森昭雄
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森 昭雄(もり あきお、1947年2月5日 - )は、北海道出身の日本大学文理学部体育学科教授。日本大学大学院文学研究科教育学専攻(体育コース)でも教員を務めている。
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[編集] 経歴
日本大学大学院文学研究科修士課程修了(文学修士)。1978年には、Relations between Ca Uptake and Temperature in the Isometric Contraction of Skeletal Muscle(カルシウム摂取と骨格筋の等長収縮における温度との関係)という論文で医学博士を日本大学から取得している。
専門は運動生理学だが、マスメディアでは脳神経科学とされることが多い。2000年、日本大学から、永年勤続(30年)表彰を受けている。
[編集] 業績など
2002年に刊行された著書『ゲーム脳の恐怖』は、テレビゲームが脳に与える悪影響を説き、子を持つ親や教育関係者を中心に受け入れられ、10万部を売り上げるベストセラーになった。また、本書で提唱された「ゲーム脳」という言葉は当時流行語にもなった。しかし、本書には脳神経学上の根本的な誤りや個人的な主観、矛盾などが多く含まれているため、「疑似科学」「トンデモ本」であると批判されている。
その他、日本健康行動科学会という団体(名称に「学会」を含んでいるが、日本学術会議には登録されておらず、いわゆる学会として国家により公的に認知されていない)を設立、主宰しているほか、スーパーミリオンヘアーの安全性の証明を行っている。
なお、「ゲーム脳」については当該記事を参照のこと。
[編集] 批判を呼ぶ問題発言
ゲーム脳の科学的な誤り・矛盾点などが学者および有識者などからの批判の対象になることが多いが、一個人が自由に発言することのできる(ブログや掲示板をはじめとした)インターネットコミュニティなどの場においては、森本人の言動そのものに批判が集まることも多くある。
しかし森は、これらの批判を「誹謗中傷」と称したり、批判した者に対し人格攻撃的な発言を行ったりするなど、ゲーム脳や自らの発言に対する批判・指摘を一切受け入れない姿勢を貫いているために、結果的にさらなる反感を買うこととなる場合が多い。
[編集] 自閉症に対する誤認識
2005年に行われた講演にて、「テレビゲームが原因で自閉症になる」「最近、自閉症の発症率が100人に1人と増えているのは、ゲームのせい。先天的な自閉症の数は変わらないので、増えた分はゲーム脳による後天的自閉症だ」と発言した。しかし、自閉症は先天性の脳機能障害によるものであり、外的要因により後天的に起こることはあり得ない。この発言を受けて、「日本自閉症協会」からも抗議を受けている。
この出来事は、個人のウェブサイトやブログなどを経由して広く知れ渡ったが、講演に参加した聴衆によるレポート(外部リンクを参照)などの伝聞しかなく、それ以外の物的証拠となる記録が確認されていない。そのためか、森本人は後の講演などで事あるごとに「そのようなことは喋っていない」と否定している。しかし、2006年3月に東京都世田谷区の小学校で行われた講演で同様に否定する発言を行った際に、自閉症児を家族に持つと思われる聴衆から「(その発言は)テープに残ってます」という声が上がっている。
また、自著『ITに殺される子どもたち-蔓延するゲーム脳』(2004年発刊)には「近年増えている多動児や自閉症の児童も、DNA の問題だけが原因ではないようです。たしかに先天的な原因もあるでしょうが、それだけでは説明しきれない急増ぶりなのです。」と、先天的ではない自閉症が存在すると断言し、その原因としてテレビやIT技術などに(断定こそしないものの)結びつけている記述がある。参考: 詳細な引用を含む記事(個人ブログ「たこの感想文」内の一記事)。
[編集] 事実でない発言
- 「『テトリス』というゲームはソ連の軍隊で人を殺すための教育の一つとして、軍事目的で開発されたもの。人間をロボットにするための人殺しゲームだ。簡単に殺戮ができるようにするためものだ。」
- 「旧ソ連では『テトリス』を兵隊にやらせる。『テトリス』をやっている状態の脳は、非常に反射的な状態になり、人を殺しても何とも思わなくなる。その訓練のために『テトリス』をやらせていたのである。」
上記のような、事実でない発言を各地の講演で行なっていることが2004年に発覚し、インターネットコミュニティ上で問題となった。
この『テトリス』は、旧ソ連科学アカデミー・コンピューターセンターの心理学者であるアレクセイ・パジトノフ(Alexey Pajitnov)が人間の処理能力(内容やコツなどを脳が学習する過程)を研究する一環として開発したゲームである。この具体的な開発経緯は十年以上も前から知られており、「人を殺すための教育として開発された」のように事実に反した説がデマとして広まっていた過去もない。よって、デマを森が誤って信じてしまったようなケースは考えにくく、何が原因でこの出鱈目な説が森の講演から生まれたのかは、未だに不明である。
[編集] 痛ましい事故を自説の題材とした発言
2005年に発生したJR福知山線脱線事故の翌日、事故の真相が分からないまま救出活動が続いている中で発刊された夕刊フジ上で、森は「脱線車両の運転士(事故発生当時安否不明、後日遺体で発見される)の異常行動は、ゲーム脳の特徴に似ているとも言える」との見解を示した。これに対し、多くの人が犠牲になった大変痛ましい事故を自説の宣伝に利用した悪質な発言だとして、インターネットコミュニティ上で倫理的観点から森の発言を問題視する声が多く上がった。
[編集] 時と場合によって二転三転する発言
ゲームに関わりのあるマスコミから取材など(過去にあった例は、ゲーム雑誌・ファミ通編集長との対談や、夕刊紙のIT面ゲーム紹介関連記事内でのインタビューなど)を受けたときに限り、「テレビゲームが全て悪いのではない。ゲームを無条件に子供にさせる(託児所がわりにする)親がよくない」と主張することがある。しかし、肝心の子を持つ保護者が集まる講演や一般マスコミの取材などに対しては、このような主張は行わない。
さらに、この前述のインタビュー(2003年)で「脳を活性化するゲームもきっとあると思うし、作ってもらいたいとも思う。(中略)ぜひ右脳を活性化させるようなゲームを作ってもらいたいと思っています」と答えているにも関わらず、のちの講演(2006年)では「脳を鍛える大人のDSトレーニング(インタビューから2年後の2005年に発売された、東北大学教授・川島隆太監修の脳を活性化させる携帯ゲーム機用ソフト)は私だったら使わない。小学生や中学生が遊ぶと抜け出せない。手で字を書かせるのはよいと思うが、頼るのはよくない。それよりは、古本屋で100円の小説を読む方がよい。」とまったく正反対のことを述べている。
また、この発言の中に「小学生や中学生が遊ぶと抜け出せない」とあるが、このソフトの購買層のほとんどは20代以上であること、一日分の内容は長くても30分前後で終えることができるものであることから、森は内容などをほとんど認識せずに批判しているものと考えられる。
[編集] 東京都世田谷区の講演での問題発言
2006年3月6日に東京都世田谷区の世田谷区民会館で行われた講演では、特定個人や団体に対する中傷的な発言などがあり、これもまた多くの個人ブログなどを通じて批判を浴びることとなった。なお、詳しい内容については、外部リンクの講演レポートを参照されたい。
なお、森による講演は「ゲーム脳」が話題となった直後から、全国各地で行なわれている。世田谷区の講演は、東京23区内で行なわれたという点と、開催時期が『ゲーム脳の恐怖』発売から3年半も経過していた点、教育委員会が共催したという点で注目された。だがこのようなケースも珍しくないものと思われる。2006年10月29日には、大阪市でも講演会が開催され、大阪府教育委員会と大阪市教育委員会が後援者となっている。
さらに2006年11月27日には、米子市で「少年非行防止フォーラム」と題した講演が行なわれる予定。
[編集] 批判に対する憶測と中傷
「ネット上で(森やゲーム脳論に対する)批判を書いている人は、ゲーム会社と何らかの関係のある人だ。」と発言したが、根拠がないどころか、明らかに事実に反した憶測である。
さらに、京都大学名誉教授の久保田競が週刊誌「サンデー毎日」上で森を批判したことに対し「京大の名誉教授による誹謗中傷があった。お歳をめされたのではないか? 京大はゲーム会社から70億もらっている。ゲーム会社がらみになってしまうと、まともな人もまともなことを言わない。」「京大の名誉教授でもお金がらみに染まってしまうと言いたいことも言えない。私は科学者だから言いたいことを言う。」と、京都大学や久保田を感情的に誹謗中傷する発言を行った。
なお、「京大はゲーム会社から70億もらっている」とは、任天堂の相談役である山内溥前社長が、京都大学医学部附属病院の新病棟建設費用として個人資産の70億円を京都大学に寄付した事実を、あたかも口止め料であるかのように表現をねじ曲げて述べたものと思われる。参考: 寄付に関するお知らせ記事(2月21日を参照)(京都大学のお知らせページへのリンク)
また、サンデー毎日の当該記事には、森のインタビューも掲載されており、精神科医・評論家の斉藤環による科学的な反証([1] [2])に対する反論も書かれている。しかし、その内容は「斉藤環さんというゲームマニアみたいな人が、僕の批判を書いている。悪いけどあの人は脳波を知らない。素人です。生理学の知識の無いかわいそうな人なんですよ。僕は医学部でも実習で教えましたからね。彼よりはまあ10倍くらいは知識がありますよ(笑)。対談してもかまわない。恥ずかしくて彼はものが言えないと思いますよ。」と、一切根拠を示さない誹謗中傷に終始している。
この発言中に「生理学の知識の無いかわいそうな人」「彼よりは10倍くらいは知識がある」とあるが、そもそも斉藤による反証の内容は、森の「脳に関する誤った認識」への指摘がほとんどである。
[編集] 質問者への罵倒
この講演に聴衆として参加していた作家の川端裕人が、質疑応答で「1964年(森が17歳の頃)と比較すると、少年による殺人発生率は1/3以下に減少しており、ファミコン発売以降も変わらず低水準。仮にゲーム脳が存在するとしても、少年犯罪に悪影響を与えないほど微弱なものではないのか?」と質問を投げかけた。
しかし、森はその内容に答えず「私は日本人だ。日本の子供が笑わなくなり、キレるようになり、おかしくなっているのを見て、日本のためにやっている。」と質問の趣旨を無視した発言を行ったうえに、「あなたもゲーム業界とつながりのある人間なのかもしれないが(注: これも憶測であり、事実ではない)、そういうのを問題にするあなたの方が日本人として非常に恥ずかしい」と400人の聴衆の前で川端を罵倒した。
これらの事象から、森はゲーム脳関連の真偽以前の問題として、憶測や感情に左右される発言が多く、「実験により事実を確かめ、それを理論的に著述・口述する」という科学者としての基本姿勢に疑問を持つ声も少なくない。
[編集] 著書
- 『ゲーム脳の恐怖』(2002年、NHK出版生活人新書)。ISBN 4140880368
- 『ITに殺される子どもたち-蔓延するゲーム脳』(2004年、講談社)。ISBN 4062124750
- 『元気な脳のつくりかた』(2006年、少年写真新聞社)。ISBN 4879812226 (日本PTA全国協議会推薦図書)
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- 日本大学ビデオオンデマンドサービス - 「教職員登場・森昭雄教授『ゲーム脳からの解放』」と題された30分の映像が見られる
- 「tv-game.com」斎藤環氏に聞く ゲーム脳の恐怖
- 「tv-game.com」山本弘氏に聞く ゲーム脳の恐怖
- 東京大学教授 馬場章氏インタビュー 後編(ITmedia)
- 日本健康行動科学会 - 森が主宰する団体。名称が紛らわしいが、いわゆる学会ではない。
- でじ端会議室::スペシャル!ゲーム脳とは何か(Internet Archive のキャッシュ) - ZAKZAK(夕刊フジ)のゲーム関連記事上でのインタビュー(2003年)
- 博士論文書誌データベース - 国立情報学研究所のデータベースから森昭雄を検索した結果
- 『テレビゲームのちょっといいおはなし・3』 - 「東京ゲームショウ2006」でも配られたCESAの小冊子。「『ゲーム脳』とは何か? ~『日本人として非常に恥ずかしい』」で、ゲーム脳問題について詳しく解説
[編集] 森の講演参加者によるレポート
- まるち~ズ 開発日記(2004/6/27)ゲーム脳に直撃!(まるち~ズのページ) - 2004年に行われた講演のレポート
- ゲーム脳の講演(おととひのだいあり) - 2004年に行われた講演のレポート
- ゲーム脳講演会の顛末(竹薮みさえの「ざ。問題主婦」) - 2005年に子供の母校で行われた講演に参加し、「ゲームで自閉症になる」という発言を実際に耳にした主婦の方のレポート
[編集] 東京都世田谷区での講演(2006年)の参加者によるレポート
- 森昭雄氏の世田谷区講演リポート(リヴァイアさん、日々のわざ) - 作家・川端裕人氏のレポート
- 森昭雄日大教授講演会(同人誌生活文化総合研究所)
- 森昭雄博士の講演に行ってきました(せんだって日記)
- 3/6の「ゲーム脳 講演会」の感想(Not My Cup of Tea)