井上敏樹
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井上 敏樹(いのうえ としき、1959年11月28日 - )は、日本の脚本家。埼玉県出身。アニメ作品や特撮テレビドラマ作品を多く手がけている。成蹊大学中退。父親は同じく脚本家の伊上勝。
大学では幻想文学研究会に所属し、執筆した短編小説を東映動画の七條敬三プロデューサーに読んでもらったことで、在学中の1981年、『Dr.スランプ アラレちゃん』第24話にてデビュー。 1986年に執筆した『超新星フラッシュマン』第14話で、特撮テレビドラマにも本格的に関わるようになった(それ以前に『どきんちょ!ネムリン』の第29話を執筆している)。
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[編集] 作風
主人公側であれ敵側であれ、人物の内面の強弱・美醜、人物間の利害関係を描写することを重視し、同一陣営内での対立・確執を描くことを好む。そのため作品内では「アイデンティティ喪失からの劇的な復活」や「衝突や葛藤を乗り越えての団結」といった展開がなされることが多く、特に特撮テレビドラマにおいては「一致団結しない・出来ないグループ」が登場する作品がある。
「完全無欠のヒーロー像」には懐疑的で、トラウマを抱えていたり、だらしない生活態度だったり、打算的だったりする者を主人公に据え、あるいは主人公周辺の重要人物に配する傾向がある。これらに限らず、登場人物には癖の強いキャラクターが多い。また、登場人物の破滅を描く際には、たとえその破滅が自業自得であったとしても、視聴者の共感を呼ぶ印象的な場面を用意するケースが多い(『仮面ライダー龍騎』第44話の佐野満、『仮面ライダー555』第48話の草加、『仮面ライダー剣』第19話の桐生豪など)。
いわゆる「クサい」セリフをよく使うが、俳優・声優からは「本読みの段階ではクサく感じても、実際に演技に入ると違和感を感じさせない」との評価がある。
また食事シーンがやたら多いのも特徴である。(これに関しては平成仮面ライダーシリーズなどで顕著に表れてる。)
「シナリオは映像のための設計図に過ぎない」が持論で、脚本ではそのシーンの大意を示すにとどめ、セリフの解釈(そこに込められた登場人物の感情の機微など)などの詳細は演出家や俳優・声優に委ねるという執筆スタイルをとる。これには、脚本家という役割において作り上げたシナリオを、演出家と俳優・声優の手で完成させるばかりか、自身の想像を超えた映像にして欲しいとの意図が込められている(『仮面ライダー555 パラダイス・ロスト』公開時のインタビューでの「脚本家にとって、キャラクターの自立は一番嬉しい事だが、そのためには演出や役者の力が必要。僕が関われる部分では、責任を持って全てのキャラクターを描いていく」と言う発言は、このことを端的に示している)。このため、演技、演出する側にとっては「何を仕掛けてくるのか、読めば読むほど挑戦的」(『H~i! Jack!』記者発表での佐藤健光の発言より)といえる。
脚本執筆の前段階であるプロットや箱書きの完成度を重視することでも知られる。『ギャラクシーエンジェル』スタッフの描いた井上の肖像イラストに「プロットからやり直してこい」というセリフが添えられるほど。鈴木武幸(のち東映取締役)は、『超新星フラッシュマン』で初めて井上と仕事をすることになった時、初稿の完成度の高さに驚いたと回想している。
一方、尋常ではない執筆の速さが有名で、作品の制作スケジュールが遅れたときなどに「助っ人」として呼ばれることがしばしばある。
原作付き作品の大半や、自分以外の者がシリーズ構成を務めている作品においては、その原作やシリーズ構成担当者の作風に合わせる傾向が見られる。
一方、人間の暗部を描写する関係から味方同士の「裏切り」や「策謀」「誤解」などネガティブな感情をインパクト強く描くため、クセが強い面があり、そういう作風を良しとしない視聴者からは敬遠されやすい。 しかし、同時にその強烈さがクセとなるというファンも多く、良くも悪くも最も多く脚本を手がけた「平成仮面ライダー」のカラーを決定したと言える。
2006年現在「クウガ」から「カブト」までの平成仮面ライダーシリーズに携わっている唯一の脚本家でもある。平成仮面ライダーシリーズでの担当した話数は既に160話を超え、劇場版も「the first」含め6作を担当した。
また、後述の各エピソードやインタビューなどでの態度からか、時に脚本そのものとは関係ない部分で批判される事が多いというのも特徴である。
[編集] エピソード
父・伊上勝譲りの豪放磊落な性格が有名で、真偽不明なものも含めて多くの豪快な逸話を持つ。
[編集] 仕事面全般
- 共に仕事をする機会が多い人物は以下の通り。
- シリーズ構成(ないしはメインライター)ともなれば、レギュラー俳優・声優のオーディションに立ち会うケースも多いが、井上がオーディションに顔を出したのは『鳥人戦隊ジェットマン』の時のみ。大抵の作品では、俳優・声優に会うのは撮影・収録が始まってしばらく経ってから。そこで「どのようなセリフが向いているか」など、方向性を見るという。
- 当初の役柄が俳優に合っていないと判断すれば、作品の途中でも俳優に合わせてキャラクター性を変更することを厭わない。例えば『仮面ライダー龍騎』に登場した由良吾郎は、プロデューサーの白倉伸一郎に「ミステリアスで怪しい雰囲気のいい役者がいる」と聞かされていたために当初は「不気味な変人」として描かれたが、演じる弓削智久と会ってみると明るい好青年だったため、吾郎のキャラクターも急遽「寡黙だが実直な好漢」に変更されている。
- 一時期、作品のテーマについて聞かれると「愛」と答えることが多かった。これには、作品にテーマ性を求めたがる昨今の風潮に対する皮肉が込められている。自身は「テーマを前面に押し出すのは作り手の自己満足に過ぎず、受け手にとってはウザったい。作品全体を見て、そこはかとなく浮かんでくるくらいがちょうどいい」という立場をとる。
- とある作家に「君は実力があるんだから、いつまでもジャリ番書いてないで一般ドラマに行くべきだ」と言われ、「こっちは親の代から50年ジャリ番で食ってるんだ。それをお前ごときに低俗に見られる筋合いはない!」と激怒。
- 自身にアンチが多いことは本人も承知しているが、『仮面ライダー THE FIRST』公開当時のインタビューで「アンチ井上」について聞かれた時は、「いいんだよ、そういうのが面白いんだから」と、アンチの存在すらも華と捉える態度で一蹴した。
- 2006年4月から「脚本家井上敏樹」としてのグッズが販売された[1]。脚本家のグッズを販売するというのはこれまで余り例がない事である。
[編集] 作品にまつわるエピソード
- 伊藤和典の推薦で金子修介監督作品『みんなあげちゃう』の脚本に起用されたが、最初の打ち合わせで日活の重役につっかかって喧嘩になった。
- 『鳥人戦隊ジェットマン』でテレビドラマ初のメインライターを務める際、態度がでかいと言う理由でテレビ局のプロデューサーに反対される。それをなだめたのは同作のチーフプロデューサーを務めた鈴木武幸であった。
- 『鳥人戦隊ジェットマン』で、演技に悩んでいた若松俊秀に、「深く考えず、俺の書いた(結城)凱をベースにやればいい」とアドバイス。吹っ切れた若松は、スーパー戦隊史上に残る名演を見せた。
- 『疾風!アイアンリーガー』を書く事が決まっていたが、飲み会の席で役者と腕相撲をして骨折。スケジュールが切迫していた事情もあって、同席した會川昇に代役を依頼。
- 普段は演出などに関しては殆ど現場に一任する井上だが、『超光戦士シャンゼリオン』第9話「速水、燦然!」では、珍しくラストシーンのカメラワークを脚本で指定。この回を監督した小中肇は職業上これを嫌い試行錯誤したが、結局は「悔しいが、やっぱり脚本どおりにやったほうが効く」と、脚本通りに撮る事となった。
- 『超光戦士シャンゼリオン』では、第2話タイトルを暁のキャラクターを前面に出したタイトルにするか、シャンゼリオンの造型を前面に出したタイトルにするかで意見が対立していたところを無理やりまとめてしまったという。
- 『仮面ライダー555』では、敵キャラクターの総称『オルフェノク』のネーミングの生みの親である。それらしい名前をいろいろ考えた中でも一押しが「オルフェ」と「エノク」であった。どちらにするかで「オルフェ」派と「エノク」派がもめていたときに一言、「そんなの『オルフェノク』でいーじゃねえか」で決定されたという。
- 『仮面ライダー555』では、最終回で役者としてゲスト出演。役は山崎潤演じる琢磨逸郎のアルバイト先である工事現場の監督。
- 『ギャラクシーエンジェル』について、原作者のブロッコリーは萌え系路線を、実質的な作者である水野良はハードSF路線を志向していたが、第1期シリーズは時間枠や放送回数の関係から主人公5人の個性を前面に出す方針が採られ、結果「萌えアニメの皮をかぶったスラップスティックコメディ」となった。ブロッコリーや水野はこの路線に不満があったといわれたが、これに対し井上は「SF? 萌え? 話をつまんなくするための"縛り"じゃねえか。俺が責任取るから好きにやれ、好きに!」と脚本家一同に檄を飛ばしたという。
- 『仮面ライダー響鬼』ではプロデューサーの事情(記事仮面ライダー響鬼#プロデューサー交代騒動参照)により30話以降の脚本を担当。プロデューサーの白倉伸一郎は執筆依頼にあたって交渉の難航を覚悟していたが、井上は「お前の頼みは聞く」と快諾。
- 『仮面ライダーカブト』には第11話から参加したが、プロデューサーの白倉伸一郎、武部直美とメインライターの米村正二は共に井上と仕事した経験があり、主人公・天道総司のキャラクターを造形する過程で、図らずも性格設定の一部に井上の人となりが投影される結果になった。明確なモデルではないものの、米村は井上に了解を取ったという。
- 『ガイキング LEGEND OF DAIKU-MARYU』に「酔った勢いで」参加。担当した回は例によって登場キャラクターが常軌を逸して暴走するギャグ話で、賛否も分かれる。それでも、執筆に当たっては放映済み話数のDVDとそれまでの全話のシナリオを読破して臨み、シリーズ構成の三条陸氏も感心する程のコメディとキャラクターに対する造詣の深さを垣間見せた。
[編集] プライベート
- 趣味は料理、釣り、体を鍛えること(中学時代は柔道部員。高校時代は極真会館で空手を習っていた)。特に料理の腕は卓越しており、自宅に友人や仕事仲間を呼んでしばしば振舞っている。
- 書道五段の腕前。『超光戦士シャンゼリオン』公式サイトに掲載されている台本の表紙や、公式グッズのTシャツなどで、その達筆が確認できる。
- オークションが好きで年代物の小判を落札したが、その後紛失。「酔った勢いで誰かにあげたんだろう」と片付けた。
- 娘も脚本家志望。本人も「親子三代脚本家にしたい」と娘の夢に理解を示している。
- インタビューでの一見不遜に見える態度は多くの「アンチ井上」を生む要因のひとつとなっているが、実際に井上と仕事をした人間からは「豪放そうに見えて、実は繊細」「気配り上手」「シャイ」「インタビューでの態度はわざと悪ぶってるだけ」という評判が多い。シャイという点は、知人を自宅のホームパーティーに誘った時、実際は自分が作っているのにわざと「賄いさんに作らせている」と言っていたという逸話からもうかがえる。
[編集] 作品
[編集] テレビアニメ
[編集] シリーズ構成
- YAWARA!
- らんま1/2
- Bビーダマン爆外伝(第29話~第35話において)
- 遊☆戯☆王(東映アニメーション版)
- ギャラクシーエンジェル(1~4期全シリーズにおいて)
- ぱにょぱにょデ・ジ・キャラット
- 電光超特急ヒカリアン
- ドラゴンドライブ
- 獣兵衛忍風帖 龍宝玉篇
- PAPUWA
- 天上天下
- 牙-KIBA-
- すもももももも 地上最強のヨメ
- DEATH NOTE
- デビルメイクライ
[編集] その他
- Dr.スランプ アラレちゃん
- うる星やつら
- 未来警察ウラシマン
- OKAWARI-BOY スターザンS
- 北斗の拳
- 仮面の忍者赤影
- ダーティペア
- シティーハンター
- ドラゴンボール
- 魔神英雄伝ワタル
- 獣神ライガー
- 天空戦記シュラト
- オバタリアン
- ダークキャット
- 勇者特急マイトガイン
- 獣戦士ガルキーバ
- 名探偵コナン
- 金田一少年の事件簿
- いじわるばあさん[第2作]
- スーパーフィッシング グランダー武蔵
- MASTERキートン
- 超特急ヒカリアン
- 鋼の錬金術師
- ガイキング LEGEND OF DAIKU-MARYU
- ウィッチブレイド
[編集] OVA
[編集] 特撮作品
[編集] シリーズ構成・メインライター
- ※「シリーズ構成」と「メインライター」の違いについては記事「八手三郎」を参照。
- 鳥人戦隊ジェットマン
- 超光戦士シャンゼリオン(39話中37話執筆、残り2話も監修を担当)
- 鉄甲機ミカヅキ(6話中5話執筆[クレジット上は全6話執筆。「エピソード」参照])
- 仮面ライダーアギト(51話中50話執筆、残り1話も監修を担当)
- 仮面ライダー555(全50話執筆)
- 仮面ライダー響鬼(30話以降メインライター)
[編集] その他
- どきんちょ!ネムリン
- 超新星フラッシュマン
- 光戦隊マスクマン
- 超獣戦隊ライブマン
- 高速戦隊ターボレンジャー
- 地球戦隊ファイブマン
- 恐竜戦隊ジュウレンジャー
- 五星戦隊ダイレンジャー
- 超力戦隊オーレンジャー
- 未来戦隊タイムレンジャー
- 仮面ライダークウガ
- 仮面ライダー龍騎
- 鋼鉄天使くるみpure
- 仮面ライダー剣
- 仮面ライダーカブト
[編集] その他テレビドラマ
- 京都始末屋事件ファイル
[編集] 映画
- みんなあげちゃう
- 人造人間ハカイダー
- 仮面ライダーアギト PROJECT G4
- 仮面ライダー龍騎 EPISODE FINAL
- 仮面ライダー555 パラダイス・ロスト
- 仮面ライダー剣 MISSING ACE
- 仮面ライダー響鬼と7人の戦鬼
- 仮面ライダー THE FIRST
[編集] 戯曲
- H~i! Jack!! - やぁ! ジャックさん!! -(劇団たいしゅう小説家 2005年)
[編集] ゲーム
- 人造人間ハカイダー -ラストジャッジメント-
[編集] 脚本以外の執筆作品
[編集] 小説
テレビドラマのノベライズは全て自身が関わった物。
- 超時空要塞マクロス
- 超時空世紀オーガス(小学館スーパークエスト文庫 1984年)
- ジェットマン(小学館スーパークエスト文庫 1992年)
- 仮面ライダーファイズ正伝-異形の花々(講談社 2004年)