豊肥本線
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豊肥本線(ほうひほんせん)は、大分県大分市の大分駅から熊本県熊本市の熊本駅に至る九州旅客鉄道(JR九州)の鉄道路線(地方交通線)である。阿蘇高原線(あそこうげんせん)という愛称が付けられている。
阿蘇山の外輪山を西側はスイッチバックで、東側はトンネルで越えて、九州を横断している。阿蘇への観光路線であるほか、大分市・熊本市への通勤・通学路線ともなっている。
国土交通省監修『鉄道要覧』では、大分駅を起点としているが、JR線路名称公告では熊本駅が起点で、列車運行上も熊本から大分行きの方向が下りになっている。ここでは、特記なければ『鉄道要覧』に合わせ大分駅起点として記述する。
目次 |
[編集] 路線データ
- 管轄(事業種別):九州旅客鉄道(第一種鉄道事業者)
- 路線距離(営業キロ):148.0km
- 軌間:1067mm
- 駅数:37駅(起終点駅含む)
- 複線区間:なし(全線単線)
- 電化区間:
- 大分~肥後大津間非電化(ただし、大分~下郡信号場間(2.7km)は大分鉄道事業部大分車両センターの回送線を兼ねているため電化〈交流20,000V・60Hz〉されている)
- 肥後大津~熊本間電化(交流20,000V・60Hz)
- 閉塞方式:特殊自動閉塞式(軌道回路検知式)
- 最高速度:95km/h
[編集] 沿線風景
豊肥本線の最高点は阿蘇山の東外輪山にある坂の上トンネル。豊肥本線は広大な阿蘇山に登って降りることで九州を横断している。風景説明の都合上この項だけは熊本起点で説明する。
熊本駅から肥後大津駅までは大都市熊本への通勤通学路線、車窓風景も普通の都市や住宅街。肥後大津駅は熊本空港にも近い。肥後大津から先は非電化となり、肥後大津駅を出たディーゼルカーはエンジンの音を響かせながら徐々に阿蘇山に近づいてゆく。右下に白川の清流を見下ろすようになると立野駅。ここは阿蘇外輪山が1箇所だけ途切れて低くなった場所で、川も道路も鉄道も西から阿蘇へ入るにはここを通らねばならない。鉄道は有名なスイッチバックで標高を稼いでカルデラ内に入る。熊本から立野に到着した列車の運転士は、ホームの上を歩いて反対側の運転席に行き逆向きに発車、しばらく坂を登って停止すると今度は車内を歩いて元の運転台に戻り、始めと同じ進行方向で発車する。この間、白川の渓流はどんどん遠くなってゆき、列車は阿蘇カルデラ内の平原に入る。
カルデラ内では右に阿蘇の火山群、左は広い田圃の向こうに北側の外輪山が見える。宮地駅近くには肥後国一宮の阿蘇神社があるが、このあたりが火山群が最も良く見える。宮地駅を出ると列車は左右に大きくカーブしながら阿蘇東外輪山を登ってゆく。いくつかのトンネルを抜けて、一瞬左側に広大な阿蘇カルデラが見渡せるがすぐに坂の上トンネルに入る。ここまでひたすら登りつづけてきた豊肥本線はここから下り始める。緩やかに波打つ高原を左右に細かくカーブしながら下ってゆくが、この周辺は9万年前に阿蘇カルデラが大噴火した時に火砕流に覆い尽くされた一帯(火砕流台地)。台地の川筋に沿って走ってゆき、渓谷の底になったところが豊後竹田駅。瀧廉太郎の『荒城の月』で有名な岡城は駅近くにあるが、谷底にある駅や市街からは見上げるような高さの台地上に石垣を組んでいる。豊後竹田から先も谷筋を通ってだんだん平地へ降りてゆき、大分平野に出て大分駅で終点となる。
[編集] 運行形態
[編集] 地域輸送
普通列車は概ね豊後竹田駅・宮地駅・肥後大津駅で運転系統が分かれている。
大分~豊後竹田間はキハ200系気動車が中心に使用され、大分~中判田・犬飼・三重町間の区間運転列車も多数運転されている。また、豊後竹田~宮地間は山合の過疎地を走るため本数が少なく1日5往復しかない。昼間は繁忙期に4時間、閑散期に7時間以上運転間隔があき、駅間距離も長く利用者が少ない。この区間はワンマン運転対応のキハ125形気動車、キハ31形気動車、キハ40系気動車などによる単行運転が行われている。 宮地~肥後大津間は一部時間帯を除き、キハ200系気動車を主体としておおよそ毎時1本程度運転されている。
電化区間である肥後大津~熊本間は815系・817系電車により昼間は毎時2本程度運転されており、平日朝ラッシュ時の熊本行きは約10分間隔で運転される。利用者も多く朝ラッシュ時は混雑しやすい。
このほか、かつては毎年3~11月にアメリカ風客車をディーゼル機関車が牽引する臨時快速列車「ディーゼルあそBOY」号が宮地~熊本間に運転されていた。1988年8月に8620形蒸気機関車牽引の「SLあそBOY」号として運転を開始したが、2005年8月に老朽化から8620形が引退し、ディーゼル機関車牽引になった。2006年7月22日からは昭和30年代をイメージした、後継の臨時快速列車「あそ1962」が同区間に運行されている。立野以東は市ノ川を除いた各駅に停車する。車内では昔のCM放映や、阿蘇の特産品及び駄菓子販売を行う。これらの列車は、阿蘇への観光客集客を目的としている。
肥後大津~熊本間・大分~三重町間で運転されているワンマン運転の普通列車(2両編成)は、2006年3月17日まで無人駅および有人駅での営業時間外の停車時に関しては、前の車両のドアのみ開き(中扉は開かず・後ろ乗り前降り)、乗車時には整理券をとる必要があったが、2006年3月18日のダイヤ改正後より、全ての駅で列車のホーム側の全てのドアから乗り降りできるようになった。
[編集] 優等列車
優等列車として、別府~熊本~人吉間に185系気動車による特急「九州横断特急」が運転されているほか、熊本~水前寺・武蔵塚・光の森・肥後大津間に博多からの電車による特急「有明」が乗り入れている。かつて1987年から1994年まで豊肥本線内をディーゼル機関車牽引で水前寺駅まで乗り入れていたが、1999年の電化に伴い再開したものである。「九州横断特急」は2両編成で走る時は運転台に『ワンマン』の表示(3、4両編成時を除く)がされ、女性客室係員が乗車している場合でも扉操作や運転案内放送は運転士が行っている。
[編集] 車両
[編集] 電化区間
[編集] 非電化区間
[編集] 歴史
大分~玉来間は国鉄の犬飼軽便線(いぬかいけいべんせん。後に犬飼線と改称)として、宮地~熊本間は宮地軽便線(みやじけいべんせん。後に宮地線と改称)として、両線とも1914年に開業した。なお現在、南阿蘇鉄道となっている立野~高森間も宮地線の支線として開業している。
最後の区間である玉来~宮地間が開業して大分~熊本間が全通したのは1928年で、宮地線・犬飼線を合わせて豊肥本線となった。その際、立野~高森間の宮地線の支線は高森線となった。
山間地を走ることから災害で不通になることも多く、1990年7月緒方~宮地間が集中豪雨のため不通となり、1991年10月に全線が復旧した。1993年9月から1994年5月にも三重町~豊後清川間が不通になった。
[編集] 年表
[編集] 犬飼線(大分~玉来)
- 1914年4月1日 【開業】犬飼軽便線 大分~中判田 【駅新設】下郡(連絡所)、滝尾、中判田 (注)下郡連絡所は、豊州本線との分岐点に設置(豊州本線所属)
- 1916年9月1日 【延伸開業】中判田~竹中 【駅新設】竹中
- 1917年7月20日 【延伸開業】竹中~犬飼 【駅新設】犬飼
- 1921年3月27日 【延伸開業】犬飼~三重町 【駅新設】菅尾、三重町
- 1922年4月1日 【連絡所→信号場】下郡
- 1922年9月2日 【線名改称】犬飼軽便線→犬飼線(軽便線の呼称廃止)
- 1922年11月23日 【延伸開業】三重町~緒方 【駅新設】牧口、緒方
- 1923年12月20日 【延伸開業】緒方~朝地 【駅新設】朝地
- 1924年10月15日 【延伸開業】朝地~豊後竹田 【駅新設】豊後竹田
- 1925年11月30日 【延伸開業】豊後竹田~玉来 【駅新設】玉来
- 1928年12月2日 大分~玉来間を豊肥本線に編入
[編集] 宮地線(熊本~宮地)
- 1914年6月21日 【開業】宮地軽便線 熊本~肥後大津 【駅新設】春竹、水前寺、竜田口、三里木、肥後大津
- 1916年11月11日 【延伸開業】肥後大津~立野 【駅新設】瀬田、立野
- 1918年1月25日 【延伸開業】立野~宮地 【駅新設】赤水、内牧、坊中、宮地
- 1920年7月25日 【駅新設】原水
- 1922年9月2日 【線名改称】宮地軽便線→宮地線(軽便線の呼称廃止)
- 1928年2月12日 【支線開業】立野~高森 【駅新設】長陽、阿蘇下田、中松、阿蘇白川、高森
- 1928年12月2日 宮地~熊本間を豊肥本線に編入。立野~高森間を高森線に分離
[編集] 豊肥本線(全通後)
- 1928年12月2日 【延伸開業・全通】玉来~宮地 【駅新設】波野、滝水、豊後荻 【線名改称】宮地線・犬飼線→豊肥本線(同時に宮地線支線(立野~高森)を高森線に分離)
- 1940年5月1日 【駅名改称】春竹→南熊本
- 1960年3月10日 【駅新設】市ノ川
- 1961年3月20日 【駅名改称】坊中→阿蘇
- 1963年3月20日 【信号場廃止】下郡
- 1967年8月13日 【信号場新設】下郡(2代)(初代と同所。大分電車区への分岐点)
- 1981年10月1日 【駅新設】武蔵塚
- 1986年11月1日 【駅新設】東海学園前
- 1987年2月22日 【駅新設】敷戸
- 1987年4月1日 【貨物営業廃止】大分~竜田口(-139.1km) 【承継】九州旅客鉄道(第1種)・日本貨物鉄道(熊本~竜田口・第2種)
- 1988年3月13日 【駅新設】新水前寺
- 1988年8月28日 宮地~熊本間に「SLあそBOY」運転開始
- 1989年3月11日 【駅新設】いこいの村
- 1990年1月1日 【第二種鉄道事業休止】竜田口~熊本(-8.9km)
- 1990年7月2日 緒方~宮地間が集中豪雨のため不通となる
- 1990年11月1日 【駅名改称】牧口→豊後清川
- 1991年8月10日 緒方~豊後竹田間復旧
- 1991年10月19日 全線復旧
- 1992年7月15日 【駅新設】平成
- 1993年9月2日 三重町~緒方間が台風による土砂災害で不通となる
- 1993年9月16日 三重町~豊後清川間復旧
- 1993年12月1日 【第二種鉄道事業廃止】竜田口~熊本(-8.9km)
- 1994年5月1日 全線復旧
- 1999年10月1日 【電化】肥後大津~熊本
- 2002年3月23日 【駅新設】大分大学前
- 2004年9月14日 三重町~豊後清川間が土砂崩れのため不通となる
- 2004年12月10日 全線復旧
- 2005年8月28日 「SLあそBOY」引退
- 2006年3月18日 【駅新設】光の森
- 2006年7月22日 宮地~熊本間に「あそ1962」運転開始
[編集] 駅一覧
下り方向(熊本から大分方向)に記述。
駅名 | 営業キロ | 接続路線 | 所在地 | |
---|---|---|---|---|
熊本駅 | 0.0 | 九州旅客鉄道:鹿児島本線 熊本市交通局:幹線・田崎線(熊本駅前駅) |
熊本県 | 熊本市 |
平成駅 | 2.7 | |||
南熊本駅 | 3.6 | |||
新水前寺駅 | 5.2 | 熊本市交通局:幹線(水前寺駅通駅) | ||
水前寺駅 | 5.8 | |||
東海学園前駅 | 7.8 | |||
竜田口駅 | 8.9 | |||
武蔵塚駅 | 12.9 | |||
光の森駅 | 14.8 | |||
三里木駅 | 15.8 | 菊池郡菊陽町 | ||
原水駅 | 18.9 | |||
肥後大津駅 | 22.6 | 菊池郡大津町 | ||
瀬田駅 | 27.2 | |||
立野駅 | 32.3 | 南阿蘇鉄道:高森線 | 阿蘇郡南阿蘇村 | |
赤水駅 | 40.2 | 阿蘇市 | ||
市ノ川駅 | 42.6 | |||
内牧駅 | 46.4 | |||
阿蘇駅 | 49.9 | |||
いこいの村駅 | 51.2 | |||
宮地駅 | 53.4 | |||
波野駅 | 64.1 | |||
滝水駅 | 69.0 | |||
豊後荻駅 | 75.2 | 大分県 | 竹田市 | |
玉来駅 | 84.9 | |||
豊後竹田駅 | 88.0 | |||
朝地駅 | 93.9 | 豊後大野市 | ||
緒方駅 | 100.3 | |||
豊後清川駅 | 105.4 | |||
三重町駅 | 111.9 | |||
菅尾駅 | 117.3 | |||
犬飼駅 | 125.2 | |||
竹中駅 | 130.8 | 大分市 | ||
中判田駅 | 136.3 | |||
大分大学前駅 | 138.8 | |||
敷戸駅 | 140.2 | |||
滝尾駅 | 142.9 | |||
下郡信号場 | (145.8) | |||
大分駅 | 148.0 | 九州旅客鉄道:日豊本線・久大本線 |
[編集] 過去の接続路線
- 南熊本駅:熊延鉄道