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ダム建設の是非 - Wikipedia

ダム建設の是非

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

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この記事は、上記の親記事が長くなったために分割されて生じた記事です。このテーマについて体系的な情報を得たい場合には、上記の親記事(目次ページ)にあるリンクを順番に辿ってみてください。


ダム建設の是非では、ダムの建設に対する賛否に対する内容を詳述する。

ダム建設においては、流域に対する様々な生活的影響・環境への影響、さらには近年日本における公共事業の進め方に対する厳しい視線等もあり、賛否が分かれることが多い。

目次

[編集] ダム事業の損益

日本の河川の歴史は治水と利水の歴史でもある。日本は国土が狭く、河川勾配が欧米の大河川に比べ極端に急勾配である。ゆえに降雨は短期間で海に流出する。このため水害の頻度が高いことは疑いの余地がない。逆に水不足に悩まされることも多々あり、全国各地で古来より水争いによる流血沙汰は昭和初期まで続いていた。これらを解決すべく戦後「河川総合開発事業」によるダム建設が盛んに行われてきた。しかし近年ではこうしたダム事業に対して様々な観点から意見が述べられるようになった。ここではその概略を記す。

[編集] 肯定的視点から

現在全国各地に建設されたダムは2,000箇所以上に上る。だが、日本全国のダムの総貯水容量は222億立方メートルで米国のフーバーダムコロラド川)の総貯水容量400億立方メートルの半分でしかない。水が豊富に見えてそうではない現実がある。

近年の地球温暖化の影響により、全世界的に毎年のように集中豪雨と旱魃が局地的に襲っており、「21世紀は水戦争の時代」とまで言われている。日本においても平成16年7月新潟・福島豪雨平成16年7月福井豪雨を始め毎年のように全国各地で水害が発生、流域住民の生命・財産を脅かしている。一方1994年・2005年の全国的な大渇水は各地で給水制限を引き起こし、特に大河川を持っているにもかかわらず慢性的に降雨量の不安定な四国地方での渇水は深刻となった。1996年に「細川内ダム建設事業」が事実上中止となった那賀川水系では渇水により100億円規模の経済損失が発生し、通常水不足の起こりにくい冬季においても取水制限が行われている。このような不安定な現状の中、河川整備・水資源の確保はより一層重要となり、ダム事業はとりわけ重要であるとの意見も多い。福井豪雨においてダムのある真名川とダムのない足羽川で浸水被害が大きく異なった事例もあり、治水・利水の観点では現在においてもダムの重要性は変わらないとの見方もある。

一方、地球温暖化防止の観点から二酸化炭素排出抑制のために化石燃料からの脱却が叫ばれている中、水力発電の再評価も行われている。欧米と異なり原子力発電に対するアレルギーが強い日本において新規の原発建設が困難性を増している中、風力発電太陽光発電地熱発電等代替エネルギーの大規模実用化が困難と言われている以上、水力発電への回帰はやむをえないと言う意見もある。また、戦前に建設された多くの水力発電ダムは既に減価償却も完了し、工事費等の債務等を完済しているケースが多い。このようなダムは毎年経常黒字を重ね維持修繕費はその黒字の中から賄われており税金では償却されていない。出力10,000kW台でも地域の数千世帯分の電力を賄うことが可能で、クリーンかつ経済性に優れた発電法でもある。揚水発電は夏季の急激な電力消費に即応可能で、かつコストパフォーマンスにおいて火力発電より優れた発電方法とも言われる。こうしたことから治水・利水・エネルギーを総合的に確保できるダム開発に期待する向きも多い。

環境面からは、概して環境破壊の権化として批判される面が大きいダム事業であるが、反面農業用水の取水や天候により特に河川の流況が不安定な夏季において、ダムからの河川維持放流が存在することで常に安定した河川維持流量が確保でき、干ばつによる生物の枯渇を防ぐのに役立つという意見もあり、ダム建設と自然環境変化の因果関係は一概に言えない面がある(ダムと環境の項を参照)。1997年(平成9年)の河川法改正において河川環境維持が重要な目的に追加されたこともあり、これ以降電力会社管理ダムを含むほぼ全てのダムについて、河川維持放流を義務付けるなど行政の対応も変わりつつある。

[編集] 批判的視点から

ただし、治水目的としてはダムの存在が越流被害を一定以下に抑える効果はあるものの、堤防決壊による被害が大きかった川では堤防の強度が不十分だったのではないかという観点もあり、複合的な要因があることを考慮すると一概にダムがなかったことだけが洪水被害の原因とは言い切れない面もある。また、近年の集中豪雨ではダムの洪水調節機能が計画を超える大幅な洪水に対応できていない現実もあり、ただし書き操作による洪水調節も目立っている。近年の降雨の傾向が「長期間にわたる穏やかな雨」から「短期間に激しい降雨」に移りつつあり(地球温暖化が原因との見方が強い)、ダム建設以前に降水量の分析を始め全てにわたる治水対策の抜本的見直しを図る方が先ではないかという見方もあって、問題を複雑にしている。渇水対策についても、ダムのある川で渇水が発生し、逆にダムのない川で渇水が発生しないという河川もあるなど矛盾した事象もある。洪水・渇水には元来気候的問題が絡んでいることから、対策としてのダム単体の効果を事業者・流域住民双方が依存・強調することには疑問を呈する専門家もいる。

環境面で考えた場合、ダム建設が周辺の自然環境に直接的な悪影響を与えることを原因に反対であるという意見はいまだ根強い。ダムの存在が河川の生態系を遮断し、生物の交流を妨げるのではないかという意見は数多く見られるほか、2003年(平成15年)に奈良県大滝ダム紀の川)で発生した地すべり(多くの住民が仮設住宅への移転を余儀なくされている)はダム建設時の斜面対策不備が原因ではないかという見方が強い。また、水力発電のクリーン面を強調する事に対しては、こういった施策が地球温暖化解決に大きく寄与するかという点について様々な議論がある(ダム湖により森林が水没して失われ、効果が相殺されるのではという指摘もある)。

[編集] ダムに対する反対運動

[編集] 反対運動とその評価

ダム建設に対する反対運動は古くから存在していたが以前は河川開発への重要性が最優先であったため、仮に住民側からも強硬な反対があったとしても最終的には不利な補償内容であったとしても妥協せざるを得なかった面がある。特に高度経済成長期は国土開発全盛期であったことから公共事業の実施は住民の意思など省みられなかった。こうした事から次第にダム建設に対する反対運動が活発化していく。

世間にダム反対運動がクローズアップされたのは、1954年(昭和29年)の「田子倉ダム補償事件」からである。これは当時電源開発株式会社が「只見川電源開発計画」の一環として計画していた田子倉ダムに対し、水没住民が激しい反対運動を展開。これを解決すべく福島県知事の斡旋によって当時としては極めて異例な高額の補償金支払に応じると会社側が発表した事件である。最終的には河川行政を所管する建設省(現・国土交通省)・電力行政を所管する通産省(現・経済産業省)等が反発し結局当時の相場に応じた補償金支払で妥結したが、この事件を契機に各地のダム反対運動がこの影響を受け、補償金吊上げを狙って反対運動を激化させるという現象が起こった。だが、これについても生活の糧・基盤を失う水没住民の防衛本能の一環でもあり、やむをえない行動とも言えた。その後も事業者は開発優先の姿勢を崩さず、「円満解決」と表現しながらも土地収用法による強制収用等の半ば横暴な手法が行われていたケースもあった。

これに風穴を開けたのが筑後川水系の松原ダム下筌ダム建設事業で起こった蜂の巣城紛争である。公共事業と基本的人権の整合性を問うた室原知幸の活動は水源地域対策特別措置法を始めとして従来、目が向けられなかった水没地域の福利厚生・地域振興を推進する契機となり、「住民の同意がない限り、ダム建設は着工されない」という不文律を形成した。漁業権の観点からは強制収用から共生への方向転換がなされ、ノリ養殖に絡む筑後大堰福岡県佐賀県有明海漁業協同組合連合の攻防は、ノリ養殖保護のために筑後川本川のダム連携放流による品質維持という漁連と国の協力態勢構築に繋がった。宮城県気仙沼市に計画されていた新月ダム(大川)は、カキ養殖を生業とする漁業関係者の反対によってダム計画自体が中止されるに至った。

近年では公共事業見直しの風潮の中、長野県田中康夫知事(当時)による「脱ダム宣言」を始め川辺川ダム反対運動等、ダム建設反対活動の勢いは衰えていない。特に徳島県那賀郡木頭村(現・那賀町)に建設省四国地方建設局が計画していた「細川内ダム」(那賀川)は、当時の木頭村長・藤田恵を中心に村全体がダム建設反対運動を展開。20年以上掛けて国・県と対峙した結果1996年(平成7年)に事業計画を事実上中止に追い込んだ(正式な事業中止は2000年)。これを契機に全国のダム事業が相次いで中止となるなど(中止したダム事業参照)、影響力は大きかった。こうしたダム反対運動が日本の河川行政の不備を指摘したのは事実であり、そうした流れは漫然とした公共事業継続による歳出超過を削減するという観点で小泉純一郎内閣の『骨太の方針』における公共事業総点検へと繋がり、100ヶ所以上のダム事業凍結・中止へと結実した。

また「尾瀬原ダム反対運動」が契機となった日本の自然保護運動と公共事業の関わりは環境影響評価法の制定に結実し、環境保護の観点において大規模公共事業と自然保護の整合性を図る重要な法律となって、“公共事業=環境破壊”の構図を修正する転機となった。こうした観点から大規模公共事業の中止が相次いでなされ「宍道湖中海干拓事業」の中止や「千歳川放水路建設事業」の中止等に結実した。ダム建設も同様で現在は事業者・水源地域・受益者を含む下流関係者の三者による、治水・利水・産業・環境・補償等の総合的な合意が得られることが建設への必須事項となった。住民の意向を軽視し開発最優先だった戦後~高度経済成長期から比べれば、「住民参加型」という意味では相当改善された。反面、この事がダム建設の長期化を招いたのも事実であるが(日本の長期化ダム事業参照)、事業長期化による負担増に耐えられなくなった地方自治体が計画が遅々として進まないダム事業の参加を離脱する動きが首都圏・京阪神において拡大した。これにより戸倉ダム(片品川)等のダム建設が中止に追い込まれているが、過剰な事業費支出による財政圧迫と下流住民の負担増を考慮した場合、漫然とした歳出抑制を行う観点で改善した事象といえる。

[編集] 米国のダム事情

日本のダム反対派に多大な影響を与えたものとして、当時米国内務省開拓局長官だったピアーズの「アメリカにおいて、ダム建設の時代は終わった」という発言があった。ダム開発の終焉を推奨する画期的発言として注目されたが、実際の米国のダム事情はどうなのか。

民間団体「アメリカン・リバース」の調査によれば、米国では1999年までに467基のダムが撤去されている。だが、実際においてその9割は堤高15m以下の「堰」である。用途も「利水」というよりは、特に観光用としての目的を有するものがほとんどであり、管理主体も民間企業中心である。撤去対象ダムの約8割が1800年代~1940年代に建設された施設で施設の老朽化・使用不能・維持費高騰が撤去の主な理由となっている。こうしたダム撤去によってサケ等の遡上に有効であったという例がある一方、絶滅危惧種の魚類個体数が激減したとの副作用もあった。このため米国のダム撤去推進派も「ダムはやたらに撤去すべきものではない」との認識で、撤去でどのような影響が発生するのか慎重に検討しなければならないと主張している。

一方、米国政府のダム建設に対する考え方であるが、当の内務省開拓局は「ダムを造るかと問われれば『造る』と答える」とダム建設には肯定的である。米国でなぜダム建設がセーブされたかであるが、一つは米国全ダムの総貯水量が6,148億立方メートル(日本の30倍)に当たり水資源開発の緊急性を帯びていないこと、整備水準が高い為補修で事足りていること、更に河川勾配が緩やかなため治水の問題が低いこと、火力発電が主力であること、などが挙げられる。事実、米国では全米6,786基のダムにおいて改修事業が行われており、撤去ダムの約15倍の数に当たる。では、ダム建設が全く新規で行われていないかと言えばそうではなく、国際大ダム会議(略称:ICOLD)が1999年に行った調査によれば水不足が頻繁に起こるカリフォルニア州においては現在42基のダムが建設中である。

日本ではこの影響を受けダム撤去論が台頭し、現在熊本県では荒瀬ダム球磨川)の撤去方針が固まり、高知県では家地川ダム(四万十川)の撤去要望が高まっている。ダム撤去による河川再生・漁業環境の良化がその目的であるが、住民の中でも賛否分かれている。また、日本でも従来のコンクリートで固めた護岸工事を反省し自然に近い形での河川再生事業を国土交通省や各地方自治体が始めているが、この中で魚類遡上促進のために固定堰や床固工の撤去を実施、さらに「自然化工法」として護岸工事を出来うる限り自然の姿に近い形で行う動きが起こっている(例・北上大堰)。アメリカと同様のことは日本でも行われているが、主に行われているのは国土交通省の河川工事が中心であり、ノウハウの不足や事業費が掛かる事もあって財政の厳しい地方自治体では今なお従来の河川事業・護岸工事が行われているケースが多く、今後の課題となっている。

[編集] 反対運動の問題点

[編集] 極端な反対運動

従来の反対運動とは地域活性化のために事業者から有利な補償条件を引き出すことを最終目的にしており、「蜂の巣城紛争」の室原も反対運動と並行して地域活性化策を建設省(当時)と折衝していた。他の水没予定地住民も事業者と折衝を重ね妥結に至るが、ダム建設の必要性は痛感しており断腸の思いを抱きながら「公共の福祉」に殉じたのである。故に、生活基盤に直結する流域住民の反対運動は、真剣勝負そのものである。

ところが、近年では大手新聞社やテレビ局を中心に「ダム=公共事業=税金の無駄遣い」というやや短絡的とも言える意見で、または蜂の巣城紛争後半期・長良川河口堰反対運動のように強硬的なダム反対運動を展開している風潮がある。えてしてダム撤去に固執し他者の意見を徹底的に排除する観念的な独善論に陥る傾向があるといわれる。こうした主張は、2003年(平成15年)の「世界水フォーラム」において日本における反ダム運動の旗手である天野礼子が「脱ダム」についての講演を行った際に会場から「地域事情を勘案しない独善的な論拠」と建設推進の立場に立つ途上国の行政担当者らを中心に激しい反発を浴びたように、地元の推進派住民の理解を得られていない。

また、こうした一部の反対派は地元反対派と異なり地元に根ざした治水・利水代替案を示さないか、あるいは示したとしても論拠となる資料の不備が多いという指摘がある。さらに意見が論破されると感情論で対抗し収拾が付かなくなる例がある(熊本県川辺川ダム問題公開討論会など)。ちなみに国土交通省等は川辺川ダム・足羽川ダム城原川ダム・サンルダム等でダム代替案を提出し、ホームページで公開する等広く意見を求めることが多くなってきた。治水ダム建設を中止に追い込み、その後甚大な水害が発生した場合反対派は果たして責任を担保しうるのか、語られることがないのも問題点の一つと言える。特に多くの反対派が問題にしているのは「水余り」と税支出にまつわる利水に関する問題であり(八ッ場ダム・南摩ダム・細川内ダムなど)、治水に対して明確な対案を唱えている反対派は最上小国川ダムや川辺川ダム、サンルダムなどに限られており余り多くはない。

この他、ダム反対運動を主宰している市民運動の一部に日本共産党が直接的・間接的に関与しているということも明らかになっている。日本共産党も「無駄な公共事業ストップ」という政策を掲げダム事業には全く反対している。行政のチェック機能としての日本共産党のポジションは政権与党である自由民主党も評価しているが、これにより反対運動が他者の意見を受け付けない硬直化した運動になっているのではないかという指摘も一部には存在する。蜂の巣城紛争後半期には全くの第三者であるはずの労働組合員が大挙して蜂の巣城に入り、左翼的反政府運動を展開して室原ら当事者を困惑させたということもある。

[編集] 地元との意識乖離

[編集] 切望する地元と反対派の対立

反対運動の今一つの問題点は、反対運動の過熱化に伴い肝心な水没移転住民・流域住民の意識が取り残されて行くことである。反対運動が長期化しダム工事が凍結している間は補償工事・事業も進展することができないため、かえって住民を苦しめることになる。また、水害に苦しむ流域住民の悲願であったダム事業に対して、反対住民と共に、地元と全く関わりがなく、かつダム問題の専門家でもないメンバーが反対派に加わり、時には反対派の主導的立場となって、結果的にダム事業が中止に追い込まれるなど、問題を必要以上に複雑化させる弊害が発生している。

代表的な例が淀川で見られる。2005年(平成17年)「淀川水系流域委員会」は淀川水系に計画されている5つのダム事業(大戸川ダム丹生ダム余野川ダム川上ダム天ヶ瀬ダム再開発)の中止を勧告した。水需要の減少がその中止理由であるが治水の有効性に関しては具体的に触れられていない。これに対し大戸川ダムや丹生ダム、川上ダム建設で移転した住民が「我らの苦労が報われなくなる」と猛反発、水害に悩まされた流域の一部住民もダム建設促進を要望する等答申と地元意識の乖離が鮮明になった。結果的に大戸川ダム・余野川ダムは計画中止を発表したもののそれも流動的となり、丹生ダム・川上ダムは治水中心に目的を再検討する事となった。ただ、ダム反対派の住民らは治水目的のダム建設にも反対する構えを見せており、問題を難しくしている。

同様のことは平取ダム(額平川)や川辺川ダム、さらには長野県の田中康夫知事(当時)に因る「脱ダム宣言」で中止となった浅川ダムでも見られた。特に浅川ダムについては流域住民のコンセンサスを得ぬまま中止してしまった経緯もあり、長野市や流域住民から批判の声が上がっている。一方で、川辺川ダム建設に関連した利水事業をめぐる訴訟において、住民の利水計画同意書や反対意見がダム事業を進めたいとする国側に改ざんされていたことが裁判の場で指摘されており、ダムを建設するにしても取りやめるにしても「地元住民の意見」を集約する難しさを表している。

[編集] 上流域と下流域の意見相違

また、流域住民の意識と一口に言っても、上流域と下流域で大きく異なることも多い。下流域の住民にとっては、川沿い以外の地域であってもダム建設の影響で水源地整備費用の上乗せという形で水道料金が値上げされることも多く、安定的な水道供給の利便性や治水安全度の向上との比較で考えると、常に諸手を挙げて歓迎できるものとは限らない。他方、治水面や(農業用水をはじめとする)利水面で直接的な恩恵が多い上流域ではダム事業が積極的に推進されることも多く、上流域と下流域で一つのダム事業に対して正反対の意見が見られることも例外的ではない。

代表的な例として、2006年(平成18年)の滋賀県知事選挙で当選した嘉田由紀子が淀川水系ダムの建設計画凍結を訴えた際、下流受益地にあたる山田啓二京都府知事や、桝本頼兼京都市長はこれに理解を示し、凍結に対し賛成の意思を送っている。柿本善也奈良県知事も淀川水系のダム凍結には肯定的である。財政が苦しい下流自治体にとっては、自らが恩恵を受けるダムの直接的効果と支出するダム建設費用のバランスに苦慮している。一方ダム建設を予定している河川を流域に持つ上流受益地の大津市彦根市等の県内主要自治体や、丹生ダム建設を切望していた高時川流域住民が反発し、当初の予定通りの計画遂行を求めた。知事は当初財政的理由からもダム建設はムダとの答弁を議会で行ったが、平成18年7月豪雨による長野県の被害もあってか多少柔軟姿勢に転じ、『他に有効な治水対策が無い場合はダム建設もあり得る』として地元との対話を重視する姿勢を見せた。知事は『治水対策の瑕疵(かし)によって1人でも死者が出たら知事を辞任する』とも発言しており、治水に対する並々ならぬ覚悟を示している。

同様の事は愛媛県における山鳥坂ダム(河辺川)でも見られ、2004年(平成16年)に中予分水事業が中止となり多目的ダムから治水専用ダムに計画が縮小されたが、水没住民を含む上流域の住民はダム建設を促進し、下流の大洲市の市民団体は「一坪トラスト運動」を駆使してダム建設反対を訴えている。また、佐賀県城原川ダム(城原川)では賛成派の下流域住民と反対派の水没住民・一部の流域住民が鋭く対立。署名運動などを行い意見を訴え、遂には合併で誕生した神埼市市長選挙の争点にもなった。さらに吉野川第十堰可動堰化問題では、下流の徳島市による住民投票が一方的として、上流の板野町藍住町などが反発をしている。

このようにダム建設においては地元内の意見調整のみならず水没地域・上流受益地と下流受益地、川沿いと高台の住民による意見の整合を図るのが年々難しくなっており、こうした事もダム事業長期化の一端を担っている。だが、『流域住民の許可がなければ、ダムは造れない』という不文律が確固たるものとなっている現在、意見の集約は賛否いずれにしても欠かせないものとなっている。

[編集] ダム報道の問題点

ダム事業に対して日本で批判一色となってしまった背景にはマスコミの問題点も指摘されている。本来行政の不備を広く喧伝するチェック機能を持つはずの新聞・メディアも、こうした脱ダム風潮に無条件に加担し、ダムについての中立的視点を報道せず反対派に好意的・偏向的に報道したことにより(朝日新聞による長良川河口堰公開討論やダム堆砂報道、北海道新聞による当別ダム反対派報道など)“ダム反対派=善・ダム推進派=悪”の偏狭な二元論が日本で定着し、公正な議論が果たし得なくなったとする指摘もある。一方福井豪雨や福島・新潟豪雨を始めダムの洪水調節機能によって浸水被害が防げたという報道はほとんどされておらず、こうしたことがダムに対する一般国民の認識を偏向させる一因であるとの批判も多い。

他方、反対派から見たダム報道の問題点からすれば、生活面への影響ばかりがクローズアップされ、ダム建設の弊害として、土砂供給の減少に伴う海岸の侵食被害があることや、生態系への影響があることについては報道ではほとんど触れられていない現状がある点に不満を持つ者も多い。川辺川ダム訴訟や永源寺第二ダム訴訟、八ッ場ダムをめぐる対応のように、行政側の姿勢にも問題点があることは否定できないが、多角的な情報をほとんど加味せず、単なる反行政としての視点に立った一面的な報道がまかり通っている点も同様に否定できない。

求められるのは不十分・不公正な情報を基にして活動家等が混在して論議する問題の方向のベクトルが歪むことではなく、賛成派・反対派双方の意見・論拠を公平に報道し、流域の利害得失を多角的に分析・検討することである。そのためにはあらゆる機関で意思決定の元となる情報を公開し、開かれた形での議論を進める必要性がある。従って最終的にダム計画の存廃に関しては、事業主体と水源地域住民と下流関係者が、開かれた情報や会議を基にした上での高度な政治的判断を行うことが必要となる。こうした中で長野県の対応と滋賀県の対応は、同じ脱ダムの姿勢を取りながら相反した対応となっている。

事業者は根拠のはっきりしたダムの有用性を明確に関係者に伝達することが重要であるが、川辺川ダムにおける住民の意向調査改ざんやサンルダム建設の是非を討議する「天塩川流域委員会」の機能不全が反対派から指摘される等、不十分かつ問題な面も多い。他方長野県のように「脱ダム」後の河川開発ビジョンがいまだ不透明であったり、反対派の河川開発に対するビジョンが広く一般に見えていない上、ダム事業を中止した河川で治水・利水上の問題が発生しても沈黙し責任を逃れる現状がある。あくまでも流域の利益に叶うように、あらゆる関係者によって結論を導けるようにすることが重要であるのだが、現状はまだまだ不十分と言わざるを得ない。

[編集] 今後のダム建設プロセスの在り方

河川開発、特に治水事業に関しては高速道路整備や新幹線整備とは異なり、突発的な災害に対し住民の生命・財産が保護できるか問われる公共事業であり、他とは性質を異にする。ゆえに拙速な事業中止はかえって住民の命に係わる可能性もありうる。だがダムオンリーで拙速に河川事業を進めるのは「蜂の巣城紛争」の反省を全く生かしてないことになる。従って始めから「脱ダムありき」・「ダムありき」ではなく、山林の土壌流出防止という観点での「治山」・海岸の侵食防止という観点での「海岸保全」そして治水という三位一体かつ総合的な視点から、最小限の犠牲で最大限の効果が期待できる事業を選択しなければならない。

ダムと環境との対策では今後河川整備と環境整備のコラボレーションが必須となる。河口付近の海岸保全の観点や、その他土壌に与える影響では堆砂対策と海岸侵食対策が最も重要となる。両者は連動しており、現在深刻な砂浜の後退が進行している段階では速やかな対策が求められる。可能な限り環境への影響を抑えながら自然に近い流砂サイクルを確立することや、植林を始めとした森林整備による山腹崩壊防止等の治山事業とも連携することも重要である。漁業の観点からは魚道による魚類の遡上モニタリングや濁水対策、ダム湖における漁場整備による流域漁業活性化も視野に入れる必要があるし、その他生態系に対する影響も環境影響評価法に準じて迅速かつ正確に調査することが必要となる。

ただし環境対策を重視する余り災害対策を後手にまわすことは得策ではない。国土交通省が発表した2004年における水害被害額は全国で総額2兆円を超える最悪の損害となっており、特に多目的ダム建設が行われていない、若しくは中止された河川に被害が集中しているという点を踏まえ、ダム建設の是非を含めた河川の整備計画策定は、河川流域全体の利益、あるいは河川環境の観点から捉えていく必要性がある。その上近年では地球温暖化の影響による短期集中型の記録的な集中豪雨が頻発していることから、従来の河川整備計画の根本的な見直しも今後必要になるケースも出てくる。いずれにおいても河川整備は上流域だけ、あるいは下流域だけの視点が反映されるべきではないのは当然のことであり、さらには気候変動と降水量の経年的変化の把握とそれに随伴する計画高水流量(計画限界の洪水流量)の見直しが治水事業においては不可欠となる。利水に関しては人口動態や水道・電力消費量の推移等を細やかに分析し、本当に地元が求める利水事業であるかを再検討しなければならない。さらに補償対策に関してはインフラ整備だけではないより木目細かい水没地域への対策が求められていく。

その点で、流域にとって最適な治水・利水対策を図る必要性が求められる。ダム以外の治水対策としては堤防建設や強化、浚渫、遊水池放水路の建設、緑のダム構想といった案があるが、単独またはダムを含めた複数のコンビネーション等を、コストパフォーマンスに加え流域の特性・人口動態・過去の水害状況等を分析し、客観的・多角的な視点に立っての検討が必要である。その上でダム事業が妥当であるならば万難を排して事業を進めることが不可欠である。反対にダム建設が不要であれば必要な措置を講じた上で建設を断念すればよい。最も危険なのは、推進にしても反対にしても「一面的である」ということである。ダム推進派とダム反対派の意見対立は流域委員会のような公的なものから2ちゃんねるに至るまで、堂々巡りの主観的な議論になる傾向があり出口が見えにくい。だが、不毛な議論は流域の真の利益には何ら寄与しない。

河川管理は「危機管理」でもあるという視点も踏まえて、何を最優先に守るべきなのか行政は最終的には冷静な判断が求められる。

[編集] 関連項目

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