ソブレメンヌイ級ミサイル駆逐艦
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ソヴレメンヌイ級ミサイル駆逐艦(ロシア語:Эсминцы серии 956 "Современный")は、旧ソ連・ロシア海軍が建造したミサイル駆逐艦である。正式名称はプロイェークト956サルィーチュ(Проект 956 "Сарыч")級駆逐艦であるが、一番艦の艦名を級名に用いる慣習から、ソヴレメンヌイ級とされることが多い。
「空母」と「重航空巡洋艦」などに見られるように、西側の旧ソ連・ロシア海軍の艦種呼称と、ロシア海軍自身の正式な類別は異なるケースが多いが、本級は、旧ソ連・ロシア海軍においても、「駆逐艦」(Eskhadrennyy Minonsets、略称:Esminets)として分類されている。現在のロシア海軍において、「駆逐艦」と呼べるのは、このソヴレメンヌイ級だけである。
なお、「ソブレメンヌイ」と表記されることも多いが、「v」の発音を「ヴ」と表記するどうかを含め、妥当とは言いがたい。また、「ы」は「ウィ」と表記するのが普通なので、それに沿って表記すれば「ソヴレメンヌィイ」とすべきで、その他「ソヴレメーンヌィイ」、「ソヴリェミェーンヌィイ」等とも表記できる。なお、ロシア語モスクワ標準語発音に近い表記をすれば「サヴリミェーンヌィイ」となるが、この表記は慣例上用いられない。
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[編集] 概要
本級は、1960年代に建造されたプロイェークト61コムソモーリェツ・ウクライーヌィ級大型対潜艦(カシン級駆逐艦)の後継として計画された。船体の基本デザインも、61級と同様、艦対空ミサイル発射機と連装砲塔をセットで艦の前部と後部に配置する「ダブルエンダー」方式が踏襲されているが、艦が大型化した事に伴い、艦中央部にヘリコプター格納庫と発着甲板が設けられ、艦橋の両脇には艦対艦ミサイル発射筒が搭載された。
本級は、最終的には28隻程度の建造が計画され、1980~1994年にかけてロシア海軍に17隻が就役したが、18番艦以降の建造は、極度の財政難により中断した。1996年には、工事中断中の2隻が中華人民共和国に売却され、1999~2000年に就役した。中国は、2001年に2隻を追加注文したが、これらは大幅に改良が加えられている。なお、当初の計画では、21番艦以降は、艦後部の130mm連装砲を撤去し、ここに新型の対艦ミサイル(おそらくは「オーニクス」)のVLS(垂直発射機)を搭載する改型となる予定であったが、結局、ロシア海軍向けは20番艦までしか起工されなかった。
本級は、対空・対艦兵装がメインで、対潜能力は、ほとんど無いが、これは、同時期に建造されたウダロイ級駆逐艦(大型対潜艦)とペアを組んで行動する事が前提だったためである。艦隊防空ミサイル「ウーラガン」は、最大射程は30km程度と艦隊防空ミサイルにしては短いが、これは、より長射程の広域防空ミサイル「フォールト(SA-N-6)」搭載艦(キーロフ級原子力ミサイル巡洋艦、スラヴァ級ミサイル巡洋艦)を補完するのが主要任務であったためで、どのみち本級は、単体で使用する事を前提にした「万能艦」では無かったのである。
[編集] 蒸気タービン
本級が出現した頃、西側海軍関係者はむろん驚いたが、驚いた理由の一つとして、本級が蒸気タービン機関を採用していた事が有った。本級が就役した1980年代、すでに西側各国の海軍は、水上戦闘艦艇はガスタービンが主流であり、蒸気タービン機関搭載の駆逐艦などは、もう建造していなかった。他ならぬ旧ソ連も、世界初のオールガスタービン推進水上戦闘艦艇であるプロジェクト61大型対潜艦(「カシン」型ミサイル駆逐艦)を西側に先駆けて建造し、その後も、ガスタービン推進艦を続々と就役させていたものである。それなのに、「時代に逆行する」かのように、蒸気タービンの駆逐艦を就役させたのである。
この事は、当時から様々な憶測を呼んだが、答えは、極めて単純明快であった。本級を建造したジュダーノフ造船所(現セーヴェルナヤ・ヴェルフィ)は、蒸気タービン機関搭載の水上艦艇を専門にしていたからである。
ガスタービン推進艦を続々と建造していた旧ソ連海軍において、このジュダーノフ造船所は、「流行の最先端」に背を向けるように、依然として、キンダ型ミサイル巡洋艦、クレスタ型ミサイル巡洋艦といった蒸気タービン推進艦艇を建造し続けていた。蒸気タービンの製造工場もジュダーノフに在った。
もしも本級をガスタービン機関にすれば、ジュダーノフの蒸気タービン機関製造工場の生産ラインを閉鎖しなければならなくなるし、同時期に、プロイェークト1155大型対潜艦(ウダロイ級駆逐艦)も大量建造する以上、ガスタービン機関の製造が追いつかなくなる恐れも有る。そこで、蒸気タービン推進艦の建造において豊富な経験と実績を持つジュダーノフには、得意分野である蒸気タービン推進の駆逐艦を建造させる事にしたのである。
だが、ソ連邦崩壊後の、極度の財政難と人手不足は、「時代に逆らった」蒸気タービン駆逐艦にとって「逆風」となった。 ガスタービンに比べて構造が複雑であり、維持整備により多くの手間と人手が掛かる蒸気タービン推進の駆逐艦を大量に保有・維持していく事は、ロシア海軍にとっては、とてつもない重荷になってしまったのである(加えて、ほぼ同サイズのウダロイ級に比べて必要な乗員数が多い事も、人材不足に悩むロシア海軍にとっては大きな負担であろう)。
[編集] 現状と今後
ソ連崩壊後も、ロシア海軍は本級の建造を継続しようとしており、1993年春に発表された「艦艇整備十ヵ年計画」においても、本級は最終的に28隻を建造し、これで7隻ずつの駆逐艦旅団を4個編成する計画だった。だがそれも、1994年竣工の17番艦でストップし、既に竣工していた艦も、上記の理由により、1990年代後半には、次々と動けなくなっていった。
17隻竣工した本級のうち、2005年現在においてロシア海軍籍に留まっているのは11隻である。即時作戦行動可能状態にある艦は、このうちの半数程度と推察されている。なお、この事で、本級の蒸気タービンには欠陥が有ると記述する専門誌もあるが、旧ソ連が「機関に欠陥が有る」・「信頼性が低い」艦を28隻も建造しようとする計画を立てることは考えにくい点から、本級の活動が不活発なのは、本項蒸気タービンの節にて言及したように、本級の現状に起因するものが理由であると言えよう。
ソ連崩壊後、ロシア海軍は長らく大型水上艦の新規建造を停止していたが、2005年、本級の代替となる4,500tクラスのプロジェクト22350多用途フリゲートの計画を発表した。ソヴレメンヌイ級は対空・対水上重視であったが、22350は、それに加えて対潜任務もこなすオールパーパス艦となる予定である。1番艦は「アドミラル・フロータ・ソヴエツカヴァ・ソユーザ・ゴルシコフ」と命名、セーヴェルナヤ・ヴェルフィに発注され、2006年2月2日に起工された。同艦は2009年就役予定であり、建造費は、約3億1,000万ドルと見積もられている。ロシア海軍は、同型を20隻調達する構想である。
[編集] 主要諸元
- 全長: 156.5m
- 全幅: 17.2m
- 喫水: 5.96m
- 満載排水量:7,940t
- 主機:ボイラー×4基/蒸気タービン×2基、2軸推進
- 機関出力: 102,000馬力
- 最大速力: 32ノット
- 航続距離: 14ノットで10,000海里/32ノットで3,920海里
- 武装
- 「ウーラガン」中距離艦対空ミサイル(SA-N-7)単装発射機×2基
- (15~17番艦は「ヨズ」中距離艦対空ミサイル(SA-N-12)単装発射機×2基)
- 「モスキート」中距離対艦ミサイル(SS-N-22)4連装発射筒×2基
- AK-130 130mm連装砲×2基
- AK-630 30mmガトリング砲(CIWS)×4基
- RBU-1000対潜ロケット爆雷発射機×2基
- 533mm連装魚雷発射管×2基
- 搭載機:Ka-27ヘリコプター×1機
- 乗組員:296人
[編集] 同型艦
[編集] プロイェークト956(Проект 956):1~14番艦
原型。ただし、1~5番艦はレーダーが異なる。
- ソヴリェミェーンヌィイ(Современныйサヴリミェーンヌィイ:同時代の、現代の、近代的な、最新の)
- 北方艦隊、1989年よりオーバーホールに入るがソ連崩壊後に中断、1998年除籍、解体。
- オッチャーヤンヌィイ(Отчаянныйアッチャーヤンヌィイ:絶望的な、向こう見ずの)
- 北方艦隊、1997年除籍。
- オトリーチュヌィイ(Отличныйアトリーチュヌィイ:立派な、優れた)
- 北方艦隊、1998年除籍。
- オスモトリーチェリヌィイ(Осмотрительныйアスマトリーチェリヌィイ:用心深い、慎重な)
- 太平洋艦隊、1997年除籍。
- ビェズプリェーチュヌィイ(Безупречныйビズプリェーチュヌィイ:申し分ない、非の打ちどころのない)
- 北方艦隊、1993年よりサンクトペテルブルク市北方造船所(セーヴェルナヤ・ヴェルフィ)にてオーバーホールに取り掛かるが未だ完了せず。
- ボイェヴォーイ(Боевойバイヴォーイ:戦闘の、戦闘的な、大胆な、度胸のある)
- 太平洋艦隊。1993年よりウラジオストク市ダーリ・ザヴォートにてオーバーホール。
- ストーイキイ(Стойкийストーイキイ:堅い、持ちの良い、不屈の、頑強な)
- 太平洋艦隊、1999年に除籍され、アブレーク湾埠頭に係留保管されたが、同年4月8日に浸水し沈没。
- オクルィリョーンヌィイ(Окрыленныйアクルィリョーンヌィイ:鼓舞された)
- 北方艦隊。1997年除籍。
- ブールヌィイ(Бурныйブールヌィイ:荒れ騒ぐ、急激な、猛烈な)
- 太平洋艦隊。
- ヴィェドゥーシチイ(Ведущийヴィドゥーシシイ:主動の、先導の、指導的な)、のちグリェミャーシチイ(Гремящийグリミャーシシイ:轟く)に改称
- 北方艦隊。2005年、セヴェロドヴィンスク市のズヴェズドーチカ工廠でオーバーホール。
- ブィーストルィイ(Быстрыйブィーストルィイ:速い、迅速な、急激な)
- 太平洋艦隊。 1993年から2002年までダーリ・ザヴォートにてオーバーホール。
- ラストロープヌィイ(Расторопныйラスタロープヌィイ:敏捷な)
- 北方艦隊。2002年から2005年にかけてセーヴェルナヤ・ヴェルフィにてオーバーホール。
- ビェズボヤーズニェンヌィイ(Безбоязненныйビズバヤーズニェンヌィイ:恐れを知らない、不敵の)
- 太平洋艦隊。 1999年からダーリ・ザヴォートにてオーバーホール。2002年、ストレローク基地に移動。2005年、ウラジオストクに移動。
- ビェズーヂェルジュヌィイ(Безудержныйビズーヂェルジュヌィイ:抑え難い、止めることのできない)
- 北方艦隊。1998年よりオーバーホール、2005年に現役復帰。
[編集] プロイェークト956A(Проект 956А):15~20番艦
艦対空ミサイルを「ヨズ」に換装。対艦ミサイル「モスキート」を射程延長型に換装。(ただし、中国海軍に売却された2隻は、「ヨズ」ではなく、旧来型の対空ミサイルを搭載)
- ビェスパコーイヌィイ(Беспокойныйビスパコーイヌィイ:びくびくした、不安な、面倒な、厄介な)
- バルト海艦隊。2004年よりカリーニングラード市ヤンターリ造船所でオーバーホール。
- モスコーフスキイ・コムソモーリェツ(Московский комсомолецマスコーフスキイ・カムサモーリェツ:モスクワのコムソモール員)、のちナストーイチヴイ(Настойчивыйナストーイチヴイ:根気強い、粘り強い、執拗な)に改称。バルト海艦隊旗艦。
- バルト海艦隊。
- ビェッストラーシュヌィイ(Бесстрашныйビッストラーシュヌィイ:恐れを知らない、豪胆な、勇敢な)、2004年6月、アドミラル・ウシャーコフ(Адмирал Ушаков)に改名。
- 北方艦隊。
- 300(トリースタ・)リェート・ロッスィースコム(300(Триста) лет россискомуトリースタ・リェート・ラッスィースカム:ロシア300周年)、のちヴァージュヌィイ(Важныйヴァージュヌィイ:重要な、尊大な、地位の高い)、のちイェカチェリンブールク(Екатеринбургイカチリンブールク:ロシアの町の名前に由来)に改称
- 建造途中(完成率65%)で中華人民共和国に売却され、1999年12月25日にサンクトペテルブルクで同国へ引き渡し後、杭州(Hangzhou)と改称、人民解放軍海軍で使用中。
- ヴドゥームチヴイ(Вдумчивыйヴドゥームチヴイ:思慮深い)、のちアリェクサーンドル・ニェーフスキイ(Александр Невскийアリクサーンドル・ニェーフスキイ:中世ロシアの英雄の名に由来)に改称
- ヴヌシーチェリヌィイ(Внушительныйヴヌシーチェリヌィイ:深い感銘を与える、印象的な、でかい)、のちソブラズィーチェリヌィイ(Собразительныйサブラズィーチェリヌィイ)に改称
- 建造中止。既に出来上がっていた船体は、カリーニングラード州バルチースク海軍基地にて洋上倉庫として使用されている。
[編集] プロイェークト956U(Проект 956У):21番艦以降
艦後部の130 mm連装砲を廃止し、代わりに対艦ミサイル「オーニクス」の垂直発射機を搭載する改良型。計画のみ。
[編集] プロイェークト956YeM(Проект 956ЕМ):改「杭州」級
中華人民共和国が2001年に2隻追加発注したタイプ。 艦対空ミサイル及び艦対艦ミサイルを射程延長型に換装。艦後部130 mm連装砲塔を廃止し、代わりに近接防空システム「カシュターン(CADS-N-1)」を2基搭載。艦中央部ヘリコプター発着スペースを拡張、などの改正が施されている。
- 泰州(Taizhou)