フォアグラ
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フォア・グラ(Foie gras)は、必要以上にエサをたくさん与える(強制給餌/ガヴァージュ:仏 gavage)ことにより、肝臓を形成する肝細胞に使われない脂肪が蓄積する過程で、どんどん肝臓の一部が脂肪に置き換えられていく状態「脂肪肝」を人工的に作り出したものである。ガチョウまたは鴨の肝臓。世界三大珍味の1つに数えられる食品である。
フランス語で「フォア(foie)」は「肝臓」を、「グラ(gras)」は「脂の多い、肥大した、太った」を意味する。即ち、「フォア・グラ」は「脂肪肝」のことである(ただし、疾患としての「脂肪肝」を意味するフランス語は「hépatite」である)。
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[編集] 歴史
古代ローマ人が、干し無花果をガチョウに与えて飼育し、その肝臓を食べたのが始まりと言われる。大プリニウスの『博物誌』によると、古代ローマでは、ガリアからもたらされたガチョウに強制肥育を施して、食材としていたことが記録されている。これにある美食家がさらに工夫を加えて、無花果で肥育させた上に、肥大した肝臓を蜂蜜入りの牛乳に浸して調理する技法を発案したと伝えられている。
ローマ帝国崩壊後にこれらの技法はいったん衰退したが、徐々に復活し、ルネサンス期にはフォアグラ生産業が定着して、食材として認知されるようになった。フランス革命前までは、フォアグラの製造にはガチョウだけではなくニワトリなども用いられたが、19世紀になると、ガチョウがフォアグラの素材の定番として定着した。ガチョウは牧草などの粗食で大きく育つため、あまり地味の豊かでない土地で多く飼育され、またそうした地方には17世紀に新大陸からトウモロコシが導入されて、農業生産がようやく向上した。後述のような今日のフランスの主要フォアグラ産地は、このような地理的、歴史的条件を背景とし、ガチョウ飼育農業とトウモロコシの出会いの上に成立したのである。今日ではガチョウ以外に鴨のフォアグラも作られており、野生的な味がガチョウのものと異なるものとして評価されているが、火を通したときに溶けやすいこともあって、料理法の許容範囲はガチョウのものほど広くはない。
[編集] 製法
今日フランスでフォアグラ用に供されるガチョウは Oie de Toulouse(オワ・ド・トゥールーズ、トゥールーズのガチョウの意)などの大型品種で、初夏に生まれた雛を野外の囲い地で牧草を餌に十分運動させて育て、基礎体力を付けさせる。夏を越して秋になると狭い場所に閉じ込めて運動できないようにし、消化がよいように柔らかくなるまで蒸したトウモロコシを、じょうご(ガヴール)で強制的に胃に詰め込む強制給餌(ガヴァージュ)を1日に3回繰り返す。これを1ヶ月続けると、脂肪肝になった肝臓は2kgに達するほどに肥大し、頭部と胴体を水平にする姿勢しかとれなくなるに至る。フォアグラはこの段階のガチョウをしめて取り出し、余分な脂肪、血管、神経などを丁寧に除いてから、冷水に浸して身を締める。
鴨の場合、ガチョウにはない素嚢(そのう)と呼ばれる食道にある袋のような器官に餌が多量に入っていると、消化の速度が上がるという特性を持っている。そのため、人の手によるガヴァージュを行う前に10日間ほど好きなだけ餌を食べさせるプレガヴァージュを行い、効率よくガヴァージュを進める。給餌は一日2回で、期間は3週間である。また、近年では機械化された飼育場ですりつぶしたトウモロコシを自動的に与え、2週間ほどでガヴァージュを終わらせる速成法もあるが、素嚢でトウモロコシが発酵してしまうため、フォアグラの質は劣る。
[編集] 動物虐待論
上記のように、ガチョウ(鴨)に飼料を大量に無理矢理食べさせて脂肪肝を発症するまで肥大させることで製造することから、古くから不自然な食材としてこれを否定的にみる議論も見られた。例えば、昆虫学者のファーブルも、嫌って食べなかったことが伝えられている。今日ではアニマルライツ(動物の権利)論の高まりなどもあり、一部の動物愛護団体は動物虐待であるとして反発している。
アイルランド、アルゼンチン、イギリス、イスラエル、イタリア、オーストリアの6州、オランダ、スイス、スウェーデン、チェコ、デンマーク、ドイツ、ノルウェー、フィンランド、ポーランド、ルクセンブルクでは、ガチョウの強制給餌が禁止されている(外国産フォアグラの販売は必ずしも禁止されていない)。2004年9月29日、カリフォルニア州知事のアーノルド・シュワルツェネッガーは、カリフォルニア州内で鳥に強制的に食事を与えて作られたフォアグラの生産と販売を2012年以降禁止する法律を施行した。同法では、動物虐待ではない方法で生産されたフォアグラの販売は認められる。
2005年10月、フランスの国民議会が農業政策に関する包括法の一部として、フォアグラは仏文化の遺産であるとした法案を全会一致で可決した。その際、フランスが世界でフォアグラの80%以上を生産していることを指摘し、保護すべき仏文化、料理の貴重な遺産であると宣言。カモやガチョウの強制肥育についても、他に方法はなく止むを得ないとして、擁護する姿勢を鮮明にした。
[編集] 産地
主な産地はフランス。世界のフォアグラの生産量は西暦2000年で約1万8000トンだが、そのうちフランス産は1万5300トンにも及んだ。フランス国内では、南西部のペリゴール地方(Périgord、現ドルドーニュ県)とランド県が主産地で、ガチョウと鴨の両方のフォアグラが生産されている。南西部全体での生産量は、フランスの生産量の75%を占める。また、アルザス地方のストラスブールやラングドック地方のトゥールーズも、産地としてよく知られている。不足分は、オーストリアなどからの輸入品でまかなわれている。
ガチョウよりも鴨の方が飼育が楽で、病気にも強いことから、今日では鴨のフォアグラの生産量は増加傾向である。
ハンガリーのドナウ川西岸(ドゥナーントゥール地方、Dunántúl)でも昔からフォアグラの生産が行われており、輸出も盛んである。
[編集] 調理法
パテに加工し甘めの柔らかいパンに塗って食べるか、ソテーして食べるのが一般的だが、トリュフ入りのパイ包み焼きのような、パイ料理の素材としてもよく使われる。フォアグラを乗せて焼いたステーキは、ロッシーニ風トゥルヌドステーキと呼ばれる。フランスでは、伝統的にソーテルヌなど甘口のワインと合わせる。
フランス人の多くにとってはクリスマスや新年前夜の晩餐(レヴェヨン、Réveillon)などでしか口にすることのない珍味であるが、近年になって生産量が増加したため珍しさは薄れてきている。中には一年中フォアグラを賞味する地域もある。 ハンガリーに行けば日本の10分の1の値段で食べることができる[要出典]。
[編集] 関連項目
[編集] 参考文献
- Lang, George. The Cuisine of Hungary. Bonanza, New York, 1990.