ロケット
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ロケット(英:Rocket)は自らの質量の一部を後方に射出し、その反作用で進む力(推力)を得る装置、もしくはその推力を利用して移動する装置。外気から酸化剤を取り込む物(ジェット機)は除く。
原理上、真空中でも推力を得ることができるため、主に宇宙空間での移動手段として使われている。また、ミサイルの動力として軍事的に利用される場合も多い。
狭義にはロケットエンジン自体をいうが、ロケットエンジンを搭載して人工衛星などのペイロードを宇宙へ打ち上げる打ち上げ機(Launch Vehicle)全体をロケットということも多い。
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[編集] 概論
運動量保存の法則から後方に射出する質量は、できるだけ高速の方が望ましいため、燃焼させた高温なガスを噴射するのが一般的である。燃焼のために燃料と酸化剤を搭載しており、これらをあわせて推進剤という。この推進剤の形態から、ロケットは固体燃料ロケット、液体燃料ロケット、ハイブリッドロケットに大きく分類される。なお、一般にロケットが推進する原理を「噴射したガスがロケットの後方の空気を押すから」と考える人が多いが、それは誤りである。ロケットの推進力は、あくまでも噴射したガスの反作用によるものである(そうでなければ、真空中でも推進できる理由を説明できない。なおかつてはニューヨーク・タイムズも、そのように誤解した記事を掲載して、真空中でロケットは飛べないと主張したことがある)。
固体燃料ロケットとは、常温で固体の燃料と酸化剤を用いるロケットで、古くは火薬、最近の例では合成ゴムと酸化剤を混合成型したものなどが使われている。固体燃料は常温では飛散しないため管理(保管)が楽、構造が簡単な割に安価で大推力が得られるなどの利点を持つが、比推力が悪いため効率が悪く、推力の制御が難しいこと、またいったん点火したら、燃料をすべて消費するまで燃焼を停止させるのはほとんど不可能であることなどの欠点を持つ。
液体燃料ロケットは、液体の燃料と酸化剤を用いるロケットである。固体燃料ロケットとは違い、推力の制御が容易であること、いったん燃焼を停止させたものを再度点火するのが可能であることなどの長所を持つが、その反面、燃料を送り出すための高圧ポンプや複雑な配管システムが必要とされるなど、構造が複雑になり、その分高価になるという欠点も持つ。初期には常温保存が可能なヒドラジン(燃料)と四酸化二窒素(酸化剤)、ケロシン(燃料)と液体酸素(酸化剤・極低温)、などが用いられたが、最近はより高い比推力が得られ、排気もクリーンな液体水素(燃料)と液体酸素(酸化剤)の組み合わせが、各国の基幹ロケットの主流となっている。ただし極低温流体であるため、開発の難しさがある。
また、人工衛星の軌道制御や姿勢制御のための小型ロケットには、過酸化水素やヒドラジンを触媒で分解させて噴射する、構造が簡単な一液式ロケットも用いられる。
なお、一般に燃焼室の冷却には燃料自体が使用される。上記の液体酸素・液体水素のエンジンでは、燃焼室の温度は三千度にも達するが、これだけの高温に耐えられる素材は現在のところ存在しない。その対策として、燃焼室の壁の中には細いパイプが何百本も張りめぐらされており、極低温の液体水素をその中に通し、それを気化させることによって熱を奪うというシステムになっている。
ハイブリッドロケットは、化学ロケットの一種で、燃料と酸化剤がそれぞれ異なる相をもったロケットである。一般的には、固体の燃料と液体の酸化剤が用いられる。固体燃料ロケットの特徴である構造の簡易性と液体燃料ロケットの特徴である推力調整を可能とするが、同時に固体燃料ロケットと液体燃料ロケットの両方の欠点も併せ持つ。このため長らく実用化を見なかったが、スペース・シップ・ワンではハイブリッド・ロケットエンジンが採用された。
このため現在宇宙ロケットの分野では、効率が良い液体燃料ロケットが主流であり、固体燃料ロケットはブースターなどの補助推力として用いられる。一方、定期的に打ち上げる高高度気象観測ロケットや、発射準備時間が短いミサイル等では固体燃料ロケットが主流である。→ロケットエンジンの推進剤参照
使用するエネルギー源から分類すると、化学ロケット、電気ロケット、原子力ロケットがある。
化学ロケットは、推進剤の燃焼(化学反応)によって生じる熱エネルギーを利用したもので、最も効率が悪いが利用しやすい。実用化されたロケットのほとんどは化学ロケットである。電気ロケットは、イオン化された推進剤に電圧をかけて加速して噴射するもので、人工衛星などで使われる。原子力ロケットは、推進剤を原子炉で加熱して噴射するもの、ロケットの後方で核爆弾を爆発させて推進力を得るものなど複数の種類があるが、安全性の問題や核兵器の宇宙空間への持ちこみを禁じた宇宙条約や宇宙空間での核爆発を禁止する部分的核実験禁止条約の制限により実用化されていない。
運動量保存の法則から導き出されるもう一つの結論として、移動体本体の質量ができるだけ小さいことが望ましい。 このため、空になった推進剤タンクやそれを燃焼させるエンジンを収容する部分は必要ない質量として切り離されることもある。このような仕組みを多段ロケットという。現在主流のロケット(打ち上げ機)は、殆どが2~3段式の構成である。
ロケット最大の貨物が自らを宇宙空間まで運ぶ推進剤であるという矛盾した事実は、地球から長距離を航行しようとする際に大変な非効率をもたらすが、宇宙空間に中継地点を設けることである程度緩和されるのではないかと考えられている。アポロ計画の月着陸船が月から帰還するときに必要としたロケットが、地球から打ち上げられた際のサターンロケットに比べて驚くほど小さかったことからわかるように、重力が小さい場所から発進すればそれほど多くのエネルギーは必要としないのである。静止軌道に基地を設け、そこで分割運搬した部品を組み立ててロケットを建造し、そこから出発することが、例えば将来的に火星を有人探査する際には有効であろう。静止軌道までの運搬方法としては、軌道エレベータなどが実際に検討されている。
[編集] ロケットの歴史
ロケットの歴史は古く、西暦 1000年頃(?) には中国で、今のロケット花火の形態が発明され武器として利用されていた。近代のロケット、すなわち宇宙に行けるロケットが研究・開発されたのは 19世紀後半から20世紀である。
コンスタンチン・エドゥアルドヴィッチ・ツィオルコフスキー(1857年-1935年)はロケットで宇宙に行けることを計算で確認し、液体ロケットを考案した。このため「宇宙旅行の父」と呼ばれている。ロバート・ハッチンス・ゴダード(1882年-1945年)は、1926年世界初の液体ロケットを打ち上げた。このため「近代ロケットの父」と呼ばれている。実用的な液体ロケットはウェルナー・フォン・ブラウン(1912年-1977年)が中心となってナチス・ドイツで開発された V2ロケットがはじめとされている。ナチスドイツの崩壊に伴い、V2 開発に関わった人材がアメリカ・ソ連に渡り、両国の宇宙開発競争の技術的な基盤を作った。この宇宙開発競争により、 1958年 ソ連が世界初の人工衛星スプートニク1号を、1969年 アメリカがアポロ11号によって世界で初めて人類を月に到達させた。
冷戦以後はアメリカとロシアの宇宙船は宇宙空間でドッキングを行ったり、協力して国際宇宙ステーションの建設にあたるなど宇宙開発や惑星・衛星探索への利用が進んだ。また、軍事や情報における利用価値が認知され、現在に至るまで国家機密に属する非常に重要な技術として取り扱われている。特にスパイ衛星の打ち上げは諜報活動において革新的な出来事であり、これまでスパイや偵察機を送り込んで危険を覚悟で行ってきた諜報活動のリスクを大幅に削減する成果をあげた。また、GPS衛星の打ち上げ後は比較的正確な位置測定の手段としてカーナビゲーションシステムに応用され、宇宙ロケット関連技術は現代人の生活を支えるのに欠かせない存在となっている。
一方でロケットは文化的な影響も非常に大きな存在である。子供でも理解しやすく見栄えの良いロケットは人々へ夢を与え、あるいは正義や悪の力を象徴する強烈なシンボルとしてジャンルを問わず映画や小説、アニメや漫画等の舞台に多く登場してきた。日本でもロケットは世代や性別を超える貴重な存在として普遍的な人気を獲得している。その人気の背景となる日本のロケット技術発展は目覚しいもので、現在では世界的に非常に高いレベルを持っている。この為、日本では文化的な影響と共に先進技術の立証や国力の証明に繋がる事から、日本国民を励ます国威発揚の存在としても活躍している。近年では資金難や技術的な困難を乗り越えてハヤブサ探査機がロケットで打ち上げられ、世界で初めて小惑星に着陸するという成し難い偉業を成功させた事が記憶に新しい。ハヤブサはマスメディアから全くといってよい程取り扱われる事が無かったにもかかわらず、関係者だけでなくプロジェクトの経過を見守っていた沢山の日本国民へ驚きと感動を与えた。ハヤブサ着陸の成功はインターネットを中心に大きな喜びをもたらし、改めて日本のロケット人気や宇宙開発技術の希望を証明する結果となった。
国家ないし国家連合による政策としての宇宙開発が財政面で苦しい局面に立たされている反面、民間によるロケット開発も盛んである。これまでにもTBSの宇宙特派員として1990年12月2日にソユーズで飛び立ちミールに9日間滞在した秋山豊寛をはじめ、何人かの民間人が主にロシアに経費を支払い宇宙開発目的のロケット打ち上げに便乗する形で、宇宙旅行を実現したことはあった。いくつかの民間企業は将来的に民間旅客機での宇宙旅行を実現するべく、現在主に母機から空中で切り離し加速し、宇宙空間(地上100キロメートル)に到達後数十秒から数分後に水平着陸するタイプのロケットプレーンを開発している。日本ではペプシが1998年にこの宇宙旅行の切符を公開懸賞としてプレゼントするキャンペーンを行ったことがあるが、2001年に(2001年宇宙の旅へのオマージュとして)実施予定だったフライトは、現在の所延期されている。
さらに規模は小さくなるが、アマチュアによるロケット打ち上げの試みも存在する。2004年5月17日には20人ほどのアメリカ人による組織「Civilian Space eXploration Team」(CSXT)によって打ち上げられたアマチュアロケット「GoFast」が、高度100キロメートルに到達し、史上初めて宇宙空間に到達した、一般人によるロケットとして歴史に名を残した。
[編集] 世界各国のロケット打ち上げ実績
成功率順位 | 国名 | 打ち上げ回数 | 失敗数 | 成功率 |
1 | ロシア | 1261 | 49 | 96.1% |
2 | EU | 164 | 11 | 93.3% |
3 | アメリカ合衆国 | 510 | 35 | 93.1% |
4 | 中華人民共和国 | 81 | 8 | 90.1% |
5 | 日本 | 50 | 5 | 90% |
6 | インド | 19 | 6 | 68.4% |
7 | イスラエル | 6 | 2 | 66.7% |
[編集] 教材用ロケット
また、最近では、ペットボトルに水と圧縮空気を充填し、水を圧縮空気の圧力で噴射する事によって推力を得るペットボトルロケットが、科学教材として広く利用されている。また、火薬を使い飛ばす「モデルロケット」も普及し始め、各地の中学校で「総合教育」として取り入れられている。この「モデルロケット」はアメリカ航空宇宙局(NASA)も普及に協力している。
[編集] 日本国内の大学によるハイブリッドロケット開発
現在、日本国内の幾つかの大学によりハイブリッドロケットの研究開発が行われており、例としては北海道大学、首都大学東京、東海大学などが挙げられる。
[編集] 大気圏内でのロケット
ロケットは推進力が強力であり、大気圏内において物体を飛行させるための推進力としても利用される。その最も一般的な適用例は気象観測ロケットで、高層大気の状態を観測するためにしばしば打ち上げられる。気象庁でも定期的に気象観測ロケットを打ち上げていたが、2001年 に運用を終了させた。
飛行機への適用としては、第2次世界大戦末期に盛んな研究・開発がなされたが、その典型例がナチスドイツの迎撃戦闘機Me163といえる。Me163 は推力1,700kgのヴァルターロケット1基により亜音速飛行を実現した。この戦闘機を参考に、日本でも類似した局地戦闘機「秋水」が少数生産された。
また、火薬式のロケットもプロペラ機の離陸促進用補助ロケットとして各国で多数利用されたが、純然たる推進力として採用した航空機として有名なのが日本海軍の人間爆弾「桜花」である。本機はまずグライダーとして母機から切り離された後、攻撃を回避しながら敵艦へ体当たりするため推力800kgの火薬式ロケット3本を順次燃焼させながら最終的に時速800km程度で突入するというものであった。その後、米軍の超音速実験機X-1においてロケットが推進力として使用されて飛行速度1.06マッハを実現したものの、燃費が悪いロケットは大気圏内の航空機用推進力としてはあまり用いられなくなり、航空機の推進力は次第にジェットエンジンへと遷移していった。
しかし、その後も宇宙ロケットと構造が類似している弾道ミサイルには液体燃料ロケットが採用され、瞬発力と大推力を有する固体燃料ロケットは弾道ミサイルのほか、前述の通り短射程のミサイルなどにも多用されている。
[編集] 主なロケット
[編集] 歴史的なロケット
[編集] 現代のロケット
- デルタ___アメリカ
- アトラス___アメリカ
- ペガサス___アメリカ
- スペースシャトル___アメリカ
- ソユーズ___ロシア
- ドニエプル___ロシア
- プロトン___ロシア
- モルニヤ___ロシア
- ゼニット___ロシア
- アンガラ
- M-Vロケット___日本
- H-IIAロケット___日本
- アリアン___欧州
- 長征___中国
[編集] 現在考案されている新しいロケット推進
[編集] 関連項目
- ロケット・ミサイル技術の年表
- 宇宙開発
- 宇宙旅行
- アポロ計画
- ジェミニ計画
- マーキュリー計画
- ボストーク
- ボスホート
- ソユーズ
- ユーリ・ガガーリン
- ニール・アームストロング
- スペース・シップ・ワン
- 射場
- スペースプレーン
- 龍勢祭り