MT比
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MT比(MTひ)は、動力分散方式の鉄道車両において動力車(M)と付随車(T)の構成比を示したものである。
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[編集] 定義と特性
電車や気動車など動力分散方式の車両では、走行するための動力を持った動力車と、持たない付随車により構成される。この構成比をMT比と呼び、前項を動力車数、後項を付随車数の比で示すのが基本である。動力車が6両、付随車が4両の編成であれば、MT比は3:2となる。また、単純に動力車と付随車の編成をそのまま6M4Tのように表すことがあるが、これも広義のMT比といえる。
動力車の比率が高いものをMT比が高い(大きい)、付随車の比率が高いものをMT比が低い(小さい)と表現する。一般にMT比が高いと高性能な編成となり、逆にMT比が低いと経済的な編成となる。また、同一の車両形式であっても、路線の特性やダイヤに応じてMT比を変えることにより、性能の異なる編成を組むことができる。
[編集] 電車のMT比
- 電車の動力車では各車軸に1台ずつ主電動機を搭載するのが基本であるが、JR東海313系電車のように、3両編成の場合でも通常の動力車を1両、付随車を1両とした上で、もう1両を片側の台車のみ動力台車とし、全体のMT比を1:1としている場合もある。同様な例では、JR西日本223系電車が4つの車軸のうち3つに主電動機を搭載し、全体のMT比を調整していたこともあった。このような例から、動力台車と付随台車の構成比、もしくは動力軸と非動力軸の構成比と定義することもできる。
- MT比は要求性能と経済性から決定され、要求性能としては編成出力や粘着性能があげられる。一般に急勾配路線の電車や、地下鉄など高加速性能を要求される電車は、これらの要求性能が高いため、比較的高MT比が設定されている。
- 直流電動機が用いられた時代は急勾配路線用車・高加速性能車で2:1、平坦線区用は1:1程度が一般的であったが、一部の私鉄では小型小出力の電動機を搭載して、オールMとする場合もあった。現在では、小型で高出力な誘導電動機が用いられるとともに、電子制御技術の進歩により粘着性能も向上したため、MT比は下がる傾向にあり、1:1を下回る編成も珍しくない。
- 200km/h以上の高速運転を行う新幹線は、電動機出力の関係で高いMT比が要求され、直流電動機の0系はオールMであった。その後高出力な誘導電動機に移行し、300系では2:1程度に下がったが、その後の高速化から再び高くなる傾向にあり、最新のN700系では300km/h運転を行うことや加速性能を向上したことなどから7:1と高く設定されている。
[編集] 気動車のMT比
- エンジンは過負荷運転ができないため、電気車における短時間定格という考え方が無い。オーバーヒートに起因するさまざまなトラブルを防ぐため、登り勾配での均衡速度が低い変速比とされており、低出力車では付随車の牽引余力も少なく、不具合エンジンカット時の余裕も鑑みて、編成はすべて動力車とするのが基本である。
台車に直接、電動機を架装できる電車と異なり、気動車ではエンジンと変速機のために床下に大きな空間を要し、振動、騒音源ともなるため、気動車の付随車は、過去には、海外の例に倣い固定編成としたキサハ43500、40名の食堂席と発電セット、水タンクのスペースの捻出が命題であった特急用食堂車であるキサシ80、同じく特急用食堂車で、編成出力の増強により、その余裕を付随車化による静粛性向上と水タンクスペースにあて、発電セットも持たないキサシ180、改造に要する費用と時間を抑える目的のキクハ45、キサハ45など、特殊なものに限られており、総数5500両を超えた国鉄気動車の中でも非常に少数となっている。
JR化以降は、エンジンと変速機の性能向上により、JR北海道で付随車の組み込みが再び見られるようになり、エンジンスペースが必要無いことを生かした、2階建て車輌キサロハ182形や、静粛性と維持費を考慮した改造寝台車が登場した。
- 旧国鉄1950年代からローカル線の無煙化対策として気動車を大量に投入してきたが、これらの気動車に搭載された機関(DMH17系ディーゼルエンジン)は非力であり、とりわけ急勾配路線では満足な走行性能が得られなかった。そこで、機関を2基搭載した動力車を投入してきたが、搭載する機関の数により走行性能が異なるため、機関2基搭載をM、1基搭載をmと動力車を区別して編成を示していた。たとえば、4M2m1Tは、機関を2基搭載した動力車が4両、1基搭載の動力車2両、付随車が1両の編成である。