原子炉
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原子炉(げんしろ)は核反応を持続的に発生させるシステムである。主に核分裂反応によるエネルギー(例・原子力発電)生産、中性子吸収による核変換による物質(例・プルトニウム)生産などの目的で使用されるが、中性子源として用いられる炉も存在する。
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[編集] 概要
原子炉は使用される核反応の種類から、核分裂炉と核融合炉とに分けられるが、一般には前者を指す。核分裂炉はその使用目的からも分類することができ、軍事目的にプルトニウム生産のみを目的とした原子炉をプルトニウム生産炉といい、熱を取りだし発電等に用いられる原子炉を動力炉という。核分裂炉の運転や停止などは制御棒やホウ素濃度などによる反応度の制御により行う。
それぞれの原子炉は固有の自己制御性を持ち、通常は定格出力時に最も安定した運転を行うことが出来るよう設計されている。また、出力の増減に伴う炉心温度の変化は、原子炉の強度を損なう原因となるとして、負荷に合わせた出力の増減は認められていない。核融合炉については、実用規模のエネルギーを生産可能なものはいまだ存在しないが、現在計画中のITER(国際熱核融合実験炉)では最大で50~70万kWの出力(熱出力)が期待されている。以下、この項では核分裂炉について述べる。
原子炉の設計には深層防護という理念があり、異常が生じた際、外部に放射線および放射性物質が漏れることのない様、5重の壁で守られている。原子炉で発生する事故として最も深刻なものは、冷却材喪失事故であり、蒸気爆発や炉心溶融を引き起こす。原子炉では、冷却材喪失事故を防ぐ様々な手段を設けており、最も代表的なものとして非常用炉心冷却装置(ECCS)がある。
日本に初めて導入された原子炉は英国製のガス冷却炉であるが、現在主に利用されている商業用発電原子炉は軽水炉で加圧水型原子炉(PWR)と沸騰水型原子炉(BWR)である。 また、準国産エネルギーの生産を狙い、燃料転換率(増殖率)の高い高速増殖炉(FBR)や新型転換炉(ATR)の開発が進められている。ATRは純日本製の原子炉だったが、福井県にあるATR原型炉「ふげん」の運転実績から従来の発電用軽水炉に比べて経済性が悪いと判断され、計画は中止された。
[編集] 原子炉の構成
[編集] 燃料
[編集] 炉心
[編集] 5重の壁
5重の壁は、以下の物からなる。
[編集] 原子炉の分類
[編集] 減速材
使用される減速材による分類。
- 軽水炉:軽水
- 通常の水である軽水は中性子減速能が大きいが中性子吸収能も大きい。
- 重水炉:重水
- 水素の同位体である重水素からなる水である重水は軽水に次ぐ減速能を持ち吸収能が小さい。
- 黒鉛炉:黒鉛
- 炭素からなる黒鉛は水に次ぐ減速能を持ち常温で固体であるため貯蔵の必要がない。黒鉛は減速能を持たない物質を冷却材として用いる設計の原子炉で使用されており、現在では主にガス炉の減速剤として使用されている。
- 高速増殖炉:無し
- 高速増殖炉では核分裂に伴なって発生する高速中性子をそのまま利用するため減速材は用いられていない。
[編集] 冷却材種類
使用される冷却材の種類による分類。
- 軽水冷却炉:軽水
- 軽水は安価で大量に入手することができ、火力発電で使用されているため性状が良くわかっている。反面、吸収能が大きいため軽水冷却炉では濃縮されたウラン燃料を用いて発生する中性子の数を増やす必要がある。
- 重水冷却炉:重水
- 重水は中性子吸収能が少ないため重水冷却炉では天然ウランを始めとして多用な物質を核燃料として用いることができる。反面、製造が難しく極めて高価である。
- ガス冷却炉:ガス(二酸化炭素、ヘリウム)
- 水蒸気と異なりガスは圧力を高めなくとも高温にすることができるため初期の原子炉では二酸化炭素が冷却材として用いられた。反面、密度が小さく熱運搬能力に乏しいためガス炉による商用発電は経済性に劣り商用発電炉の主流は軽水炉に替わった。ヘリウムは現在研究・開発が進められている1,000度を越える高温を原子炉から得る高温ガス炉の冷却材として用いることが研究されている。
- 溶融金属冷却炉:溶融金属(ナトリウム、鉛・ビスマス合金)
- 溶融金属は常圧で高温を得られる熱運搬能力に優れた流体であるため、配管を耐圧とする必要が無く原子炉全体を小型軽量化できる。このため艦船の動力として採用されていたが、金属を流体の状態に保つための高温の維持に苦労が多く採用はごく少数に留まった。ナトリウムは初期の原子力潜水艦の原子力炉冷却材として採用されていたが、水と激しく反応するために旧ソ連のアルファ級などではスプリンクラーなどに使用されている低融点の鉛・ビスマス合金を冷却材とする原子炉が採用された。ナトリウムは中性子減速能を持たないため高速増殖炉の冷却材として使用されている。
[編集] 冷却材状態
[編集] 中性子
利用する中性子の性状による分類。
- 熱中性子炉
- 熱中性子を利用する原子炉。熱中性子はウラン235を良く核分裂させることができる。
- 高速炉
- 高速中性子を利用する原子炉。高速中性子はウラン238をプルトニウムに転換する能力に優れる。また核燃料から発生する核分裂生成物質を更に核分裂させる能力にも優れる。このため高速中性子を利用する高速増殖炉を高レベル放射性廃棄物の消滅処理に利用することが検討されている。
[編集] 目的
利用目的による分類。
- 研究炉
- 原子炉の核特性の研究、教育目的、放射線や中性子線の照射実験などに用いられる原子炉。日本では日本原子力研究開発機構のJRR等の研究用原子炉の他、国立大学では東京大学の弥生と京都大学のKUR、私立大学では立教大学のRUR(TRIGA MkII)、近畿大学のUTR-KINKI、武蔵工業大学のMITRR (TRIGA MkII) が存在する。このうちRURとMITRRは廃止される予定である。また東芝が研究・教育用原子炉TTR-1を運用している。
- 発電炉(動力炉)
- 発電用原子炉。商業用発電炉を略して商用炉とも呼ばれる。
- 原子力機関
- 艦船等の推進機関として利用される原子炉。
- プルトニウム生産炉
- 天然ウランから核兵器用プルトニウムを生産するための原子炉。
- 地域熱供給炉
- 暖房用の蒸気を供給する原子炉。発電と共用の場合もある。原子炉は一旦燃料を装荷すれば長期間に渡って熱を発生するためボイラー燃料などを頻繁に供給することが難しい旧ソ連の内陸部で実用化された他、アメリカのアラスカ州などで設置が検討されている。
[編集] 開発段階
開発段階による分類。
- 実験炉
- 理論の基礎的研究段階の原子炉。研究炉とも呼ばれる。
- 原型炉
- 技術上の問題点洗い出し、経済性試算段階の原子炉。
- 実証炉
- 大型プラントの検証段階の原子炉。
- 実用炉
- 実用段階の原子炉。この段階でその設計が完成したと見なされて、多数のプラントが建設される。
[編集] オクロの天然原子炉
人工の原子炉に似た特定の条件下では天然の核分裂炉ができることがある。知られている唯一の天然原子炉はガボン共和国のオートオゴウェ州オクロ(現在でもウラン鉱床として稼動)に20億年前に形成された。 (外部リンク) ただ、このような炉はもはや地球上には形成されることは無い。非常に長い時間の原子核崩壊により、ウラン中のウラン235の割合が減って連鎖反応を維持するために必要な量を下回っているためである。
天然原子炉は、ウランに富んだ鉱脈が、減速材の役割をする地下水に囲まれたときに形成され、強烈な連鎖反応が起こった。反応が増えると水の減速材は沸騰し、反応を抑制するので、メルトダウンを防いでいた。核分裂反応は数十万年間続いていた。
こうした天然原子炉は放射性廃棄物の地層処分を研究する科学者によって徹底的に調査されている。地殻中で放射性同位体がどのように移行するかについてケーススタディーをもたらした。これは処分場から移行した同位体が給水系統に達するとか環境中に移行するのではないかという懸念をもつ地層処分反対論のような議論の的になっている。