航空戦艦
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航空戦艦(こうくうせんかん)とは、戦艦としての大口径砲を装備し、かつ航空母艦又は水上機母艦に準ずる航空機運用能力を持っている軍艦を指す。外観上飛行甲板やそれに類する航空設備を持っている戦艦を一般的に指すと考えれば良い。ただし、公式な艦種として存在したことは無く、また各国で検討が行われ、一部実現したものもあるが、実用的な運用は行われなかった。架空戦記などにはよく登場し、作品によっては戦艦空母と表記される事もある。
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[編集] 各国の計画
[編集] 日本
第二次世界大戦時、航空母艦の重要性が高まるなか、ミッドウェー海戦において正規空母4隻を失った大日本帝国海軍はそれを補完するためのさまざまな方策を模索した。その一つが既存の艦艇の空母への改装である。大和型戦艦を除く全ての巡洋艦以上の艦艇について改装が検討された。
金剛型は空母機動部隊への随伴に最適である高速戦艦で、これを改装することは望ましくなかった。また、長門型は艦隊決戦では大和型に次ぐ威力を発揮すると期待されたため除外された。扶桑型、伊勢型はあらゆる面で他国新鋭戦艦群に劣っており最有力候補になった。丁度その頃、伊勢型2番艦日向が5番砲塔を事故で失っていたため、伊勢型戦艦2隻(伊勢・日向)の空母改装が決まった。しかし、戦局の悪化に伴って物資等が不足し、更に改装には5~6ヶ月程度かかると予測され、半戦艦・半空母の航空戦艦が誕生した。
船体後部主砲を撤去し格納庫と射出甲板を設けて航空機22機の搭載を可能とした。当初、搭載機として彗星二二型が予定されており、カタパルトによる射出にて発艦、攻撃終了後は近隣の航空母艦又は陸上機地に帰投することとなっていた。後に爆撃も可能であった水上偵察機瑞雲も搭載することになり、瑞雲の場合カタパルトで射出する点は彗星と同様だったが、水上機である特性から海上に着水させ、それをクレーンで甲板に吊り上げて回収することも可能となった。しかし、搭載すべき艦載機の生産が間に合わず、その甲板に航空機が満載されることは無かった。
改装には1年~1年半の期間が必要であったという説もある。また空母に改造することにより他の軍艦の修理に影響が出ること、また改造を年内中に終了させたいということが述べられていた。以上のことから史上初の半戦艦・半空母の能力を持つ航空戦艦が誕生した。台湾沖航空戦で搭載予定の機体を全て失い、続くレイテ沖海戦では搭載機無しで海戦に参加した。
[編集] イギリス
1917年に就役したフューリアスは当初、艦橋より前に発艦専用の飛行甲板、後ろに18インチ単装砲を装備しており、史上初の航空戦艦と見なすこともできる。ただし航空機を運用するには問題が大きく、半年足らずで主砲は撤去された。
また1926年、ヴィッカース社の軍艦設計部長であったジョージ・サーストンがブラッセイ海軍年鑑誌上で複数の案を発表している。前半部分に主砲を搭載し、その直後から後部までを飛行甲板と格納庫とし、アイランド形式の艦橋を右舷に設けるレイアウトだった。当時はワシントン海軍軍縮条約下であったため、非条約加盟国向けの提案であったが採用されることはなかった。
[編集] アメリカ
第二次世界大戦以前に、全通飛行甲板の前後や全通甲板の直下に主砲塔を装備した航空戦艦が提案されたが、建造される事はなかった。なお、この案はアメリカの造船会社よりソビエト海軍に提案されたが、実現する事は無かった。アイオワ級戦艦が1980年代に現役復帰する際に、ハリアーを搭載する航空戦艦案があったが、実現しなかった。
[編集] 航空巡洋艦・航空駆逐艦
航空戦艦と同様のコンセプトを持つが、主砲が巡洋艦クラスであるもの。艦の後部を航空儀装にあて、水上偵察機6機を搭載する利根型重巡洋艦などがこれに近い。このほか、最上も1942年に後部主砲を撤去、航空儀装を装備し、水上機11機を搭載可能な航空巡洋艦に改装されている。
海上自衛隊所属のヘリコプター搭載型護衛艦 (DDH) はるな型しらね型は駆逐艦としては最多の3機の対潜哨戒ヘリを搭載運用する能力を持つ。対潜哨戒、偵察、場合によっては救助や掃海、ヘルファイア等を搭載しての対艦攻撃などの任務に従事する。これは事実上、利根型、最上型のコンセプトを引き継いでおり、運用上の実体は航空駆逐艦とでもいうべき艦種である。後継艦種の13500トン型護衛艦 (16DDH) はDDナンバーになる予定だが、全通甲板を持ち速射砲を搭載しないヘリ空母であり航空駆逐艦ではない。
また、キエフ級V/STOL空母は公式な分類では重航空巡洋艦であること、飛行甲板は持っているものの、艦の前部には飛行甲板ではなくミサイル発射機を装備し、主に対潜任務に従事することから、航空巡洋艦と呼んでも支障はない。アドミラル・クズネツォフもまた公式な分類では重航空巡洋艦であるが、こちらは全通甲板を持つこともあり、航空巡洋艦と呼ばれることはほとんどなく、モントルー条約に対する政治的配慮であると考えられている。ロシア海軍の言い分では、同艦の項にもあるように対艦ミサイルの搭載有無で判断されるという。
[編集] 航空戦艦の意義
「戦艦の砲撃力と空母の航空運用力を持つ万能艦」とは航空戦艦でお馴染のセールストークである。しかし実際には戦艦と空母の長所を兼ね備えたというよりも、欲張ってお互いの長所を相殺する中途半端な兵器と言うのが正しいと思われる。
戦艦としては大口径の主砲が欠かせないが、これは超弩級戦艦クラスの大口径砲の場合、艦の中心線上以外には設置できない。それでは当然、空母としての飛行甲板設置が困難になるし、射撃統制の為に不可欠の高い艦橋も、乱気流を発生させて艦載機の着艦を困難にする。また主砲射撃時の凄まじい衝撃は、デリケートな航空関係の装備に悪影響を及ぼし、当然砲撃中の搭載機運用は不可能である。
空母としては多数の艦載機を運用するための格納庫、爆弾や魚雷の弾薬庫や航空燃料のタンクが不可欠だが、これは砲撃戦時に砲弾が直撃すると誘爆や火災を招く非常に危険な要素となる。無理に戦艦並みの厚い装甲をしようとすると、艦の上部が重くなって重心が上がり、荒天時や旋回中に横転してしまうような不安定な艦になってしまう。また長大な飛行甲板と格納庫は主砲の射界を制限してしまう。
第二次世界大戦前の各国海軍では航空戦艦の設計や提案は実際に多くなされており、実現寸前まで行ったものもある。当時の艦載機は実用化されて間もなく、航続距離が短く兵器搭載量が僅かだったり、天候による運用上の制約が大きい等の理由で、艦隊兵力としての信頼性が低かった。空母も誕生間もない艦種で運用法が定まっていなかった事もあって、各国海軍で様々な運用法を模索する課程で、航空戦艦というアイデアが生まれてきたのである。
しかし結局の所、新造艦としては一隻も実現していない。これは戦艦としても空母としても費用の割には中途半端で、同じ経費と資材で純然たる戦艦と空母を造ったほうが実用的との結論に至ったものと思われる。
唯一実現したのは旧式戦艦からの改造艦である日本の伊勢型だが、これも空母戦力の劣勢を補うという改造目的からすると、両艦合わせて40機そこそこの搭載機では全く力不足である。しかも搭載機が間に合わなかった事もあって結局は戦艦としての働きしかしておらず、最終的には後部主砲の射界を遮る搭載機発進用カタパルトを撤去している事からも、この2艦の航空戦艦への改造は失敗であったと言わざるを得ない。
一部には戦艦と空母を同時に建造・運用する能力のない中小の海軍での運用に適するという意見もある。また船団護衛、空母直衛艦、搭載機による索敵などに活用できるという説もあるが、航空戦艦として実戦で運用された例が皆無のため定かではない。
[編集] 架空戦記に登場する航空戦艦・航空巡洋艦
- 信玄(全通飛行甲板・右舷に砲塔:旭日の艦隊)
- 虎狼(V字型飛行甲板・前部に砲塔:旭日の艦隊)
- 米利蘭土(前面に射出機・後部に砲塔:紺碧の艦隊)
- 東光(全通飛行甲板・前部に砲塔{やや右舷寄り}:紺碧の艦隊)
- 土佐(両舷に全通飛行甲板:超超弩級戦艦土佐)
- 筑後(両舷前部に飛行甲板:凍てる波涛)
- ハンニバル(後部飛行甲板:時空戦艦大和 日本沈没を救え)
- ジークフェルド(後部スキージャンプ付飛行甲板:時空戦艦大和 日本沈没を救え)
- ソビエツキー・ソユーズ(全通飛行甲板の前後に砲塔:機密空母赤城)
- ソビエツカヤ・ウクライナ(全通飛行甲板の前後に砲塔:東の太陽西の鷲)
- スキピオ(全通飛行甲板・片舷に砲塔:東の太陽西の鷲)
- 日向(諸作品)
- 蒼龍(斜め飛行甲板・前部に砲塔:鋼鉄の紋章)
- 伊吹(斜め飛行甲板・前部に砲塔:クリムゾン・バーニング)
- アトランティカ(全通飛行甲板の前に砲塔:レッドサン ブラッククロス)
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