イオン
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![プラズマはイオン化した気体である](../../../upload/shared/thumb/2/26/Plasma-lamp_2.jpg/180px-Plasma-lamp_2.jpg)
イオン (ion) は、原子あるいは分子が、電子を授受することによって電荷を持ったものをいう。
イオンのうち、正電荷を持つものを陽イオン(ようイオン、positive ion)、あるいはカチオン (cation) と呼ぶ。反対に、負電荷を持つものを陰イオン(いんイオン、negative ion)あるいはアニオン (anion) と呼ぶ。また、粒子がイオンになることをイオン化(イオンか、ionization)という。
電離層などのプラズマ、電解質の水溶液、イオン結晶などのイオン結合性を持つ物質内などに存在する。
[編集] イオン化
電荷的に中性の物質が、正または負の電荷をもつ原子あるいは原子団に変化する物理現象をイオン化、または電離と呼ぶ。正負のイオンから構成される電解質(塩)の結晶が水溶液中で、正または負のイオンとして個々に振舞うことも電離という。
中性原子がイオン化する場合、原子に属していた1個あるいは数個の電子が他の原子または原子団に移ることでイオン化するので、イオンの持つ電荷量は電気素量(すなわち電子の持つ電荷量)の整数倍に等しい。電子を受け取った原子または原子団は負電荷に帯電して陰イオンとなり、電子を放出した方は正電荷に帯電して陽イオンとなる。電子を放出する際には原子核からのクーロン力の束縛から解放される為に、電子は光子を吸収したり、原子同士の衝突によりエネルギーを受け取って励起される必要がある。逆に電子を受け取る場合は、励起エネルギーを失って安定化する。
一方、原子の方は電子構造により安定化の度合いが異なるので、励起に必要なイオン化エネルギーの値や、電子を受けとる際の安定化エネルギーである電子親和力の値は、元素の種類やイオン化の進行状況の違いによってそれぞれ異なるエネルギー値をとる。一般的には、電子構造が閉殻構造をとるとき原子は安定化されるので、典型元素においては価電子が閉殻構造をとる方向のイオン化は安定なイオンを与える。すなわち、アルカリ金属はイオン化エネルギーが小さいため陽イオンになりやすく、反対にハロゲンやカルコゲンは陰イオンになりやすい。
また、個々のイオンは物質の高次構造においては正負の電荷が対を形成することで安定化する機構を有する。例えばイオン結晶の中では、イオンはクーロン力によってイオン結合し規則正しい結晶構造を形成することで、巨視的な電荷の偏りが中和され安定化している。代表例である塩化ナトリウムでは、ナトリウムと塩素が両者ともイオン化し、それらが静電的相互作用によってイオン結合している。
あるいは、極性溶媒ではイオンの電荷は溶媒分子を配向させるので(溶媒和)、気相や非極性溶媒よりも安定化される。あるいは溶媒分子を配位する場合はより安定化する。
[編集] イオンの表し方
化学式の右肩に価数を記す。ただし、1価の場合は符号のみ記す。
- 水素イオン(1価の陽イオン) – H+
- 硫酸イオン(2価の陰イオン) – SO42−
イオンの名称は、陽イオンについては「元素名+イオン」(例:水素イオン)、陰イオンについては「元素名 − 「素」 + 化物イオン」(例:硫化物イオン)と表す。ただし、どちらも例外が多い。原子一個のイオンを単原子イオン、複数の原子で構成されるイオンを多原子イオンと呼ぶ。
また、主なイオンの名称とイオン式を覚えておけば、物質名から化学式がある程度推測が可能である。
- 硝酸ナトリウム ⇒ ナトリウムイオン + 硝酸イオン ⇒ Na+ + NO3− ⇒ NaNO3
- 水酸化マグネシウム ⇒ マグネシウムイオン + 水酸化物イオン ⇒ Mg2+ + OH− × 2 ⇒ Mg(OH)2