アラビア文字
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アラビア文字 | ||
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タイプ: | アブジャド | |
言語: | アラビア語, ペルシア語, ウルドゥー語, クルド語, パシュトー語など | |
時期: | 400年頃から | |
親の書字システム: | 原始シナイ文字 フェニキア文字 アラム文字 ナバタイ文字、シリア文字 アラビア文字 |
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ISO 15924 コード: | Arab | |
アラビア文字(あらびあもじ)は、アラビア語や世界中のイスラム教を受け入れた人々の様々な言語を記述するのに使われる文字でアルファベットの一種。
手書きでも活字でも必ず右から左に横書きし、原則として文字と文字を漢字の草書やラテン文字の筆記体のように続け書きにする。また、基本的に子音を表す文字からなっており、短母音を文字によってあらわさない。ただし、初学者の学習のためや、外来語の表記などの用途のために、補助的に母音を表す記号も用いる。
アラビア語に存在する3種の長母音(ā, ū, ī / アー、ウー、イー)はそれぞれ無音価(ア行)を表すアリフ (alif)、[w](ワ行)を表すワーウ (wāw)、[j](ヤ行)を表すヤー (yāʾ) を使って表す。なお、他言語の固有名詞をアラビア文字で表記する時、母音は極力長母音を使って表記する傾向がある。
アラビア語に用いられるアラビア文字はハムザ (ﺀ) を除いて28文字であるが、ペルシア語などアラビア語以外の言語では、アラビア語にない子音(p, ch, zh, gなど)を現すため28文字に点や棒を付加したりした文字を28文字に付け加えて用いる。
目次 |
[編集] 歴史
アラビア文字の起源はアラム文字である。紀元前3世紀から紀元後3世紀頃までに勢力をもったペトラを中心とするアラブ系のナバタイ族が使用したアラム文字、ナバタイ文字を直接の起源としている。当時のナバタイ文字は、他の地域のアラム文字と同様に文字同士を連結して、続け書きする特徴があった。ナバタイ人の活動範囲はシリア北部からイエメン方面まで広域におよび、4世紀頃からヒジャーズ(紅海東岸)地方を中心に、他のアラブ人にも用いられ始めた。当初ナバタイ人や他のアラブ人たちはこの文字をアラム語でのみ筆記して使用していたが、次第に自らの母語であるアラビア語も表記するようになった。
ただアラビア語はアラム語よりも子音が多く、さらに最初期のアラビア文字はいくつかの文字で本来異なる文字同士が同じ字形で表記されるという致命的な欠点を持っていた。この問題と続け書き表記のゆえに、文字を区別するために点が加えられたり、続け書きをしない文字が決められた。イスラム教の生まれた7世紀にはおおよその形ができあがっていた。
イスラム教布教後のアラビア文字は神(アッラーフ)の発した言葉の記録であるクルアーン(コーラン)や宗教文献の表記に使われたため、イスラム教に改宗した非アラブ民族にも神の教えに近い文字と認識され、ペルシア語をはじめとする多くの言語の表記にも用いられるようになった。
中には近代にヨーロッパ文化の影響を受けて文章語が生まれた時に、あえてアラビア文字による正書法が選ばれた言語もある。
[編集] アラビア文字と言語
現在、表記にアラビア文字を使う言語は、アラビア語、ペルシア語、ダリー語、クルド語、パシュトー語、シンディー語、ウルドゥー語、カシミール語、パンジャブ語、ウイグル語、ベルベル語などである。
表記がアラビア文字からラテン文字に変更された言語は、トルコ語、マレー語、インドネシア語、スワヒリ語などがある。これらの言語で文字改革が行われた理由は、簡略な文字体系による識字率の向上をはかり、さらに日常生活からのアラビア文字の排除による脱イスラム化・西欧化を狙うといった動機によるほか、母音を表記しやすくなるといった利点もある。
チェチェン語・タタール語・カザフ語・キルギス語・トルクメン語・ウイグル語・ウズベク語・タジク語・ドンガン語などの旧ソ連内のムスリム(イスラム教徒)の諸民族の言語の表記にはロシア革命直後に一時ラテン文字化が試みられたが、スターリンの粛清が始まるとロシア語にならったキリル文字に改められた。
しかし、アゼルバイジャン語、トルクメン語、ウズベク語、タタール語などはソ連崩壊後、さらにラテン文字への再切り替えが進められている。
また中国のウイグル語等のムスリム達少数民族の言語は、かつてはソ連の影響でキリル文字化が図られ、中ソ国境紛争後はさらにソ連との違いを明らかにするためにピンイン風のラテン文字正書法が行われたが、1980年代の民族政策の転換によりアラビア文字が復活された。なお、現在のウイグル語で用いるアラビア文字はアリフ、ワーウなどに点を付加した文字を用い、8つある母音の全てを書き分ける独特なものである。
また、中国に住んでいる中国語(漢語)を話すムスリム(回民、現在の回族)は、アラビア文字で口語体の漢語を書き記すことがあった。このアラビア文字表記の漢語を小児経といい、クルアーンなどの経典の注釈に使われて印刷もされた他、手紙や日記などの個人的用途に使われた。現在でも回族が集中的に居住する寧夏や甘粛では小児錦が部分的に使われているという。また、旧ソ連に移住した回民はドンガン人と呼ばれるようになるが、ドンガン語と呼ばれる彼らの話す漢語の一種もかつてはアラビア文字で書かれていた。
スペイン語はヨーロッパの言語の中では唯一アラビア文字で書かれたことがある。(主に国内のイスラム教徒の間で。)
アラビア文字は元々子音のみで語根が決まるセム系言語の為に作られた文字であった、同じセム系文字を起源とする欧州のアルファベットが文字の転用により母音を全て書き分ける方向に向かったのに対し、アラビア文字はそのような発展をしなかった。セム系言語のみに限れば文脈で母音の読み方はほぼ決定するためアラビア文字は合理的な文字といえる。しかしセム諸語とは全く違った言語的特長を有するペルシア語、ヒンドゥスターニー語、トルコ語(オスマン語)、マレー語などに導入された際はこの特徴が逆に不便さと考えられる場合が多い。実際にはこれらの言語でもアラビア文字の改良は主として子音の追加、転用にとどまり、母音の完全な表記へと進むことはなかった。例外としてウイグル語のみが先にあげたように完全な母音書き分けを行う文字体系を完成させた。
[編集] 太陽文字・月文字
アラビア文字は太陽文字と月文字の二種類に分かれる。
[編集] 太陽文字
アラビア語で、定冠詞の "أل" (al-) の /l/ の音が後の文字と同化して促音となる文字を言う。「太陽」を意味する شمس (shams, シャムス)の語頭の文字が含まれるため、太陽文字と呼ばれる。例えば、شمس に定冠詞がついた場合、اَلشَّمْسُ (al-shams, アッ=シャムス)となる。
[編集] 月文字
定冠詞の /l/ の音が同化しない文字、つまり太陽文字以外を月文字という。「月」を意味する قمر (qamar, カマル)の語頭の文字が含まれるため、月文字と呼ばれる。
[編集] 基本文字表
単独形 | 頭字 | 中字 | 尾字 | 文字名 | 転写 | 音価 | カナ転写の例 | 太陽文字 |
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ا | — | ﺎ | ʾalif | ā / â | [aː] | ア行 | — | |
ب | ﺑ | ﺒ | ﺐ | bāʾ | b | [b] | バ行 | — |
ت | ﺗ | ﺘ | ﺖ | tāʾ | t | [t] | タ行 | ○ |
ث | ﺛ | ﺜ | ﺚ | ṯāʾ | ṯ / th | [θ] | サ行 | ○ |
ج | ﺟ | ﺠ | ﺞ | ǧīm | ǧ / j / dj | [ʤ] | ジャ行 | — |
ح | ﺣ | ﺤ | ﺢ | ḥāʾ | ḥ | [ħ] | ハ行 | — |
خ | ﺧ | ﺨ | ﺦ | ḫāʾ | ḫ / ẖ / kh | [x] | ハ行 | — |
د | — | ﺪ | dāl | d | [d] | ダ行 | ○ | |
ذ | — | ﺬ | ḏāl | ḏ / dh | [ð] | ザ行 | ○ | |
ر | — | ﺮ | rāʾ | r | [r] | ラ行 | ○ | |
ز | — | ﺰ | zāy | z | [z] | ザ行 | ○ | |
س | ﺳ | ﺴ | ﺲ | sīn | s | [s] | サ行 | ○ |
ش | ﺷ | ﺸ | ﺶ | šīn | š / sh | [ʃ] | シャ行 | ○ |
ص | ﺻ | ﺼ | ﺺ | ṣād | ṣ | [sˁ] | サ行 | ○ |
ض | ﺿ | ﻀ | ﺾ | ḍād | ḍ | [dˁ], [ðˤ] | ダ行或はザ行 | ○ |
ط | ﻃ | ﻄ | ﻂ | ṭāʾ | ṭ | [tˁ] | タ行 | ○ |
ظ | ﻇ | ﻈ | ﻆ | zāʾ | ẓ | [zˁ], [ðˁ] | ザ行 | ○ |
ع | ﻋ | ﻌ | ﻊ | ʿayn | ʿ / ‘ | [ʔˤ] | ア行 | — |
غ | ﻏ | ﻐ | ﻎ | ġayn | ġ / gh | [ɣ] | ガ行 | — |
ف | ﻓ | ﻔ | ﻒ | fāʾ | f | [f] | ファ行 | — |
ق | ﻗ | ﻘ | ﻖ | qāf | q / ḳ | [q] | カ行 | — |
ك | ﻛ | ﻜ | ﻚ | kāf | k | [k] | カ行 | — |
ل | ﻟ | ﻠ | ﻞ | lām | l | [l] | ラ行 | ○ |
م | ﻣ | ﻤ | ﻢ | mīm | m | [m] | マ行 | — |
ن | ﻧ | ﻨ | ﻦ | nūn | n | [n] | ナ行 | ○ |
ه | ﻫ | ﻬ | ﻪ | hāʾ | h | [h] | ハ行 | — |
و | — | ﻮ | wāw | w | [w] | ワ行 | — | |
ي | ﻳ | ﻴ | ﻲ | yāʾ | y | [j] | ヤ行 | — |
ء | أ ؤ إ ئ ٵ ٶ ٸ ځ 等 | hamza | ʾ / ’ / ‚ | [ʔ] | 声門破裂音 | — |
表中の頭字・中字が存在しない文字は、単語中でも必ず尾字で現れる。ハムザ(ﺀ)は、他の文字の上下に付加された形となることも多い。
[編集] その他の文字
単独形 | 頭字 | 中字 | 尾字 | 文字名 | 転写 | 音価 |
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ﺁ | — | ﺂ | ʾalif madda | ʾā | [ʔaː] | |
ﺓ | — | ﺔ | tāʾ marbūṭa | h / t / Ø / ʰ / ẗ | [a], [at] | |
ﻯ | — | ﻰ | ʾalif maqṣūra | ā / ỳ | [aː] | |
ﻻ | — | ﻼ | lām ʾalif | lā | [laː] |
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク