征途
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『征途』(せいと)は佐藤大輔によって書かれた架空戦記である。全3巻。佐藤の出世作であり、彼の長編シリーズ作品中、2006年8月末時点で唯一完結したシリーズでもある。
目次 |
[編集] 各巻題名
- 征途 1 衰亡の国(ISBN 4191551302)
- 征途 上 衰亡の国(ISBN 4198919380)
- 征途 2 アイアン・フィスト作戦(ISBN 4191552511)
- 征途 中 アイアン・フィスト作戦(ISBN 4198919577)
- 征途 3 ヴィクトリー・ロード(ISBN 4198500568)
- 征途 下 ヴィクトリー・ロード(ISBN 4198919690)
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
[編集] 概要
1巻は冒頭で1995年、宇宙往還機の発進を前にした沖縄県嘉手納宇宙港の情景が描かれた後、一転して1944年のレイテ沖海戦まで視点が溯る。日本艦隊はサマール島沖で栗田健男提督が戦死した後も進撃を続け、上陸作戦中の合衆国陸海軍に大打撃を与える。その結果として合衆国は沖縄侵攻を遅らせると共に、ソヴィエトに対して北海道侵攻を認める。
2~3巻では留萌 - 釧路線を境に日本国と日本民主主義人民共和国(北日本)に分断された二つの日本が、激しく対立しながら発展していく有様を同じように分断された兄弟を中心に描き、北日本の独裁者の死を切っ掛けに勃発した最後の戦いの後、宇宙往還機が発進した直後の嘉手納宇宙港で幕を閉じる。
物語は、これらの歴史に関わった藤堂家一族と、1隻の戦艦=太平洋戦争を生き残った戦艦大和を中心にして、「あり得たかもしれない、もう一つの日本の戦後史の歩み」を描いている。
[編集] 登場人物
- 藤堂明:1巻の主人公。海軍中佐。大和の砲術長としてレイテ沖海戦に参加、途中で戦死した森下艦長、能村副長に代わって艦の指揮を執る。翌年大佐に昇進して武蔵の艦長となり、沖縄沖海戦で戦死。
- 藤堂守:明の長男。1945年には海軍少尉として流星改(彼の乗機は、エンジンを換装した流星改一型)に搭乗していたが、エンジントラブルとソ連軍の対空射撃による搭乗機の被弾で樺太(サハリン)に不時着し、ソヴィエト軍の捕虜になるまでに遭遇したある出来事によって深いトラウマを負う。北日本の人民空軍でエースとなり、最終的には元帥まで昇進する。戦後半世紀の間、兄弟が直接顔を合わせたのは只一度であった。なお、藤堂兄弟の名前は『宇宙戦艦ヤマト』の登場人物である古代進と守に、彼らの妻の名前もやはり同作品の森雪とスターシャにちなんでいる。
- 藤堂進:明の次男。大和が就役した日に生まれた。父の死後はその友人であった堀井の家で育てられ、彼の娘で一歳年上の雪子と結婚。また海上自衛隊に入り、ヴェトナムに派遣される。湾岸戦争ではやまと艦長を勤め、統一戦争終結後、海将補で退役。
- 藤堂拓馬:進の長男。航空自衛隊の戦闘機パイロット。1982年の南北首脳会談(守と進も出席)が行われるなか、彼の搭乗するF15CJ改イーグルが「領空侵犯機」として日本民主主義人民共和国・第一二五防空中隊のミサイル攻撃により撃墜され戦死。ちなみに彼の名は『惑星ロボ ダンガードA』の主人公一文字タクマちなんだものと思われる。
- 藤堂輝男:進の次男。海上自衛隊で戦闘機に搭乗し、ジェット時代初のダブル・エース・パイロットとして空戦史に名を残す。1995年には宇宙往還機第一号の機長に選ばれる。なお、彼の名前は『超時空要塞マクロス』の登場人物である一条輝、彼の妻になる土井美咲は同作品で早瀬未沙を演じた土井美加にちなんでいる。
- 福田定一:史実では歴史小説家の司馬遼太郎となった人物。1945年には陸軍少尉として戦車小隊長になり、ソヴィエト軍の上陸に備えて北海道へ向かう輸送船の中で守と出会う。戦後は新聞社に勤めたのち警察予備隊に入隊、北海道で北日本軍と戦う。ヴェトナムでゲリラ掃討戦を行った事から国内の左翼勢力に糾弾され、退役を余儀なくされる。歴史小説家となり(ペンネームを名乗ったかどうかは不明)湾岸戦争時には防衛庁からやまと乗艦取材に招待される。藤堂一族を描いた『海の家系』の作者。
- 後藤田正晴:史実では内閣官房長官・副総理などを歴任した人物。本作では日本国政府の諜報機関「公安調査情報庁」(略称として「SRI」、他国の同業機関からは「トウキョウ・フーチ」の呼称あり)の長官を務め、対北日本・対ソビエト情報工作に従事。祖国統一戦争を待たずに病死したと思われる。
- 神重徳:史実では大日本帝国海軍の将官、太平洋戦争終結後に北海道で行方不明となった人物。本作では日本民主主義人民共和国・赤衛艦隊司令官として連合国の「アイアン・フィスト作戦」に対抗すべく駆逐艦隊を率いて出陣。第二次日本海海戦で<やまと>他連合軍艦隊に魚雷を命中させ、劣勢に陥ったソビエト連邦義勇艦隊を壊滅から救った。
- 源田実:史実では大日本帝国海軍の将官、太平洋戦争終結後に国会議員となった人物。本作では日本民主主義人民共和国・人民空軍の初代司令官として活躍。
- ロバート・A・ハインライン:史実ではSF作家となった人物。レイテ沖海戦ではトーマス・キンケイドの、沖縄沖海戦ではアーレイ・バークの参謀として大和型戦艦と戦う。やまとが国連艦隊に編入された際には連絡将校として乗り込み、世界最大の主砲の射撃に感銘を受ける。中将で退役後に駐日大使となり、ヴェトナム反戦デモを目撃する。
- 「先生」:本名不明。大戦末期には愛知航空機の技師として、機体の領収に来た守と出会う。戦後は日本国の宇宙開発を主導し、防衛庁を始めとするあらゆる官庁に働きかけて開発を推進する傍ら、朝の子供向け番組に出演して宇宙への夢を語り続ける。宇宙往還機のエンジン開発にも携わった。糸川英夫か野田昌弘のどちらか、あるいは両方をモデルにしたと思われる。
- 矢野(矢野徹) - アリス・シェルドン(ジェイムズ・ティプトリー・Jr.) - ジェラルド・パーネル(ジェリー・パーネル) - チャールズ・シェフィールド:いずれも史実ではSF作家となった人物。
[編集] 兵器
作中に登場する実在の兵器の一部には一般的な表記と異なる名前が用いられている物がある。
[編集] 大日本帝国
- 航空機
[編集] 日本国
[編集] 警察予備隊/海上警備隊
- 特車
- 航空機
- 超甲型警備艦
- やまと(大和)
- 揚陸艦
- おおすみ
[編集] 陸上自衛隊
- 装甲車両
- 61式戦車 - M113 - M557指揮車 - 86式戦車
[編集] 海上自衛隊
- 超大型護衛艦
- やまと(大和)
- ミサイル護衛艦
- きりしま - はたかぜ
- 航空護衛艦(空母)
- 打撃護衛艦
- 対潜護衛艦
- はつゆき - しらゆき - あさぎり - あまぎり
- 河川哨戒艇
- 航空機
- A4EJスカイホーク - F7UJカットラス - F14Jトムキャット - FV1Jハリアー - FV2ヴァルキリー(B型、D型)
- 攻撃機
- A1HJスカイレイダー - AC46J(ガンシップ)
[編集] 航空自衛隊
- 戦闘機
- 観測機/早期警戒機
- OB2J - E5B
[編集] 北日本
[編集] 人民赤軍
[編集] 赤衛艦隊
- 第二次日本海海戦時
- 第三次日本海海戦時
- 解放(II)(ソヴィエツキー・ソユーズ) - 独立(II)(キーロフ級ミサイル巡洋艦) - 統一(アドミラル・クズネツォフ級空母ワリヤーグ) - 栄光(スラヴァ級ミサイル巡洋艦)
- 潜水艦
- 八月一五日級 - 真岡
[編集] 人民空軍
[編集] 戦略打撃軍
- IRBM
- SSJ24人民三号(SS20改)
[編集] アメリカ合衆国
- 戦艦
- 航空母艦
- ミッドウェー - インデペンデンス - エンタープライズ - ニミッツ - エイブラハム・リンカーン
- 護衛空母
- セント・ロー - ファンショウ・ベイ - ホワイト・プレーンズ - カリニン・ベイ - ガンビア・ベイ - キトカン・ベイ
- 重巡洋艦
- ボルチモア級重巡洋艦 -
- デ・モイン級重巡洋艦 -
- 軽巡洋艦
- ナッシュビル
- 原子力ミサイル巡洋艦
- カリフォルニア級原子力ミサイル巡洋艦 - カリフォルニア
- イージス巡洋艦
- タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦 - ヴェラ・ガルフ
- 駆逐艦
- フレッチャー級 - ジョンストン
- スプルーアンス級駆逐艦 -
- ミサイル駆逐艦
- キッド級ミサイル駆逐艦 - キャラハン
- ミサイルフリゲート艦
[編集] ソヴィエト連邦
- 戦艦
- 巡洋戦艦
- クロンシュタット - セヴァストポリ(II)
- 駆逐艦
- オグネヴァイ級
- 航空機
[編集] 大和型戦艦の概要、活躍
本作品においては、大和型戦艦が重要な役割を担っている。概要及び活躍は以下の通り。兵装などの詳細は「大和型 (架空戦記)」を参照。
[編集] 大和・武蔵
両艦とも1944年10月の捷一号作戦までは史実とほぼ変わらない。捷一号作戦時、大和は、史実では副長の能村次郎中佐(当時)が砲術長を兼任していたが、この作品では新任の藤堂明中佐が砲術長を務めていたことにされている。
シブヤン海で、武蔵の代わりに長門が米海軍高速空母機動部隊の空襲により沈み、サマール島沖での米護衛空母部隊との戦闘中に大和が被弾、栗田健男中将以下の第二艦隊司令部、宇垣纒中将以下の第一戦隊司令部、森下信衛艦長、能村副長らが全員戦死する(この時、大和の艦橋に命中したのは利根の主砲の流れ弾だったが、作品世界内でその事が明らかになったかどうかは不明。また、この利根の砲弾は後に北日本の秘密警察長官となった滝川源太郎が兵器工廠で仕上げたものとも示唆される記述もある)。大和の指揮は藤堂砲術長が代行し、武蔵他の僚艦と共にホモンホン沖で真珠湾帰りの米旧式戦艦6隻を撃沈。さらにレイテ湾で「セント・クリスピンの虐殺」と呼ばれる上陸船団及び海岸堡に対する艦砲射撃を行った。
本土帰還後、大和は損傷修理を兼ねた大改装を受ける。また、武蔵についても電探の更新と機銃などの増設が行われた。
1945年7月25日、武蔵以下重巡2、軽巡1、駆逐艦10からなる第2艦隊(司令長官・伊藤整一中将、武蔵艦長・藤堂明大佐)は沖縄沖で戦艦8、重巡最低3からなる米軍第54任務部隊と激突した。台風の影響もあって混乱した米軍が戦力を逐次投入してきた事も幸いし、武蔵は戦艦ミズーリ、ニュージャージー、インディアナ他1隻を撃沈し、他に戦艦数隻を大破させたが、ウィスコンシンなどの反撃を受けて甚大な被害を被り、最終的に沈没する。
1945年8月21日、大和と少数の駆逐艦からなる水上部隊は石狩湾に来襲したソヴィエト艦隊を迎撃、戦艦ガングート、セヴァストポリ、アルハンゲリスク他輸送船多数を撃沈・撃破する。大和自身も被弾し黛治夫艦長らが戦死するが大した損傷とはならなかった。一方、既に道北地方を制圧しつつあったソヴィエトは、この敗戦によって北海道全島占領を断念する。
[編集] やまと
終戦後、大和は米軍によって接収された。一時は反応兵器実験の標的艦にされる予定だったが、「向こう側」の出現を受けてまたも改装され、超甲型警備艦「やまと」として海上保安庁海上警備隊に配属された。
北海道戦争中盤の1952年6月5日、やまとは国連日本援助軍エイヴル部隊の一員として、ソヴィエト義勇艦隊及び北日本赤衛艦隊と第二次日本海海戦を戦う。旗艦アラバマが撃破された後はやまと艦長の猪口敏平が艦隊指揮を代行し、巡洋戦艦クロンシュタット、セヴァストポリを撃沈、ソヴィエツキー・ソユーズを大破させた。しかし、向こう側の駆逐艦解放(旧・春月)の魚雷が命中し、追撃を断念する。
海上自衛隊の発足と共にやまとも護衛艦隊に移管し、超大型護衛艦(艦番号BB-11)に改称される。一時期予備艦となったが、ヴェトナム戦争参加に際して現役に復帰、小改装(電子戦能力の向上、ヘリ甲板仮設など)を受けた上でヴェトナムへ派遣される。
ヴェトナム戦争後ふたたび予備艦になっていたやまとは、1980年代に入って「10・4・10・10艦隊」計画により大改装を受け、イージス艦となる。
藤堂明の息子、藤堂進は1991年1月の湾岸戦争で、やまと艦長(一等海佐)として空母ミッドウェイを巡る戦闘に参加。1994年7月の統一戦争では第8護衛隊司令官(海将補)として向こう側の赤衛艦隊との第三次日本海海戦に参加、さらに豊原近郊のIRBM基地に対する艦砲射撃を指揮した。