応力
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応力(Stress)は、物体のある一部分に微小な直方体を考え、回転運動・並進運動が存在しないと仮定したときに、微小直方体の各面に働く単位面積あたりの力と定義できる。法線応力(Normal stress)とせん断応力(Shear stress)の2種類が存在する。
応力の単位は、SIでは [ Pa ]、重力単位系では [kgf/mm2]で、圧力(Pressure)と同じである。
まず簡単な場合を考えると、長さL、断面積Sの棒が力Fを受けて、長さが⊿Lだけ伸びたとき、このとき、応力 f とひずみ ε には、 f=F/S、ε=⊿L/Lという関係が成立し、さらに両者の間に比例関係があって、 f=Eε (E=ヤング率)が成立する(フックの法則)。
しかし一般には応力は次のように方向によって異なる。
x, y, z の3軸に対して、それぞれに直交する面を X, Y, Z面 とする。例えば X面に働く力は、x軸・y軸・z軸それぞれの方向に分解できるので、これをそれぞれ σxx、σxy、σxzと書く。
3つの面に対して3軸の力があるので、応力全体について、以下の9つの成分が存在する。
このテンソルを 応力テンソル(Stress tensor)という。
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[編集] 法線応力(引張・圧縮応力、直応力)
σxx、σyy、σzz(単に σx、σy、σz とも)の3成分は、各面の法線方向にはたらく応力であるから法線応力と呼ばれる。また、各面を引っ張る(または圧縮する)力としてはたらくので、引張応力(または圧縮応力)、あるいは直応力(ちょくおうりょく)とも呼ばれる。
[編集] せん断応力
σxy、σyx、σyz、σzy、σxz、σzx の6成分は、各面を側方にずらす(せん断する)力として働くので、せん断応力と呼ぶ。せん断応力は、σ の代わりに τ で表すことも多い。
なお、回転運動はないと仮定しているので、
- σxy = σyx、 σyz = σzy、 σxz = σzx
が成り立ち、せん断応力の独立した成分は3つになる。
[編集] 等価応力
上記にあるとおり、応力は3次元的なテンソル量である。一般の応力について材料の特性値を調べるのは困難であるため、スカラー量である等価応力に換算すると便利である。 等価応力は材料の降伏する条件に応じて以下のようなものがある。
[編集] 最大主応力説
ある点の応力について、法線応力成分の一つが最大となる方向が存在する。この応力が最大主応力 σ1 である。つぎにこの応力成分に直角の方向で、法線応力成分最小の最小主応力となる σ3 をとることができる。この2方向と直行する方向には中間主応力 σ2 をとることにする。 このとき、せん断応力成分は全て 0 である。 (σ1 ≧ σ2 ≧ σ3 であることに注意)
ある点で最大主応力 σ1 が材料の降伏を決定するというのが最大主応力説である。すなわち、
が成立すると降伏する。ここで σy は材料の降伏応力である。
最大主応力説はガラスなどの脆性材料で良く合っている。
[編集] 最大ひずみエネルギー説
単位体積あたりのせん断ひずみエネルギーが限界を越えると、材料が破壊されるという説である。 ミーゼスの応力ともいう。
全ひずみエネルギーから静ひずみエネルギーを差し引いたせん断ひずみエネルギー U を評価基準とする。
降伏条件は以下の通り。
最大ひずみエネルギー説は鋼材などの延性材料に適用される。
[編集] 最大せん断応力説
座標軸のとりかたによって、せん断応力を最大とすることができる。(この時、一般に法線応力は 0 とはならない) この応力を最大せん断応力、またはトレスカの応力と呼び、記号 τmax で表す。
延性材料が降伏するときすべりが観察されることに着目し、最大せん断応力が降伏を決定するという説である。
主応力とは次式に示す関係がある。
降伏条件は以下の通り。
σ1 ≧ τmax, U ≧ τmax であり上記2説に対して安全側であることから、評価基準として利用されることがある。