プロパガンダ
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プロパガンダ(Propaganda)は大衆を目標とした宣伝手法の一つで、主に政治的な目的を達成するために用いられる。ラテン語のpropagare(繁殖させる)に由来する。
関連した語のアジテーション(Agitation)は、気持ちをあおり、ある行動にしむけることの意であり、ラテン語のagere(動かす)に由来する。
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[編集] 概要
プロパガンダの手法は、世界初の宣伝国家であるソ連(w:Peter KenezのThe Birth of the Propaganda State;Soviet Methods of Mass Mobilization1985)によって発展し、冷戦期になると普及したテレビから東西両陣営のプロパガンダが流れるようになった。
- ※ナチス・ドイツの宣伝に関しては研究報告が既に出ている
[編集] 具体的な方法
- レッテル貼り - 攻撃対象となる人や集団、国、民族にネガティブなイメージを押し付ける。例:修正主義者、ブルジョア、劣等民族、アカ、独裁者
- 華麗な言葉による普遍化 - 対象となる人物や集団に、多くの人が普遍的価値を認めているような価値と認知度を植え付ける。例:革命、自由
- 転移 - 多くの人が認めやすい権威を味方につける事で、自らの考えを正当化する試み。例:神
- 証言利用 - “信憑性がある”とされる人が語った証言で、自らの主張に説得性を高めようとする。
- 平凡化 - コミュニケーションの送り手が受け手と同じような立場にあると思わせ、親近感を持たせようとする。
- カードスタッキング - 自らの主張に都合のいい事柄を強調し、悪い事柄を隠蔽する。本来はトランプの「イカサマ」の意。
- バンドワゴン - その事柄が世の中の権勢であるように宣伝する。人間は本能的に集団から疎外される事を恐れる性質があり、自らの主張が世の中の権勢であると錯覚させる事で引きつける事が出来る。
尚、J.A.C.Brownによれば、宣伝の第一段階は「注意を引く」ことである。具体的には、激しい情緒にとらわれた人間が暗示を受けやすくなることを利用し、欲望を喚起した上、その欲望を満足させ得るものは自分だけであることを暗示する方法をとる(The techniques of persuasion 1963)。またL.Lowenthal,N.Gutermanは、煽動者は不快感にひきつけられるとしている(Prophets of deceit 1949)。
[編集] 主な特徴
特徴としては、最大多数の支持を獲得するために事実の誇張・歪曲を含むあらゆる手段を行使し(情報操作)、ステレオタイプの多用、主張そのものよりもむしろ人格の強調など、理性よりは感情に訴えることが多く、それらの点で通常の政治的主張や広告などとは区別される。他の特徴としては、第二次世界大戦前ではロシア・アヴァンギャルドの影響を受けたと思われる大胆な構図・強烈なインパクトのフォトコラージュやアールデコ調の点描画がしきりに活用された。
戦後になってからはより巧妙に大衆の信頼を勝ち得られる様、極力加工していない写真を用いながらも構成に工夫をこらす事で、より一層、信憑性を高めさせ、他意の無い報道写真風を装うケースが主流になっている。現在では真実を伏せ、自国に都合の良い事実のみを集中的にニュースとして流布する手法も採られる。
どのような形態の国家にもプロパガンダは多かれ少なかれ存在するものだが、
- 旧ソ連やナチス時代のドイツなどの独裁国、あるいは中米などによく見られた軍部独裁・開発独裁国
- スターリン時代の旧ソ連や文化大革命時代の中華人民共和国のように個人崇拝が強い社会
- 国内で民族・人種などの対立があり、そのグループの一方だけが政治権力とメディアを掌握している国
- タイなど、政教分離が不徹底で、政治とは別の権威が強い国
- アメリカやロシアなどの大国
等によるプロパガンダは事実の誇張・歪曲を含むあらゆる手段を行使しやすく、対応が困難である。
なお、スイスの各家庭に配布されている事で有名な『民間防衛』(スイス政府編 日本では原書房刊)には外国からのプロパガンダに抗する術として“自国政府のみを信じよ”と記されており、これもプロパガンダの一種ではないかと一部で指摘されている(特に「外国からの思想攻撃に抗する」項目は冷戦当時の記述であり、最近の版ではないという)。
[編集] 使用するメディア・媒体
[編集] テレビ
- 世界で初めてテレビ本放送を行ったのは、ナチスドイツである(ベルリン五輪大会中継。電波は首都ベルリン市内にしか届かず)。
- 統一協会や多くの新宗教団体などが独自の衛星テレビ(CS)チャンネルを設けており、自宅にCSチューナ一式を持っている信者・支持者が視聴出来る態勢を整えている。
[編集] ラジオ
- 1933年当時、ドイツ国内でのラジオ受信機の市場価格は大体250マルク前後であった。ナチス政権の後押しで発売された製品「国民ラジオ」の価格は76マルクと極めて安価であり、どれだけラジオ普及に執心していたかがうかがい知れる。
- ソビエト連邦では1940年代の第二次世界大戦の頃、国外への対外宣伝を行う機関としてドイツ語によるラジオ放送を始めた。その後、東西冷戦時代にはモスクワ放送として英語とロシア語による放送を行う。ソビエトの各地に大出力で送信可能な設備を設置し、ラジオ番組を放送した。
- 現在でもいくつかの国の組織や宗教団体などが、プロパガンダ目的のラジオ放送を行っている。プロパガンダ目的の放送の多くは、中継局を設置しなくても国境を越える広範囲で聴取可能な短波放送である。これらの放送は、身元を隠したり偽ったりして行われることもあり、それらの放送は地下放送とよばれる。
[編集] 映画
- ソ連は共産主義運動の宣伝技法としてモンタージュ理論を発明した。レーニンだけでなく、ゲッベルスやアメリカの著名な映画監督らを絶賛させた。
- 初期のソ連では、宣伝映画を地方上映できるよう、移動可能な映写設備として映画列車が製造され活用された。
- 機内に映画館設備を持たせた宣伝用巨大航空機マクシム・ゴーリキー号(旧ソ連)など
- ナチスは絵画、音楽など古いメディアより新しいメディアである映画を重視した。
- 北朝鮮の初期時代、激しい内部抗争が繰り広げられ、当初、映画制作機関を掌握していたのは甲山派(金日成が領袖を務める国外パルチザン出身者派閥「満州派」の強力ライバル派閥)であった。甲山派の領袖「朴金喆」を英雄視した映画を幾つか製作していたが、同派が粛清されたのを機に(元々、個人的に映画好きで、映画メディアが持つ威力に注目していた金正日の恫喝・懐柔工作も奏し)、以後多数の金日成・金正日賞賛・宣伝映画が製作・国内上映される。
- アメリカ・ハリウッドの娯楽映画についても、プロパガンダではないかとする意見がある。例えば、第二次世界大戦初期のカサブランカ、終結直後のサウンド・オブ・ミュージック、近年のパールハーバーやアメリカ同時多発テロ事件を基にした数々の作品などは国策映画であると考えている人も多い。
- 日本でも戦時中、中国語に堪能な日本国籍の女優を利用し、中国人女優であるかのように偽る(李香蘭)など、満州映画協会により日満友好宣伝映画が数多く製作され上映された。主役は知的な日本人男性、ヒロインは美しくて優しいが無学な満州女性、その二人が民族の壁を越え結ばれるといった様に、『五族協和』『泰平楽土』を謳う日本主導の極東アジアブロック構想、所謂、大東亜共栄圏を示し、更に当時の民族的立場の優位さを男女の仲で暗喩すると言う意図もうかがえる(日本とドイツの共同制作映画「新しき土」では、同盟関係にあるドイツから来日している女性と(婚約者が別に居る)日本人男性主役の恋愛を描いた)。近年は北朝鮮による日本人拉致問題に関し、映画「めぐみ―引き裂かれた家族の30年」(原題:ABDUCTION The Megumi Yokota Story)で北朝鮮の非道を情緒的に諸外国に訴える宣伝を行っている。
- 俳優や女優を戦地に慰問させることにより、有名人も戦争に賛同しているということをアピールする。
[編集] 新聞・書籍
巧みなレッテル貼り、徹底した罵倒などで、競合他紙・敵対団体(政党・宗教法人・各種政治団体・企業法人)・敵対国家に対する印象をじわじわ悪化させる。自国の政策に反する内容の本に対する発禁処分や焚書行動。
- 『民間防衛』(スイス政府編、旧版)
- 雑誌(中立性の観点から誌名は省略)
[編集] 切手
小さいため多くの情報を載せることは出来ないが、極めて広く流通する印刷物であることから、他の印刷物と同様にプロパガンダの手段とされることがある。
[編集] 集会・イベント
- 会場の設計や装飾などの華麗さ・壮麗さ、式次第などの演出の巧みさ。
- 観閲式における部隊の行進、マスゲームなどの一糸乱れぬ団結力の誇示。
- 国策に基づいて行われる記念日制定や運動週(旬・月)間など宣伝活動の実施。
[編集] ポスター・看板
- 街頭をすべてポスターや看板の同じ色、同じ図柄で埋め尽くし印象を与える。
[編集] 芸術品など
- 共産党員やその支持者、マルクス主義者だった芸術家
- フランス(画家):ピカソ
- ブラジル-フランス(建築家):オスカー・ニーマイヤー
- フランス(画家):アドルフ・ムーロン・カッサンドル
- イタリア(映画監督):ルキノ・ヴィスコンティ
- ソ連(音楽家):ディミトリ・ショスタコヴィッチ
- ナチスドイツでは、奨励したい作風の引き立て役として、それまで排斥していた抽象画やモダンアート、アバンギャルド芸術を集めて「退廃芸術」と称し、故意に粗末な展示館で美術展を開催(至近距離にて、あてつけで国家が推奨する作風の美術展を開催)する等、手の込んだ試みがされたが、かえって逆に「退廃芸術」の人気・注目を高めてしまったという笑い話が逸話として残っている。
- 戦争画など、政治宣伝に深く関わった芸術家
- 日本(画家):藤田嗣治
- 日本(画家):小松崎茂
- 挿絵(未来の日本軍兵器・同じく未来のドイツ軍兵器などを創作・イメージ化)を担当した日本軍宣伝雑誌『機械化』は、当時、同盟関係にあったドイツでも評判になり、独訳されていないにも関わらず、ドイツにも輸入販売されたほど人気を博していた。
- 日本(写真家):名取洋之助
- 日本(漫画家):田河水泡
- のらくろ作者。但し、戦時中の内に、作中にて、のらくろを軍より退役させている。
- 日本(漫画家、アニメ作家):横山隆一
- 『フクちゃんの潜水艦』というアニメを自ら演出として参加。フクちゃんのキャラクターは、米軍の宣伝ビラ「落下傘ニュース」で使用されたりもした。
- 日本(アニメ作家):瀬尾光世
- 日本(子供向けSF小説家):海野十三
- ドイツ(画家):アドルフ・ツィーグラー、イヴォー・ザリガー、マルティン・アールバハ、パウル・マーティアス・パードゥア、ルドルフ・リプス、ゼップ・ヒルツ
- ドイツ(彫刻家):ヨーゼフ・トーラク、ゲオルグ・コルベ、アルノ・ブレーカー
- ドイツ(映画監督):レニ・リーフェンシュタール
- ドイツ(音楽家):ヘルベルト・フォン・カラヤン
- 国家社会主義ドイツ労働者党にも入党している。
- ドイツ(写真家):アンドレ・ズッカ
- アメリカ(アニメ作家):ウォルト・ディズニー
- アメリカ(アニメ作家):フライシャー兄弟
- 短編アニメ映画「ポパイ」で、日本軍などと戦う描写がなされた時期がある。
- アメリカ(写真家):マーガレット・バーク・ホワイト
- アメリカ(歌手):マリーネ・ディートリッヒ
- ドイツより亡命。
- 北朝鮮(映画監督):申相玉(シン・サンオク)
- 金正日直々の命令で夫婦共々、韓国より拉致。
[編集] 巨大建造物(凱旋門・銅像・顕彰碑)
- 首都の都市計画・デザインについて、指導者を讃える壮麗な舞台装置を目指す。
- 統一した建築様式や記念碑の巨大さで、民族性や政治性の誇示・偉大な文明の後継者であることの誇示・巨大建築を作らせる技術力や動員力の誇示を行う。
- 独裁者が自身のお気に入りの作風に適ったお抱えとも呼ぶべき建築家に、主要建造物の設計を任せるケースは、過去より多くみられる。例えばスターリン(旧ソ連)の場合ボリス・イオファン、ヒトラー(旧ナチスドイツ)の場合アルベルト・シュペーアがそれにあたる。
[編集] インターネット
- 立場を偽った(何らかの公式サイトを偽装する、全くの第三者を装う)サイトを作って情報を発信し、誤認させる。
- 掲示板などで匿名性を利用して自作自演などを行い、多数派意見を装う。
[編集] プロパガンダ研究・解説・紹介資料(書籍・ドキュメンタリー映像作品)
[編集] 書籍
[編集] 映像作品
- 三部構成(「大衆操作の天才・ゲッベルス」「テレビがアメリカ政界を変える」「タレント政治家の功罪」)
- ドキュメンタリー「アメリカ情報部隊」 (NHK製作)
- 二部構成(「作られた謎・下山事件」「占領下の米ソ諜報戦」)
- ドキュメンタリー「狂気の生贄」第二部「悲劇の美人監督レニ・リーフェンシュタール」
- ドキュメンタリー映画「アトミック・カフェ」
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- 旧ソ連ポスター1
- 旧ソ連ポスター2
- プロレタリア的ファイン&ポップアート ※リンク集
- 革命美術館
- 反革命美術館
- 『ナチ宣伝』という神話
- ナチス美術館
- ナチス音楽歌詞集
- ナチズムと芸術
- 第二次世界大戦時(アメリカ)のポスター
- イラクのプロパガンダ切手
- プロパガンダ写真研究所(南京大虐殺の写真はプロパガンダだと主張するサイト)