F-5 (戦闘機)
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F-5は、ノースロップ社が1950年代に開発したアメリカ合衆国の戦闘機。アジア・アフリカなど発展途上国にも大量に輸出された。愛称はA/B型がフリーダム・ファイター、E/F型はタイガーII。米空軍練習機であるT-38タロンという姉妹機もある。
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[編集] 開発の経緯
[編集] F-5A/B
F-5A/Bは、他社との新戦闘機競争で大きく水をあけられていたノースロップ社が、第二次世界大戦中に建造され、まだ当時多数残っていた米海軍の軽空母用の艦載機として計画されたのが萌芽であった。しかし、結局海軍はそれら軽空母を退役させる事にしたため、ノースロップは海外輸出市場に活路を見出す事になった。同時にノースロップは空軍のT-33の後継機にも目をつけ、戦闘機型をN-156F、練習機型をN-156Tとして平行して開発を進めた。このN-156T案は空軍にT-38タロンとして採用され、N-156Fも自社資金で開発を継続した。
当時発展途上国向けへの戦闘機の供与計画が進んでいた。すでにF-86は旧式化し、最新鋭であったF-104は高度な操縦・整備技術を要して高価であり、軍事機密も多く、主に欧米や日本といった有力な同盟国への供与に限られた(ただし、パキスタンとヨルダンにもA/B型が供与された)。このため、廉価で、航法/測距レーダーといった基本的なレーダーさえも搭載せず(パイロットは目視で飛行と攻撃を行なった)、小型エンジンを使用しているために整備が容易で、飛行性能が優れていたことから、N-156Fは発展途上国向けの海外供与戦闘機に選ばれることとなる。こうして自社資金開発を進めていたN-156Fは、米国政府から資金援助と空軍の航空機ナンバーが与えられ、F-5と命名された。
当初、F-5A/Bは純粋に供与機として用いられ、外国空軍への技術指導と訓練以外での米空軍での使用予定はなかった。しかし、供与された国からの実績要求などから、米空軍内で試験的にF-5Aの飛行隊編成が行われ、ベトナム戦争において対地攻撃に用いられた。ただし、このF-5Aは空中給油能力、装甲の追加など、従来のF-5Aとは異なる「特別仕様」のため、F-5Cという非公式のニックネームで呼ばれる事もある。このF-5の参加した作戦はスコシ・タイガー作戦と命名され、F-5の作戦能力と双発エンジンによる被弾時の生存性が高く評価される事となった。ただし、MiG-21との直接の交戦は無く、もっぱら対地攻撃に使用されていた。「スコシ」と言うのは日本語の「少し」のことであるが、「少し虎」ではなく「小さな虎」といいたかったのだということである。(米語でスコースウィーは日本語を語源とする外来語で「小さい」を意味する。この他の日本語語源の米語としてはバカタレ、イチバン等がある)
供与された国としては、旧南ベトナム、台湾(中華民国)、タイ、イラン、エチオピア、ヨルダン、大韓民国、ノルウェー、リビア、ギリシャ、トルコ、モロッコなどがある。
この他にパキスタンも第3次印パ戦争中に、リビアのF-5Aをパイロットと共に「提供」され、数機使用していたとされる(この他にサウジアラビアがF-5E飛行隊を同国に派遣していたともいわれる)。
また、南北統一後のベトナムでは、南から接収したF-5を中越戦争まで実戦運用した。
また、カナダ、オランダでは自己資金によって改良とライセンス生産が行われ、カナダはCF-5、オランダはNF-5と呼称した。ただし、オランダは資金難などからカナダに生産を委託した。また、CF-5はベネズエラにも輸出され、現地ではVF-5と称される。この二つのF-5バージョンは、ベトナム戦争での使用経験と共に、F-5E/Fの開発での大きなヒントとなった。この他ではスペインがノックダウン生産を行っている(SF-5)。
F-5A/Bは、経済性や発展途上国において初のジェット戦闘機としての利便性に加え高価な戦闘機に勝るとも劣らない抜群の機動性で広まった戦闘機である。ベトナム戦争以外でめぼしい戦績は無いが、西サハラ紛争でモロッコが、オガデン紛争で(革命後の)エチオピアが実戦に使用したといわれる。ただし、そのほとんどが対地攻撃に用いられた。ベトナム戦争終結後、旧南ベトナム空軍のF-5Aが対地攻撃任務機としてカンボジア侵攻に用いられていた。
F-5A/Bはその後、F-5E/Fもしくはその他の戦闘機に交替していったものの、ギリシャやトルコは米国を介して退役したF-5A/Bを大量に入手して主力戦闘機の補助や対地攻撃に充てた。現在でも一線の戦闘機として就役しているのはフィリピンやベネズエラなどである。この他にカナダで退役したCF-5が、近代改修後にボツワナで再就役している。
[編集] F-5E/F
1960年代後半に入ると、ソ連はMiG-21を中小国空軍向けにも輸出し始めた。MiG-21はレーダーを装備しており、目視でのみ戦闘を行いレーダーを持たないF-5A/Bでは対抗が困難になりつつあった。そして、搭載エンジンのパワーも不足が否めなかった。このため、最新型のMiG-21に対抗できるようF-5EタイガーIIが開発されることとなった。
基本的にF-5E/Fは、F-5A/Bの改良型であるものの、
- エンジンを強化、
- F-5Aでは皆無であったレーダー類を追加、
- CF-5やNF-5で採用された空戦フラップや2段伸縮式の前脚の採用
などが行われ、F-5Aに比べて横幅が多少広くなっている。MiG-21を仮想敵とみなして開発されたものの、基本的に空対空レーダーのみに戦術レーダーを限定するなど、政治的な配慮もなされていた(ただし、イラン、サウジアラビア、モロッコ向けの機体には空対地レーダーが自己資金で追加装備され、マーベリック空対地ミサイルなども装備できる仕様となった)。
F-5FはF-5B同様、副座の戦闘練習機であるが、F-5Bと異なり、本格的な空戦にも参加できるようにF-5E同様の機関砲・戦闘システムを残し(ただし、機関砲の搭載数は1門に減少)、燃料搭載量もF-5Eと同様にした。このため、機関砲を装備しないF-5Bとは大きく異なり、寸法やサイズ等が変更された。
その一方で、F-5の得意分野といえる利便性や経済性も受け継がれ、F-5A/Bを運用していた国の他にも、メキシコやホンジュラスなどがF-5E/Fを採用した。 米空海軍では抜群の運動性能と、類似の機体サイズから トップガン等空戦訓練教程での、仮想MiG-21 あるいは、汎用の仮想敵機として、長く使用された。なお映画トップガンでは仮想敵役としてのMiGではなく、架空機MiG-28として登場する。
[編集] スペック(F-5E)
- 乗員:1名
- 全長:14.6m
- 全幅:8.13m(翼端ミサイル発射レール無し)
- 全高:4.4m
- 最高速度:M1.6
- エンジン:J85-GE-21×2基
- 推力:2,270kg
- 総重量:4.3~9.9t
[編集] 派生型
- F-5A: 初期型。
- F-5B: 練習攻撃機。
- F-5E: F-5Aの改良型。エンジンなどを強化。
- F-5F: F-5Eの複座練習戦闘型。F-5Eと同格のレーダーを搭載し、20㎜機銃×1門を固定装備。
- RF-5E: 偵察機型。機首にカメラを搭載。
- F-5N: 海外で余剰となったF-5Eが米海軍で再就役した際の呼称。
- F-5G(F-20): F-5のエンジンをJ85×2からF404×1に変更し、電子機器を近代化した機体。台湾がF-16の導入を検討した際にF-16/79と共に提案されたが、台湾の要求能力を満たしていない事を理由に不採用となり、その後台湾は国産戦闘機の経国を開発した。中国を刺激しないようにあえて新形式とせずF-5の派生型としての命名であったが、台湾への輸出を断念した時点で新形式のF-20と改名した。詳しくはF-20 (戦闘機)確認の事。
- X-29:グラマンがF-5他の部品より製造した前進翼実験機