小籠包
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小籠包(しょうろんぽう/しゃおろんぱお、ピン音:xiǎolóngbāo)は、上海の西北にある町、南翔で発祥した中華料理の点心として名高い名物料理。薄い皮の中にスープ(肉汁)が入った蒸籠蒸しでつくる肉まんで、「南翔小籠包」、「南翔饅頭」、「小籠湯包」あるいは「小籠包子」とも呼ばれ、上海生まれの料理として中華圏全域で人気のある中国を代表する小吃[1]である。なお、竹冠のない「龍」を用いた「小龍包」は誤字。
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[編集] 概要
[編集] 起源
1871年に中国の嘉定県南翔鎮(現・上海市嘉定区南翔鎮)の菓子屋「古猗園」の店主・黄明賢が、「南翔大肉饅頭」を売り出したが好評を博したため同業者からすぐに真似され、工夫を凝らして具を大きく皮を薄くし、簡単に真似ができないよう技術的な改良を加えた「古猗園南翔小籠」を販売[2]し、たちまち有名な饅頭としてもてはやされた。当初より現在まで「南翔小籠包」と呼ばれ、これが今日の「小籠包」という名称となっている。
「古猗園」店主・黄明賢の弟子である呉翔升が1900年に開店した老舗「長興樓」[3]が1920年ごろに売り出した[4]ところ、上海でも爆発的な人気を呼び、やがてその人気が中国各地に広がり、現在は中国を代表する点心・小吃(中華名小吃)となっている。
なお、同じような具を使いながら厚めの皮で焼き上げる、「生煎饅頭」(焼き小籠包・上海焼き饅頭)という類似の小吃もあり、日本では小籠包ほど知名度はないものの、こちらも中国文化圏では人気がある。
[編集] 特徴
大きさは一般的な肉まん(饅頭)と比べて小ぶりで直径は約 3cm 程度。皮は小麦粉を半ば発酵させ、よくこねたものを円形に薄く延ばし広げてつくる。特徴のスープは元々のレシピでは豚皮を煮込んで冷やした肉皮凍という煮こごり(ゼラチン)を豚の挽肉に混ぜ込むが、現在は鶏のゼラチンを用いたり、中には豚皮・牛骨・鮫の軟骨を加水分解で工業的に加工してつくった食品用ゼラチンを用いるものもある。このゼラチンが蒸籠の高温で蒸され、溶けてスープとなる。
熱々の肉汁(スープ)を含んだジューシーな味わいがその最大の特徴となっている。したがって、冷めたものではその特徴を味わえず、蒸したてを火傷しないよう気をつけながら、箸でつまみ、レンゲでスープをこぼさないようにして味わう。
通常は、薄い皮の折ひだを14つ以上つくり、具を包む。具には白菜や、椎茸、中国産クワイの野菜類やキノコ、エビやフカヒレなどを少量混ぜたゼラチン入りの豚の挽肉を入れる。上海で名物となっている上海蟹の蟹肉を入れた蟹肉小籠や、雌の蟹味噌を入れた蟹黄小龍[5]は高級品として特に珍重され、また蟹を捌(さば)く職人の名人芸は、上海観光の目玉ともなっている[6]。
レシピは多様で、家庭でも手作りは可能だが、皮の厚さを薄くする技術や、皮を破らないように蒸したり、蒸すタイミング[7]などの技術は専門店になかなか及ばない。
たれは餃子と同様に、醤油、酢(鎮江香醋、いわゆる日本でいう黒酢)、ラー油を混ぜたものが基本だが、これに千切りにしたしょうがを混ぜたり、しょうがと酢だけで食べたり、中にはすでに味付けされ、たれが不要のものもあるなど、さまざまである。
[編集] 食べられる地域
あまりにも著名な小吃であるため、上海旧市街の豫園商場内にある「南翔饅頭店」が本場とされているものの、現在では中国全域はもとより、世界各国の中華街にある著名な中華料理店はもちろんのこと、日本でも新宿の高島屋で1996年10月4日に支店を開設した台湾の鼎泰豊が嚆矢となって、高級中華料理店のメニューで人気の定番となっている。それまでも鼎泰豊以外の日本の中華料理店でも少数ながらメニューに載せた店はあったが、人気が出たのは鼎泰豊の日本進出が契機であった。
また、中国にはもう一つの本場というべき都市に上海近郊の西にある太湖湖畔の江蘇省無錫市でも親しまれ[8]、無錫小籠包は無錫の名物料理として著名となっている。無錫の小籠包はあらかじめ醤油で味付けされ、濃厚で甘い味が特徴とされている。
このように世界に広まったきっかけは、1949年の中華人民共和国成立時に、世界各地に逃れて中華街に定着した上海人が伝えたとされている。
また、台湾においてもきわめて人気があり、多くの著名な料理店で供されているが、とりわけ鼎泰豊は小籠包の本場・上海にも出店して現地の「南翔饅頭店」など著名な料理店と人気を二分している。またこの鼎泰豊は上海のほか、日本、シンガポール[9]、インドネシア、韓国、米国[10]に支店を持ち、小籠包の店として世界的に名高い。なお鼎泰豊の創始者・楊秉彜(ヤン・ビンイ)は山西省生まれで、北京、天津、青島、上海など各地を転々とし、最後に台湾に流れ着いた外省人であった。
日本では、台湾出身の俳優・金城武が2000年1月に撮影した日本アジア航空のキャンペーンコマーシャル「小籠包編」[11]で台湾の小籠包を紹介、これが繰り返し放映・放送されたため、一躍人口に膾炙するようになっている。ただし撮影場所となった中華料理店「湘園」のメニューに小籠包はなかった。
日本で著名となり、東京の六本木ヒルズにある南翔饅頭店のような高級店でなくとも出す中華料理店や、場合によっては居酒屋なども増えてきた一方、中には肉汁スープが全くないものや、蒸したてでない冷めた小籠包を出す店も存在する。
また、食品メーカーが人気に目をつけ冷凍の小籠包を販売しているところもあるが、皮が厚かったり肉汁が少なかったりと、本場ものと比べれば食感は劣る。
[編集] 日本で著名な店
- 王興記 [9](横浜中華街。もう一つの本場、江蘇省無錫市から日本へ出店。直径10センチの小籠包で著名。肉汁はストローで吸う)[10]
- 漢陽楼(千代田区神田小川町)
- 古希園(中央区 (東京都)銀座。本店は発祥の地、南翔鎮)
- 上海湯包小舘(中央区 (東京都)銀座、愛知、岐阜ほか。小籠湯包専門店)
- 上海豫園小籠包館(横浜中華街[11])
- 新亜飯店(港区芝大門。上海飲茶・点心の店)
- 新吉士小龍堂[12](大阪・道頓堀極樂商店街[13]。小籠包専門店)
- 曹家包子館 [14] (神戸市南京町。店主発案の松茸小籠包。別名: 松茸豚肉包)
- 鼎泰豊(日本各地に支店を持つ。本店は台湾)
- 天天酒家 (神戸市東灘区[15])
- 南翔饅頭店(六本木ヒルズ・川崎アゼリア・大阪心斎橋[16]。脚注参照)
- 美來(板橋区大山町 - 小籠包と中国茶の専門店)
[編集] 脚注
- ↑ 小吃(シャオチー)とは、店や屋台で食べる一品料理のこと。「小」は軽い、「吃」は食べるという意味から日本語に直訳すれば「軽食」「スナック」になるが、中華文化圏のニュアンスはかなり異なる。麺類や、餃子・焼売・饅頭などの包子(パオズ)、粽や餅から、肉料理、炒飯や魯肉飯などのどんぶり料理までを含む一品料理というのが実態である。中国文化圏の都市部では、このような料理を供する小さな店や屋台が多数あり、さかんに外食する文化が高度に発達した。手軽で比較的値段が安い大衆料理というニュアンスで、日本で小吃に当たるのは、外食で食べるうどん・蕎麦・ラーメン・焼きそばなどの麺類、寿司、おでん、ピザ、牛丼、お好み焼き、石焼き芋といったイメージとなる。スナック菓子類を意味するわけではないが、もちろん杏仁豆腐などの甘いものも含まれる。
- ↑ ANAフレンドパーク: 「南翔饅頭店」の小籠包 [1]
- ↑ この「長興樓」は、のちに「南翔饅頭店」と改称し現在も営業している
- ↑ HongKongNavi.com: 小籠包 熱々の肉汁が溢れる点心の華 [2]
- ↑ china radio international: 「【中華名物】上海蟹」[3]
- ↑ 上海ウォーカーオンライン: 「思わず手が出るお気軽点心 一寸一口之巻」[4]
- ↑ 台湾の味 好吃の小籠包: 蒸し方 [5]
- ↑ きゅるる: 無錫小籠 [6]
中國經濟網: 老字號:無錫王興記小籠包 [7] (中国語。全五ページ、作る過程の写真あり) - ↑ BreadTalk Group
- ↑ Din Tai Fung Restaurant Inc., Arcadia, California
- ↑ 『日経エンタテインメント!』2000年7月号
TAKESHI @ KANESHIRO: CM List [8]
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- 在日中国人女性の随筆: 「古猗園の南翔小籠包1」(2006年8月27日)
- BONSKYさんの旅行ブログ: 「上海郊外☆南翔鎮 ~小籠包と梅の花~」(2006年7月26日)
- 我是第一次到上海。: 「小籠包のふるさと☆南翔鎮~梅も綺麗」(2006年3月4日)
- 読売新聞:食のトレンド「アツアツ小籠包 もっちり皮中はジューシー」(2004年12月9日)
- ホイチョイ・プロダクションズの東京コンシェルジュ #52: 「小籠包」(2003年12月21日)
- TaipeiNavi.com: 永康街高記(2003年2月21日。台湾の小籠包激戦区)
- Flickr: Photos tagged with xiaolongbao, shaolongbao, siulungbao, shoronpo, 小籠包, 小笼包(写真)