釣り
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
釣り(つり)とは、釣り竿、釣り糸、釣り針などの道具を使って、魚などの動物を採捕する方法のことである。
目次 |
[編集] 概説
釣りを動物の捕獲法として考えると、動物をおびき出したり、待ち伏せしたりして捕まえる罠の一種といえる。最も典型的な釣りでは、
- 釣り針に餌やそれに類した疑似餌(ルアー、毛針など)をつけ、釣り針には釣り糸をつないでおく。
- 動物の通りかかる場所に釣り針をおき、動物が食いつくのを待つ。あるいは、動物を釣り針の付近におびき寄せる。
- 動物が食いつくと針が口に引っかかる。
- このとき、釣り糸の反対側につながれた釣り竿をうまく使って動物を手元に引き寄せ、捕獲する。
釣りの主な対象は、海・川・湖・沼などの水圏に生息する魚である。単に釣りといえば、魚釣りのことを指す場合が多い。
ただし、釣りの手法には、対象とする動物の種類によって方法のバリエーションが非常に多い。例えば、釣竿を使わない手釣り(ワカサギ釣り、カッタクリ釣りなど)や、釣針を使わない釣り(ザリガニ釣りなど)もある。マグロ漁業で行われるはえなわ漁業も釣りの一種とされる。
[編集] 遊漁と釣り
漁業従事者(いわゆる漁師)以外の人にとっての漁は、一般に財を得ることを目的とするものではなく、娯楽、趣味、あるいはスポーツである。こういった娯楽性の釣りを遊漁と呼び、これを行うものを遊漁者と呼ぶ。一般に遊漁者が行える漁法は、漁網の使用が制限されていることからほとんど釣りに限られる上、魚釣りを遊びとする歴史は江戸以来存在していることから、「釣り」という言葉を遊漁の意味で用いることが多い。
因みにスポーツフィッシングという言葉があるが、これは本来この遊漁のことを指す言葉である。『ブラックバス問題』で世間の耳目を集めたように、好事家の趣味であった釣りも現在では一大産業となり釣具メーカーはトッププロ(フィールド・テスターと呼ばれる)と提携してマスコミを通しての商品のPRにつとめている。
なお、漁業のことはコマーシャルフィッシング(商業の為の釣り)ともよぶ。
[編集] 遊漁の対象魚
食用になる魚を対象魚とする場合もあれば、魚釣りの過程を楽しむための遊漁もあり、後者の場合には、その場で釣った魚を再放流すること(キャッチアンドリリース)が行われる場合もある。
[編集] 遊漁産業の発展
娯楽、趣味としての釣りの浸透に伴って、よく魚の釣れる場所、釣り場には釣り客が訪れ、周辺の地域に経済効果がもたらされるようになっている。近年は遊漁者を乗船させて釣り場に案内する遊漁船業も拡大している。なお、昭和63年に遊漁船と海上自衛隊潜水艦「なだしお」の衝突事故が発生したため、「遊漁船業の適正化に関する法律」が議員立法により成立している。
現在は上記のような天然の釣り場の他、沼や川を区画した上で魚を放し、客が料金を払って釣りを行う釣堀が各地にある。また、特に湖や川などで、釣りの対象魚を放流して、安定して釣りが楽しめるようにすることなども行われる。しかし放流された釣りの対象魚が、自然には棲息しない外来種であったりすると、それが水系の生態系を崩し、固有種の魚が絶滅に瀕する問題を引き起こしている場所もある。
[編集] 釣りの歴史
釣りは食料を獲得する一手段として古くから行われている。日本では、石器時代の遺跡からも骨角器の釣針が見つかる。
釣りは、江戸時代ごろから趣味としても行われるようになった。
[編集] 釣りの対象の一例
[編集] 海釣り
- 沖合の釣り(トローリング釣法、カジキ)
- 沖合の釣り(船釣り、マダイ・イサキ・イカ)
- 磯の釣り(イシダイ・メジナ)
- 防波堤の釣り(アジ・クロダイ)
- 砂浜の釣り(投げ釣りキス)
- 河口の釣り(スズキ)
- 海のルアー釣り(オフショア~ジギング)
- 海のルアー釣り(オフショア・キャスティング~シイラ、GT)
- 海のルアー釣り(ショア~ヒラスズキ、スズキ)
- 海のルアー釣り(エギング釣法、アオリイカ)
[編集] 淡水の釣り
[編集] 釣りの道具
- 仕掛け (釣り具)
[編集] 遊漁に対する規制
遊漁者に対する規制は各都道府県の漁業調整規則により規定されている。また、内水面で第五種共同漁業権が設定されている場合、遊漁規則が設定されている場合がある。また、海区漁業調整委員会および内水面漁業調整委員会による委員会指示が発動されている場合もある。遊漁者が使える漁具は一般に、一本釣りの釣り道具、小型のたも網のみである。引っ掛け釣りについては判例上、釣りの範囲に入らない。
[編集] 釣りによる問題
遊漁人口の増加と産業化によって様々な問題も発生しているが、多くが遊漁者のモラルによって改善されるものが多い。
[編集] 釣りにより発生するゴミ
河川・湖沼など淡水魚の生息する地域は野鳥にとって重要な食糧供給地域でもある。これらの場所において放置されたテグスや針付きのテグスなどは野鳥の生命を脅かす状況にあり、定期的にゴミとして大量に回収されている。また、疑似餌(特にワームと呼ばれるもの)による化学的な汚染や、撒き餌などによる水質汚濁も懸念されている。
[編集] 外来種の繁殖
ブラックバス、ブルーギルなどの日本国内に天然では存在しない魚類が全国的に内水面で繁殖している事例があり、在来種、特に日本の固有種や希少種に対する影響が懸念されている。一度釣り上げた外来魚を再び放流することを条例で禁止している地域(秋田県・新潟県・滋賀県琵琶湖など)がある。なお現在は「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」(外来生物法)により、ブルーギル、ブラックバス、ヨーロピアンパーチなどは放流を禁止されている。
[編集] 釣りに関連する逸話
[編集] 太公望
周の文王が太公望を見出したとき、太公望は渭水のほとりで釣りをしていた。もっとも、太公望は文王の目にとまるために釣りをしているふりをしていただけで、実は釣針もつけていなかった。しかしこの故事から、日本では釣り人のことを太公望とも言うようになった(中国では釣りが下手な人を指すとのこと)。
[編集] 海幸彦と山幸彦
古事記には、海幸彦(火照命)と山幸彦(火遠理命)の話が載っている(山幸彦と海幸彦)。海幸彦と山幸彦の兄弟は、ある日自分たちの道具を交換し、海幸彦が山に狩に行き、山幸彦が海に釣りに出かけることにした。ところが山幸彦は何も釣れなかったばかりか釣針までなくしてしまう。海幸彦は怒り、山幸彦が佩刀の十拳剣をつぶして五百の釣針を作ってあげても、許しをあたえようとはしなかった。
[編集] 中国のことわざ
1時間幸せになりたいなら、酒を飲みなさい。3日間幸せになりたいなら、結婚しなさい。1週間幸せになりたいなら、牛を飼いなさい。一生幸せになりたいなら、釣りをしなさい。
[編集] 比喩的な利用
漁法における釣りとの比較で、狙う対象が引っかかりそうな素材を、対象の来そうな場所を選んで仕掛け、引っかかるのを待つやりかたを、総じて釣りという。
陸釣り(おかづり)とは、現在では陸上の水域での釣りの意味で用いられることも多いが、元来は郭用語であった由。ナンパの意味でも使われる。フィッシング (詐欺)などもその例である。インターネット掲示板で他人が憤りそうな話題をわざと出すのを「釣り」という例もある。
微生物の分離法にも釣り餌法がある。
[編集] 釣りをテーマにした作品
[編集] 文学
- 老人と海(アーネスト・ヘミングウェイ)
- マクリーンの川(ノーマン・マクリーン)
- 鮎師(夢枕獏)
- フィッシュ・オン、オーパ!(開高健)
- 幸田露伴江戸前釣りの世界: 釣り文学傑作選(木島佐一訳)
[編集] 漫画
[編集] 映画
- リバー・ランズ・スルー・イット(A River Runs Through It)
- 1992年(米)、監督ロバート・レッドフォード、主演ブラッド・ピット
- 「釣りバカ日誌」シリーズ