東京都交通局10-300形電車
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10-300形電車(10-300がたでんしゃ)は、東京都交通局(都営地下鉄)新宿線で使用される通勤形電車。形式呼称は東京都交通局の公式では「いちまんさんびゃくがた」と読む。
本項では先頭車のみ製造された10-300R形電車(10-300Rがたでんしゃ)についても記述する。国土交通省内における書類上でも同様に10-300形・10-300R形とそれぞれ個別に記されている。
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[編集] 概要
2004年(平成16年)12月からの新宿線10-000形初期車の老朽取り替えと、2005年(平成17年)5月14日に行われたATC・列車無線の更新に対応するために製造された車両で、2004年(平成16年)11月から2006年(平成18年)7月にかけて新製された。
通勤形電車として標準的な全長20m級・4扉車体の基本設計は軽量ステンレス製構体や列車情報管理装置(TIMS)の採用など、東日本旅客鉄道(JR東日本)のE231系で採用された設計技術をベースにしており、開発・製造コストの抑制を図っている。新宿線の車両限界に合わせて車体幅が狭い他は類似した印象の外観を持つが、先頭部形状が異なる。
なお、この形式は8両編成すべてが新造車の10-300形と、先頭車両のみ新造車で中間車は既存の10-000形である10-300R形の2つに大別される。Rは置き換えるという意のReplaceの頭文字に由来する。
製造メーカーは東急車輛製造であるが、2006年(平成18年)製造の10-450F~10-470Fの中間車18両はJR東日本の新津車両製作所で製造している。
[編集] 10-300形と10-300R形との共通点
- 客用扉の間隔は両先頭車の運転席寄りとその隣は3,500mm、それ以外は3,520mmと、東京急行電鉄5000系5102F以降の編成と同じ構成となった。先頭車最前部扉とその次の扉の間の窓は中桟がなく、片側側面のこの部分には車椅子スペースがある。この部分はE231系では6人掛けで中桟なし、寸法の同じ東急車では中桟ありとなっている。なお、この部分(座席最前部)の蛍光灯は短いものとなっている。
- 先頭車前面の形状は東急5000系に似ているが、ヘッドライトの位置や、非常用ドアの位置(JR東日本E231系800番台に近い)など細かい点でかなり違っている。
- 車内の案内表示器はJR東日本E231系と同じ1行タイプのものを採用したが、相模鉄道10000系のものと同様にスクロールする。
- 運転台は10-000形や京王電鉄各系列に合わせ、両手で操作するタイプのワンハンドルマスコンを採用した。乗務員室と客室の仕切りは、E231系同様運転席直後には窓のない形となっているが乗務員室扉の窓は四角いものであり、この部分にも遮光幕が設置されている。
[編集] 形式別概要
[編集] 10-300形
- 8両すべてが新造車両で構成されるもので、2005年5月21日に営業運転を開始した。
- 第7編成(車両番号が10-37x)以降の8両編成12本(96両)が製造された。
- 設計最高速度120km/h、起動加速度3.3km/h/s、常用最大減速度4.0km/h/s、非常減速度4.5km/h/s。
- 帯は黄緑の太帯と紺の細帯の2色の帯。
- ドアチャイムをはじめ、機構的にはJR東日本E231系と同様のものを使用している部分が多い。ただし勾配の多い地下鉄を走る関係で電動車(M)付随車(T)の構成(MT比)は5M3Tである。
- 車内案内表示器は各ドア上に搭載。京王線内でも次駅停車表示が可能になっている。
- 制御方式はE231系500・800番台と同様の三菱電機製3レベルIGBT素子によるVVVFインバータ制御。純電気ブレーキ付き。モータ音もE231系500・800番台と全く同じである。
- マスコンをP2位置にすると定速運転になる。
- TIMS搭載。ただしJR車と異なり、前後駅の発着時刻はTIMSモニタではなく隣接のTNS装置のモニタに表示される。画面上での号車番号は車両番号の一の位の数字と一致しており、3番目と4番目が欠けた状態になっている。一部編成ではTNSモニターがモノクロタイプであるが、これは廃車になった10-000形編成から京王用ATSなどと共に転用されたためである。
- 車いすスペースは先頭車両と同車両から2両目に設置。
- 自動放送音声:加藤純子
- 乗車促進チャイムを搭載する。登場当初は電子音のベルだったが、現在はすべてチャイムに置き換えられいる。
- 側面の行先表示器は70km/hを超えると自動的に消灯する。
- パンタグラフは都営地下鉄で初めてシングルアーム形を採用。
[編集] 10-300R形
- 両先頭車のみが新造車両で、中間車の6両は10-000形の第1~18編成からの流用車両で構成される。8両編成6本の両先頭車のみの12両が新造された。これは、導入コストの低減のために10-000形で比較的経年の低い1986年製の14両及び1988年製の22両のオールステンレス車を残し、先頭車のみ保安装置の更新のため交換するという手法を採用したためである。そのため行先表示・運行番号設定器が従来車と同じ機器になっていたり、ドアエンジンが空気式である等従来車と互換性を持たせてあるほか、運転室のスイッチ・表示灯が10-300形より多い。
- 帯は10-000形と合わせて先頭部のみ青帯を絡ませ、途中からは黄緑の細帯1本。
- ドアチャイムは10-000形7・8次車(10-250F~10-280F)と同様のものを使用しており、開閉とも同音である。自動放送も両編成と同様。
- 車内案内表示器は千鳥配置で搭載。
- TIMSは搭載されていないがフルカラーのTNSモニタが搭載されている。また前面の運行番号表示部フォントは10-300形のゴシック体に対して明朝体を使用し、文字の大きさも小さいため前面からでも識別は可能である。
- 車いすスペースは両先頭車に設置。
- パンタグラフは従来通り菱形のPT42形。
[編集] 暫定編成
10-300R形は前述通り10-000形のうち経年の低い中間車で構成されるが、この中間車は1編成あたり2両しかなく、10-300R形1編成を組むのに10-000形は3編成が必要になる。また10-300形はATC更新までは営業運転に就けないため、編成を組もうとすると編成不足になる。そこで、ATCの更新や10-300形の増備までの間、先頭車両のみを新造車両に置き換え、残り6両はそのままとする暫定編成を組み営業運転に就いていた。この間の暫定編成は以下の通り。
- 10-310F:10-010F
- 10-320F:10-070F
- 10-330F:10-080F
- 10-340F:10-160F
- 10-350F:10-180F
- 10-360F:10-060F
[編集] 正規編成化
ATCの更新に伴い10-300形が営業運転に就き編成に余裕が出たため、暫定編成を解いて当初の通り経年の低い中間車を組み込む正規編成化が行われている。
そのうち、2005年9月15日に10-310Fが既存の中間車を置き換え、正規編成となった。新たに組み込まれた中間車は、車両番号の改番、補助電源装置である静止型インバータ(SIV)新設(10-312・10-316)、パンタグラフの1基化(10-315)、吊革を先頭車と同一のものに統一、先頭車と同様の車内案内表示器の新設、スピーカの更新、車外スピーカの新設、種別表示器を塞いだ上で行先表示器を拡大し種別・行先一体表示のLED式への変更などが行われている。また、車内の化粧板は交換されていないが、床と天井の一部は更新されている。以降の正規編成化は以下の通り。
[編集] 10-300形と10-300R形との相違点
- 帯の配色が異なる。
- オール新造(10-300形)…青(運転室まで)の下に黄緑、さらに太い青が下に入る。
- 先頭車取替(10-300R形)…青(運転室まで)の下に黄緑で、既存の中間10-000形に揃える。
- 走行機器の違い。
- オール新造(10-300形)…E231系500・800番台とほぼ同じ。
- 先頭車取替(10-300R形)…10-000形と同じ。
- ドアチャイム音の違い。
- オール新造(10-300形)…E231系500・800番台と同じ。 (10-300形 ドアチャイム)! ?
- 先頭車取替(10-300R形)…10-000形と同じ。
- 自動放送、LED案内表示器内容などの違い。
- オール新造(10-300形)…自動放送の内容は10-300R形や10-000形後期車と同一であるが声優が異なり、京王線内では行われない。LED式車内表示器による列車種別・行先・次駅案内は導入当初より新宿線と京王線内の両方で行われている。新宿線内と京王線内では若干表示が違う。
- 先頭車取替(10-300R形)…10-000形後期増備車と同様の自動放送やLED式車内表示器による列車種別・行先・次駅案内が行われている。京王線内では自動放送は作動しない。LED表示器については京王線内は列車の種別・行先だけのスクロール表示であったが、10-310Fは2006年7月19日より、他の編成についても10-320Fの2006年9月8日の更新を皮切りに、順次京王線内でもこれまでの種別・行き先の表示に加えて、次駅表示もするようになった。表示方法は先述のオール新造(10-300形)と類似してはいるものの、やはり若干異なっている。
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- 具体的に京王線内では、停車中は「この電車は、快速 橋本ゆき For Hashimoto」と新宿線内とあまり変わらないが、始発駅での停車中の表示は「ご乗車ありがとうございます。この電車は、快速 橋本行きです。 For Hashimoto」となっており、走行中は「快速 橋本行きです。次は、仙川です。The next station is Sengawa.」と全て繰り返し表示される。この表示方法は、後に更新された10-000形の7次車の車内LED表示方法と同様である。
- オール新造(10-300形)…自動放送の内容は10-300R形や10-000形後期車と同一であるが声優が異なり、京王線内では行われない。LED式車内表示器による列車種別・行先・次駅案内は導入当初より新宿線と京王線内の両方で行われている。新宿線内と京王線内では若干表示が違う。
- ドアエンジンが異なる。
- オール新造(10-300形)…E231系500・800番台と同じスクリュー軸を利用した電気式。
- 先頭車取替(10-300R形)…10-000形と同じ空気式。登場当時は戸閉力弱め機構が使われていたがその後使用を中止している。
- 京王線内における新線新宿行の表示が異なる。
- オール新造(10-300形)…新線新宿
- 先頭車取替(10-300R形)…新宿
- このため、10-000形同様、京王線内は急行運転、新宿から先の新宿線内は各駅停車で運転する上り電車「急行 新線新宿行き」には「急行 新宿行き」と表記してあっても京王線新宿方面ではないため注意が必要である
- ATCの進路情報表示が異なる。
[編集] 運用
300形・300R形ともに、2005年に登場して以来本八幡~笹塚間の各駅停車や、橋本・京王多摩センター発着の急行・快速・通勤快速に充当されてきたが、2006年9月1日の都営新宿線ダイヤ改正・京王電鉄ダイヤ改定で相模原線・京王線直通の急行・快速の大半が京王車の10両運用に置き換えられたことにより、10-300系列の運用は本八幡~笹塚間と調布~橋本間の各駅停車が中心になっている。このため相模原線では、直通急行の大半を京王車が占めるようになったのとは反対に、線内各停の多くを都営車が占めるという、いわば逆転現象が起きている。
[編集] 関連項目
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