国鉄ED54形電気機関車

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ED54形は、日本国有鉄道（国鉄）の前身である鉄道省がスイスから輸入した直流用旅客電気機関車である。輸入当初は7000形と称した。

[編集] 概要

スイスのブラウン・ボベリ社(Brown Boveri & Co. Ltd：BBC社。電装品担当)とスイス機関車製造会社(Schweizerische Lokomotiv- und Maschinenfabrik：SLM社。機械部分担当)によって1926年に2両が製造されて輸入された。貨物機のED12形と駆動機構は異なるが車体の基本デザインは共通で、姉妹車と言えた。当時のF型機を上回る1500kwの出力を持ち、東海道本線の列車牽引で使われた。

[編集] ブフリ式駆動装置

本機最大の特徴はブフリ式と呼ばれる無裝架駆動方式の一種を採用した事である。これは台車にモーターを吊り下げ、モーターの重量の約半分をギアボックス経由で車軸が直接支持する（＝バネ下重量が大きい）吊り掛け駆動とは異なり、モーターは弾性支持された床上に納め、車軸の中心位置移動に追従可能な特殊構造の歯車で動力を伝達する（＝バネ下重量が極めて小さい）方式で、車軸にはめ込まれた大歯車にはバネとリンク機構が組み込まれ、車輪が受ける衝撃が直接モーターには伝わらない様に工夫されていた。このブフリ式は軌道破壊が起きにくく、またモーターの高速回転も可能という後のカルダン駆動と共通するメリットがあり、当時のスイスを中心とする欧州の鉄道では、BBCディスクドライブ（平行カルダンの一種）やクイル駆動が開発されるまで、幹線用電気機関車を中心に広く普及した優れた駆動システムであった。このブフリ駆動はギアボックスの構造が複雑で大歯車の保守のために側面に露出させる必要があり、このため本形式でもギアボックスのある側面とない側面では外見の印象が全く異なっていた。

もっとも、このブフリ式駆動装置はその複雑さ故に高水準の工作精度が要求され、当時の日本の工業水準では製造・保守共に手に余った。実際、輸入直後に調査のために国鉄工場でギアボックスを分解後に再組立したところ、完全に元通りに戻せなかったと伝えられている。

[編集] 台車構造

車軸配置は一見1-D-1に見えるが、実際は(1-A)-B-(A-1)の3群構成で、蒸気機関車のクラウス・ヘルムホルツ台車のように第1・第4動輪がそれぞれ先従輪と結合されて1群を構成し、カーブでは先従輪に誘導されて第1・第４動輪が左右動する事により、横圧と動輪フランジの摩耗を軽減する構造だった。そのため固定台枠のD型機に見える外観とは裏腹に曲線通過が容易で脱線しにくく、当時のF型機を凌駕する高出力は走行性能にも優れ、しかも、ブフリ式駆動装置の恩恵で振動が少なく乗り心地が良かった事から、少数派であったにもかかわらず本形式は乗務員には大変に好評であった。

[編集] 輸入後の動向

1928年の形式番号の様式変更で7000形からED54形へ変更となるが、ブフリ式駆動装置のメンテナンスが困難で、しかも2両のみと少数派であったために保守陣から嫌われ、国産機の量産が軌道に乗ってからは休車が続いた。

末期は大宮工場の側線にDD10形などと共に放置されて荒廃が進み、最終的には1948年に除籍・解体されている。

[編集] 54機関車のジンクス

国鉄において、「54」の番号のつく形式はC54形・DD54形など、不具合の発生により、設計時の性能を発揮できず、短命に終わることが多いとして、数字が鬼門的な位置づけをされる事が多く、その例としてこの形式が取り上げられる事がある。

だが、本形式及び姉妹機種であるED12形についてはその機構設計に何ら欠陥はなく、不具合の要因はむしろ当時の鉄道省の保守技術、あるいはそれを支えるインフラの未整備・未発達にこそあったと見るべきであろう。

実際、BBC・SLMのコンビは本形式とほぼ同一設計の直流電気機関車をインドネシア国鉄向けとして先行納入しており、こちらはブフリ式の複雑精緻な機構部を見事に使いこなしたおかげで、1980年代まで長く現役として稼働していた。

つまり、本形式も適切な保守さえ行えば、同級のED60形等に伍して使用することも可能であったと考えられ、国鉄がまた、このED60形に採用したクイル駆動を持て余した事と併せ、本形式の短命は当時の日本の工業力の貧弱さを浮き彫りにするものであった。

[編集] 主要諸元

全長：13600mm
全幅：2745mm
全高：3920mm
重量：77.75t
電気方式：直流1500V
軸配置：1ABA1
主電動機：MT20形（端子電圧675V時定格出力385kW、定格回転数700rpm）×4基
歯車比（動輪）：34:114＝1:3.35
1時間定格出力：1540kW
1時間定格引張力：8200kg
1時間定格速度：63km/h
最高運転速度：100km/h
動力伝達方式：歯車1段減速、ブフリ式
制御方式：非重連、抵抗制御（2段組み合わせ制御）、弱め界磁制御
制御装置：複式電動カム軸接触器式
ブレーキ方式：EL14A空気ブレーキ、手ブレーキ

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