がパート・アルバイトである者」とされている。
[編集] 派遣社員
かつては専門職に限定されていたが、1996年以降の段階的な規制緩和によって派遣可能な業種が拡大され、専門職以外の単純労働に従事する者も増加した。なお、上記厚生労働省の定義ではフリーターに含まれない。
[編集] 契約社員
法律上の用法とは異なり、社会通念上、「契約社員」は民間企業の「従業員」のうち、有期の直接雇用契約を結んだケースを指す。またこのうち、アルバイトなどとの区分は不明瞭であるが、一般的にはアルバイトが、雇用契約書を交付せず、給与体系が時給制である場合にくらべ、月給制+残業代+諸手当となるケースが多い。厚生労働省の定義では派遣社員と同様にフリーターに含まれない。
[編集] 業務請負
業務請負とは、外部委託(アウトソーシング)の一種で、製造、営業など業務を一括して請け負う形態。受け入れ会社の指示に従う人材派遣とは異なり、請負会社が労働者を指揮命令を行い。受け入れ会社は請負会社を通じてしか指示ができない。派遣業のような国の許可が不要なため、派遣の受け入れが平成16年2月まで禁止されていた製造業の間で需要が拡大した。しかし実態は違法な人材派遣(偽装請負)であることも多く、問題となっている。
[編集] 雇用契約
雇用契約とは、労働者と雇用主の双方において「労働者は就業規則に従い、雇用主が与える労務に服する事を約束する一方、雇用主は労働基準法やパートタイム労働法などの法律を遵守し、その労務に応じた賃金の支払いを約束する」という契約を行うことである。なお、この雇用契約には書面によるものと、口頭によるものがあるが、フリーターの多くは口頭による契約を交わしている場合が多い。
[編集] 採用
雇用主が労働者を採用する場合には、賃金・労働時間その他の労働条件を書面などで明示しなければならず、また、その労働条件が事実と相違している場合には、労働者は即時に労働契約を解除することができるとされている。なお雇用主には、原則として採用の自由が認められているが、以下のような制限もある。
[編集] 雇用対策法第7条(年齢指針)
- 事業主は、労働者がその有する能力を有効に発揮する為に必要であると認められる時は、労働者の募集及び採用について、その年齢に関わり無く均等な機会を与える様に努めなければならない
[編集] 男女雇用機会均等法第5条
- 事業主は、労働者の募集及び採用について、女性に対して男性と均等な機会を与えなければならない。
[編集] 障害者雇用促進法第5条
- 全て事業主は、障害者の雇用に関し、社会連帯の理念に基づき、障害者である労働者が有為な職業人として自立しようとする努力に対して協力する責務を有するものであつて、その有する能力を正当に評価し、適当な雇用の場を与えると共に適正な雇用管理を行うことによりその雇用の安定を図るように努めなければならない。
[編集] 労働組合法第7条1項
- 使用者は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。
- 労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること又は労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること(以下省略)
[編集] 解雇
解雇とは、労働者と雇用主の間で交わされた雇用契約を解除することである。労働基準法18条の2では「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定められており、また、雇用主が労働者を解雇しようとする場合には、少なくとも30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金を労働者に支払わなければならないとされている。
[編集] 試用期間
試用期間とは、雇用主が労働者の業務に対する適性を判断するための期間である。長さについては法律上の定めはないが、概ね3〜6ヶ月間がその目安とされている。なお、労働基準法第21条では、14日以下の試用期間にある労働者については、30日の予告期間を待たずに解雇することができるとされている。
[編集] 給与
給与とは、雇用主が労働者に労働の対価として支払う賃金と各種手当の総称であり、労働基準法では「通貨で」「全額を」「毎月1回以上」「一定期日に」「直接労働者に」支払うことが原則とされている。
[編集] 最低賃金
最低賃金は産業別または地域別に決定されており、雇用形態や、性別、国籍などによって区別されることはない。但し、障害者で使用期間中の者、短時間もしくは軽易な作業に従事する者、その他、厚生労働省令で定める者については例外とされている。
[編集] 時間外労働
雇用主は、8時間を超える労働および深夜(22時~翌5時)の労働には、1時間につき通常の1.25倍の賃金、法定休日の労働には通常の1.35倍の賃金を労働者に支給しなければならないとされている(労働基準法第41条では「監督若しくは管理の地位にある者」等に対する支給の義務は無いとされている)。
[編集] 交通費
法律上、雇用主がフリーターに交通費を支給しなければならないという義務は無い、しかし採用時の労働契約か、就業規則に定めのある場合には、交通費を請求することができる。
[編集] 賞与・退職金
賞与や退職金に関しても支給しなければならないという法的な義務づけはないため、支給されない場合が多い。但し就業規則や退職金規定において賞与や退職金を支給する旨の規定があるか、もしくは採用の際の約束がある場合には、賞与や退職金を受け取ることができるとされている。
[編集] 制度
労働について国が定めている主な制度には以下のようなものがあり、正社員であるかフリーターであるかの区別は無い。但し実態として、フリーター(アルバイト)であることを理由に、これらの制度を適正に運用しない雇用主が多く問題となっている。
[編集] 有給休暇
有給休暇とは、出勤と同様に賃金の支給される休暇のことで、週または年間の勤務日数と勤続年数によって、取得可能な日数が決定されている。
所定の労働日数 |
勤続年数 |
|||||||
週 |
年 |
6ヶ月 |
1年6ヶ月 |
2年6ヶ月 |
3年6ヶ月 |
4年6ヶ月 |
5年6ヶ月 |
6年6ヶ月 |
5日 |
217日以上 |
10日 |
11日 |
12日 |
14日 |
16日 |
18日 |
20日 |
4日 |
169~216日 |
7日 |
8日 |
9日 |
10日 |
12日 |
13日 |
15日 |
3日 |
121~168日 |
5日 |
6日 |
6日 |
8日 |
9日 |
10日 |
11日 |
2日 |
73~120日 |
3日 |
4日 |
4日 |
5日 |
6日 |
6日 |
7日 |
1日 |
48~72日 |
1日 |
2日 |
2日 |
2日 |
3日 |
3日 |
3日 |
[編集] 年金保険
国の制度としての年金保険には、自営業者および無職者向けの国民年金と、一般民間被用者向けの厚生年金保険等があり、フリーターは勤務日数や勤務時間により、このうちの何れかに加入する事が義務づけられている。
[編集] 厚生年金保険
- 厚生年金保険とは、雇用主と労働者が保険料を分担して負担する年金制度で、5人以上の事業所が強制加入となっている。対象となる労働者は以下の通り、
-
- 1日あるいは1週間の勤務時間が、その事業所で同種の業務をする一般従業員の労働時間の概ね4分の3以上であること。
- 1ヵ月の勤務日数がその事業所で同種の業務をする一般従業員の概ね4分の3以上であること。
- 但しフリーターについては、雇用主側が保険料の支払いを拒む為、実際の加入率は低く、又意図的に労働時間を制限されている場合もある。
[編集] 国民年金
- 20歳以上で、他の公的年金保険に加入していない場合に加入する年金保険。保険料は所得に関係なく一定。
[編集] 医療保険
国の制度としての医療保険には、自営業者および無職者向けの国民健康保険と、一般民間被用者向けの健康保険(社会保険)等があり、フリーターは勤務日数や勤務時間により、このうちの何れかに加入する事が義務づけられている(自己負担率は何れも3割)。
[編集] 健康保険(社会保険)
- 医療費および休業期間中の給付金の他、出産や育児、死亡時の埋葬料などが支給される。加入要件は厚生年金保険と同じ。
[編集] 国民健康保険
- 20歳以上で、他の公的医療保険に加入していない場合に加入する医療保険。怪我や病気の際の医療費が軽減される。
[編集] 育児休業
育児休業とは、育児を理由に休業する事で、その期間は国から所得に応じた給付金が支給される。対象となる労働者は、同一事業主に継続して1年以上雇用されており、1週間の所定労働日数が3日以上、かつ配偶者が育児を行えない場合となっている。休業期間は通常1年で、やむを得ない理由がある場合には、さらに6ヶ月延長することもできるが、1人の子供につき取得できるのは1回までである(1ヶ月前までの申出が必要)
[編集] 雇用保険
雇用保険とは、労働者が失業した際に国が給付金を支給する制度で、1人以上の労働者を雇用する事業主が強制的に加入しなければならないとされている。保険料は雇用主と労働者が分担して負担し、給付額は年齢や勤続年数によって決定される。
[編集] 労災保険
労災保険(労働者災害補償保険)とは、労働者がその業務が原因で健康上の被害を受けた場合に保険金が支払われ、休業中とその後30日間の雇用も保障されるという制度。保険料は事業主のみの負担となる。
[編集] 納税
年収が103万円を超えた労働者は、所得税を納めなければならず、その税率は所得の額に応じて決定される。なお2007年以降は税率が改定される(所得税も参照)。
所得/年 |
103万円以下 |
195万円以下 |
195万円超 |
330万円超 |
695万円超 |
900万円超 |
1800万円超 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
1999年 |
0% |
10% |
10% |
20% |
20% |
30% |
37% |
2007年 |
0% |
5% |
10% |
20% |
23% |
33% |
40% |
[編集] 源泉徴収
源泉徴収とは、同一事業所に長期に渡り従業する労働者に対し、事業主が予め納税額を予測し、毎回の給与から事前に所得税に相当する金額を徴収することを言う。
[編集] 年末調整
[編集] 確定申告
確定申告とは、個人が納税額を確定するために、1年間の所得を合計し、控除を差し引いた金額を税務署に申告することを言う。源泉徴収が行われなかった労働者、または事業主が対象となる。
[編集] 実態
[編集] 規模
厚生労働省は2005年のフリーター人口を約201万人と推計している。これは全労働人口の3.1%に相当し、15~34歳の世代に限れば10.6%がフリーターであることになる。
[編集] 推移
厚生労働省の統計によると、フリーターは調査開始以来増加の一途を辿り、1992年に101万人だった人口は、2003年には217万人に達した。しかしその後は企業側の新卒採用数が増加したため、2005年現在では201万人にまで減少している。ただし、この統計では1997年までのフリーターの定義と2002年以降の定義が一致していないことに注意が必要である。
[編集] 高齢化
- 1997年から2005年までの年齢分布は、15~24歳の人口が102万人から104万人でほぼ横ばいであるのに対し、25~34歳の人口は49万人から97万人へと倍増している。これは新卒者の雇用情勢が改善する一方、不況下に就職を断念した世代が救済されず放置されているためで、格差の拡大や、階層の固定化につながる事が懸念されている。
- 就業構造基本調査
- 労働力調査詳細集計
[編集] 展望
- 政府は2010年までに、フリーターをピーク時の8割(約174万人)に減少させるという目標を掲げている。しかし2003年のピーク時から2005年には既に16万人減少しており、何も対策を講じなくても、自然に減少していくのではないかという指摘もある。
[編集] 増加の要因
近年、日本においてフリーターが増加した背景には次のような要因がある。
- バブル崩壊の影響により企業が新規採用を控えたため、就職が困難であったこと(例えば、1993年から約10年間、有効求人倍率が1.0を下回る状況が続いた)。
- 労働者派遣業法等の改定により、人材派遣の対象が広がったこと(就職できないよりは、派遣でもなった方がマシという状態がある。特に女性においてその傾向が顕著)。
- 不況下において、新入社員に過度なノルマを科す ブラック企業が台頭し、サービス残業を強要する等の違法行為が横行した結果、健康を害し、退職した者が増加したこと。
- 就職難のため希望通りの就職ができない者が増え、仕事が長続きせず退職者が増加したこと。
- 産業構造の変化や技術革新によって、淘汰される職業が増加したこと。
- 従来の学校教育が大学受験等に主眼を置いた詰め込み教育であり、職業に接続する教育ではなかったこと。
- 企業の側が正社員比率を減少させ、アルバイト・パート、派遣の比率を増加させているため。
[編集] 労働内容
リクルートワークス研究所が実施した「非典型雇用労働者調査2001」の統計によると、フリーターの労働時間および労働内容は、週20時間未満が10.5%、20~40時間が37.9%、フルタイムが43.1%、フルタイムかつ正社員並みのスキルを持っているのは8.5%という結果になっている。
[編集] 差別と偏見
フリーターは一度その状態になると、そのまま続く傾向にある。これはたとえ正社員になることを希望していても、アルバイトで培った技能や経験が職歴として見なされず、学校を卒業してから何もしていないブランクと看做される事、また「フリーターからの就職では長続きしない」「フリーターはトラブルを起こしやすい」といった硬直した固定観念が障害となり、不採用になる場合が多いためである。
[編集] 格差
[編集] 地域による雇用機会の格差
2002年の統計によると各県の新規学卒者を対象とした有効求人倍率は、最高が東京の4.8であるのに対し、最悪は沖縄の0.4となっており、各地域における雇用機会の格差は深刻なものとなっている。景気回復が現実のものになりつつあるが、景気回復が遅れていると言われている北海道地方や東北地方、沖縄地方での有効求人倍率は依然として良くない(厚労省 新規学卒者の労働市場)
なお、新規学卒者の就職率でも同様の傾向がある。また、これらの地域では地元志向が強い(今住んでいる県内か実家がある県内、特に北海道地方では実家がある市町村内の企業への就職を希望する者が多い)が、有効求人倍率がなかなか上がらない現状で長期間の求職活動を強いられる傾向が強くなっている。
[編集] 世代による雇用機会の格差
1993年のバブル崩壊から約10年間は、失われた10年または就職氷河期などと呼ばれ、雇用情勢が非常に不安定となった。この時期に就職活動を行っていたた世代は、希望通りの就職ができないばかりか、正社員になることも容易ではなく、多くの若者がフリーターやニートになることを余儀なくされた。また正社員となった若者も、企業から過酷な労働条件を強いられ、体調を崩して退職、フリーターやニートになった者は数知れない。このように、近年では地域格差の問題と同様に深刻になっているのが、この「世代間の格差」である。
[編集] 景気回復後の実態
- 2006年頃から景気回復や団塊世代の大量退職を見越し、採用数を増やす企業が増加した、そのため正社員になる意志のあるフリーターにとって状況は改善に向かうとの見方もあったが、実際にはその大半が新卒者のみを対象としたため、既卒者であるフリーターにとって、雇用環境が改善したとは言い難い状況が今なお続いている。
[編集] 世代による教育機会の格差
フリーター増加の背景には世代間の教育格差が影響しているのではないかという指摘もある。例えば1970年代に生まれた世代は、暗記が中心のいわゆる詰め込み教育と呼ばれた教育を受けており、就業の際に生かすことのできる実践的な教育を殆ど受けていない。そのため積極的なキャリア教育を受けた1980年代生まれの世代に対抗できず、また企業側もこうした人材を獲得しようとするため、結果として新卒採用の傾向が強まり、旧世代の就職をより困難にしているのではないかと言われている。
[編集] 学校教育
- 文部科学省は近年、フリーターやニートの増加は、職業観の低下が原因であると判断し、通常の授業時間を削減し、企業側の要請に応じた様々なキャリア教育を積極的に推進している。しかし企業側の要請にもかかわらず、企業側からの批判は大変多い。①学校の授業の一環として扱われる場合が多いこと、②希望した職種に必ずしも行けないために仕方なくやっている、という生徒が少なくないため、企業側の判断で取りやめるという向きが多いためだ。
[編集] 課題
[編集] 雇用のミスマッチ
雇用のミスマッチとは、1990年代後半には、求人はあるが、採用条件を満す応募が少ないという状況を現す用語であったが、2000年代初頭からは、特定の業種に人気が集中し、不人気業種に対する応募が少ないという状況を現す用語に変容しつつある。こうした現象は学校教育におけるキャリア教育が原因の1つではないかという指摘もあり、対策が求められている。
[編集] 雇用の流動化
今後、産業構造等の変化により雇用の流動化が進行すると、企業は人材育成に投入する予算を抑制するため、即戦力採用の傾向はさらに加速するとみられている。しかし、マニュアル化された単純労働に従事するフリーターは、その業務内で高度な技能を修得することが困難なため、即戦力採用が主流になっている状況もあって、その後の脱フリーターに向けての就職活動を行うことさえも困難にさせているという状況になっている。しかもそのような状況を雇用主側が作り上げているにもかかわらず、フリーター自身の責任にするという状態が定着している。
[編集] 氷河期世代
1990年代後半から2000年初頭にかけての就職氷河期で、やむを得ずフリーターになった者は、企業業績が回復した今もなお多大な苦難を強いられており、特段の配慮と救済が必要と言われている。政府はこの問題に対処するため「公務員にフリーター採用枠を確保する」等の対策を決定したが、「新卒一括採用システムの見直し」などの案が未だ検討段階であり、早急な対応が求められている。
[編集] 人口減少社会
フリーターなどの低所得者層の増加により、非婚化が進行すると、出生率は低下し、懸案である少子化問題は更に深刻となる。しかし現在までのところ有効な対策は無いため、将来的な年金制度の崩壊や、国力の低下につながる事が懸念されている。
[編集] 対策
[編集] 政府
政府はフリーター人口を減少させるため、2003年頃から各種政策を行うようになった。公務員については、人事院が2007年度(平成19年度)にフリーターの中途採用枠の創設を決定している。
[編集] 新卒一括採用システムの見直し
- 労働市場は団塊世代の定年による大量退職等により、求人は増加傾向にあるものの、採用は新卒者に限定される場合が多く、フリーターが本人の希望通りに就業できる見込みは薄い、そのため今後は「フリーター層の世代の固定化」や「累年の高年齢化および長期間化」の進行が深刻になると予想されている。こうした状況に対し、ニート・フリーター対策担当の杉村太蔵議員も「企業が新卒採用にこだわり、既卒者への門戸を閉じていることが、ニートやフリーターが増加する最大の要因」と国会で指摘。また安倍晋三総理大臣も所信表明演説において「新卒一括採用システムの見直しを進める」と述べている。
[編集] 同一労働同一賃金の原則
- パートタイム労働指針の改正により、事業主は正社員と同等の業務に従事するフリーターに対し、主に賃金等の面で同一の待遇を行うよう努力規定(強制力なし)が設けられたが、こうした指針に従う事業主は、一部の家電量販店など、ごく少数に止まっている。
[編集] 厚生労働省
フリーターが従事する仕事の多くは、マニュアル化された単純労働であるため、職業能力が向上せず、結果として賃金も向上しないという悪循環に陥っている。この問題に対して、厚生労働省は職業訓練等の機会の充実を図っているが、期間が短い・分野が限定的、などの問題もあり、抜本的な解決には至っていないというのが実情である。
[編集] 日本版デュアルシステム
- 失業者やフリーターを主な対象者とし、企業や各種専門学校と連携しながら、原則無償(1年以上は有料)で就職を支援する制度。しかし「期間が短い」「分野が限定的」などの問題も指摘されており、より充実した内容の支援策が求められている。
[編集] トライアル雇用
- 原則3ヶ月の試用期間を経験し、その後、雇用主と求職者の双方の合意によって、正社員に採用されるという制度。申し込みはハローワークを通じて行う。雇用主には奨励金が支給される等の利点があり、求職者には就職の機会が広がるという利点がある。ちなみに、2004年度はこの制度を利用した人の8割(約3万人)が正社員として採用されているが、35才未満の求職者が対象であることと、実際には年齢制限を(概ね25歳から30歳未満に)厳しく制限する企業も少なくないこと、希望外の職種であることが分かると応募自体を拒否するという企業も多いため、なかなか定着していないのも現実である。
[編集] ジョブカフェ
- 若年者を対象とする就業支援施設。単に仕事を紹介する以外にも「就職基礎能力速成講座」等、就職に役立つセミナーなども開催されている。ジョブカフェを使って就職できたと言う者は増えてはいるものの、プライバシーが保たれない、即戦力(経験者中心の)採用が多い状態で、ジョブカフェでの学習が必ずしも生かされないケースが出る等、問題も多い。
[編集] 文部科学省
文部科学省は、児童・生徒の職業観の醸成を目的としたキャリア教育を実施するよう、各学校に呼びかけている。しかし、そもそもフリーターの増加は、職業観の変化だけではなく、過去の就職難にも起因するものであり、こうした対策を断行することには異論を唱える研究者も多く、また「そもそもフリーターが正社員と区別される法的根拠の無いこと」「雇用主側も低賃金の労働者を求めていること」など、社会的な問題として捉えるべきという意見もある。
[編集] キャリア教育
- キャリア教育とは、児童や生徒に職業に対する動機付けを行い、就職に接続する指導を行うことである。しかし、こうした教育の多くは、過去の厳しい雇用情勢については言及せず、単にフリーターを蔑み「努力をしない者がそうなる」といったような職業差別を助長する内容のものもあり、「行き過ぎた指導」という指摘もある。ただ、現実としては家庭ではそのような教育が行われることが多いのも事実である。
[編集] インターンシップ
- 学生が在学中に企業に赴き職場体験を行う制度。しかし既卒者には利用する機会が無く、「学業に支障を来す」「新卒一括採用を助長する」などの批判もある。また、どの職場でインターンシップを行うかは学校側が決定する為「希望と異なる職場に派遣された学生が問題を起こす」などのトラブルも絶えず、受け入れる企業はまだ少ない。
[編集] 職場体験
- 職業体験、トライアルウィークなどと呼ばれる、主に中学2年生を対象とした就業体験プログラム。地元の企業と連携し、1日~5日間、生徒は学校を離れ、様々な仕事を実体験する。尚2004年の公立中学校の実施率は89.7%となっている。しかし、希望していた職種と違う職種へいく事になってトラブルを起こす事も多く、職種のミスマッチが問題になっている。
[編集] フリーター・ニートになる前に受けたい授業
- 文部科学省の委託事業で、総合的な学習の時間におけるワークショップの1つ「フリーターやニートになるのは、本人の甘えや努力不足が原因」と主張する講師が全国の学校を巡り講義を行う。しかし、「フリーターは社会保険に入れない」・「ニートは勉強をせず働く意欲も無い」という発言が行われる事は、事実を歪曲しているとの批判もあり、問題となっている。ただ、現実には社会保険に入れて貰えない場合がある等、実際には現実を見た発言とも取れる為、議論の対象になりそうだ。(フリーター・ニートになる前に受けたい授業)
[編集] キッザニア
- 様々な職業体験ができる子供向けテーマパーク。学校教育に於いては、職業観の醸成を目的に、主に実習授業や修学旅行の日程の中に組み込まれている。しかし、文部科学省のこうした取り組みには「無業者の増加は労働経済問題」「心の問題にするのはおかしい」などの批判もあり、議論を呼んでいる。
[編集] 労働組合
首都圏青年ユニオンは「フリーターは企業戦士の徴兵拒否組だ」と述べ、非正規雇用者も加入出来る労働組合だと述べている。又既存組合も組織率の低下に伴い、パート・アルバイトへの組合への加入を呼び掛けているが、フリーターの労組加入率は極めて低いのが現状である。
[編集] 海外
[編集] 諸外国の雇用形態
諸外国、特に先進諸国では基本的に終身雇用ではない契約社員に近い雇用形態である為、日本の様な「正社員・非正社員」と言う概念が無い所も多く、従って「フリーター」に当たる概念は無い国が多い。この様な国では労働者全員が正社員であるとも、全員がフリーターであるとも言え、又、日本で言う所の「正社員・非正社員」の区別を法律で禁止し、労働者全員を同基準の待遇とする事で失業者の解消を目指すワークシェアリングを実施する国もある。
[編集] 総括
[編集] 光と影
今日の企業業績回復の背景には、不況下において、不本意ながらも低賃金の労働に従事してきたフリーターの存在がある。しかしながらそれによって当事者たちが報われることはなく、就職難の要因を作りだした世代と、景気回復後に社会に進出した世代がその恩恵を享受するという格好になっており、非常な不平等を生み出している。また、新卒時に就職の機会を逃した者の再就職は、年齢を重ねる毎に困難な状況となるため、この世代が生涯に渡り低賃金の労働に従事する可能性は高く、このまま有効な対策が講じられなければ、格差の拡大や、階層の固定化につながることが懸念されている。
[編集] 関連項目
- 就職難
- 労働力
- ニート
- 家事手伝い
- 自営業
- フリーランス
- 労働経済学
- 銭形金太郎(フリーターがよく取り上げられている、テレビ朝日のバラエティ番組。)
- 出稼ぎ
- 正規雇用
- 非正規雇用
- 落ちこぼれ
- 貧困
- プレカリアート
- ワーキングプア
- 退職
- 失業
- 求人
- キッザニア(実在する企業が出展している、子供の就職体験施設。)
- 労働基準法
- パートタイム労働法
- 採用の自由
- トウィックスター, Twixter
- スラッカー