蛍光灯
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蛍光灯(けいこうとう)は、照明の一種。 ガラス管内の低圧水銀蒸気中のアーク放電により発生する波長253.7 nmの紫外線を蛍光体で可視光線に変換する光源である。
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[編集] 歴史
1856年にドイツのガラス工(後に物理学者)であったハインリッヒ・ガイスラーによってつくられたガイスラー管は、蛍光灯の起源と考えられている。管の中に電極を置き、電極間に誘導コイルによって高電圧をかけることで青っぽく光ることが得られた。
1859年、フランスの物理学者、アレクサンドル・エドモン・ベクレルは、蛍光、燐光、放射能の研究の際に蛍光性ガスを管のなかに封入することを考案した。
1893年、シカゴ万国博覧会ではアメリカ・イリノイ州のパビリオンが、ニコラ・テスラによる蛍光灯を紹介した。
1894年、アメリカの発明家、ダニエル・マクファーレン・ムーアは、ムーアランプを発明した。このランプは市販用であり、彼の上司だったトーマス・エジソンが発明した白熱電球と販売を競う目的でつくられた。使われたガスは窒素と二酸化炭素であり、それぞれピンク色と白色の光を放ち、商業的にそこそこ成功した。
1901年、アメリカの電気技術者、ピーター・クーパー・ヒューイットは、水銀灯のデモンストレーションを行った。青緑色に光る水銀灯は、照明としての実用性は低かったが、現代の蛍光灯に非常に近かった。白熱電球よりも光の波長は短かかったが、効率は高かったため、写真撮影など特別な用途に使われた。
1926年、ドイツの発明家、エトムント・ゲルマーのグループは、管内の圧力を上げ、蛍光粉末で覆うことで、放たれた紫外線を均一な白い光に変換することを提案した。この発見によってゲルマーは一般に蛍光灯の発明者と認められた。
その後、アメリカの電機メーカーであるゼネラル・エレクトリックは、ゲルマーの特許を購入し、ジョージ・インマンの指導のもとで、1938年に蛍光灯を発売した。
[編集] 原理
電流が流れると蛍光管フィラメントから電子が飛び出し、内部に封入されている気体の水銀と衝突、紫外線が発せられる。蛍光ガラス管の内側には蛍光体が塗布されており、紫外線が当たると発光、蛍光管外に可視光線を放ち、これにより照明の用途をなす。 白熱灯と比べると同じ明るさでも消費電力を低く抑えられる。なお、消費したエネルギーの変換比率は、可視放射25%、赤外放射30%、紫外放射0.5%で、残りは熱損失となる。
[編集] 寿命
蛍光管の種類により異なるが、6000-12000時間。
蛍光管が点灯しなくなり寿命となる原因は、蛍光管始動時に起こる、電極に塗布された電子放出性物質(主にタングステン酸バリウム等)の蒸発・飛散による消耗が主となる。点灯時に負荷がかかり、グロースターター(点灯管方式、詳細は後述)の場合一回の点灯で約1時間寿命が縮むため、頻繁に入切を繰り返す場所よりも長時間点灯する場所に向く。数分以内に再点灯する場合は、つけっぱなしの方が寿命が長くなる。尚後述の高周波点灯方式では、電子機器で制御することによって始動時の電熱予熱を最適化し、従来方式に比べ点灯耐性の大幅向上を実現した。
直管は、ワット数が大きいほど定格寿命が長い。よって、器具が選べる場合は20ワット*2本より40ワット*1本を選択することにより、交換の手間を減らすことができる。
日本工業規格(JIS)では、光の1つの定義にしている。
[編集] 蛍光灯の点灯方式
[編集] 手動スタート方式
旧型の点灯方式で、始動スイッチを押している間、フィラメントに電流が流れて加熱される。 始動スイッチを離すと、スイッチ接点間に安定器の作用により高電圧が発生して、蛍光管内部で放電が開始する。 停電後、復帰しても、始動スイッチを押さなければ点灯しない。
[編集] 点灯管方式(FL)
電源を入れるだけで自動的に点灯するようにしたもの。 蛍光管・安定器・点灯管(グロースイッチ)で構成される。 最も普及している。 スイッチを入れると点灯管が放電し、安定器に電流が流れる。 電流は安定器から蛍光管のフィラメントに進み、そして点灯する。 点灯にかかる時間は、従来型の点灯管を使用した場合は3秒程度と蛍光灯の中では遅い。 点灯する際点灯管から「コトン」もしくは「コン・コン」など若干音が鳴る。
[編集] ラピッドスタート方式 (FLR)
「ラビット」と呼ばれる事があるが、正しくは「ラピッド(rapid)」で「速い」の意。 点灯管が存在せず、磁気漏れ変圧器で始動する。点灯は即時。 蛍光管は専用のものが必要。 普通のスターター式の蛍光灯より太い。
[編集] 高周波点灯方式 (Hf、FHF)
「インバータ式」とも呼ばれる。こちらも点灯管がなく、 交流の商用電源をインバータ装置でより高周波の交流電力に変換し、点灯する。 即時に点灯でき、高周波点灯により発光効率も上がり、ちらつきも少ない。 安定器(回路)構成部品が小型のため、器具の小型化も可能。 器具からの騒音が小さい。一般に20kHz-50kHzの周波数が使用される。 点灯管方式と比べると明るいが、蛍光管の値段はそれと比べて高い。
[編集] 使用による外見の変化
- アノードスポット
- エンドバンド
- 内面導電性被膜(EC黒化・黄変)
- 電極付近の水銀付着による黒ずみ
- ガラス管中央付近の水銀付着による黒化現象
[編集] 蛍光灯の種類
- 一般形蛍光灯 、直管、棒状の蛍光灯 - FL、FLR、FHF
- 環形蛍光灯 ドーナツ状の蛍光灯 - FCL
- スリムタイプ - FHC
- ツインタイプ - FHD
- 環形蛍光灯を総称してサークラインと呼ばれているが、東芝(現在は子会社の東芝ライテツク)の商標である。
- 電球形蛍光灯 - EFA、EFD、EFG、CFL
- コンパクト形蛍光灯 - FPL、FDL、FML、FHT、FHP、FWL、FGL
- 高周波点灯専用形蛍光灯(Hf蛍光灯) - FHF、FHP、FHT
- 冷陰極形蛍光灯(冷陰極管) - CCFL
- 長時間残光形蛍光灯
- 光触媒膜付蛍光灯
- 合成樹脂皮膜付蛍光灯
- 無電極蛍光灯
- 補虫器用蛍光灯
- 避虫用蛍光灯
- 小さな金属球入り
[編集] 蛍光灯の光源色の種類
- 三波長発光形蛍光灯 - EX
- 昼光色(6500K) - D
- 昼白色(5000K) - N
- 白色(4200K) - W
- 温白色(おんぱくしょく。3500K) - WW
- 電球色(2800K) - L
※()内は色温度。
また、美術・博物館や病院、色彩に関する事業所向けに、各光源色に演色性を改善した高演色形や色評価用(SDLおよびEDL)がある。
一般の照明用には白色[W]・昼光色[D]のものが使われているが、最近は住宅や店舗などを主体に三波長発光型(昼白色[EX-N]、昼光色[EX-D]のものが多い)に切り替わっており、事務所や工場などでも従来からの昼光色・白色に代わって昼白色[N]に主流が移行しつつある。
また、ランプの明るさ(効率)についても、厳密にはその光源色によっても多少異なる。最も明るいのは3波長発光型の昼白色・電球色であるが、3波長型でない従来型では白色[W]が最も明るい。昼光色系の場合、見た目には明るく感じるが、実際には白色系に比べると10%前後暗くなるものの、実用上はあまり変わらない。演色性を特に重視したタイプでは一般照明用と比べて30~40%も暗い場合もある。
[編集] 蛍光ランプの廃棄
蛍光ランプには水銀を含むガスが封入されているため、割って埋め立て処分するなどの方法では、割った際にガスが環境中に放出されたり、最終処分場が水銀で汚染されてしまうなどの問題がある。そのため、水銀を回収できる専用のリサイクル施設(例:イトムカ鉱山を参照)に処理を委託する方法がとられつつあり、環境マネジメントシステム ISO 14000 の認証を取得している企業などではこちらの方法が一般的である。
米国においては廃棄蛍光ランプは専門の業者が回収を行い、この際割らずに回収することと定められている。割れた蛍光ランプを回収する場合には高額な回収費用が請求される。回収された廃棄蛍光ランプは専門の設備により口金金属部、管状部に丁寧に分割され、中の水銀は銅キャニスターに回収される。残りの部材はアルミ、電極、ガラス、蛍光体へと分別され、完全リサイクルされる体制が確立されている。 また、北ヨーロッパにおいては蛍光ランプのロングライフ化への取り組みが盛んであり、これは、廃棄蛍光ランプの総量を出元から削減しようとするものである。
一方、日本においては、一般家庭から廃棄される蛍光ランプについては、一部の自治体が回収を行っているものの、現在でも多くの地方自治体が燃えないごみに出すように定めており、環境意識の高まりとともに改善を求める声があがっている。
なお、自治体が回収を行っていない地域であっても、一部の家電量販店や電器店・ホームセンターなどが「蛍光管回収協力店」として店頭で回収している場合があり、個人で持ち込むことができる。
また、これ以外にも大日本プロレスが同様の手段を取っている。(回収された物は大抵試合で使われ、破壊される。)
[編集] 過去の蛍光灯
過去の蛍光灯は現在の蛍光灯に比べ太かった。 太さは38mmで、型番のワット数を表す数字の後にSが付かない、またはSが1つのみだった。 細い蛍光灯が一般的になった当時は、新しい蛍光灯に換えたときに、古い蛍光灯が太いため新しい蛍光灯の箱に入らないという問題も起こった。
なお、通常の器具の場合、太さの異なる蛍光灯に交換しても問題ないが、一部の密閉器具(防水型など)の場合、例えばFL20を使用する器具で太さの異なるFL20SS/18を使用した場合、発熱量が増え危険であるため、この器具では必ずFL20を使用しなければならない。但し、旧型の蛍光灯の専用器具は現在はあまり見かけない。