Privacy Policy Cookie Policy Terms and Conditions アドミラル・クズネツォフ (空母) - Wikipedia

アドミラル・クズネツォフ (空母)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

アドミラル・クズネツォフ
アドミラル・クズネツォフ
要目
排水量 軽荷排水量 43,000t
基準排水量 55,000t
満載排水量 67,000t
全長 飛行甲板 304.5m
水線長 281m
全幅 飛行甲板 72m
水線幅 38m
吃水線 11m
機関 ボイラー8基 / 蒸気タービン4基・4軸
速力 最大29kt
乗員 固有要員1,980名(うち士官520名)、航空要員626名、司令部要員40名
兵装 グラニート対艦巡航ミサイル (SS-N-19) 12セル
キンジャール対空ミサイル (SA-N-9) 192セル
コールチク近接防御システム (CADS-N-1) 8基
AK-630 30mmガトリング砲 6基
ウダフ1 (RBU-12000) 対潜ロケット
10連装発射機
2基
搭載機 Su-33艦上戦闘機 20機
Su-25UTG艦上練習機 4機
Ka-27PL対潜ヘリ 18機
Ka-27PS捜索・救難ヘリ 4機
Ka-31早期警戒ヘリ 2機
レーダー マルス・パッサート フェーズドアレイレーダー
フレガート-MR 予備レーダー
ソナー オリオン ソナー、プラチーナ 曳航式ソナー
言語 表記
日本語 アドミラル・クズネツォフ
アドミラール・クズニェツォーフ
ソ連海軍元帥クズネツォーフ
ロシア語 Адмирал Кузнецов
Адмирал флота советского союза Кузнецов
英語 Admiral Kuznetsov
ロシア語 Проект 1143.5
片仮名 プロイェークト1143.5
英語 Project 1143.5

アドミラル・クズネツォフАдмирал Кузнецов)は、旧ソ連ロシア海軍のプロイェークト1143.5「重航空巡洋艦」。

正式な艦名は「アドミラール・フロータ・ソヴィェーツカヴァ・ソユーザ・クズネツォーフ(Адмирал флота советского союза Кузнецов, ソ連海軍元帥クズネツォーフ)」で、1939年から1955年まで海軍総司令官を務めた(ただし、戦後一時期、左遷されている)ニコラーイ・ゲラースィモヴィチ・クズネツォーフソ連邦海軍元帥に由来する。

現在ロシア海軍が保有している唯一の航空母艦の位置付けにある艦であり、米海軍以外の国の中では最大の航空母艦である。

本艦は1936年締結されたボスポラス海峡ダーダネルス海峡の航空母艦通過禁止に関するモントルー条約に対しての政治的処置として、ロシア海軍における艦種分類は「航空母艦」ではなく「重航空巡洋艦("Tyazholiy Avionosnyy Kreyser (TAKR)")」となっている(ちなみに、ロシア語で「航空母艦」は、"Avianosyets"と言う。これを逆に日本語に直訳しても「航空母艦」という意味になる)。

目次

[編集] 建造に至るまで

プロイェークト1143.5として1982年9月1日(文書上は1983年2月22日)にニコラーエフ市黒海造船所(第444造船所)で起工。1985年12月5日進水。1989年より黒海で各種海上テストを開始。1990年12月25日就役。むろん建造中より本艦の存在は西側軍事関係者の注目するところであり、当初は原子力空母であると見られていたが、実際には通常動力艦であった。

設計を担当したのは、ソ連の一連の航空機搭載艦を手掛けたネフスキー計画設計局であり、設計主任は同設計局局長V.F.アニケーエフであった。だが彼は、本艦の完成を見る事無く1988年に死去した。

[編集] 計画原案

旧ソ連は、本型より前のプロイェークト1143(キエフ級)に続く「航空機搭載艦」として、当初は、排水量8万トン、蒸気カタパルト4基装備、搭載機数70機以上の原子力空母・プロイェークト1160を建造する計画であり、暗号名は「オリョール」と呼ばれていた。設計作業は1970年代初頭より始まったが、海軍総司令官ゴルシュコーフ連邦海軍元帥の要求により、長距離対艦巡航ミサイルが搭載される事になった。この当時の国防相アンドレイ・グレチコ元帥は陸軍出身にしては珍しく空母推進派で、「諸君は何を躊躇しているのか? アメリカのような空母を造るのだ! わが国にも(米ニミッツ級のような)カタパルトと格納庫を備えた空母が必要なのだ!」と檄を飛ばし、部下たちを前にして彼の望む「空母」の姿のイラストさえ描いて見せた。その外見は米原子力空母ニミッツ級に近いものであった。だが、彼の後任のドミトリー・ウスチノフ元帥になってから状況は変わった。国防省も共産党中央委員会も本格的空母には消極的であり、多方面からの様々な横槍によって、設計段階で(祖国に)「撃沈」されてしまった。続いて1975年には、規模を縮小した6万トン級原子力空母・プロイェークト1153(蒸気カタパルト2基装備)が計画されたが、これもウスチノフ国防相の強硬な反対により潰された。ウスチノフはスターリンの崇拝者であり、かつてスターリンが語った「"空母"は帝国主義者の侵略兵器であり、我がソ連邦には無用のものである」という言葉をそのまま信じており、「帝国主義者」であるアメリカが保有しているような「原子力空母」の建造など認めるはずが無かった。

蒸気カタパルトを備えた「原子力空母」の計画が二度に渡って潰された後、1980年、キエフ級を拡大して全通飛行甲板とスキージャンプ台を備え、キエフ級と同一の蒸気タービン機関を備えた45,000トン級「航空巡洋艦」の建造が承認された(このあたりの経緯については、ロシア海軍機関誌「海軍論集」1992年3月号掲載論文「航空巡洋艦~我々は何が成されたか知っている~」で、とある現役の海軍大佐が匿名で告発したのだが、西側ではほとんど注目されなかった。「世界の艦船」誌にも同論文の訳が載せられたが、日本の艦船マニアは誰も注目しないまま忘れ去られてしまった)。

[編集] 起工まで

だが、思わぬところからの意外な妨害が、本艦の起工を遅らせる事になった。 キエフ級の艦載機であるYak-38を設計したヤコブレフ設計局が同機用の発艦補助装置を提案し、これを当時建造中の3番艦ノヴォロシースクに搭載するように強く働きかけたのである。 これにより、同艦の就役は当初予定の1979年から1983年にずれ込んだ。しかも、この「発艦補助装置」なる物はほとんど効果の無い代物であり、この間に費やした時間は全くの無駄となったのである。 ノヴォロシースクがドックに居たままでは次の航空機搭載艦(のちのクズネツォフ)を起工する事が出来ないので、起工は遅れてしまったのである。

加えて、海軍部内のアメリコ提督が本型に対抗してコンテナ船改造の対潜軽空母を提案し、現場の混乱に拍車を掛ける事になった。 アメリコ提督は、単に総司令官ゴルシュコーフ元帥への反発と対抗心からこの計画を提案したのであった。その魂胆が反映されたのか、この「コンテナ船改造対潜軽空母」は非常にいい加減な代物であり、ウスチーノフ国防相にすらソッポを向かれてしまった。 それでも一時期、このいい加減な計画が真面目に検討された事で、1143.5計画がさらに遅れる結果になったのである。

1981年に「ザーパド81」演習視察のため重航空巡洋艦キエフを訪問・見学したウスチーノフ国防相はその能力に感激し、1143.5計画艦の排水量を1万トン増やすように指示した。これにより、1143.5は満載排水量が6万トン近い大型艦となった。

「本格的空母」の計画がスタートしてから10年を経て、排水量は8万トン以上から6万トン以下となり、原子力は通常動力となり、当初は4基装備予定の蒸気カタパルトは1基も残らなかった。そこには、いかなる技術的な要因も存在してはいなかった。造船所の設備は拡大され、外国から大型ドックが購入され、既に大型の原子力巡洋艦キーロフが就航して艦隊において活動中であり、黒海沿岸のサキ飛行実験センターには蒸気カタパルトが組み上げられていた。既にソヴィエト連邦は、蒸気カタパルトを備えた原子力空母を建造できるだけのポテンシャルを有していたのである。だが、当時のソ連邦軍上層部も、政府(共産党中央委員会)も、その「ポテンシャル」を活用しようとはしなかった。「技術的冒険を避け、堅実な艦を造る事を望んだのだろう」という見方も有ろうが、当時建造されていたソ連海軍の艦艇で技術的冒険をせずに堅実な設計だったものなど、むしろ少数派に属する。

[編集] ソ連軍上層部の思惑

旧ソ連邦軍上層部がこの時期「本格的空母」の建造に消極的だった理由は色々有る。まず第一に予算の問題である。空母は建造するのに多大な費用が掛かる。原子力推進にすれば、建造費用は更に跳ね上がる。これは、陸軍出身者が幅を利かせる国防省や参謀本部にとっては、「(陸軍などに回されるべき)予算を食い潰す"身内の脅威"」でしかなかった。それに第一、ソ連邦軍上層部はそもそも「空母」というものがよく分かっていなかった。設計側がいくら技術的な理由を説明しても、彼らはまったく理解しようとしなかったのである。さらに、ソ連邦海軍においては航空部門は「窓際族」であり、担当者にも「閑職にまわされている」という意識が有った。海軍総司令官ゴルシコフ自身は「空母」の保有を目指してはいたが、連邦軍上層部が「本格的空母」の建造を認めないような状況下では、アメリカ空母のような艦の建造を推進する事など出来るはずも無く、「次善の策」として「空母らしい艦」の建造を進めるしかなかった。この方針の下に建造されたのがアドミラル・クズネツォフ級であり、その前のキエフ級であった。言わば「政治的妥協の産物」だったのである。

また、1970年代の西側の動向も、ソ連軍上層部や政府の判断に影響を与えた可能性がある。この時期、アメリカを初めとする西側各国では金の掛かる正規空母の保有に疑問が持たれていた。世界初の空母を建造したイギリスは、その最初の空母アーガス以来の伝統を有する正規空母の全廃を決め、代わりに比較的小型のV/STOL機軽空母(当初は「全通甲板巡洋艦」と呼ばれていた)を建造する事にした。この決定に従い、当時イギリス艦隊に残っていた最後の正規空母イーグルとアーク・ロイヤルは除籍された。

アメリカですら、建造に巨額の費用が掛かるニミッツ級原子力空母の建造を続行する事に対し、各方面から疑問が投げかけられ、海軍内にさえ原子力空母不要論を唱える者が出てくる有様だった。1975年に合衆国海軍作戦部長に就任したホロウェイ大将は「オールVSTOLネイビー構想」を掲げ、「21世紀までに合衆国海軍の主力はVSTOL空母たるべし」と公言した。アメリカ版VSTOL空母の制海艦 (SCS) の開発もスタートし、のちにV/STOL支援艦 (VSS) に発展した。様々な要求を受け入れていくうちにどんどん巨大化したV/STOL支援艦は、最終的には計画スタート時の二倍近くのサイズにまで膨れ上がり、艦載機として予定されていたXFV-12の開発も頓挫したので計画は挫折してしまったが、「安価な」VSTOL軽空母は西側各国マスコミの注目するところとなっていた。

このような動きをソ連側から眺めれば、「西側各国がこの有様ならば、こちらも金の掛かる正規空母を建造する必要など無いではないか。キエフ級の拡大型で充分だろう」と思うのも、当時の状況では無理からぬ事であったかも知れない。

[編集] ピャチョールカ

本型は、計画時に「ピャチョールカ」というニックネームで呼ばれる事も有った。これは基本的には「5番目の」という意味だが、この他、成績評価における「最優等」という意味でも使われる(プロジェクト1143の「5番目」という意味と、キエフ級よりも「優等な」という意味でそう呼ばれていたのであろうか)。

[編集] 艦名の変遷

本艦は何度も艦名を変えている事でも有名である。本艦の名前の推移は、当時のソ連邦の国内事情を色濃く反映したものとなっている。

起工時の予定名は「リーガ」(後に独立したラトヴィアの首都)であったが、その後、「リェオニート・ブリェージュニェフ」(レオニード・ブレジネフ)に改名された。さらに彼の権威が失墜したのを受け、進水時には「トビリースィ」(のち独立したグルジアの首都)に改名された。

なお、西側では当初「クレムリン」のコード名で呼ばれていた。

そして就役直前の1990年10月4日、ソ連国防相(1991年8月のクーデターにも参加したドミトリー・ヤゾフ元帥)命により、現在の名前「アドミラール・フロータ・ソヴィェーツカヴァ・ソユーザ・クズニェツォーフ」となった(この名称は、もともとは当時建造中のキーロフ級重原子力ミサイル巡洋艦5番艦の名前として用意されていたものだったが、同艦は10月4日付けで建造中止が決定され、宙に浮いた名前が「元トビリシ」の重航空巡洋艦に「流用」されたようだ)。これは、当時のソ連邦構成各共和国では分離・独立運動が盛んだったため、その一つであるグルジアの首都トビリシはソ連邦海軍軍艦の名前としては相応しくない、と判断されたためであった。同日付けで改名されたソ連軍艦は、他にバクー(キエフ級、アドミラル・フロータ・ソヴィエツカヴァ・ソユーザ・ゴルシコフに改名)が有った。

したがって「就役時の艦名はトビリシ」というのは誤りであり、「進水時の艦名はトビリシ、就役時の艦名はクズネツォフ」なのである。ただ、本艦が未だ「トビリシ」という艦名で盛んに海上テストを行っていた時、タス通信が気前良く同艦の公試中の写真を大量にリリースして西側の注目を集め、「ソ連の"本格的空母"トビリシ登場」と大々的に報じられたので、「就役時の艦名はトビリシ」と誤解されることが多かったのも無理からぬ事であったかも知れない。ちなみにこの当時、黒海で盛んに艦載機の発着テストを行っていた母艦トビリシのコールサインは「サラマンドラ」であった。

なお原因は定かでは無いが、当初西側では、トビリシの改名後の名前は「ヴィチャージ」と誤って伝えられており、1991年前半の「世界の艦船」誌にも、「ソ連空母ヴィチャージ」と記されている。あるいは改名候補の一つとして「ヴィチャージ」が挙がっており、それが中途半端に西側に漏れた可能性もある。なお、「ヴィチャージ」は古代ロシアの英雄のことで、ロシア語では「ヴィーチャスィ」(ヴィーチャシ、ヴィーチャジ)という。「ルースキイ・ヴィーチャスィ」(「ロシアのヴィーチャスィ」の意味)と同義で、ロシアではしばしば用いられる名称である。

[編集] 略歴

本艦は就役時、黒海艦隊第30艦艇師団に編入されたが、1991年8月、北洋海域への回航を前に、北洋艦隊所属となった。このあと黒海を抜けてムルマンスク方面に向かう予定であり、「8月にボスポラス、ダータネルス海峡通過」の旨はトルコを始め関係各国に事前通告済みだったのだが、人員不足などの理由により遅れに遅れ、結局、同艦がボスポラス、ダータネルス海峡を通過したのは、ソ連邦崩壊直前というきわどいタイミングになってしまった。同艦は、正規の乗員が揃わないまま黒海を後にして北洋方面に向かった。実際、独立宣言したウクライナ政府は本艦に対しても色気を見せており、クズネツォフに対して「ウクライナの財産であるから直ちに戻れ」と「命令」している。同艦が「直属上司」の北洋艦隊司令部にこの事を報告した後、同艦隊副司令官がセヴェロモールスクから同艦に駆け付け、「直ちにセヴェロモールスクへ向かえ」と「命令」して黒海を「脱出」した有様であった。ただ、本艦はこの時点では北洋艦隊に編入されていたので、それをウクライナが接収しようとしても法的根拠は皆無であり、非常にややこしい事になったであろう(ウクライナとロシアが所有権を争ったのは、あくまでも「旧ソ連黒海艦隊所属艦」である)。ボスポラス、ダータネルス海峡を通過したクズネツォフは、エーゲ海で地元漁船の網がスクリューに絡まったり、乗員2名が脱走を企てて拘束されるというハプニングを経験した後に北洋艦隊根拠地のセヴェロモールスクに到着した。その数日後、ソ連邦は消滅した。

名実ともに北洋艦隊所属となり、第7大西洋作戦戦隊・第43艦艇師団に編入されたクズネツォフであったが、ソ連邦崩壊による極度の財政難や人員不足などにより、定期修理や整備は満足に行われず、その行動はお世辞にも活発なものとは言えなかった。1994年、当初予定の定数を遥かに下回る機数しか揃わない状態で、不完全ながら搭載航空隊が揃った。

西側観測筋もクズネツォフは母港からほとんど出ることは出来ない状態と見なしていたが、同艦は1995年12月8日に母港セヴェロモールスクを出港し、地中海に向かった。随伴艦は、ソブレメンヌイ級ミサイル駆逐艦ベスストラーシュヌイと航用曳船数隻、それに949A(オスカーII)型原潜と971(アクラ)型原潜、という寂しい「空母機動部隊」であったが、クズネツォフには、ロシア海軍総司令官第一代理(副総司令官)イーゴリ・カサトノフ大将が座乗して指揮を執るほどの気合の入れようであった。「クズネツォフ機動部隊」は、12月23日に地中海入りし、1月29日~2月2日にシリアのタルトゥス港、2月17日~2月19日にはマルタ島に寄港した。その後、地中海を出て大西洋を北上、バレンツ海にて北洋艦隊の対空母機動部隊迎撃演習の「敵役」をつとめた後、3月22日にセヴェロモルスクへ帰港し、「クズネツォフ健在」を印象づけた。だが実はこの時、整備不良の為か、蒸気タービン機関の蒸気パイプが破損していたのである。

その後、クズネツォフはオーバーホールに着手したものの、資金割り当てがほとんど無かった為に整備は進まなかった。1999年、オーバーホールが20パーセントしか進んでいないのにも関わらず、北洋艦隊司令部はクズネツォフを現役に復帰させた。無論、このような状況ではまともに動かす事など出来るはずも無く、1998年と2000年には母港の近くに短期間出航したが、それ以外は係留され、ひどい状態になっていた(この当時の本艦をテレビ朝日の「ニュースステーション」が取材し、陸上施設にはろくな入浴設備が無いので艦内のシャワー室を使っている模様などが報じられた)。

特に機関の状態は酷く、蒸気タービン機関の蒸気パイプはほとんどが破裂している有様だった(この事が曲解して日本に伝えられ、一部の軍事誌で「同艦の機関は運用実績が悪く、何らかの欠陥が有るものと見られる」などと書き立てられたが、その原因は整備不良と錬度の高い乗員の確保が難しいが為の操作ミスと見られる。「世界の艦船」2004年12月号でも「現在もまた機関の大規模修理の必要に迫られている」と書かれ、「早期退役」の可能性についても触れていたが、この号が発売され店頭に並んでいた頃、クズネツォフは長期修理を終えて現役復帰し、演習のため大西洋上に有った)。

2000年当時、西側では、ロシア海軍はユーゴスラビア空爆後、地中海でプレゼンスを行うため、クズネツォフや原子力巡洋艦ピョートル・ヴェリキーを中核とする機動部隊を地中海に派遣する意向であると伝えられた。実際、ロシア海軍当局もそのつもりであったが、クズネツォフはそのような長期の航海が可能な状態では無かった。地中海遠征は2001年、2002年と延期され、やがて消えた。この間、母艦が使えないクズネツォフ航空隊は一年に一度ウクライナのサキ飛行場まで遠征し、発着訓練を行っていた。この時クズネツォフは「瀕死」の状態にあった。

プーチン政権成立後、本艦の修理の為の予算が本格的に割り当てられ、大規模な整備と修理が開始された。本艦はロスリャコヴォ海軍工廠の超大型浮きドックPD-50(スウェーデンから1979年に購入した8万トン級浮きドック)に入渠して機関部などの修理を行った。破損した8本の蒸気パイプは、ムルマンスクの工場で新たに作り直された。クズネツォフは2004年8月に修理を完全に終えて現役復帰した。その後、9月~10月に掛けて北大西洋で演習を行い、健在振りをアピールした。11月には、1999年に初飛行して以来音沙汰の無かった試作艦上戦闘機Su-27KUB(Su-33UB)のシートライアルも開始された。2005年3月にもバレンツ海で演習を行っている。2005年9月、再び北大西洋で演習を行ったが、9月5日、搭載機のSu-33艦上戦闘機1機が墜落事故を起こしている(パイロットは脱出に成功)。

クズネツォフは着艦拘束装置のトラブルも有り、2006年初めから修理及び整備のため再びドック入りした。9月下旬に修理を完了し、10月初頭より慣熟訓練を開始、2006年末までには北洋艦隊に完全に復帰する。

クズネツォフは2030年頃までロシア海軍に在籍する予定である。

[編集] 艦載機

Su-27の艦載型Su-33
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Su-27の艦載型Su-33
搭載予定だったMiG-29
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搭載予定だったMiG-29

上記表では、固定翼機と回転翼機が半分ずつ搭載されているが、これは、あくまでも「最大積載可能数」ではなく「現状における運用数」である。本艦が公試中に旧ソ連が発表したところによると、最大で約60機(固定翼機48機、回転翼機12機)搭載可能であり、52機(Su-33艦上戦闘機×18機、MiG-29K艦上戦闘機×18機、Yak-44E早期警戒機×4機、Ka-27哨戒ヘリコプター×12機)の運用が想定されていた。当初の予定ではMiG-29K艦上戦闘機も加わるはずだったが、財政難で実現しなかった。早期警戒機も、ターボプロップのYak-44Eを設計はしたものの、同じく財政難で開発中止となり、その代わりとして、Ka-27ベースの強襲輸送ヘリKa-29を改造した早期警戒ヘリKa-31が搭載された。

本艦の搭載機のうち、Su-33とSu-25UTGは第279艦上戦闘機連隊に所属しており、ムルマンスクの東方に位置するレスホーズ海軍航空基地をホームベースとしている。

[編集] 特徴

[編集] カタパルト

本艦は米海軍の空母と異なり、CTOLの艦上機をスキージャンプで離陸させ、着艦時にはワイヤーを使用するというSTOBAR方式で運用している。ただこれは、よく言われているような「旧ソビエト連邦においてカタパルトを実用化出来なかったことが原因」ではなく、この当時は、主に政治的な理由により、蒸気カタパルト装備の原子力空母を建造する事が許されなかったが為である。ソ連海軍は1970年代、二度にわたって蒸気カタパルト装備の原子力空母の設計案を作成したが、二度ともウスチーノフ元帥を筆頭とするソ連軍上層部(国防省)に潰されている。かかる状況下では、技術的に可能であっても蒸気カタパルト装備の空母の設計案など出せるはずも無かった。

発艦位置に着いたSu-33
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発艦位置に着いたSu-33

[編集] 旧ソ連のカタパルト開発

上述のように、旧ソ連は当初、キエフ級に続く航空機搭載艦として蒸気カタパルト装備の原子力空母を建造する計画であり、当然の事ながら蒸気カタパルトの開発も1970年代にスタートした。1980年代前半、「本格的空母」の就役をにらんで、黒海沿岸サキ飛行実験センターに「空母」への発着艦をシミュレートする「ニートカ」システムが建設されたが、そこには発艦用の8度と14度のスキー・ジャンプ勾配、着艦拘束装置と並んでカタパルトの試作品も設置されていた。このカタパルトはキエフ級と同じ蒸気ボイラーが設置され、1時間に115tの蒸気を作り出す事が出来た。カタパルトの蒸気性状は64気圧・470℃、全長は90m、直径500mmというサイズであった。当時のアメリカ国防総省発行の「ソ連の軍事力」1985年版にも、「ソ連が黒海沿岸飛行場に試作用カタパルト設置」と記述されていた。このカタパルトは、アメリカ製の蒸気カタパルトC-13に比べると蒸気消費量が多いと見られ、通常動力空母に搭載するには少々難が有ると見られるが、そもそも旧ソ連は、蒸気カタパルト装備の通常動力空母を正式に計画した事は一度も無く、この事を持ってカタパルトが実用的ではないと言うのは的外れな批判である。まだ原子力機関が実用化されていなかった頃に開発されたカタパルトと、原子力時代に開発されたカタパルトを同列に比較するのはフェアとは言えない。

前記のように、ソ連軍上層部や政府の無理解により、「蒸気カタパルト & 原子力機関」の組み合わせが「スキージャンプ台 & 通常動力」にされてしまった本級2隻はカタパルトを装備する事は無かったが、さすがに1980年代になると、ソ連軍上層部や政府も「空母」にはカタパルトが必要である事をようやく認め、続いて計画されたプロジェクト1143.7(ウリヤノフスク級)は最初からカタパルトを装備する設計になったが、進水前にソ連邦が崩壊して建造は中止されてしまった(「ソ連は確かに蒸気カタパルトを開発はしたものの、到底実用化に耐えられる代物では無かったのではないか?」との見方も有るが、それならばウリヤノフスク級もスキージャンプ台のみの設計になっていただろう)。

ちなみに「ニートカ」システムは、現在でもロシア海軍のクズネツォフ航空隊が発着訓練用に使用している(ロシア国内には、このような発着艦をシミュレートできる陸上施設が無いため)。ただし、使われているのはスキージャンプ台の方だけであり、カタパルトの方は放棄されている。

[編集] 機関

機関は当初原子力機関ではないかと見られていたが、就役後、蒸気タービン機関である事が判明した。本艦の機関は、8基のKVG-2型ボイラー(重油専焼)と4基のTV-12-4型蒸気タービンエンジンにより構成されており、基本的にはキエフ級の物と同一であるが、多少の出力強化が計られている(キエフ級は合計出力180,000馬力であるのに対し、本型は計200,000馬力)。キエフ級の主機は、それより前に建造されたモスクワ級ヘリコプター巡洋艦の物を2組搭載しており、そのルーツを辿ると、1960年代初頭に建造されたキンダ型ミサイル巡洋艦に行き着く。

つまり、キンダ型の機関を小改良したのがモスクワ級 / キエフ級の機関、それを小改良して出力アップしたのがクズネツォフ級の機関なのである。更に付け加えれば、キンダ型の蒸気タービン機関はクレスタ型ミサイル巡洋艦でも使用され、それを更に改良したのがソブレメンヌイ級ミサイル駆逐艦に採用された。

旧ソ連海軍の蒸気タービン機関は基本的にはレニングラード市で製造されていたが、蒸気タービン搭載艦はニコラーエフ市とレニングラード市で並行建造されていた。

  • 【黒海(チェルノモルスキイ)造船所(ニコラーエフ市)建造蒸気タービン艦】
  • モスクワ級(2隻竣工)→キエフ級(4隻竣工)→クズネツォフ級(1隻竣工)
  • 【ジュダーノフ造船所(レニングラード市)建造蒸気タービン艦】
  • キンダ型(4隻竣工)→クレスタI/II型(14隻竣工)→ソヴレメンヌイ級(17隻竣工)

(註:未完成艦、外国に売却された艦は除く)

機関については「運用実績が悪い」「欠陥品」と評される事が多いが、これは機関そのものの欠陥よりも、ソ連崩壊後のメンテナンスの不備や乗員の錬度不足によるものと見るべきだろう。本艦は、1990年代後半にはまったく整備されずに放置されており、そのため蒸気パイプはほとんどが破損しているようなひどい有様だったと言う。2000年以降ようやく本格的な修理に取り掛かり、当然破損した蒸気パイプも交換されたが、これが誤解されたようで「クズネツォフの機関は信頼性が低く、蒸気パイプは破損して交換する破目になった」と伝えられたというのが実情と考えられる。

[編集] マルス・パッサート

本艦は4面固定式アンテナのフェーズドアレイレーダー「マルス・パッサート」を搭載している。これは、本艦より前に竣工したキエフ級バクーで初めて試験的に装備されたもので、旧ソ連海軍初の本格的艦載フェーズドアレイレーダーである(ちなみに、ソ連防空軍は1980年代初頭、既に戦闘機に搭載できるほどコンパクトなフェーズドアレイレーダー「ザスローン」を実用化し、MiG-31要撃戦闘機に搭載している)。

このレーダーも「運用実績が悪い」「欠陥品」と言われているが、ソ連崩壊でレーダーの生産はストップし、新規の整備用パーツの入手にも事欠くようになったため運用に支障を来しているのが実情であり、性能以前の問題である(伝えられるところでは、パーツの入手が困難になったクズネツォフは、予備役となったゴルシコフ(旧名バクー)から同型レーダーのパーツを外して共食い整備しているという)。

旧ソ連海軍は、新型の艦載兵器ないし機器を開発する時には、まず既存の艦を改造して試作品を積み、海上テストを行った上で「運用に問題なし」と判断されて初めて正式採用するという手順を踏んでいた。「マルス・パッサート」は、本艦より前のバクーに試作品を搭載してテストした後、本型への採用が決定した。このことから、運用において致命的な欠陥は存在しないと推測される(同じく1980年代に、黒海艦隊所属のミサイル巡洋艦ケルチ(カーラ型)は新開発の大型レーダーを試験的に装備し、海上テストを盛んに行ったが、このレーダーは結局不採用に終わっている)。

[編集] 「空母」か「巡洋艦」か

本艦は航空母艦または巡洋艦だと割り切ってしまわないにしても、建造経緯、運用方法、戦術思想から、かなり特殊な位置付けを有していることは事実である。

本艦は、周知のように一般的には航空母艦と呼ばれ、更には「旧ソ連海軍が建造した初の"本格的な空母"」などと呼ばれる事も有るが、ロシア海軍における艦種分類は「重航空巡洋艦」となっている。本艦よりも以前に4隻建造されたプロジェクト1143(キエフ級)も同様である。

これは1936年に締結されたボスポラスダーダネルス両海峡の通行に関するモントルー条約によって定められた、航空母艦通過禁止に対する政治的処置と言われている。現に、本級の設計が固まる以前の1976年頃、時のソ連邦国防相ウスチノフ元帥は「このような(「空母型」の)軍艦を建造するのは、(黒海沿岸の)ニコラーエフよりも、レニングラードの方が良いのではないのかね? この点について検討したらどうか?」などと発言していたという記録が残っている。これは明らかに、モントルー条約の空母通過禁止の項目を気に掛けた発言であると言えるだろう(但し、当時のレニングラードの造船所はどこも各種艦艇の建造で手一杯であり、この上、未経験の空母の建造まで手がける余裕など無かった)。

この時、「重航空巡洋艦」(註:西側では東西冷戦時代、「戦術航空巡洋艦」という呼称が誤って用いられていたが、キエフ級・クズネツォフ共に、ロシア・ソ連海軍における類別は「重航空巡洋艦」である)第一号の「キエフ」が竣工し、ボスポラス・ダーダネルス両海峡を通過して地中海に出たのだが、アメリカなどはこれを「モントルー条約違反」と非難したという経緯も有るので、キエフ級よりも「より空母らしい」艦が海峡を通過すれば再度非難される事をソ連軍上層部が考慮することは、当然の帰結であった(もっとも現実には、1991年末にクズネツォフが海峡を通過した際に非難したのは独立宣言したウクライナだけであり、それもモントルー条約とは全く関係の無い次元での非難であったのだが)。

旧ソ連は、1970年代に、キエフ級に続く艦として蒸気カタパルトを搭載した本格的な原子力空母を計画した事も有ったのだが、国防相や共産党中央委員会の了承を得られず、結局キエフ級を拡大して全通飛行甲板を備えた本型が建造に着手される事となった。その点では、確かに本来の意味で航空機搭載型のミサイル巡洋艦から派生したものである、という評価も「妥当」であるかもしれない。

「重航空巡洋艦」としての本艦の特徴は、何と言っても艦前部の飛行甲板に埋め込まれた「グラニート」長距離対艦巡航ミサイルのVLS(垂直発射筒)に尽きるだろう。これがために航空機格納庫が狭くなっている事は明白で、それは「空母」にとっての「命」である搭載機数を減らす事に繋がっている。ただ本級は、52機での運用を考慮し、目いっぱい積めば最大で60機近くの艦載機を搭載する事が可能なので、「搭載可能機数を"大幅に"減らしてまで対艦ミサイルを搭載した」とまでは言えない。 被弾時の危険が増すことは事実であるが、「グラニート」は最大射程700kmの長射程で、目標の発見及び誘導は全地球規模海洋監視衛星システム「レゲンダ」によって行われ、中間誘導が必要ではないため、事前に使用することで危険性を低下しうるとの見方もある(さらに付け加えると、グラニートの発射機はミサイル発射時には注水する仕組みになっているので、緊急時にも注水する事によって被害を局限することが出来よう)。

「艦載機は艦隊防空に専念し、対艦攻撃は搭載する長距離ミサイルによって行う」形式になったのは、あくまで財政難による艦載機不足によりもたらされた結果であり、あらかじめ計画されたものではないことは、艦載機が対艦攻撃能力は有している事からも明らかである。

ちなみに、当のロシア海軍によると、「航空母艦」と「重航空巡洋艦」の違いは、対艦ミサイルを搭載しているか否かという点で分けられる、との事である。

[編集] 今後

本艦は、今のところ「ロシア海軍唯一の空母」である。場合によっては「ロシア海軍が保有した最初で最後の本格的空母」などと言われる事もある。就役時期がソ連邦崩壊と重なった事もあり、就役から十年ほどは「忍耐の時期」であったと言える。特にひどかったのが1990年代後半であり、この時期はまったく整備も保守もされずに放置されており、ほとんどまともに動ける状態ではなかった。本艦を建造したニコラーエフ造船所がウクライナに接収された事で、クズネツォフは整備や修理が出来なくなり、近いうちに行動不能になるだろうという見方も有ったが、北方艦隊根拠地セーヴェロモルスクには本艦が入渠可能なセヴモルプート工廠が有り、ここで整備と修理を行った。21世紀に入ってから本格的な修理が行われ、どうにかカムバックした本艦は、今後もロシア海軍のフラッグシップ的存在として2030年頃まで運用される。

ソ連邦崩壊後は、空母を建造していたウクライナの造船所を失った事もあり、空母を新規に建造する可能性は無に等しくなった。クズネツォフに後継艦が出来る事など、現実には有り得ないと考えられていた。しかしながら、経済状況や政治情勢の好転に伴い、ロシア海軍は再び空母建造に色気を見せるようになった。退役した「アドミラル・ゴルシコフ(旧バクー)」をインド向けにCTOL機運用可能な空母へと変身させる大規模改造工事がセーヴェロドヴィンスク造船所において着手された事も、この傾向に拍車をかけたものと思われる。ただ、旧ソ連の「航空機搭載艦」の設計を一手に引き受けていたネフスキー計画設計局は、1990年代の苦境下においても「輸出用5万t級空母」を細々と設計し、中国などへの売込みを計っていた。

2005年初頭、海軍総司令官ウラジミール・クロエドフ上級大将は「電撃的に」新空母建造計画を発表した。それによると、2010年までに設計案をまとめて建造開始、北方艦隊に配備される1番艦は2016年竣工、続いて太平洋艦隊向けの2番艦も建造される、との事であった。

しかし翌2006年6月2日、ロシア連邦政府軍事産業委員会委員長代理ウラジスラヴ・プチーリンは、 「ロシアが新規に航空母艦を建造するかどうかの決定は、2015年以降に下される。今日議論された国家の武器調達計画には、新しい航空母艦の建造は無い」と語った。同じ日、他の国防省幹部は「ロシアは2015年までに5隻の戦略原子力潜水艦を建造すべきである」と発言した。これらの発言から、当面は航空母艦よりも戦略原子力潜水艦の建造が優先されるものと見られる。

ロシア海軍総司令官ウラジーミル・マソリン大将(クロエドフ上級大将の後任)は、2006年2月に「ロシア海軍は将来、何隻かの航空母艦を展開させるだろう」と語った。

[編集] 2番艦(未成)

[編集] クズネツォフ以降

本級は2隻が計画されたが、竣工したのは1番艦のみで、2番艦は未完成に終わった。それは主に政治的な理由からであった。

さらに旧ソ連海軍は、本型2隻に続き、拡大発展型のウリヤノフスク級(プロジェクト1143.7)を4隻建造する計画であった。こちらは原子力機関と蒸気カタパルトを備えた「本格的空母」であり、実際に1番艦ウリヤノフスクが1988年に起工されていた。

これらの計画が全て実現すれば、ソ連海軍は21世紀初頭までに米海軍に次ぐ有力な空母機動部隊を保有するはずであった(先に建造されたキエフ級4隻も近代化改装を行い、艦載機を新型のYak-141に更新して「ソ連空母機動部隊」を補完する戦力となる事が期待されていた)が、ソヴィエト連邦の崩壊により全ては幻と消えた。

[編集] 建造中止の経緯

本級2番艦ワリャーグは、プロジェクト1143.6として1985年に起工され、1988年進水。太平洋艦隊への配属が予定され、当初の予定艦名は「リガ」だったが、1990年6月、代々太平洋艦隊に縁のある艦名「ワリャーグ」に改名された。船体や主機などの主要部分は、基本的には1番艦と同じであるが、船体の魚雷防御用装甲は1番艦の多層式から単層式に変更され、電子機器が新型の「フォルム2M」フェイズドアレイレーダー(2面回転方式アンテナ)や「ポドベレゾヴィク」3次元レーダーに変更されたのに伴いアイランドの形状も変更(クズネツォフより若干コンパクト化)、航空機格納庫が改良されて搭載機数が67機にアップするなどの改正が施されており、「改クズネツォフ級」とでも言うべき艦になるはずだった。

ソ連邦が崩壊した1991年12月、すでに中央政府からの建造資金供給はストップしていたが、それでも建造元のニコラーエフ造船所は、ワリャーグ及びウリヤノフスクの建造工事を「自腹で」細々と続行した。だがそれも長くは続かず、翌1992年3月、両艦とも工事は中止された。この時ワリャーグは船体が100%、機関が80%、その他の部分が20%の完成度であった(のちに本艦の売却を委託されたノルウェーの船舶ブローカー・リーべックによる)。ほぼ同じ頃、ロシア海軍は「あと7億5,000万ドル有れば、ワリャーグは竣工に漕ぎ着けられる」という見積もりを算出したが、極度の財政難にあえぐロシア政府にはそれだけの資金を出す事は出来なかった。第一、本艦を建造していたニコラーエフ造船所自体が独立したウクライナに接収されてしまい、本艦の所有権自体がロシアとウクライナで争われる事になったのである。

その数ヵ月後、ロシア、ウクライナ政府は、共同でノルウェーの船舶ブローカー、リーベックを通じて海外に売却する事で一旦は妥結した。リーベックは、同艦は船体及び機関がほぼ完成し、兵装や電子機器は未搭載なので、これらの機器類は購入した国が自由に選べる事のメリットを強調して売込みを図り、インド、中国、アルゼンチン、ブラジル等と接触を計った。この時の売却価格は、搭載機込みで約40億ドル(ワリャーグそのものが20億ドル+搭載機が20億ドル)と見込まれていたが、この金額は当時売り込み先と目された国々の一年分の軍事費の半分以上に当たるものであり、結局高過ぎて誰も買えないまま宙に浮いた形となった。一方、まだ船体も完成していなかったウリヤノフスクは、早々に解体された。

海外売却の話も消え、ロシア海軍に就役する見込みも無いワリャーグは、ニコラーエフ市の岸壁に係留されたまま放置された。1995年、ロシアはワリャーグの所有権を諦め、同艦はウクライナの管轄となった。「ワリャーグ」の名前は、既に就役済みのスラヴァ級ミサイル巡洋艦3番艦に与えられた(ちなみに旧名はチェルヴォーナ・ウクライーナ(赤いウクライナ)だった)。

[編集] 中国売却

1997年、JDW (Jane's Defence Weekly) は「ワリャーグ解体工事開始」と報じたが、実際には艦そのものの解体ではなく、搭載済みの各種機器の撤去工事であった。船体だけはレジャー施設への改造のために売却される予定であったため、それ以外の艦内の余分な機器は全て撤去されるはずであったが、造船所関係者によると、主機そのものは撤去されず、電気系統やパイプなどを切断して使用不能にしただけであったと言う。その後、ウクライナは本艦をスクラップとして2,000万ドルで売却する意向を示し、マカオの「中国系民間企業」が1998年に購入した。その目的は、中国本国で海上カジノとして使用する、との事であった。しかし、ボスポラス海峡、ダータネルス海峡を動力装置の無い大型艦が曳航されて通過するのは危険であること、既に見かけが航空母艦であったことからトルコ政府が難色を示したが、中国側との政治的折衝で妥協し、2001年、ようやく中国本国に回航された。しかしカジノとしては開業せず、大連港に係留されたままとなっていた(本艦を購入した「マカオの中国系企業」はダミー会社だった)。中国は国産空母の建造を強く望んでおり、そのための参考にすべく、本艦は海軍の技術者によって徹底的に調査された。

[編集] 現状

表立った動きの無かった本艦であるが、2005年に大連の造船所に搬入され、錆落しと人民解放軍海軍仕様の塗装を施され、修理も進んでいる事が確認された。このため一部では「中国は大連において空母を建造」などと伝えられた。台湾国防部(国防省)も本艦の写真を公開し「空母保有に向けた航空機発着などの実験艦か、あるいは本格的に空母として就航させるのではないか」との見解を発表した。この報道に対し、中国国務院台湾事務弁公室(国台弁)李維一報道官は、「政治的な目的がある」として反論している。

[編集] 同型艦

1143.5型2隻(起工順)
# 艦番号 名称 造船所 艦隊 起工年 進水年 就役年 備考
1 113 クズネツォフ SY444 北洋 1983/2/22 1985/12/05 1991/01/21 -
2 - ワリャーグ SY444 - 1985 - - 1992年建造中止

[編集] 登場作品

[編集] 外部リンク

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