マルチロール

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マルチロール機（ — き）とは、複数の用途での運用が可能な航空機のことである。

従来戦闘機・攻撃機（爆撃機）・偵察機・電子戦機・空中給油機等により別々に行われていた複数の任務のいくつかをひとつの機体で遂行可能な軍用機は特にマルチロールファイター（多用途戦闘機、多任務戦闘機）と呼ばれる。一方、空対空戦闘と対地攻撃の2つを主任務とするものはデュアルロールファイターや戦闘爆撃機（戦闘攻撃機）と呼ばれることもある。

[編集] マルチロールファイター登場までの流れ

戦闘爆撃機も参照

[編集] 航空機の性能向上と戦闘機のマルチロール化

マルチロール機は、第二次大戦時に主に活躍した戦闘爆撃機を先祖とする。開戦当初は多くの航空機のエンジン出力が1,000 hpに届かなかったこともあり、空対空戦闘を主任務とする戦闘機、特に単発機に爆弾を搭載して対地攻撃能力を持たせることは困難であった。

しかし、大戦中期に入るとエンジンの性能が飛躍的に向上し、後期には2,000 hp以上の大出力エンジンを備える機体までが出現した。これ以前には新型機の登場により余剰となった、性能がやや劣る戦闘機に爆弾及びロケット弾を搭載させて運用していた。大出力エンジンの登場によって、Fw 190の一部の型式やP-47のように、制空戦闘機として第一線級の能力を持ちながら、専任の攻撃機と同等の対地攻撃能力をも備えた戦闘爆撃機（ヤーボ）が現れた。これらが後のマルチロール機につながっていく。

とはいえ、いわゆる「戦闘爆撃機」は、専任の攻撃機や爆撃機が存在する以上は、まだまだ補助的な任務、あるいは戦闘機としても爆撃機としての性能もほどほどの中途半端な万能機に過ぎなかった。例えばF-104戦闘機はその目的に使うのは性能的に不適切であったにもかかわらず欧州において戦闘爆撃機として使われ、「未亡人製造機」という不名誉な名称をもらっている。

やがてF-105やF-111のように、小型爆撃機を不要にするほどの爆撃能力をもった戦闘爆撃機が登場するが、今度は爆撃機としての性能を追求し過ぎた結果、戦闘機としての性能がおざなりになり、F-111に至っては戦闘機としての使用が不可能になるという、行き過ぎも生じてしまった。

だが、航空技術の発達は、徐々に戦闘機の能力を向上させ、戦闘機としても爆撃機としても、双方の任務も十分にこなせるまでに発展していく。ベトナム戦争の時代に現れたアメリカ軍の戦闘機F-4は、低翼面荷重で戦闘機としての格闘戦能力も高く、同時に爆弾搭載能力も十分にあった。爆弾を搭載してもなおミサイル４発の搭載も可能で、戦闘機としても爆撃機としても双方に十分使える機体であった。欠点は固定機関砲を搭載しない事だが（後づけで機関砲を搭載すると、当然ながらその分爆弾も積めない）、その欠点もF-4Eにおいて改善された。

これ以降に登場したF-16は、格闘戦重視の軽戦闘機であるが、同時に対地攻撃能力も十分なものを持っていた。そして、F-15の発展形であるF-15Eは、空戦能力も保ちながら、機体構造の見直しと火器管制能力の改良により、特に対地攻撃に対しての強化が施されている。これら戦闘機としても爆撃機としても双方の能力の高い機体は、マルチロール機と分類されている。

[編集] 冷戦崩壊による任務の変化

ソ連の崩壊によって冷戦が終結すると、多くの国にとって、空対空戦闘のみを主任務とする純粋な制空戦闘機は費用対効果からみて割に合わなくなった。この影響を受け、たとえばアメリカ海軍のF-14は改修が進められ、爆撃機としての運用も可能となった。さらに軍事費削減の流れが各種航空機のマルチロール化を促すこととなる。

例として、F/A-18を挙げれば、アメリカ海軍では多くの空母を運用しているが、艦載する航空機の搭載機数は必然的に制限がかかる。そのため戦闘機のマルチロール化が積極的にすすめられた。ここで開発された機体がF/A-18である。当初は一つの機体をベースに、F-4の後継であるF-18（制空戦闘主任務）と、A-7の後継のA-18（対地攻撃主任務）の2機種として開発が進められたが、単一の機体で任務に合わせた運用を行う、マルチロールファイターとしてF/A-18の一機種が完成した。重攻撃機と言えるA-6の後継として当初予定さていたA-12が予算問題で開発を断念し、A-6のアップグレード計画も同様の問題で中止されたため、2005年現在米海軍は、現有のF/A-18と改良型のEの二種類のF/A-18を主軸に航空打撃兵力を運用している。F/A-18には空中給油能力もあり、さらにはEA-6Bの後継として電子戦を任務とするタイプの開発も行われており、F/A-18ファミリーはいっそうマルチロール（多任務）な機体となることが予想される。

世界各国の空軍でも、冷戦終結と軍事費削減のあおりを受け、次期採用機の多くが戦闘攻撃機としての運用が可能な機体となっている。アメリカ空軍のF-22は、当初は制空戦闘機として開発されていた。しかしながら、後には対地攻撃性能が付与され、戦闘攻撃機としての運用も可能な機体として採用されている。2005年現在数カ国の空軍や海軍、海兵隊への採用が決定しているF-35シリーズも、戦闘攻撃機としての運用も可能なマルチロールファイターである。

ユーロファイタータイフーンの開発から脱退したフランスが独自に開発した、ラファールは、戦闘攻撃機としての使用が可能のみならず、空軍と海軍が共通使用することを前提に開発・量産されたマルチロール機である。また、日本の航空自衛隊が運用するF-2は、F-16を基本設計としているために、支援戦闘機（攻撃機）でありながら戦闘機としての性能もある程度は備えているものと思われる。スウェーデンで開発されたJAS39はその名称が示すとおり戦闘(J: Jakt)・攻撃(A: Attack)・偵察(S: Spaning)を任務とするマルチロールファイターである。