蛹
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蛹(さなぎ)というのは、昆虫の一部のものが、成虫になる寸前にとる、成虫に近い形で、ほとんど動かない一時期をさす。また、成虫になるための準備期間であるため、成長を遂げようとする人を指して使う場合もある
[編集] 概論
昆虫は幼虫から成虫へと変態を行う。このとき、バッタやセミなどでは、幼虫は成虫と比較的よく似た構造で、幼虫の背には小さな羽が見える。このような昆虫は、幼虫から脱皮によって直接に成虫が生じる。このようなものを不完全変態という。
それに対して、チョウやコガネムシなどでは幼虫は成虫と非常に異なった構造で、幼虫の背には小さな羽が見えない。羽が外から見えるのは、成虫になるより一回前の脱皮の時で、この時に成虫の構造を小さくまとめたような姿になり、次の脱皮で成虫が姿を現す。このような変態を完全変態といい、この成虫になる前の段階のものを蛹という。一般に成虫になる脱皮を行うことを羽化というが、蛹になる脱皮を行うことを蛹化(ようか)という。
蛹は、多くの場合、成虫の形から、体を膨らませ、羽を縮め、手足をすくめ、それらを体に密着させた形になっている。手足は体に沿うように添えられ、チョウの蛹のように体に融合しているものと、離れているものがある。
ほとんどの蛹は運動性がなく、じっとしているか、刺激を受けるとひくつくような動きを見せるだけだが、激しく運動するものもある。ヘビトンボの蛹は多少は歩いて噛み付いたりする。トビケラ類の蛹は水中にあり、羽化時には蛹が足を動かして水面に泳ぎ上がり、そこで羽化する。また、カやユスリカの蛹も泳ぐことができる。カの蛹はその姿からオニボウフラと呼ばれる。ツリアブなどの蛹は、穴を掘って体の上半身を空中に出して羽化する。
いずれにせよ、蛹の時期は運動性が低くなることから、小さな部屋をつくってその中に入るものが多い。ガなどの幼虫が糸を出すものでは、幼虫が自分の回りに、その糸を使って小さな部屋を作り、その中で蛹になるものが多い。そのような、糸でできた小部屋を繭(まゆ)という。土の中などに潜り、回りの壁をきれいに仕上げた小部屋を作り、そこで蛹になるものも多い。この小部屋は蛹室(ようしつ)という。地中で周囲を固めて繭状のものを作るものもいて、これは土繭という。チョウの場合、多くの種が裸で蛹になるが、これはむしろ珍しい部類に入る。シロチョウ科やアゲハチョウ科の蛹は、頭が上を向き、腹部末端で足場に固定し、背中を通した糸で体を支える。タテハチョウ科やマダラチョウ科の蛹は、腹部末端で足場に固定するだけなので、頭を下にしてぶら下がる。
蛹になる寸前、幼虫の姿でじっとしているのを前蛹という。蛹は時間がたつにつれ、次第に着色するが、これは内部に成虫の体ができて、その体表の模様が透けて見えるものである。
[編集] チョウの蛹
最もよく見かけるのは、チョウの蛹であろう。例えばモンシロチョウは、キャベツの葉に産卵し、卵から産まれた幼虫はイモムシとなり、キャベツの葉を食べて成長し、脱皮を繰り返して大きくなる。四回脱皮して五齢が終齢になるが、終齢幼虫は十分餌を食べるとあちこちうろうろして、やがて足元に足場になるように糸を張り、最後尾の足でそれに掴まる。また、頭を背後へねじるようにして、自分の背中の後ろに糸を横切るように回し、その両端を胸の前の足場につけ、その糸で自分を固定する。幼虫は頭を縮めるようにして、しばらくじっとしているが、しばらく時間を置いて、脱皮を始める。出てくるのは、成虫の体を膨らませ、触角や付属肢、羽を縮めた上でそれらを体に張り付けた姿の、前後の尖った楕円形の形で、後端で足場に引っ掛かって体を固定する。その表面は次第に硬くなり、刺激を受けると全身をくねらせるように動くのみとなる。この状態のものを蛹という。
やがて蛹の表面に切れ目が入り、そこから成虫が抜け出ると、蛹の殻にぶら下がるようにして体を休める。この間に付属肢は硬くなり、羽が伸びる。また、この時に肛門からかなりの量の液体を排出する。これは蛹の間に溜まった老廃物を排出しているのである。