アスペルガー症候群
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アスペルガー症候群(あすぺるがーしょうこうぐん:AS)は発達障害の一種であり、一般的には「知的障害がない自閉症」とされている。精神医学において頻用されるアメリカ精神医学会の診断基準 (DSM-IV-TR) ではアスペルガー障害と呼ぶ。
対人関係の障害や、他者の気持ちの推測力、すなわち心の理論の障害が特徴とされる。特定の分野への強いこだわりや、運動機能の軽度な障害も見られる。しかし、カナータイプ(低機能)自閉症に見られるような言語障害、知的障害は比較的少ない。
1944年、オーストリアの小児科医ハンス・アスペルガーによって初めて報告されたが、第二次世界大戦のため、その論文は戦勝国側では注目されていなかった。1981年、イギリスの医師ローナ・ウィングがアスペルガーの発見を紹介することにより、1990年代になり世界中で徐々に知られるようになった。しかし、日本ではドイツ精神医学の影響が強かったことから、ローナ・ウィングの紹介以前に知られていた。
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[編集] 概要
アスペルガー症候群の定義や、アスペルガーと高機能自閉症は同じものかどうかについては諸説あるが、一般的には高機能自閉症(知的障害のない自閉症)と同じものとされる(アスペルガーは知的障害の有無を問わず、言語障害のない自閉症を指すという人もいる)。
一般的には自閉症の軽度例と考えられているが、自閉傾向が強い場合は社会生活での対人関係に大きな問題が起きるため、必ずしも知的障害がないから問題も軽度であるとは限らない。ある研究者によると、むしろ知能が高い方が問題が起きやすいともいう。日本では従来高機能自閉症への対応が進んでいなかったが、2005年4月1日施行の発達障害者支援法によりアスペルガーと高機能自閉症に対する行政の認知は高まった。しかし、依然社会的認知は低く、カナータイプより対人関係での挫折などが生じやすい環境は変わっていない。
注意欠陥・多動性障害(AD/HD)や学習障害(LD)などを併発している場合もある。こういった合併障害があることと、「アスペルガー」や「自閉症」という言葉には偏見があることなどが理由で、まとめて「広汎性発達障害(PDD)」や「軽度発達障害」と呼ぶ医師も増えている。なお自閉症スペクトラムの考え方では、健常者とカナータイプ自閉症の中間的な存在とされる。
[編集] 特徴
自閉症スペクトラムに分類されている他の状態同様、アスペルガー症候群も性別との相関関係があり、全体のおよそ75%が男性である。 ただし症状が現れずに潜在化(治癒ではない)する場合も勘案せねばならず、この数値にはある程度の疑問も残る。
[編集] コミュニケーション上の障害
非自閉症の人(neurotypical(NT )典型的な精神の人)は、他の人の精神状態に対して比較的洗練された感覚を持っている。 多くの人は、他者の仕草や雰囲気から多くの情報を集め、その人の感情や認知の状態を読み取れる。しかし自閉症の人はこの能力が欠けており、古典的な低機能自閉症の人と全く同様に心を読めない可能性もある(心の理論)。
そのような、仕草や状況、雰囲気から気持ちを読み取れない人は、他人が微笑むことを見ることはできても、それが意味していることが分からない。また最悪の場合、表情やボディランゲージなど、その他あらゆる人間間のコミュニケーションにおけるニュアンスを理解することができない。 多くの場合、彼等は行間を読むことが苦手あるいは不可能である。つまり、人が口に出して言葉で言わなければ、意図していることが何なのかを理解できない。 しかし、これはスペクトラム状(連続体)の障害である。表情や他人の意図を読み取ることに不自由がないアスペルガーの人もいる。 彼等はしばしばアイコンタクトが困難である。ほとんどアイコンタクトをせず、それがドギマギするものだと感じる場合が多い。一方、他人にとって不快に感じるくらいに、じっとその人の目を見つめてしまうようなタイプもいる。相手からのメッセージ(アイコンタクトなど)が何を示すのか、彼等なりに必死に理解しようと努力するのだが、この障害のために困難で、挫折してしまうパターンが多い。
アスペルガーの人は、多くの健常者と同様に、またはそれ以上に強く感情の反応をするが、何にたいして反応するかは常に違う。 彼等に欠けているもの、発達が遅れているものは、「他人の情緒を理解すること」であり、自分の感情の状態をボディランゲージや表情のニュアンス等で他人に伝えることである。多くのアスペルガーの人は、彼等の周りの世界から、期せずして乖離した感覚を持っていることを報告している。
たとえば教師が、アスペルガーの子供に「犬があなたの宿題を食べたの?」と尋ねたら、その子はその表現が理解できなければ押し黙っており、先生に自分は犬を飼っておらず、普通犬は紙を食べないことを説明する必要があるのかどうか考えようとしている。つまり先生が、表情や声のトーンから暗に意味している事を理解できない。 先生はその子が傲慢で、悪意に満ち、反抗的であると考え、フラストレーション を感じながら歩き去っていくかもしれない。その子はその場でフラストレーションと何かがおかしいと感じながら、そこへ黙って立ち尽くすことだろう。
しかし彼等は、対人関係に障害があるものの、人なつっこく接してくる場合もある。 例えば友達募集のサイトでメールを交換し、その相手とメールのみでやりとりしていく。しかし、彼等は話題が一つのことに固執しやすい。またメールが少しでも返ってこなかったりすると「どうしたの?」「僕のことが嫌い?」などと繰り返し問いただすことがある。このようなことから相手に嫌悪感を与え、メールの返信が来なくなり、一人で落ち込んでしまうパターンが多いとみられる。 つまり、彼等は返す言葉を瞬時に判断できない、と考えられる。日常の会話で相手に面と向かって話していると、「自分は障害者なんだ」という意識が心の奥深くにあり、勇気を持って話し出す事が難しい。また実際に上手く人と話せないため、余計に殻に閉じこもってしまいがちになる。メールであれば瞬時に返すことが出来ない(会話内容をじっくり考える必要がある)ため、メールでのやりとりに集中する。そのため「軽い人」と周りから思われ、友達が離れていってしまう、という構図なのかもしれない。
[編集] 限定された興味、関心
アスペルガー症候群は興味の対象に対する、きわめて強い、偏執的ともいえる水準での集中を伴うことがある。 例えば、1950年代のプロレスや、アフリカ独裁政権の国歌、マッチ棒で模型をつくることなどが興味を抱く対象としてあげられる。輸送手段(鉄道・自動車など)、コンピューター、数学、天文学、地理、恐竜等は特によく興味の対象となる。なお、これらの対象への興味は、一般的な子供も持つものである。アスペルガー児の興味との違いは、その異常なまでの強さである。アスペルガー児は興味対象に関する大量の情報を記憶することがある。
また一般的に、順序だったものはアスペルガーの人を魅了する。これらへの興味が物質的あるいは社会的に有用な仕事と結びついた場合、アスペルガーの人は実り豊かな人生を送る可能性がある。 例えば、軍艦に取りつかれた子供は大きくなって成功した造船家になるかもしれない。
彼らの関心は生涯にわたることもあるが、予測不可能な間隔で変わる場合もある。 どちらの場合でも、ある時点では通常1~2個の対象に強い関心を持っている。 これらの興味を追求する過程で、彼等はしばしば非常に洗練された知性、ほとんど偏執狂とも言える集中力、一見些細に見える事実に対する膨大な(時に、写真を見ているかのような詳細さでの)記憶力などを示す。 ハンス・アスペルガーは彼の幼い患者を小さな教授と呼んでいた。なぜならその13歳の患者は、自分の興味を持つ分野に、網羅的かつ微細に入るまでの、大学教授のような知識を持っていたからである。
臨床家の中には、アスペルガーの人がこれらの特徴を有することに全面的には賛成しないものもいる。たとえばWing と Gillberg はアスペルガーの人が持つ知識はしばしば理解に根付いた知識よりも表層だけの知識の方が多い場合がある、と主張している。しかし、このような限定はGillbergの診断基準を用いる場合であっても診断とは無関係である。
アスペルガーの児童および成人は自分の興味のない分野に対しての忍耐力が弱い場合が多い。 学生時代、「とても優秀な劣等生」と認識された人も多い。これは、自分の興味のある分野に関しては他人に比べて遙かに優秀であることが誰の目にも明らかなのに、毎日の宿題にはやる気を見せないからである。(時に興味のある分野であってもやる気を見せない、という意見もあるが、それは他人が同じ分野だと思うものが本人にとっては異なる分野だからだと思われる。たとえば、数学に興味があるが答えが巻末に載っている受験数学を自分で解くことには興味が持てない、日本語の旧字体に興味はあるが国語の擬古文の読解問題には興味が持てない、など。)一方、反対に学業において他人に勝つことに興味を持ったために優秀な成績を取る人もいる。これは診断の困難さを増す。 深刻な場合には、社交能力上の問題と自分の分野に対する強い関心の組み合わせが、 初対面の人に挨拶をする際に、社会的に受け入れられている方法で自己紹介をするのではなく、自分の関心のある分野に関して一人で長々と話し続けるような行動をとる場合もある。しかし多くの成人は、忍耐力のなさと動機の欠如を克服し、新しい活動や新しい人に会うことに対する耐性を発達させている。
アスペルガーの人は高い知能と社交能力の低さを併せ持つと考える人もいる。
このことは子供時代や、大人になっても多くの問題をもたらす。 アスペルガーの子供はしばしば学校でのいじめの対象になりやすい。なぜなら彼等独特の振るまい、言葉使い、興味対象、そして彼等の非言語的メッセージを受け取る能力の低さを持つからである。彼等に対し、嫌悪感を持つ子供が多いのもこのことが要因だろう。このため教育の場である学校において、今後はサポート体制の確立や自立の支援、他の子供への理解を深めさせる、といった総合的な支援策が必要になるだろう。
「アスペルガー」という一つのカテゴリーであっても、人によって障害の度合いは千差万別である。例えば学校の友達と上手く話せたり、話を上手くまとめられるなど、至って軽度な場合もある。また、上手く話せず、それでもよい友達に巡り会えたから必死で耐えている、というように、自閉度が中度~重度なこともある。 この障害は「自閉症」などとは違い、一見「健常者」に見えるために、周りからのサポートが遅れがちになったりすることが問題となっている。
アスペルガーの人は他の様々な感覚、発達、あるいは生理的異常を示すこともある。その子供時代に細かな運動能力に遅れをみせることが多い。特徴的なゆらゆら歩きや小刻みな歩き方をし、腕を不自然に振りながら歩くかもしれない。手をぶらぶら振るなど(常同行動)、衝動的な指、手、腕の動きもしばしば見られる。
アスペルガーの子供は感覚的に多くの負荷がかかっていることがある。騒音、強い匂いに敏感だったり、あるいは接触されることを嫌ったりする。例えば頭を触られたり、髪をいじられるのを嫌う子もいる。この問題は、例えば、教室の騒音が彼等に耐えられないものである場合等、子供が学校での問題をさらに複雑にすることもある。また、人に自分の主張を否定されることを強く嫌う場合もある。
別の行動の特徴として、やまびこのように、言葉やその一部を繰り返す反響言語(エコラリア)と呼ばれる症状を示す場合がある。
[編集] アスペルガー症候群と社会
いくつかの少年事件で、犯人の少年がアスペルガー症候群だと報道されたが、それが原因で犯罪を引き起こすことはまずない。騙されて犯罪に手を貸した場合はあるが、その確率は健常者とおなじぐらいである。むしろアスペルガーの人は、その障害ゆえに法律などの規則を厳格に守ろうとする性格であることも多い。
いわゆる「技術者タイプ」の人にはアスペルガーが多いという説もあり、プログラマーやNASA職員などにも多いと言われている。
2001年5月にソニーが「アスペルガー 死の団欒」と名づけて発売する予定だった外国映画(原題は「Absence of the Good」、1999年のアメリカのテレビ映画)が、抗議を受けて発売中止となった。原題にはアスペルガーという単語は使われておらず(直訳しても「良心の不在」程度にしかならない)、登場人物にもアスペルガー症候群らしい人物は存在しないと考えられる。2004年5月現在、改題されて発売されたという情報は見当たらない。
[編集] アスペルガー症候群である(だった)とされる著名人
- アルバート・アインシュタイン(物理学者)
- 石原莞爾(大日本帝国陸軍軍人)
- 織田信長(戦国武将)
- レオナルド・ダ・ヴィンチ
- トーマス・エジソン(発明家)
- ガリレオ・ガリレイ(物理学者、天文学者、哲学者)
- ビル・ゲイツ(マイクロソフト会長)
- アレクサンダー・グラハム・ベル(発明家)
- 司馬凌海(医学者)
- ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(作曲家)
- バーノン・スミス(経済学者)
- 南方熊楠(博物学者)
- 野口英世(細菌学者)
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- Medical Encyclopedia (英語)
- Mayo clinic.com (英語)
- What's? アスペルガー症候群
- アスペルガー症候群を知っていますか?(社団法人日本自閉症協会 東京都支部)