コンクリートダム
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コンクリートダムとは、コンクリートを主要材料として堰堤を形成するダム。基礎岩盤の強弱・経済性等から以下の型式にさらに細分化される。
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[編集] 種類
[編集] 重力式コンクリートダム(グラビティーダム)
詳細は重力式コンクリートダムを参照のこと。
主にコンクリートを主要材料として使用し、コンクリートの質量を利用しダムの自重で水圧に耐えるのが特徴である。膨大なコンクリート量が必要であり、花崗岩・安山岩等基礎岩盤が堅固な地点でないと建設することができない。だがダムとしては最も頑丈な型式であり地震・洪水に強いことが利点のため、地震や降水量の多い日本では最も適した型式でもある。近代以降日本で建設されたダムでは最も多く用いられた型式で、重力式ダム建設技術の発展は、そのまま日本の土木技術発展史に該当する。だが、良質な基礎岩盤と水量を有する地点にはほとんど建設済みであるため近年建設実績は減少傾向にある。
ダム名 | 河川名 | 所在地 | 堤高(m) | 管理主体 |
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奥只見ダム | 阿賀野川水系只見川 | 福島県 | 157m | 電源開発株式会社 |
浦山ダム | 荒川水系浦山川 | 埼玉県 | 156m | 独立行政法人水資源機構 |
宮ヶ瀬ダム | 相模川水系中津川 | 神奈川県 | 156m | 国土交通省関東地方整備局 |
佐久間ダム | 天竜川水系天竜川 | 静岡県 | 155.5m | 電源開発株式会社 |
小河内ダム | 多摩川水系多摩川 | 東京都 | 149m | 東京都水道局 |
草木ダム | 利根川水系渡良瀬川 | 群馬県 | 140m | 独立行政法人水資源機構 |
早明浦ダム | 吉野川水系吉野川 | 高知県 | 107m | 独立行政法人水資源機構 |
帝釈川ダム | 高梁川水系成羽川右支帝釈川 | 広島県 | 62.1m | 中国電力株式会社 |
大井ダム | 木曽川水系木曽川 | 岐阜県 | 53.4m | 関西電力株式会社 |
布引五本松ダム | 生田川水系生田川 | 兵庫県 | 33.3m | 神戸市水道局 |
[編集] 中空重力式コンクリートダム(ホローグラビティダム)
詳細は中空重力式コンクリートダムを参照のこと。
コンクリートが高価だった、あるいは交通手段の問題から輸送量を減らす必要があるので考案されたダム型式。外観的な特徴としては堰堤上流面に独特のふくらみ(通称:タコ足)が見られる。基本は重力式コンクリートダムであるが、ダム内部に中空部を設けることで同規模の重力式コンクリートよりもコンクリートの使用量を減らした。ダム内部に中空を設けるためにダムの接地面積が広くなるので、普通の重力式コンクリートダムに比べて安定性が増すという利点もある。海外では主にイタリアを中心に建設されており、日本でも1950年代~1960年代に主に電力会社を中心に建設実績がある。だが現在ではコンクリートの価格が安くなっていることと、型枠が複雑化したことによる人件費の増大から、新潟県の内の倉ダムを最後に新規建設は行われなくなった。
ダム名 | 河川名 | 所在地 | 堤高(m) | 管理主体 |
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金山ダム | 石狩川水系空知川 | 北海道 | 57.3m | 国土交通省北海道開発局建設部 |
内の倉ダム | 加治川水系内の倉川 | 新潟県 | 82.5m | 新潟県 |
畑薙第一ダム | 大井川水系大井川 | 静岡県 | 125m | 中部電力株式会社 |
畑薙第二ダム | 大井川水系大井川 | 静岡県 | 69m | 中部電力株式会社 |
井川ダム | 大井川水系大井川 | 静岡県 | 103.6m | 中部電力株式会社 |
高根第二ダム | 木曽川水系飛騨川 | 岐阜県 | 69m | 中部電力株式会社 |
横山ダム | 木曽川水系揖斐川 | 岐阜県 | 80.8m | 国土交通省中部地方整備局 |
大森川ダム | 吉野川水系大森川 | 高知県 | 73.2m | 四国電力株式会社 |
穴内川ダム | 吉野川水系穴内川 | 高知県 | 66.6m | 四国電力株式会社 |
諸塚ダム | 耳川水系柳原川 | 宮崎県 | 59m | 九州電力株式会社 |
[編集] バットレスダム(扶壁ダム)
詳細はバットレスダムを参照のこと。
主にコンクリートを主要材料として使用し、止水壁にかかる水圧をバットレス(扶壁)で支えるもので、基礎岩盤の強固な地点で用いられ、コンクリートの使用量が少ない。(コンクリートが非常に高価だった当時では)経済的ということで、日本では大正末期から昭和初期にかけて8基が建設された(うち2つは建て替えで違う型式になった)。しかし、建設・保守に手間がかかり、結果として余計にコストがかかることから、1937年の三滝ダム(鳥取県・高さ23.8m)を最後に日本では建設されなくなった。現在ではその希少性から貴重な土木遺産の一つと見做されており、堤高が最も高い丸沼ダムは現役で稼動しているダムとしては日本で初めて重要文化財に認定された。
ダム名 | 河川名 | 所在地 | 堤高(m) | 管理主体 |
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丸沼ダム | 利根川水系片品川左支大滝川 | 群馬県 | 32.1m | 東京電力株式会社 |
笹流ダム | 亀田川水系笹流川 | 北海道 | 25.3m | 函館市水道局 |
恩原ダム | 吉井川水系恩原川 | 岡山県 | 24m | 中国電力株式会社 |
三滝ダム | 千代川水系北股川 | 鳥取県 | 23.8m | 中国電力株式会社 |
真立ダム | 常願寺川水系小口川左支真立川 | 富山県 | 21.8m | 北陸電力株式会社 |
真川ダム | 常願寺川水系牛首谷川 | 富山県 | 19.1m | 北陸電力株式会社 |
[編集] アーチ式コンクリートダム
詳細はアーチ式コンクリートダムを参照のこと。
主にコンクリートを主要材料として使用し、アーチ止水壁にかかる水圧を両側面の岩盤で支えるもので、両側面岩盤の強固な地点で用いられ、コンクリートの使用量が少ない。
日本では三成ダム(島根県)が最初のアーチ式コンクリートダムであるが、現在のアーチ式コンクリートダムで見られるオーバーハングした3次元的形状が取り入れられた最初のアーチ式コンクリートダムは殿山ダム(和歌山県)が最初である。オーバーハングしたアーチ式コンクリートダムはドーム型アーチダムと呼ばれ、形状が複雑で設計が難しいがもっとも少ないコンクリートの量で建設でき、見た目にも美しいのでこれが現在まで続く主流のアーチ式コンクリートダムの基本形になる。日本で最初の高さ100mを越える大規模アーチダムは上椎葉ダム(宮崎県)であるが、これは将来の嵩上げを考えてオーバーハングしていない円筒アーチ形状を採用した。
莫大な水圧に耐えられるだけの強固な岩盤が存在しないと建設できない。フランスのマルパッセ・ダム決壊事故では基礎岩盤の強度が不十分であったために事故が発生している。近年アーチダムの建設に適する地点は極めて少なくなり、現在では川辺川ダムの建設のみである。今後この形式で建設される可能性は極めて少ない。建造物としては美しい外観であり、この形式のダムは観光地化している場合が多い。
ダム名 | 河川名 | 所在地 | 堤高(m) | 管理主体 |
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黒部ダム | 黒部川水系黒部川 | 富山県 | 186m | 関西電力株式会社 |
温井ダム | 太田川水系滝山川 | 広島県 | 156m | 国土交通省中国地方整備局 |
奈川渡ダム | 信濃川水系犀川(梓川) | 長野県 | 155m | 東京電力株式会社 |
川治ダム | 利根川水系鬼怒川 | 栃木県 | 140m | 国土交通省関東地方整備局 |
高根第一ダム | 木曽川水系飛騨川 | 岐阜県 | 133m | 中部電力株式会社 |
矢木沢ダム | 利根川水系利根川 | 群馬県 | 131m | 独立行政法人水資源機構 |
上椎葉ダム | 耳川水系耳川 | 宮崎県 | 110m | 九州電力株式会社 |
天ヶ瀬ダム | 淀川水系淀川(宇治川) | 京都府 | 73m | 国土交通省近畿地方整備局 |
殿山ダム | 日置川水系日置川 | 和歌山県 | 64.5m | 関西電力株式会社 |
三成ダム | 斐伊川水系斐伊川 | 島根県 | 36m | 島根県 |
[編集] マルチプルアーチダム(多連式アーチダム)
詳細はマルチプルアーチダムを参照のこと。
アーチ式コンクリートダムの一型式。ダム建設地点の両岸基礎岩盤が堅固な反面、河谷が広大で単一アーチでは建設できない地点に建設される。アーチ止水壁が複数連なるダムでバットレスダムに近い。安定性に関してはアーチ式に比べ劣り地震には比較的弱い。海外ではカナダのダニエル・ジョンソンダムが世界で最も高いマルチプルアーチダムであるが、海外においても建設実績は多くない。日本では2基のみが存在する珍しい型式である。
ダム名 | 河川名 | 所在地 | 堤高(m) | 管理主体 |
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大倉ダム | 名取川水系大倉川 | 宮城県 | 82m | 宮城県 |
豊稔池ダム | 柞田川水系柞田川 | 香川県 | 30.4m | 香川県 |
[編集] 重力式アーチダム
詳細は重力式アーチダムを参照のこと。
アーチ式コンクリートダムと、重力式コンクリートダムの両方の特性を兼ね備えたダム。アーチ式ダムを作れるほど岩盤が強くないが、重力式ダムよりもコンクリート使用量を節約するための型式。日本ダム協会の調べによると、全国で12基しかないという珍しい形式である。アメリカ合衆国のニューディール政策の契機ともなったフーバーダム(コロラド川・高さ221m・貯水量は琵琶湖の1.5倍)は世界を代表する重力式アーチダムである。
ダム名 | 河川名 | 所在地 | 堤高(m) | 管理主体 |
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湯田ダム | 北上川水系和賀川 | 岩手県 | 89.5m | 国土交通省東北地方整備局 |
大鳥ダム | 阿賀野川水系只見川 | 福島県 | 83m | 電源開発株式会社 |
黒部ダム | 利根川水系鬼怒川 | 栃木県 | 33.9m | 東京電力株式会社 |
中岩ダム | 利根川水系鬼怒川 | 栃木県 | 26.3m | 東京電力株式会社 |
二瀬ダム | 荒川水系荒川 | 埼玉県 | 95m | 国土交通省関東地方整備局 |
鷲ダム | 九頭竜川水系九頭竜川 | 福井県 | 45m | 電源開発株式会社 |
石徹白ダム | 九頭竜川水系石徹白川 | 福井県 | 32m | 電源開発株式会社 |
高山ダム | 淀川水系木津川左支名張川 | 京都府 | 67m | 独立行政法人水資源機構 |
七色ダム | 熊野川水系北山川 | 三重県 | 61m | 電源開発株式会社 |
新成羽川ダム | 高梁川水系成羽川 | 岡山県 | 103m | 中国電力株式会社 |
阿武川ダム | 阿武川水系阿武川 | 山口県 | 95m | 山口県 |
芋洗谷ダム | 五ヶ瀬川水系芋洗谷川 | 宮崎県 | 25.5m | チッソ株式会社 |