インドネシア語
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インドネシア語 Bahasa Indonesia |
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話される国 | インドネシア、東ティモール |
地域 | 東南アジア |
話者数 | 2億人 |
順位 | 5 |
言語系統 | オーストロネシア語 インドネシア語 |
公的地位 | |
公用語 | インドネシア |
統制機関 | Pusat Bahasa |
言語コード | |
ISO 639-1 | id |
ISO 639-2 | ind |
ISO/DIS 639-3 | |
SIL |
インドネシア語(Bahasa Indonesia)は、インドネシア共和国の国語。この地域の交易語(リンガ・フランカ)であったマレー語の一方言を、国家の共通語としたもの。マレーシアのマレー語と非常によく似ており、互いに通じ合うばかりでなく、現在では正書法もマレーシア語(のラテン文字表記)と共通である。形態論上では日本語と同じく膠着語に分類される。オーストロネシア語族に属する。
目次 |
[編集] 由来
もともとインドネシア語は、前述したとおり、独立前のオランダ領東インド時代、さらにそれをさかのぼる交易の時代に、マラッカ海峡の東西およびその周辺海域で用いられていた、交易のための用語だった(海峡マレー語という)。
そうした由来をもつインドネシア語が民族の言葉として認められていく過程で画期となったのは、宗主国オランダからの独立を求める民族主義運動期、1927年10月27日・28日に開催された第二回インドネシア青年会議における次のような決議であった。
- 青年の誓い
- 我々インドネシア青年男女は、インドネシア国というただ一つの祖国をもつことを確認します
- 我々インドネシア青年男女は、インドネシア民族というただ一つの民族であることを確認します
- 我々インドネシア青年男女は、インドネシア語という統一言語を使用します
民族主義運動初期には、オランダ領東インドで最大人口を誇ったジャワ人の言語、ジャワ語を国語にするという運動もあったが、この「青年の誓い」ではそういうジャワ優先主義は退けられ、以後、インドネシア語での言論・出版活動、民族主義運動などを通じて、インドネシア語が民族の言葉としての地位を確立していくことになった(以上、永積昭『インドネシア民族意識の形成』、東京大学出版会、1980年、254頁以下を参照)。
独立後のインドネシアでは、インドネシア語が国語として整備された。国語教育が初等教育過程に導入され、官庁用語もインドネシア語に統一された。また、出版や放送メディアにおけるインドネシア語の使用も、この言語の普及に大きな役割を果たした。このような来歴をふりかえると、もともとインドネシア語を母語とする人口は少なかったが、民族主義運動期、独立後の過程を経て、インドネシア語を母語とする人口が徐々に増えてきたことがうかがえる。
しかし、インドネシア語という公用語に対する地方語の地位が衰えたわけではない。たとえば、ジャワの学校教育の現場では、授業はインドネシア語で行なわれるが、生徒はジャワ語でおしゃべりするという、「公の言葉」であるインドネシア語と「私の言葉」である地方語との使い分けは、学校教育に限らず、インドネシア人の生活のあらゆる場面でみられる光景である(白石隆『新版インドネシア』、NTT出版、1996年、第1章を参照)。現在でも、ジャワ人の日常ではジャワ語が、またスンダ人の日常ではスンダ語がそれぞれ用いられているなど、公用語と数百の地域語が並存している状況である。
なお、インドネシアから独立した東ティモールにはテトゥン語という民族語があるが、インドネシア統治下でのインドネシア語教育の結果、現在でもインドネシア語が通用する。ただし公用語はテトゥン語とポルトガル語である。
[編集] 正書法
ラテン文字(ローマ字)を用いる。ダイアクリティカルマークはほとんど用いない。現在ではアラブ系の文字(ジャウィ:Jawi)は、特別な場合を除いて一般的には使わない。イスラム伝来以前はデーヴァナーガリー文字から派生した文字が使われていたという。日本語のヘボン式ローマ字と異なるのは、次の通りである。
- c 外来の固有名詞を除き、tch の発音/tʃ/=/tS/。
- e エの発音の場合と曖昧母音の場合とがあり、単語により決まっている。辞書や初心者向けの本のように区別する必要がある場合には、エの発音の時にéと表記する。
- f、v 正しくは f の発音であるが、普通は p の発音になる。
- sy sh の発音/ʃ/=/S/(X-SAMPA)はこう書かれる。
- w v の発音になる。
- ng 日本語東京方言の「わたしが」の「が」の g の発音/ŋ/=/N/(X-SAMPA)で、gともnとも明確に区別される。
- h 母音の後では発音が弱くなったり発音されないことがある。
そのほか、
- ny ニャやニの子音であるが、nにyが続いた音ではなく、別個の発音とされる。すなわち/ɲ/=/J/(X-SAMPA)である。
- kh のどの奥からハッと出す音/x/(?)。現代では/k/で発音することも多い。
そのほか、語尾の閉鎖音ははっきりと開放されず、その舌もしくは唇の形をして終わる。
アルファベットの読み方は次のようである。
アー | ベー | チェー | デー | エー | エフ | ゲー | ハー | イー | ジェー | カー | エル | エム | エヌ | オー | ペー | キー | エル | エス | テー | ウー | フェー | ウェー | エクス | イェー | ゼッ |
A | B | C | D | E | F | G | H | I | J | K | L | M | N | O | P | Q | R | S | T | U | V | W | X | Y | Z |
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Cは、古くから使われている略語の時、「セー」と発音する。例:AC=アーセー=エアコン、WC=ウェーセー=トイレ
アルファベットの並び順は上の通りであるが、辞書によっては、語頭に限りKh、Ng、Ny、Syを別の文字として
- A B C D E F G H I J K Kh L M N Ng Ny O P Q R S Sy T U V W X Y Z
のように並べることがある。すなわち、
- nusuk→nganga
- dingin→dinihari
[編集] 文法
交易語(リンガ・フランカ)として外国語として学ばれ話されることが多かったせいか、文法は世界の各言語の中でもきわめて簡単な方に入る。
[編集] 語形変化
- 印欧語によくみられる、文法上の数、性の区別がないので、意味の変化を伴わない語形変化はない。
- 時制がないので(後述)、当然、時制による語形変化はない。
- 語形変化はもっぱら接頭辞、接尾辞による。原則として語幹は変化しない。
- ただし、後述のように、特定の接頭辞が付いたときに規則的に語幹の語頭の子音が鼻母音化することがある。
- 口語では、接頭辞が付いて語幹の語頭の子音が鼻母音化した後に接頭辞部分が省略され、あたかも語頭が変化したかのような変化をする場合はある。
- 語は必ず規則的に変化する。
- 代表的な語形変化
- 命令文以外の文で、動詞が他動詞として目的語を明確に示すときに語頭にme-を付ける。このとき、語幹の最初の音によって、me-がmen-やmeng-になったり間に挟まれた子音が鼻音化する規則的な変化がある。
- 人称代名詞が前後に接頭辞、接尾辞として付着することがある。
[編集] 語順
- 基本的に S-V-O であるが、日本語のように主語を省略することがある。
- 修飾語は、被修飾語のあとに付く。例えば orang-hutan (オラン・ウータン)は日本でもよく知られたインドネシア語だが、orangは人、hutanは森であるから、orang hutanは森の人という意味である。
- ただし、数を表す語および時の経過を示す語は前に付く。例えばdua jamは、duaが2でjamが時なので「2×時」すなわち「2時間」である(この2を「基数」という)。jam keduaだと「第2の時」で「2時」の意味になる(この第2を「序数」という)。
- 例を挙げると、sayaは私、tamuは客なので、Saya tamu. ならS-Vであり「私は客です」となり、tamu sayaなら修飾・被修飾の関係となり「私の客」の意味になる。
[編集] 時制
インドネシア語に文法上の時制はない。過去、現在、未来を言い表したいときには、「昨日」のような時間を表す語を添える。
[編集] 表現
[編集] あいさつなど
- Selamat datang (スラマッ・ダタング) - ようこそ
- Terima kasih (トゥリマ・カシー) - ありがとう
- Sama-sama (サマ・サマ) - どういたしまして(Terima kasihに対して必ず答えられる。)
- Selamat pagi (スラマッ・パギ) - おはようございます
- Selamat siang (スラマッ・スィアング) - こんにちは(など、日中の挨拶)
- Selamat sore (スラマッ・ソレ) - こんばんは(など、夕方の挨拶)
- Selamat malam (スラマッ・マラム) - おやすみなさい(など、夜の挨拶)
- Selamat tidur (スラマッ・ティドゥル) - おやすみなさい
- Selamat jalan (スラマッ・ジャラン) - さようなら(立ち去る人に対して)、いってらっしゃい
- Selamat tinggal (スラマッ・ティンガル) - さようなら(留まる人に対して)、いってきます
- Jumpa lagi (ジュンパ・ラギ) - ではまた
- Apa kabar? (アパ・カバル) - いかがですか?、お元気ですか
- Baik (バイク) - 元気です
- Maaf(マアフ) - すみません、ごめんなさい
- Tidak, apa-apa(ティダク・アパアパ) - かまいません、大丈夫です
[編集] 数
数字の語順は、11~19の例外をのぞけば、日本語と同じく左の桁から右の桁へ、桁の名前を挟みながら読んでいく。ただし、3桁ごと。3桁ごとにピリオド (.) を添えて表記することもある。小数点はコンマ (,) で表す。
- 0 - nol(ノル)
- 1 - satu(サトゥ)
- 2 - dua(ドゥア)
- 3 - tiga(ティガ)
- 4 - empat(ウンパッ)
- 5 - lima(リマ)
- 6 - enam(ウナム)
- 7 - tujuh(トゥジュフ)
- 8 - delapan(ドゥラパン)
- 9 - sembilan(スンビラン)
- 10 - sepuluh(スプルフ) < se=1, puluh= ×10 の意味
- 11 - sebelas(スブラス) < se=1, belas= +10
- 12 - duabelas(ドゥアブラス) < dua=2, belas= +10
- 20 - duapuluh(ドゥアプル) < dua=2, puluh= ×10
- 21 - duapuluh satu(ドゥアプル サトゥ)
- 30 - tigapuluh(ティガプル) < tiga=3, puluh= ×10
- 100 - seratus(スラトゥス) < se=1, ratus= ×100
- 200 - dua ratus(ドゥア ラトゥス)
- 300 - tiga ratus(ティガ ラトゥス)
- 1000 - seribu(スリブ) < se=1, ribu= ×1000
- 2000 - dua ribu(ドゥア リブ)
- 10000 - sepuluh ribu(スプル リブ)
- 100000 - seratus ribu(スラトゥス リブ)
- 1000000 - sejuta(スジュタ)
- 1000000000 - satu miliar(サトゥ ミリアル)
- 0,12 - nol koma satu dua(ノル コマ サトゥ ドゥア)
[編集] 語
- jalan(ジャラン) - 道
- Jepang(ジュバング) - 日本
- bahasa(バハサ) - ことば
- bahasa Jepang(バハサ ジュバング) - 日本語
- orang - 人(オラン)
- orang Jepang(オラン ジュバング)- 日本人
- saya(サヤ) - 私
- anda(アンダ) - あなた
- nasi(ナシ) - ご飯
- kopi(コピ) - コーヒー
- makan(マカン) - 食べる
- minum(ミヌム) - 飲む
- minta(ミンタ) - 欲しい
- mau(マウ) - したい
日本語によく見られる、同じ音を繰り返す語(畳語という)がよく見られるという共通点もある。
- negara (ヌガラ) - 国 → negara-negara - 国々、諸国
- orang - 人 → orang-orang - 人々
[編集] 文
- Saya orang Jepang. - 私は日本人です。
- Saya makan nasi. - 私はご飯を食べます。
- Minta kopi. - コーヒーをください。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- Learn Indonesian online
- 東京外国語大学言語モジュール - インドネシア語
- 田村さんのインドネシア語口語辞書
- Atrinia.Comオンザフライ辞書 インドネシア語・日本語・英語 辞書
- 鍋田辞書 インドネシア語応のパソコン用の辞書ソフト。符号付きeの表示が可能。