放送禁止用語
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放送禁止用語(ほうそうきんしようご)は、テレビ局・ラジオ局といったマスメディアにおいて、公序良俗に反するとして使用を自主規制する言葉の事。放送コード(ほうそうコード)に引っかかる言葉ともいう。
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[編集] 概要
ある言葉が差別的あるいは侮蔑的・卑猥な内容を含む、又は含む恐れがあると放送局が判断した時に、電波法や放送法などに基づき、その言葉を放送する事を放送局が自ら規制して健全で中立的な放送を維持する。公序良俗に反するものなら言葉に限らず、歌や映像も自主規制の対象になる。(なお以前は要注意歌謡曲制度が存在したが、廃止になった)ただし、これは自主規制であり、テレビ・ラジオ業界とも放送禁止用語のリストがある訳ではない。
放送局および制作担当者の現場判断で使うことを自粛するか否かを決めていくため、放送の現場では「放送禁止用語」という概念はないとされているため、「放送自粛用語」などと言われる場合もある(時間帯・番組ジャンルなどによっても傾向が違うため、ゴールデンタイムではNGでも深夜帯では許される場合がある)。
近年では、市民団体等の過敏な反応をおそれて、先例に倣った自主規制が増えている一方で、以前は使わなかった言葉を放送の趣旨や文脈の上から必要だと判断し、大胆に使うケースもみられる。
[編集] 具体的取り扱い
- テレビやラジオでは、番組収録中に該当する言葉が出演者から発せられた時は、編集でカットするか無音もしくは「ピー音」に換えて放送する(喘ぎ声や銃声、サイレンなどと言ったパターンもある。番組にもよるが、いわゆる口パクではなく口元にテロップ処理する場合もある)。ただし、生放送では不適切な発言がそのまま放送されるため、その後、局のアナウンサーによりお詫びのコメントが読まれる事で、事態は収束される(場合によっては出演者が降板したり番組が打ち切られる事もある)。この事を防ぐため、アメリカなどでは生放送でも数秒~10秒の時差をつけて放送し(いわゆるディレイ)、突発的な発言やパフォーマンスが出た時には、音声または映像をその場でカットするシステムが出来上がっている(日本でもSKY PerfecTV!のショップチャンネルなど一部のチャンネルで同様のシステムが採用されている)。「ムハハnoたかじん」では生放送だった時期に放送禁止用語を警戒したボタンが設置されていた。
- 映画や古典落語など、コンテンツの作品性(芸術性)が高い場合は、その前後に「一部不適切な表現がありますが、作品の芸術性を尊重し発表時のまま放送します(しました)」などの断り書きを表示(ないし告知)した上で修正せず放送する事がある。又、時代背景を表わす上でその表現が不可避であると認められる場合も、同様の措置が取られる事がある。
- 1970年代(昭和45年代頃)までに製作された古いアニメーションなどの再放送では突如として会話が途切れる事がある(例:『巨人の星』における「俺の父ちゃんは日本一の日雇い人夫だ!」という星飛雄馬の台詞など)。これは、制作当時は問題なかった表現が、現在では使用を自粛すべきと判断されており、局によって対応が違うがそのシーンの音声を消して放送しているためである。前出の『巨人の星』と同じ梶原一騎原作(ペンネームは別名高森朝雄)で同時期に制作・放映された『あしたのジョー』についての扱いも、リクエストが大変多く、ケーブルテレビやSKY PerfecTV!で幾度となく再放送されているのであるが、フジテレビ721(通称"1")・アニマックス("2")で放映した際に放送コードに触れる表現(「めっかち」・「脳タリン」・「きちがい」など)をことごとくカットした結果、逆に放送として成立しないとの批判があったことには違いなく、カートゥーンネットワークでは「原作者のオリジナリティを尊重し…」の注釈を入れた上で(放送コードを)ノーカットで放映した。
[編集] 表現の自由との関わり
差別糾弾を表面的に回避する手段の一つとして、商業メディアでは差別用語の言い換えが行われており、主にアメリカで行われているそれをポリティカル・コレクトネス(政治的な正しさ)と呼ぶ。日本では、差別用語の一部もしくは全部の言い換えに反対する立場からこの差別用語の言い換えを言葉狩りとして批判する向きもある。差別に反対する側からも、単なる言い換えでは現実を覆い隠すのみだとする批判もある。同様の批判は、英語圏でもポリティカル・コレクトネスに対して行われている。
[編集] 過剰反応
前述のように『放送禁止用語はこの言葉とこの言葉・・・』等と規定されたものはなく、あくまでも放送局の判断によりコントロールがなされているのが現状であるが、1980年代後半から1990年代初期にかけてが、この放送禁止用語が最も過剰に扱われた時期と言われている。
この時期を象徴するような自粛例としては、「奴隷」、「下人」、「百姓」等の史実語を自粛したり(素人出演の生番組で、ゲストが職業を聞かれて「百姓です」と答えたところ、リポーターが焦って「ちょっと不適切な表現がありました」等と釈明する光景もあった)、「狂った」という言葉に過剰反応して「時計が狂っていた」という台詞を消音、いわゆる「四つ(指)」とは全く無関係なちあきなおみの「四つのお願い」の放送自粛、更には洋もの戦争ドラマの再放送では、敵が使った閃光弾について「目眩ましを使ってきた」という台詞を、「めくらまし」→「メクラまし」→メクラ=盲目と語呂があうので消音措置、といった病的とも言える過剰反応が繰り返される有様であった。
また、製作当時のまま特に改変する事なく収録・発売する事が普通だったビデオソフトについても、問題になりそうな台詞部分を消音・音声処理した上で発売したケースが増えた。
このような過剰反応は次第に沈静化したが、そのためにはかなりの時間を要し、ようやく常識の範囲に戻ったのは90年代中期頃であった。
もっとも、放送禁止用語の基準が緩いのはやしきたかじん、立川談志の番組と言われている。
[編集] 放送禁止用語として扱われる言葉
- 裏日本
- 元々は地理用語なのだが侮蔑的な意味合いで使用されていたため放送では使用禁止となっている。
- 唖(おし)
- ぎっちょ - 左利き
- せむし
- この規制は世界的名作であるノートルダム・ド・パリの別の邦訳「ノートルダムのせむし男」の題名が使用できない、などといった問題をかかえる。ディズニー映画は邦題をノートルダムの鐘とした。
- ダッチ
- オランダの英称であるが「ダッチマン」・「ダッチワイフ」など卑猥な意味で使用されていたという事情から放送禁止用語となる。近年レミー・ボンヤスキー(オランダのキックボクシングの選手)のリング・フレーズ「フライング・ダッチマン」が使用できなくなったのはこういう事情から。
- 聾(つんぼ)
- 特殊部落
- 土人
- 番太
- まんこ
- 女性の性器。一般的に通称に近いほどひどく知れ渡っている。松本明子が意味も知らず生放送で連呼し謹慎処分となる。
[編集] 過去に放送禁止用語として扱われていた言葉
- キンタマ(金玉) - 睾丸
- 英語の「CHINA」同様、秦を語源とする言葉。放送禁止でなくなった今、右派論客が使用することが多い。
- 目眩まし
- 盲と語呂が合うため。
- (時計、コンピューター等に対し)狂っている
- ただし精神障害者に対して使うのは放送禁止用語。
- 在所
- 関西で部落の意味。被差別部落の意味合いも含む地域もあったが、実際は、一般的な部落、集落の意味合いでしかない。1969年にフォークソンググループ・赤い鳥が発売した「竹田の子守歌」の歌詞の中に含まれていたが、これが被差別部落の事を歌った曲と見られ、長い間自粛された。1990年代以降は自粛はされなくなった。
[編集] 関連項目
- 表現の自主規制・自己検閲
- 差別用語
- 放送倫理・番組向上機構
- レイティング
- 森達也
- 放送事故
- つボイノリオ
- やしきたかじん - 放送コード撤廃を訴えており、「放送禁止用語は、楽しいからこそ、使って当たり前。」という一人。