飛行機
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
飛行機(ひこうき、英:airplane)とは、エンジンにより推力を発生し、胴体に固定された翼によって揚力を得る航空機である。固定翼機に分類される。
一般に飛行機を指して航空機と呼ぶ場合もあるが、本項では上記の定義に従う。
目次 |
[編集] 特徴
[編集] 利点
飛行機は、(原理的には)空を自由に飛ぶことができる。この事から下記特徴が導き出せる。
- 地上(陸上)や海上を走る場合に比べて抵抗が小さいので速く移動(輸送)できる。
- 高く速く飛ぶことによって広い範囲を視認できる。
- 空中から、広範囲に渡ってモノを投下(散布)することができる。
- 物を輸送する場合、トンネルや橋梁などの制限を受けないので大きな物を運べる。
- 速く移動できる
- 速く移動できることは、長距離の移動に際し大きなメリットとなる。現在遠い外国へ行く人は(一部の時間や予算の有る人用のクルーズ客船以外は)たいてい飛行機を利用する。国際郵便を始めとする貨物類も飛行機で運ばれるものが多い。アメリカ空軍は本国から遠く離れた地域での緊急事態に備えて、戦車やヘリコプターを搭載して大洋を横断できる輸送機を保有整備している。中距離や短距離の輸送(特に離島など海上を輸送する場合)でも、到着時間を優先する場合は飛行機が使われる。
- 広い範囲を視認できる
- 軍事用では、偵察・警戒・哨戒に飛行機は不可欠。可視光だけでなく、電波(早期警戒管制機 // AWACS)や磁気(対潜哨戒機)による探索も行われる。非軍事分野では航空写真や遊覧飛行などがある。日本の活断層の研究は、航空写真を詳細に分析することにより飛躍的に進歩した。
- 広い範囲に散布できる
- 農業分野では広範囲に一度に農薬を散布する農業機も幅広く使われている。さらに、森林火災などにおいて多量の水を広範囲に散布し火災を食い止める事にも使用されている。軍事用ではベトナム戦争時に枯葉剤の散布にも使用された。クラスター爆弾による爆撃もこの機能を利用した例と言える。
- 大きな物を運べる
- この目的のために様々な機体が作られている。一般に貨物機と呼ぶ部類に相当する。例えばエアバス社はヨーロッパ各国の工場で生産された機体や翼など、大きすぎて地上での長距離運搬が困難な大型部品を、専用機「ベルーガ」でフランス・トゥールーズの最終組立工場に運んでいる。
- またボーイング747改造機であるシャトル輸送機がスペースシャトルを背負ったオンブバッタのような格好のもの(画像)があるが、これはシャトルをエドワーズ空軍基地から発射基地の有るケネディ宇宙センターへ空輸している時の姿である。
[編集] 欠点
飛行機の欠点としては、以下のような点があげられる。
- 大規模な離発着施設が必要
- 飛行機は一般に飛行船やヘリコプターと異なり、長い滑走路と大規模な離発着支援設備を備えた空港・飛行場を必要とする。大型機が離着陸できる空港を建設するには、広い土地と莫大な投資が必要で、後述の騒音の問題もあり、日本では都心から遠く離れるとともに、建設コストの高い埋立地(人工島)に空港を建設する傾向がある。空港へのアクセスに時間がかかることが短距離の輸送に飛行機が用いられない理由の一つでもある。
- エネルギー効率が悪い
- 他の交通機関、特に鉄道や船に比較すると、エネルギー効率が著しく悪くなる傾向にある。運行費に占める燃料費の割合が高く、燃料の価格変動が航空会社の経営に大きな影響を与える。燃料価格の変動分が運賃に転嫁される場合もある。有効積載量のかなりの割合を燃料が占める点でも効率が悪い。長距離国際線の場合、ほぼ燃料を運んでいると言っても過言ではない。そのため速達性を要しない物資の運搬には航空機は用いられない。
- 大気汚染を伴う
- 飛行機の排気ガスは、その量自体が多いことに加え、エアロゾルや窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)などが多量に含まれる。また、ジェット燃料には鉛が添加されており、有害な鉛化合物も含むため、深刻な大気汚染を引き起こす。飛行機は高空を飛行するため、飛行機による大気汚染は顕在化しにくいが、汚染物質の減少が目指されている。
- 地球温暖化の原因物質とされている二酸化炭素の排出も多く、国土交通省『交通関係エネルギー要覧(2000)』によれば、単位輸送量あたりの二酸化炭素排出量(g-Co2/人キロ)は、鉄道18.3、航空機110.0、乗用車165.0であるとしている。また、IPCCは1999年に、全世界の二酸化炭素排出量の3.5%が航空機に起因すると報告している。
- 大きな騒音を発生する
- 空港・飛行場の周辺では飛行機の離着陸時の騒音が問題となる。特にジェット機は、ジェットエンジンが大きな音を発生するため、市街地周辺や深夜の飛行を避ける場合もある。エンジンの低騒音化に向けた研究・開発が進められている。
- 電波障害をもたらす
- 空港・飛行場の周辺では、広範囲で電波障害が発生する。テレビのゴースト現象などが日常化する。
[編集] 機体の構造
以下に述べるのは代表的な飛行機の構造の例である。ここに記したものと違った形態の機種も多く存在する。
たいていは主構造として胴体・主翼・尾翼・エンジン・降着装置があるが、胴体と尾翼を持たない全翼機も少数が実用化されている。
[編集] 胴体
胴体には、パイロット・乗客・荷物・前脚を搭載する。さらに燃料・主脚を搭載するものもある。単発機や3発機では胴体の最前部または最後部にエンジンを搭載する。最初の飛行機には胴体と呼べるものは無く、操縦席は木製骨組みの上に簡素なイスを載せたものであった。その後木製の骨組を丈夫な帆布で覆った構造になり、現在は縦横に組み合わせた骨組の表面に薄い板を張ったセミモノコック構造が主流。なお空気の薄い(したがって酸素の薄い)高空を飛ぶ飛行機は、胴体内部の気圧を地上に近い状態に保っている(これを「与圧」と呼ぶ)。
セミモノコック構造の胴体は、主に以下の部材からなる:
- ストリンガ(縦通材): 胴体の長手方向の曲げ荷重を主に受け持つ部材。小型機でも数本、大型機では円周上に何十本も配置される。特に強度の大きなものはロンジロンと呼ばれる。
- フレーム(円きょう): ストリンガと直交する部材で、胴体形状を保つ。円形のものはリングフレームとも。
- スキン(外板): フレームの外側に張られる薄い板。引っ張り・圧縮荷重の一部を受け持つ。
[編集] 主翼
主翼はその周りに循環を発生させて飛行方向に垂直な力(揚力)を発生する部位である。一般に、低亜音速機に用いられる翼断面形(翼型)は上側が膨れた凸状であるが、飛行速度や用途によってさまざまな翼型がある。翼型と翼平面形(上から見た主翼のカタチ)は飛行特性に大きな影響を与える。効率的に揚力を発生させるには細長い平面形状が適する。主翼の縦と横の比率をアスペクト比と呼んで平面形状の目安としている。高く遠くへ飛ぶ飛行機は主翼のアスペクト比を大きく設定した細長い翼が有利だが、あまりアスペクト比を大きくすると強度の問題等が出てくる。高速で飛ぶ飛行機の主翼には、高速での空気抵抗が少ない後退翼が採用される。戦闘機などの超音速機では、スルメのような三角翼が使われる。
主翼も現在ではセミモノコック構造が主流であり、主に以下の部材からなる:
- スパー(桁): 翼の長手方向の曲げ荷重を主に受け持つ部材。小型機では片翼につき1本が多い。大型機では2~3本のものや、もっと多くのものもある(マルチスパーあるいはマルチストリンガ構造)。補助的なものはストリンガと呼ばれる。
- リブ(小骨): 桁と直交する薄い板で、翼型をしている。翼幅方向に多数が配置される。
- スキン(外板): リブの表面を覆う薄い板。引っ張り・圧縮荷重の一部を受け持つ。
スパー・リブ・スキンによってボックス構造を構成し、曲げやねじりに強くなっている。翼に発生する揚力などの空気力は、スキン → リブ → スパー → 胴体と伝わる。
桁の太さ・スキンの厚さと材質はその部分にかかる応力に応じて設定され、翼の先端近くでは桁は細くスキンは薄く設定される。最近ではこれらの構造を大きな金属槐から直接削り出す工法も採用されている。飛行中は揚力が主翼を上に曲げる方向に働くので、下面外板には引っ張りに強い素材、上面外板には圧縮に強い素材を選定する。戦闘機のような薄翼では、各場所にかかる応力に応じて素材を組み合わせて使う複合材料が多用される。
主翼内部の空所を水密構造にして燃料タンクに使うことが多く、この方式をインテグラルタンクと呼ぶ。また主翼にエンジンや主脚などの降着装置を装備することが多い。攻撃機などでは主翼に爆弾・ミサイルや増加燃料タンクをずらりとぶら下げているが、いずれの場合も主翼には充分な強度が要求され、脚や兵装の取り付け部は充分な補強が実施されている。
現在の飛行機は、特殊な場合を除き主翼は1枚(単葉)である。主翼後部(後縁部)にはエルロン[1]や、離着陸の低速時に揚力を増大させるフラップなどの高揚力装置が装備される。主翼上面に揚力を減らすためのスポイラを備えるものもある。
[編集] 尾翼
尾翼は一般に、モーメントを確保するために主翼から十分に離れた位置に置かれる。多くは胴体後端に設置されるが、胴体前部に設置した先尾翼機(エンテ型飛行機)もある。上下方向に装備されるものを垂直尾翼、左右に伸びるものを水平尾翼と呼んでいる。垂直尾翼は、胴体に固定された部分を垂直安定板、その後ろの可動部分をラダーと呼ぶ。水平尾翼は同様に水平安定板とエレベータ (飛行機)からなるのが一般的。尾翼の構造は主翼に準じるが、主翼に比べ強度上の問題も小さく簡素である。尾翼(両方もしくは水平尾翼のみ)の無い飛行機は全翼機と呼ばれる。
[編集] エンジン
現在の飛行機は、レシプロエンジン(ガソリンエンジン)でプロペラを回すレシプロ機、ガスタービンエンジンの噴気のエネルギーでプロペラを回すターボプロップ機(以上はプロペラ機と呼ばれることもある)、プロペラを持たないジェットエンジンを搭載したジェット機がある。
その他過去使用されたことがあるエンジン方式として、ロケットエンジン(第二次世界大戦末期のドイツの戦闘機Me 163やアメリカの超音速実験機ベルX-1など)、ディーゼルエンジン(ドイツのブローム・ウント・フォス水上輸送機:1938年など)があった。
- レシプロ機はライト兄弟の1号機から使われている方式。現在では趣味で乗る自家用機のほか、飛行訓練・写真撮影・農薬散布・アクロバット飛行・遊覧飛行・水上タクシー等に使用されている。
- 比較的近距離の路線で頻繁に離着陸する中型~小型の機体は、ジェット機よりも離着陸性能の良いターボプロップ機の方が適している。そこで10人~50人乗りの旅客機(コミューター機)や条件の悪い飛行場での運用を考慮した軍用輸送機はターボプロップ機が多い。自家用機程度の小型機でターボプロップエンジンを積むものもある。
- 中型から大型の旅客機や、高速を要求される軍用機は全てジェット機である。その中でも純粋にジェットの排気エネルギーで推力をまかなう方式をターボジェットと呼ぶが、騒音が大きく燃費も悪い。現在は燃費も良く、騒音も比較的少ないターボファン方式が主流である。これはエンジン内最前部にファンを設け、排気エネルギーの一部でこのファンを回して得た推力と、ジェット排気の推力の両方を利用する方式。空港でジェット旅客機のエンジンを正面から見ると、多数の羽根(ファンブレード)を有するファンが回っているのが良く見える。詳しくはジェットエンジンを参照。
[編集] 降着装置
- 詳細は降着装置を参照。
「脚柱(ストラット)+ 車輪(ホイール)」からなる脚が3個所に付いている形態が最も一般的。胴体前部にノーズギア(前脚)と呼ばれる小ぶりの脚があり、重心より少し後方の左右に2本の主脚があるのが普通。現在では、小型機を除く多くの飛行機は、空気抵抗を軽減するために、飛行中に降着装置を折りたたんで胴体や主翼に格納している(これを「引き込み脚」と呼ぶ)。フロートを有した水上機や積雪地用にスキーを装備するものもある。
着陸滑走時に使用するブレーキは油圧作動のディスクブレーキである。小型機の場合ディスクは1枚が多いが、大型機では複数のディスクを使用するセグメンテッド・ロータ方式が多い。アンチスキッド機能を有するものも多い。また車輪のタイヤは過酷な条件[2]で使用されるため寿命が短く、各機種ごとに着陸回数に応じてタイヤ交換やゴムの巻き変えが決められている。
[編集] 飛行機の歴史
[編集] 飛行機の将来
将来の飛行機の方向性は、量(高度・速度など)から質(快適性)へ変換するとされている。20世紀半ばから比較して、1日当たりの離陸回数が指数関数的に増大している現在においては、飛行機の更なる安全性の向上が必要とされる。また、日々膨大な数の飛行機が世界の空を飛んでいることから、飛行機はより一層環境に順応したものとなる必要性がある。そして、飛行機の開発・運用・廃棄までに至るライフサイクルコストの低減も、当然考慮されなければならない。すなわち従来の「より速く」に加え、「より安全に、より安く、より快適に」がこれからの飛行機に望まれることである。
- 安全性の向上
- フライ・バイ・ワイヤのような冗長性管理では対処できないような、舵面制御アクチュエータの故障や機体損傷が発生しても、飛行性・操縦性が劣化しにくい飛行制御システム技術、及び、自動的に安全で最適な航路を創出するオートパイロット技術について研究がなされている。また、空港での離着陸時に生じる飛行機の後方乱流を的確に避けることで、空港安全性・効率性を高める研究もある。代表例としては、NASA で研究されている Intelligent Flight Control System や、Wake Vortex Avoidance Concept などである。
- 環境適合性の向上
- ジェットエンジンの騒音や NOx 排出量を低減するための研究が、主なエンジンメーカーでも実施されている。
- 低コスト化
- 飛行機の運用コストを下げるために様々な試みがなされているが、注目すべき研究としては NASA での研究である Active Aeroelastic Wing がある。これは、いわゆるエルロン・リバーサルを逆に利用し、思い通りに主翼をねじ曲げることでロール機動を実現させようとするものである。これにより主翼の構造重量が軽減され、航続距離の向上が見込まれる。
- 快適性・サービス性の向上
- 新型機の開発に際して、実際に運航を行う世界の主な航空会社との協力体制(ワーキングトゥギャザー)を強化している(以外の理由もあろう)。一例として、ボーイング777型機の機内トイレ便座がゆっくりと下がる(バタンとならない)機能は、日本の航空会社の意見が取り入れられたといわれている。
[編集] 飛行機の種類(一部)
- 旅客機
- ボーイング製: 707 - 717 - 727 - 737 - 747 - 757 - 767 - 777 - 787 - 2707
- マクドネル・ダグラス製: DC-3 - 4 - 6 - 7 - 8 - 9 - 10 - 11
- エアバス製: A300 - 310 - 318 - 319 - 320 - 321 - 330 - 340 - 350 - 380
- ツポレフ製:ANT-9 - 20 - 25 - Tu-104 - 114 - 124 - 134 - 144 - 154 - 204 - 214 - 244 - 304 - 306 - 324 - 330 - 334 - 354 - 414 - 444
- イリューシン製: Il-12 - 14 - 18 - 62 - 86 - 96 - 114
- アントノフ製: An-2 - 8 - 10 - 12 - 14 - 22 - 24 - 26 - 28 - 30 - 32 - 38 - 70 - 71 - 72 - 74 - 124 - 140 - 225
- 日本航空機製造: YS-11
- エンブラエル:ブラジリア、ERJ-135、145、155
- ピアジオ・エアロ製: ピアッジョ・アヴァンティ
- ブリストル社とシュド・アビアシオン社の共同開発: コンコルド
- 軍用機
- 実験機
- ハインケル He178
- D-558シリーズ
- ベルX-1
- X-15
- シコルスキー Xウイング
- 飛鳥(低騒音STOL実験機)
[編集] その他
[編集] 脚注
[編集] 関連項目
- 航空
- 航空機 - 固定翼機 - 回転翼機
- グライダー - オートジャイロ - ヘリコプター - 飛行船
- 航空会社
- 客室乗務員
- 飛行場 - 空港
- 航空に関する年表 - 飛行機の歴史
- オートパイロット
- 巡航ミサイル
- 飛行機恐怖症