小さな政府
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小さな政府(ちいさなせいふ:limited government)とは、経済に占める政府の規模を可能な限り小さくしようとする思想または政策である。アダム・スミス以来の伝統的な自由主義に立しており、政府の市場への介入を最小限にし、個人の自己責任を重視する。それを徹底したものを夜警国家あるいは最小国家という。基本的に、より少ない歳出と低い課税を志向する。主に、保守派またはリバタリアンによって主張される。
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[編集] 概要
「小さな政府」には、歳出の抑制や低い税率はもちろん、国営企業の民営化、規制の撤廃、国有資産の売却なども含まれる。インフラや公共サービスなどの公共財も、なるべく市場により供給されるような施策をとる。
背景には、神の見えざる手により、市場がコストと価値に見合う最適な資源配分を達成するという期待があり、市場に任せることで効率の高い経済が実現されると考えられている。ただし、「結果の平等」は保障されにくくなり、格差の拡大がありうる。「小さな政府」では、そういった問題に対して、最低限の保障(セーフティ・ネット)を与えることで対応する。
[編集] 歴史
産業革命後の19世紀の英国が原型であり、レッセフェールと呼ばれる方針の下で政府は小さいほうが良いとされた。しかし、それにより格差は拡大し、貧困と不平等を問題視する人々の中から社会主義の思想が生まれた。また、1930年代の世界恐慌において、革新主義や、ケインズにより提唱された有効需要理論に基づいた数々の政策が実行に移され、政府の経済に占める規模は増大した。米国で失業保険や公的年金、生活保護などの社会保障が設けられたのはこの時期である。
1960年代には、財政政策と金融政策をミックスし完全雇用を志向する「大きな政府」が主流となるが、1970年代にスタグフレーションを招いたため、フリードマンら経済学のシカゴ学派による批判に基づいて、イギリスやアメリカで「小さな政府」への転向が始まった。肥大化した政府による資源配分の歪みや規制、財政政策依存による財政赤字拡大、クラウディングアウト効果による民間投資の過少化、政府支出へ依存した産業構造、それらの結果としての供給力不足がインフレーション体質の問題点であると考えられた。「小さな政府」は、新自由主義(ネオリベラリズム)あるいは新保守主義と親和性が高い。
[編集] 「小さな政府」論への批判
- 日本は公的企業の割合や、人口に占める公務員比率が欧米諸国と比べて低い(ただし、これには、源泉徴収制度により事業主に所得税・住民税の事務の一部を実質的に担わせていることや、民生委員等ボランティアで実質的に公務を担っているケースも多いことから、必ずしも当を射ていないとの反論もある)が、日本と比較して「大きな政府」である欧州諸国の経済パフォーマンスが悪いとは必ずしもいえない。
- 「政府の規模」と経済効率には明確な因果関係が認められない。
以上のことから、「小さな政府」を政策目標にするのは的外れであるという批判もある。
[編集] 日本の場合
日本では財政再建の名の下、与党第一党の自由民主党が積極的に「小さな政府」を掲げている。金融市場においても、企業利益の増大をもたらす「小さな政府」を推す政権が好まれる傾向が強い。小泉内閣以降の自民党政権は、「『小さな政府』でなければ日本に未来は無い」として、歳出の抑制や規制緩和、法人税減税、郵政公社や特殊法人の民営化などを進めている。
一方、日本では、欧米諸国と異なり、福祉の支出が公共投資よりも少ないことから、小さな政府が行き過ぎているのではないかという批判が、主に左派からなされている。これに対しては、日本の福祉の給付水準は先進国の中でも最高レベルであり、また、総支出でも、急激な少子高齢化に伴って、将来的には欧州並みの規模まで膨らまざるを得ないとする反論もある。