遮光幕
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遮光幕(しゃこうまく)とは、光を遮るための幕(カーテン)などのことをいう。
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[編集] 鉄道車両の遮光幕
日本の鉄道車両の場合、夜間・トンネル内などでは乗務員室(運転室)背面の遮光幕を閉める。これは、客室の照明がフロントガラスに映り込み、前方を監視するのに支障があるためである(夜間、ルームライトを点けたままで乗用車を運転する状態を考えてもらえばよい)。
形状は、ほとんどの場合がロールスクリーン方式で上げ下げを行う、いわゆる遮光「幕」であるが、一部には乗務員室背面ガラス下から遮光板を引き出す形状のもの(京成電鉄、京浜急行電鉄、JR東海119系、JR西日本105系などで見られる)、横引きのプリーツカーテン(JR東日本255系、JR東海373系、近鉄21000系、阪神電鉄など)を使用している事業者や車両も存在する。
色は、客室側を白色・淡色もしくは内装の化粧板と同系色、乗務員室側は黒色や茶色である場合が多いが、客室側が緑色のもの(阪急電鉄など)、表裏一体でグレー(旧・国鉄)を用いる事業者もある。
運転士が列車を運転する場合で遮光幕の使用が許される場面は、早朝、夜間、悪天候時、地下鉄、トンネルなど視界に自然光が差し込まず、客室内の光が反射することが多い区間、およびその直前の停車駅を出発した後から直後の停車駅に到着する間に限られ、それ以外の場合は原則として全面開放し、不必要に使用して運転してはならないことがほとんどの事業者で指導されている。これは、乗客に対して業務内容を堂々と見せるということであり、乗客側から見ても前方の風景が見えることにより精神衛生上良い効果をもたらす。
しかし、職業としての運転士は、安全輸送・定時運転の観点から、ブレーキのタイミングについて、秒単位の集中力で制動時期を考えており、できれば客室からの視線はない方がいい、というのが本音である。この意見に考慮し鉄道事業者によっては運転士のプライバシー保護等を名目として、昼間から遮光幕が閉められている路線もある。
- 線区や車両によっては「トンネルの多い区間はカーテンを閉めさせていただきます」等の掲示がしてある。
- 一部の車両では特殊な遮光ガラスを使い、夜間・地下区間でも遮光幕の使用は不要となっている。
- 昭和50年代の旧・日本国有鉄道(国鉄)では、日中であってもすべての遮光幕は閉めたままであることが珍しくなかった。運転士も車掌も、遮光幕を閉めた乗務員室で勤務中漫画を読んだり喫煙をしたりすることが全国で見られた。本来の設置目的からは逸脱した使い方をされていたわけである。民営化後、JR各社はこの問題に取り組み、現在では遮光幕をできるだけ開放して乗務するという方針となっている。なお、国鉄103系電車でATCを搭載した先頭車は、運転席後部をATC車上装置の設置スペースとしたために壁になっており、助士席側にある客室への出入り口のみに窓があった。
- 以前は、夜間は全面使用という鉄道事業者が多かったが、最近では運転席側の遮光幕だけ使用し、助士席側の幕は開放する事業者が増えている。また、JR東日本E231系電車のように助士席側には幕が無い車両が増えてきた。もともと幕を設置していた車両であっても、助士側の幕を撤去した車両もある。助士席側のフロントガラスに室内の光が映り込んでも運転には支障がないためである。
- 京成電鉄やJR東海自社発注の通勤車両、および関西私鉄の車両のほとんどには、以前から助士席側に遮光幕は無い。したがって夜間であっても助士側のガラスから前を見ることができる。もっとも、前面の眺望のためというよりも運転士が乗務員室を意図的に完全密室にする行為を防止するためである。
- 乗務員室が「全面壁」の車両を新製したり、日中の地上区間まで遮光幕を全て閉め切って運転することを認める事業者はごく一部の路線を除きさすがに見られなくなったが、一部事業者ではいまだに日中でも遮光幕を上げずに運転するケースが見られたり、ごく一部事業者の車掌が夜間・早朝に使用している場合がある。「のぞかれると集中力が落ちる」などと主張する勢力があるためである。また、一部の線区では「労働組合の力を誇示する」ものとして閉めているケースがある。だが、「本来不必要な過度の遮光幕使用は、車内への採光量を減少させ印象も悪くする」「車内秩序確保の上でも望ましくない」という意見を持つ鉄道ファンもいる。そのような鉄道会社では、信号喚呼もまともに出来ていないことが多いとまで言及するのは偏見であり、つまりは運転士各個人の資質に過ぎない。「遮光幕を全面開放すると事故の原因になったりするということはなく、むしろ全面開放により運転士に適度の緊張感とサービス意識をもたらし、乗客にあたえる信頼感は向上する」と主張する鉄道ファンもいるが、全面開放すると当然視界不良となり、信号確認・前方注視・非常制動等、運転士の職務の遂行が困難となるため、大いに危険であり、このような職業としての見地は、ファン的見地からでは理解できないものであると、現役運転士は語っている。(福知山線脱線事故の直後、JR西日本では、乗務員に対する暴力事件と共に、所属車両の運転席背後窓に「命」と書かれたメモが張られる嫌がらせも発生している)
- 事故等の発生時にも、客室から前面が見えていたほうが見えない場合より目撃者の確保の観点から有利である。
- 鉄道の場合事故が発生する可能性がゼロではないため、前方の視界が確保されているほうが心理的にも安定するという。そのため夜間でも(すべての仕切り窓に遮光幕があっても)全面使用を行わないようになってきている。
- 車掌が列車後部などの乗務員室で、現金査算する場合に一時的に用いることがあるが、この場合は防犯の観点から正規の取り扱いである。
- 東武50050系は運転室と客室の仕切り窓の配置の関係から夜間と地下区間では原則すべての遮光幕を閉めており、同じ区間を走行する東武30000系が助手席側遮光幕を使用していないことや、当初から助手席側に遮光幕がない東急田園都市線や東京メトロ半蔵門線所属車とは遮光幕の取り扱いが微妙な窓仕切りの違いで異なっている。
[編集] バス車両
- 一般路線バス、多くの高速バスでは運転席自体が仕切られた部屋にあるわけではなく、カーテンもない場合が多い。運転席の後ろに簡単な仕切りがあるだけである。そのため運転席付近の室内灯は乗降の時だけ点灯するようにしている。また室内の照明灯にカバーを付けて前方に明かりが当たらないようにしている。前方に室内の光が映りこむことはあるが、運転に支障がでるほどではない。
[編集] 日本で製造された諸外国向け鉄道車両
- 新製当初から乗務員用ドアを含めて全く仕切り窓のない「全面壁」仕様であったり、客室と乗務員室の間に窓ガラスはついていても、現地において遮光幕は終日下げられている場合が多い。