韓国料理
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韓国料理(かんこくりょうり)、または朝鮮料理(ちょうせんりょうり)、韓食は、狭義には韓国の民族料理である。日本統治時代に流入した日式や中華料理が変化した中式と呼ばれる料理もあるが、この項では取り扱わない。
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韓国料理の特徴
米食を中心にしてきたように考えられることが多いが、朝鮮半島で伝統的に稲作が行われていた地域は南部~南西部のごく一部にかぎられており、食文化的には小麦や蕎麦、高粱、またトウガラシ同様近世になって新大陸から導入されたトウモロコシといった畑作で得られる穀物を主食素材としてきた地域が多い。ユーラシア大陸東部全域を見渡すと、南方の稲作文化圏と北方の雑穀畑作・牧畜文化圏の境界部・接点に位置すると言える。また、栽培された野菜及び、ワラビ、ゼンマイ、キキョウ(トラジ)といった山菜の消費量が世界的に見ても高く、それらを用いたメニューが多い。また海に囲まれた地理ゆえ、海藻類や魚介類の消費量も多く、魚介類の生食も盛んである。以前は一般家庭では肉よりも魚や野菜を主とした食卓が普通であったが、近年は食の欧米化が進んでおり、肉食の増加が懸念されている。
周辺の日本や中国の料理と比べ、スープ類(湯:タン、クㇰ)が多く、唐辛子を用いた料理が多い。元々中南米原産の唐辛子だが日本を経由して韓国に入り、現在の韓国料理に彩りと辛みを添える上で欠かせない食材の一つとなっている。
陰陽五行の思想にのっとり、五味(甘、辛、酸、苦、塩)五色(赤、緑、黄、白、黒)五法(焼く、煮る、蒸す、炒める、生)をバランスよく献立に取り入れることを良しとする。
一食の構成は、メインメニュー(多くはスープ類)にご飯(白米、赤米であることも)と、キムチ、ナムルなどのおかずが数種類という組み合わせであり、韓定食の飯床(パンサン)のルール(「韓定食の献立」で後述)にある程度従っている。食堂ではキムチなどは無料で供され、お代わりも自由である。粥や麺類などは点心(軽食)とみなされ、おかずの種類が少なめの小膳が組まれることが多い。一般におかず類の味付けには醤油、ごま油、ニンニク、ネギ、生姜、唐辛子などによる合わせ調味料「ヤンニョム(薬念)」を用いる。肉は、牛、鶏、豚、またその内臓も使う。野菜や山菜からなるナムルは各家庭で常備してあり、毎回の食事で多種類のおかずが食卓に並ぶように配慮するのが一般的である。また以前は犬肉を使った料理もよく食べられていたが、1988年のソウルオリンピック開催を境に犬肉を出す店は少なくなっている。
寒冷な気候から保存食である発酵食品が発達した。テンジャンやコチュジャンといった味噌類やキムチ、マダラの内臓を発酵させたチャンジャ等を、各家庭ごとに作る。保存食としては、他に魚の干物なども作られている。
ポジャンマチャ(舗装馬車)と呼ばれる屋台も庶民の間で人気がある。チヂミやトッポッキ、スンデや牛の肝臓を蒸したもの、蚕の蛹を煮たポンテギなどが非常に安価に売られている。
その他の庶民料理としてプンシク(粉食)があり、代表としてラミョン(ラーメン)がある。韓国では鍋料理などを食べた後の残ったスープに、即席めんを入れて食べるブデチゲ(部隊チゲ)が学生などの若者に人気がある。日本のようなラーメン専門店はあまり多くないが、ラーメンと同様に中国にルーツを持ちつつ、韓国風にアレンジされたチャジャン麺が日本のラーメンに匹敵する庶民料理となっており、出前や専門店も多い。
近年、宮廷料理や家庭料理などを取り入れたコース料理の韓定食(ハンジョンシク)が多くの韓国料理店で出されている。クジョルパン(九節板)と呼ばれる陰陽五行説に基づいた色とりどりの食材を小麦粉と卵を用いて作られた皮に包んで食べる料理等が有名である。
韓国料理のマナー
金属製の匙と箸を用い、また食器も金属製のものが一般的である。これは王族や両班が毒物による暗殺を避けようと、化学変化しやすい銀製の製品を愛用した名残と言われるが、単に西洋の真似をして金属製にしたとの見方もある。
ご飯も汁物も匙で食べることが多く、ご飯を汁物にひたしたり、混ぜたりして食べるのが普通である。食器は持ち上げず、置いたまま匙と箸で口に運ぶ。床に座って食事をするときは、韓国の正式座法である片膝立座で座るのが行儀よいとされる。
儒教の影響が色濃く出ており、目上の人より先に箸をつけない、目上に酌をするとき、もらうときは左手をひじに添えるのは基本である。また、女性は酌をしてはいけない。また、客人として招かれたときは完食せずに残して「十分な量が振舞われた」ことを示すことが美徳とされる。 現在このような儒教のマナーは一般的な生活では廃れつつあるものの、年長者を交えた会食などでは守られている。
韓定食の献立
伝統的な韓定食のご飯膳の組み方を飯床(パンサン)という。「床」とは食べ物をのせるお膳のことであり、飯床とは朝夕の献立で、主食のご飯と副食で成り立っている(昼食は点心(チョムシム)と呼ばれ、「心に点をつけるように」お粥や麺類で軽く済ませることが多い)。
飯床では、ご飯、スープまたはチゲ、キムチはすべての場合についてくる。その他におかずの数によって、三楪飯床(サㇺチョプパンサン)、五楪飯床(オーチョプパンサン)、七楪飯床(チㇽチョプパンサン)、九楪飯床(クーチョプパンサン)、十二楪飯床(シプイチョプパンサン)とおかずの数が増える(楪(チョプ)とは蓋付きの器の意)。一般家庭では三楪か五楪の膳が組まれ、七楪、九楪となるとかなり豪華な膳である。十二楪はかつての宮廷だけの献立であった。飯床は、日本の本膳の立て方とも共通点が多い。
- 三楪飯床(一汁三菜):ご飯、スープまたはチゲ、キムチ一品、醤(ジャン)類(調味料)一品、チョリム(煮付け)またはクイ(焼き物)、ナムルまたは生菜(センチェ)、常備菜(チャンアチ、塩辛、チャーバン(干物))から一品
- 五楪飯床(二汁五菜):ご飯、スープまたはチゲ、チㇺ(煮物)またはジョンゴル(鍋物)、キムチ二品、醤類二品、片肉(ピョニュク、茹で肉)、ジョン(煎)、フェ(刺身)の中から一品、チョリム、クイ、ナムルまたは生菜(センチェ)、常備菜(チャンアチ、塩辛、チャーバン)から一品
- 七楪飯床(二汁七菜):ご飯、スープ、チゲ、チㇺまたはジョンゴル、キムチ二品、醤類二品、 片肉、ジョン、フェの中から一品、チョリム、クイ、ナムル、生菜、常備菜(チャンアチ、塩辛、チャーバン)から二品
- 九楪飯床(二汁九菜):ご飯、スープ、チゲ、チㇺ、ジョンゴル、キムチ三品、醤類三品、 片肉、ジョン、フェの中から二品、チョリム、クイ、ナムル、生菜、チャンアチ、塩辛、チャーバン(干物)
- 十二楪飯床(二汁十二菜):ご飯二品、スープ二品、チゲ二品、チㇺ、ジョンゴル、キムチ三品、醤類三品、 片肉、ジョン、フェ二品、チョリム、クイ二品、ナムル、生菜、チャンアチ、塩辛、チャーバン(干物)
韓国料理のメニュー
湯(タン)、クㇰ(スープ類)
- サムゲタン(参鶏湯)
- ポシンタン(補身湯)犬の肉と野菜のスープ
- ソルロンタン(雪濃湯):コムタンとも
- メウンタン
- カムジャタン:カムジャッグとも
- チュオタン
- ネジャンタン(内臓湯)
- ヘジャンクッ
- ユッケジャン
チゲ(鍋類)
スープ類とチゲ類の区別は非常に曖昧であり、韓定食ではどちらも汁物として扱う。
飯(パプ、ご飯類)
煎(チョン、お焼き類)
膾(フェ、刺身類、肉または魚介の和え物類)
麺(ミョン、麺類)
野菜類
粉食(プンシク)類
肉類
飲み物
- シッケ - 甘酒の一種(ただし、地域によっては魚介類のなれ寿司様の発酵食品を指す)
- スジョンクァ(水正果)- 干し柿から作る冷たい飲み物
- 韓国伝統茶
酒類
その他
参考文献
- 姜仁姫著『韓国食生活史――原始から現代まで』(藤原書店 ISBN 4894342111)
- 黄慧性・石毛直道著『平凡社ライブラリ- 韓国の食(新版)』(平凡社 ISBN 4582765297)
- 李信徳著『韓国料理 伝統の味・四季の味』(柴田書店 ISBN 4388058955)