売春
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売春(ばいしゅん)とは、金銭などの対価を目的にし、異性または同性と性行為を行うこと。古くから世界中で見られる。かつては「売笑」「売淫」とも呼ばれた。
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[編集] 売春防止法
日本では売春防止法第3条により売春は禁止されている。但し、対価の下に性交渉を持つ場合でもそれが“特定の相手”(愛人等)なら罰せられない。(「『売春』とは、対償を受け、又は受ける約束で、不特定の相手方と性交すること」(同法2条))
また、売春行為自体は刑事処分の対象とはならない。
同法が刑事処分の対象としているのは、
- 売春勧誘(同法5条1号)
- 売春の周旋(同法6条1項)
- 売春をさせる契約(同法10条1項)
- 売春をさせる業(同法12条。俗にいう「管理売春」は、これに含まれる。)
などの売春を「助長」する行為である。
売春行為そのものを刑事処分の対象としないのは、交際の相手方ないしは交際を望む相手方に対するプレゼントや食事の提供は日常しばしば見られる行為であり、多数の友人との性交を伴う交友をする者を売春行為をしたとして処罰することにもなりかねず、個人の性生活を極度に制限してしまう恐れがあるからだと考えられる。なお、性交類似行為(フェラ、素股、アナルセックスなど)は、売春防止法にいう性行為に当たらない。子供ができる可能性が低いからと説明されているが、避妊をしての性行為は売春に当たる。
[編集] 日本の売春の取締り
現在は、法で規制はされるものの、大半は黙認されている(金銭問題や未成年の就業等が外部に漏れた場合は例外)。仮に発見されても現行犯で無い限りは、取り締まれないのが実状である。
[編集] 援助交際
援助交際を参照。
[編集] 買春
対償を与え、もしくは与える約束で性交を行うことを買春(かいしゅん)と呼ぶようになってきた('90年代以降)。
音読みでは「ばいしゅん」となるが、これは1970年代から1980年代にかけて、日本人男性による韓国や台湾、タイ、その他の東南アジアへの「セックス・ツアー」(買春ツアー)激増がマスメディアによって報じられ、それに対する告発によって生まれた造語である。とりわけ、少女を対象にした「買春」は大きな問題となった。
当初は「買春」も「売春」も「ばいしゅん」と呼んでいたが、両者を区別するため、「買春」に対して本来は誤りである湯桶読みの「かいしゅん」が多用されるようになった。近年ではアナウンサーの発音や、国会議員の答弁などにおいても「かいしゅん」の読みが使われるようになっている。国語辞典などにも「かいしゅん」の読みが採用されるようになってきた。
ただし一つ間違えると「回春」になってしまうという問題もある。なお中国語では「売春」と「買春」は声調が異なるために区別可能。
他に、売春する女性を性的被害者とし、その相手である男性を加害者であると断定し、これを強調するためにあえて「買春」の用語を使用することがある(援助交際の相手の男性などに使うことが多い。主にフェミニストが使う)。
売春と買春を合わせて「売買春」(ばいばいしゅん)と呼ぶこともある。
[編集] 諸外国での事情
多くの国で売買春は非合法となっているが、斡旋やピンハネ行為等を規制した上で合法とする国もある。
韓国では最近日本からの旅行者をターゲットにした売春が増えており、「冬ソナツアー」と題したネットを利用しての宣伝を行っている。現在の法律で規制こそ行われているが、売春婦の総計は33万人と言われ大きな社会問題となっている。
オランダのアムステルダムなどの主要都市に売春宿(隠語で「飾り窓」と呼ばれる)や街娼(隠語で「立ちんぼ」と呼ばれる)が多数存在し、毎日朝から深夜まで料金等の交渉が行われている。スカンディナヴィア諸国、フランス、スイス、ドイツ、ギリシャ、あるいはハンガリーやポーランドなど東欧諸国においても合法で、オーストリアなどでは外国人が働くために売春ビザで滞在許可を得ることができる。 また、アメリカ合衆国ネバダ州の一部でも売買春は合法化されている。
イギリスでは売春すなわち「性的なサービスの代価に金銭を受け取る」こと自体は合法であるという判例がある。しかしながら法律的には、街娼、ぽん引き、売春宿および売春組織の形成は違法である。したがって、個人が新聞やインターネットで広告を出し売春をすること(Independent Escort)は合法であるが、Escort を派遣するいわゆる Escort Agency や、日本のソープランドのようにマッサージと称して売春する Massage Parlour は非常に黒に近いグレーであるが、黙認されている。
オーストラリアでは州法により売買春は規制されているが、売買春そのものは合法である。組織・施設・勧誘行為の規制は州により異なる。
一方、タイや中国などアジアでは、現在でも、特に地方での貧困から、少女・少年が都市部で裏で売春をするケースが多いといわれ、エイズなどの性病が蔓延し、大きな社会問題となっている。 タイでは、性病の蔓延を防ぐため、衛生管理を徹底し、かつ税収を確保する目的で昨今、国の許可の下での管理売春が合法化された。
前述のように、オーストラリアでは、売買春は合法化されている。その合法化を推進したのがキャンベラの女性市長である。売春を違法にしたところで、貧しい人達がいる限り売春は無くならないし、「モラルを押し付けておきながら、福祉を充実させずに貧しい生活を甘受せよというのは金持ちのエゴである」との反発もあり、合法化した。 合法化したことで、売春に従事する女性達は社会保障を受けることができ、また賃金を不当に踏み倒されることもなくなり、また衛生管理も向上する。そういった点で、女性議員達の支持をうけたのが、合法化に成功した理由といわれる。同様の理由でニュージーランドでも合法化された。
[編集] 備考
「人類最古の職業(the oldest profession)の1つ」と言われ、辞書にもそのような記載がある。ちなみに、「人類最古の職業」と呼ばれる物には、他に助産師、医師、盗賊、傭兵等がある。
また、人間だけでなくチンパンジー等にも見られる行為である事がフィールド・ワークによって判明している。さらに昆虫程度の生物にも同様の生態が見られる。
[編集] 参考文献
- 1964年
- ジャン=ガブリエル・マンシニ著(寿里茂訳)『売春の社会学』(文庫クセジュ)、白水社(原著:Jean-Gabriel Mancini, Prostitution et proxénétisme, 1963.)、ISBN 456005357X
- 1986年
- 総理府編『売春対策の現況』、ぎょうせい、ISBN 4324004501
- 1991年
- ヴァーン・ブーロー、ボニー・ブーロー著(香川檀・岩倉桂子・家本清美訳)『売春の社会史-古代オリエントから現代まで』、筑摩書房(1996年に文庫本で再発)(原著: Vern Bullough, Bonnie Bullough, Women and Prostitution: A Social History, Buffalo, N.Y., Prometheus Books, 1987.)、ISBN 4480855734(文庫版は ISBN 4480082921(上巻) ISBN 448008293X(下巻))
- 1992年
- 小林大治郎・村瀬昭著『国家売春命令-みんなは知らない』、雄山閣出版(初版は1961年)、ISBN 4639011334
- 1993年
- フレデリック・デラコステ、プリシラ・アレキサンダー編『セックス・ワーク-性産業に携わる女性たちの声』、パンドラ(→中野理惠)(原著:Frédérique Delacoste, Priscilla Alexander ed., Sex Work: Writings by Women in the Sex Industry, 1987)、ISBN 4768477259
- タン・ダム・トゥルン(田中紀子・山下明子訳)『売春-性労働の社会構造と国際経済』、明石書店(原著:Thanh Dam Truong, Sex, Money, and Morality: Prostitution and Tourism in Southeast Asia, 1990.)、ISBN 4750305316
- 1994年
- 山田勝著『ドゥミモンデーヌ : パリ・裏社交界の女たち』、早川書房、ISBN 4150501807
- 1995年
- 井上節子著『占領軍慰安所-敗戦秘史 国家による売春施設』、新評論、ISBN 4794802692
- 福島瑞穂・中野理恵著/パンドラ編『買う男・買わない男』、パンドラ、ISBN 4768455786
- 森栗茂一著『夜這いと近代買春』、明石書店、ISBN 4750307505
- 1996年
- いのうえせつこ著『買春する男たち』、新評論、ISBN 4794803281
- クリスタ・パウル著(池永記代美・浜田和子・梶村道子・イエミン恵子・ノリス恵美訳)『ナチズムと強制売春-強制収容所特別棟の女性たち』、明石書店(原著:Christa Paul, Zwangsprostitution: staatlich errichtete Bordelle im Nationalsozialismus, 1994.)、ISBN 4750308048
- 1997年
- 総理府編『売春対策の現況』、大蔵省印刷局、ISBN 4173510004
- 田崎英明編著/金塚貞文・小倉利丸・菅野聡美・千本秀樹・渡辺里子著『売る身体/買う身体-セックスワーク論の射程』、青弓社、ISBN 4787231375
- 谷口和憲著『性を買う男』、パンドラ、ISBN 4768477828
- 藤井誠二著『18歳未満『健全育成』計画-淫行条例と東京都「買春」処罰規定を制定した人々の野望』、現代人文社、ISBN 4906531393
- 1999年
- Sexual Rights Project 編『買売春解体新書-近代の性規範からいかに抜け出すか』、つげ書房新社、ISBN 4806804185
- 2000年
- 要友紀子・小林のん・滝波リサ・国江響子・佐藤悟志著/松沢呉一・スタジオポット編『売る売らないはワタシが決める-買春肯定宣言』、ポット出版、ISBN 4939015246
- 吉田秀弘著『日本売春史・考-変遷とその背景』、自由社、ISBN 4915237230
- 2001年
- シャノン・ベル著(山本民雄・宮下嶺夫・越智道雄 訳)『売春という思想』、青弓社(原著:Shannon Bell, Reading, Writing, and Rewriting the Prostitutive Body, 1994.)、ISBN 4787231820
- 鈴木水南子・角田由紀子・村瀬幸浩・草野いづみ著『買春と売春と性の教育』(Human Sexuality トーク&トーク 2)、十月舎、ISBN 4434007750
- 近代国家と大衆文化研究プロジェクト『近代社会と売春問題』(『産研叢書』16)、大阪産業大学産業研究所、2001年3月。
- 2002年
- アレクサ・アルバート著(安原和見訳)『公認売春宿』、講談社(原著:Alexa Albert, Brothel: Mustang Ranch and Its Women, 2001.)、ISBN 4062114984
- 岡野幸江・長谷川啓・渡辺澄子編『買売春と日本文学』、東京堂出版、ISBN 4490204574
- 2004年
- 梁石日著『闇の子供たち』幻冬舎文庫 ISBN 4344405145 (タイが舞台)
体はの邦訳解体新書
- 未邦訳
- Nestor Osvaldo Perlongher, O negocio do miche, prostituicao viril am Sao Paulo, 1.a edicao, editora brasiliense, 1987.
- John Preston, Hustling: A Gentelmen's Guide to the Fine Art of Homosexual Prostitution, New York, Masqueade Books, 1994.
[編集] 関連する映画
- モナ・リザ(1985)(イギリス)(英語版)