SH-60 シーホーク
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![SH-60F シーホーク。下部に増槽を取り付けている。](../../../upload/shared/thumb/c/ca/Seahawk.750pix.jpg/285px-Seahawk.750pix.jpg)
SH-60 シーホーク (SH-60 Seahawk、Seahawkとはトウゾクカモメの意) は、シコルスキー社製、アメリカ海軍などで使用されている対潜ヘリコプターである。
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[編集] 概要
SH-60はLAMPS III (Light Airborne Multi-Purpose System) として、SH-2の後継機として開発された。シコルスキー社のH-60シリーズの海軍型であり、陸軍向けのUH-60とは電子設備や兵装、機体構造など、相違点が多い。狭い格納庫に収納するため、テイルブームとメインローターは電動による折りたたみが可能で、後部ランディングギアの位置も変更されている。また、悪天候の中で着艦するためのRASTシステムが装備されている。対潜機材は対水上レーダー、MAD (磁気探知装置) 、ソナー、ソノブイなどを装備している。Mk-50魚雷、AGM-114ヘルファイア、AGM-119ペンギン対艦ミサイルなどの兵装を搭載し、対潜哨戒、対水上捜索に従事する。
LAMPSとは、艦載ヘリコプター多目的運用構想のことである。巡洋艦、駆逐艦、フリゲートの艦載ヘリを有機的に運用することにより、その機動性、索敵能力を母艦のために最大限に発揮することを目的としている。まず艦載ヘリの任務の第一義的なものは、対潜水艦戦である。艦艇の曳航式ソーナーTASSにより、第1音響収束帯 (1CZ、約30海里) または第2音響収束帯 (2CZ、約60海里) で探知された潜水艦らしい音響信号に対し、ヘリ甲板上にて15分待機中のLAMPS機がアラート発艦し、目標に対しレーダー、赤外線探知機、ソノブイ、磁気探知機、ディッピングソーナー、目視をもって目標を識別し、最終的に撃滅することを目的としている。さらに救難輸送、電子支援戦、空中早期警戒が追加任務として付与されている。
生存性にも配慮されており、油圧装置故障時の人力操舵が可能であるほか、燃料タンク下面及びドライブシャフトは12.7mm機関銃弾に耐えることができる。また、各動力伝達ギアには、故障の原因となる金屑の焼尽機能があり、潤滑油を完全喪失後も15~30分間飛行可能である。テールローターが破壊された場合、バーチカルフィンとキャンバ付きフェアリング、スタビレーターの空力的影響により、一定速度での飛行が可能であるが、ホバリングはできなくなる。コンピューターシステムにも同様の配慮がなされており、最重要である通信航法機能は、主電源が断絶されるまで使用可能であるほか、メインコンピューターシステムは、MIL-STD-1553多重データバスにより、レーダー系統、ソナー系統、火器管制系統とおのおの分離しており、メインコンピューターの機能が破壊された場合も、カジュアリティー(戦傷)処理機能により重要な一部の機能の確保がなされる。不時着陸時はクラッシュワージネス構造と座席による衝撃軽減機能が働くほか、着水時には緊急浮袋を展開し、機内燃料タンクが予備浮力として働くことにより、水没を防ぐ。
[編集] 米海軍での運用
アメリカ海軍が使用するシーホークにはSH-60BとSH-60Fの二種類がある。SH-60Bは対水上レーダー、ソノブイ、MADを装備した型で水上戦闘艦 (巡洋艦、駆逐艦、フリゲート) 搭載型である。SH-60FはSH-60Bから対水上レーダー、MAD、ソノブイなどの機材を撤去し、ディッピングソナー (吊り下げ式ソナー) などを搭載した空母搭載型である。主要任務は、対潜水艦戦、対水上戦、夜間哨戒索敵、水上打撃戦支援、早期警戒、電子支援戦、戦闘救難、輸送、通信中継など非常に多岐にわたる。アメリカ海軍では、現在運用中のH-60シリーズを、対潜/対水上任務に従事するMH-60Rと、捜索救難・輸送に従事するMH-60Sの2系統に整理する予定である。また沿岸地域での多用途任務に対応して、キャビン容積に余裕をもたせた、S-92シリーズの配備も計画されている。
対潜水艦戦においては、ロシア海軍原子力潜水艦アクラ級に対応できうる性能が要求されていたが、近年の海戦模様の激変により、沿岸海域での多用途任務が重視され、各装備の更新改良が加えられている。
SH-60の最大の殊勲は、1985年、オリバー・ハザード・ペリー級カーツ (FFG-38 Curts) に搭載された2機のSH-60Bが、日本近海において、ウラジオストクを母港とするソ連海軍のデルタ級原子力潜水艦を96時間に渡り継続追尾に成功したことである。これによりソ連海軍は原子力潜水艦の行動に大きく制限を受けることになった。
[編集] 海上自衛隊での運用
[編集] SH-60J
海上自衛隊では、HSS-2Bの後継として、SH-60Bの日本向け仕様であるSH-60Jを導入した。防衛庁は1985年 (昭和60年) にSH-60B 1機を研究用として購入し、また試作機2機をシコルスキーに発注した。米海軍の艦載ヘリ多目的運用構想LAMPAS IIIを参考にしつつ国内向けに開発をしたが、搭載電子機器は貿易摩擦の影響で米国が輸出を拒んだ為、国内生産またはブラックボックスでの輸入とした。電子機器のほとんどを国産化した試作機XSH-60Jの1号機は1987年 (昭和62年) 8月31日にアメリカで初飛行し、2号機までが輸入された。3号機からは三菱重工業によるライセンス生産が開始され、1991年 (平成4年) 8月から各部隊に配備され、2005年 (平成17年) までに103機が配備された。平成10年度から平成13年度にかけて製造契約された32機(艦載型の補充用である8284号機を除く)は陸上基地配備用とされ、艦載用として調達された機体とは、次の装備品を追加装備している点が異なる。
- 8271号機から (艦載型の補充用である8284号機を除く) の32機:赤外線監視装置 (FLIR)
- 8285号機からの19機:不審船対策としてミサイル警報装置 (AAR-60) 及びチャフ/フレア投射装置 (AN/ALE-47(PJ))
- 8294号機からの10機:GPS航法装置 (MAGR)
また、8271号機以降から、ソノブイ投射器及びソノブイ処理関連の装備品を取り降ろし、電子機器搭載ラックを左舷側に集中させてキャビン空間を広げた機体も数機存在する。そのうち、8285号機以降の機体は、航続距離増大のため、米海軍のSH-60Fと同様に右舷ウェポンパイロンに機外燃料タンクを1個搭載可能となっている。 SH-60Jは2009年 (平成21年) 度から減数することに伴い、2005年 (平成17年) からSH-60Kの配備が進行中である。
[編集] 装備
SH-60Jは1機種で広域哨戒用のソノブイと、位置極限のためのディッピングソナーを運用する。航法機器も充実しているため、暗夜での超低空オペレーションが実施可能である。護衛艦に搭載され、データリンクを通じて艦側戦闘システムの一部に組み込まれている、との意を込めてHS (ヘリコプターシステム) と呼称されている。主任務は、ASW (対潜戦) 、ASMD (対艦ミサイル防御) で、副次任務は、SAR (捜索救難) 、VERTREP (輸送) 、COMREL (通信中継) がある。艦載ヘリとして運用するためRAST (着艦拘束装置) が備えられ、降着装置も強化された。またHF無線機、増槽タンク、FLIR (赤外線暗視装置) 、7.62mm機関銃、旧型GPS、自機防御システム (チャフ、フレア) も追加装備されている。捜索救難用器材ついては、サーチライトとホイストと呼ばれる救難用ウィンチがあり、吊り下げ輸送用のカーゴフックも装備している。
乗員はパイロット2名とセンサーマン(兼降下救助員)と呼ばれる航空士1名で運用される。護衛艦の戦闘システムの一部であるため、CICとSH-60Jはデータリンクを通じて任務を遂行する。データリンクにはSH-60Jのレーダー画像、ソノブイ信号などを護衛艦に伝達することができ、SH-60Jのレーダー画像を護衛艦でも見ることができる。またレーダー画像の調整を護衛艦からも行なえる。護衛艦の哨戒長は、SH-60Jに捜索パターンなどの行動を指定して、自艦の索敵能力を飛躍的に向上させることができる。SH-60Jの副操縦士は、P-3Cの戦術航空士と似通った任務も担当することになり、操縦の補佐以外にも効率的な任務遂行のため、CICと連携してリコメンド (提言、進言) を機長またはCICに与える責任をもつ。
[編集] 着艦方式
狭く動揺のある護衛艦へ着艦するため、3種類の着艦方式がある。護衛艦内では着艦をデッキランディング(通称ディーラン)と呼称する。
- フリーデッキランディング
- 着艦拘束装置を使用せず、着艦後はタイダウンチェーンで艦に係止する方法。格納庫への搬出入は、機体を人力で押す。
- アンテザートランディング
- 着艦拘束装置を使用する。航空機下部の突起部(メインプローブ)を着艦拘束装置で挟み込み、機体を係止する。もっとも使用頻度の高い着艦方法。格納庫への搬出入は、着艦拘束装置を使用する。
- テザートランディング
- 着艦拘束装置を使用する。ホールダウンランディングともいう。航空機下部に護衛艦からのホールダウンケーブルを取り付け、護衛艦のウインチによって強制的に着艦させる。悪天候時の着艦方法である。着艦後は、着艦拘束装置で挟み込み、機体を係止する。格納庫への搬出入は、着艦拘束装置を使用する。
[編集] 現況と発展
多くの実任務にその威力を発揮し、能登半島沖不審船事件、漢級原子力潜水艦領海侵犯事件、台風地震水害山火事による災害派遣のほか、離島洋上における救難、患者輸送など、多用な任務に従事している。
近年重要性が高まる哨戒任務においては、GPS対応電子海図表示装置、画像伝送装置、自動船舶識別装置 (AIS)、AN/ASR-3 ソノブイ自動位置表示装置、ビデオ画像転送装置、LLLTV (低光量テレビジョン) などの追加装備が求められている。海上警備においては、今後、海上保安庁との共同作戦も想定されるが、財政難もあって海自と海保の連携の進捗は遅れている。人気のある白色塗装であるが、今後は低視認性向上のため、逐次灰色塗装に変更されつつある。
海上保安庁の運用機材 (ベル212または412) との差異により、甲板強度の不足 (ベル212原形のUH-1は、自重3t弱・最大5tと、SH-60の自重6t・最大10tよりも軽い) が想定されるため、PLH (ヘリ搭載巡視船) からの運用はできない。さらに給油装置と航空燃料の違いから海上保安庁ヘリと海上自衛隊ヘリは同じ給油ステーションでの給油もできない。また、巡視船の能力向上は棚上げになっており、巡視船と海自との暗号通信装置やデーターリンク、共通の着艦支援器材は装備されていない。
[編集] 主要性能
SH-60J 海上自衛隊
- 全長:19.8m
- 胴体幅:4.4m
- 全高:5.4m
- エンジン:T-700-IHI-401C×2 (1800 SHP×2)
- 使用燃料 JP-5
- 最高速力:149kt
- 実用上昇限度:5790m
- 最大飛行時間:約4時間
- 最大飛行距離:約584km
- 最大離陸重量:9.9t
- 最大乗員数:8名
[編集] 主要装備品
- 戦術情報処理表示装置
- 通信器材
- 航法器材
- 哨戒用器材
- 救難用器材
- その他
[編集] SH-60K
詳細はSH-60K (航空機)を参照
SH-60Jの後継として三菱重工業で開発された機体。2001年 (平成13年) 初飛行。2005年 (平成17年) 度より配備が開始された。
[編集] 配備基地
- 館山航空基地:第101飛行隊、第121飛行隊、第123飛行隊
- 舞鶴航空基地:舞鶴航空分遣隊
- 大村航空基地:第122飛行隊、第124飛行隊、大村航空隊
- 大湊航空基地:大湊航空隊
- 小松島航空基地:小松島航空隊
- 鹿屋航空基地:第211教育航空隊
- 厚木航空基地:第4航空群 - 第513飛行隊
[編集] 派生型
![SH-60FからM240機関銃を射撃する兵士](../../../upload/shared/thumb/c/c6/030909-N-0905V-056_M240.jpg/285px-030909-N-0905V-056_M240.jpg)
- SH-60B - 米海軍採用
- SH-60F - 米海軍の空母搭載型
- SH-60J - 日本向け (上記参照)
- SH-60K - 日本の自主開発 (上記参照)
- MH-60S - HH-60Hによって担われてきた捜索救難・輸送任務を継承する新機種
- MH-60R - SH-60BとSH-60Fの能力を統合した海軍の後継機
[編集] 採用国
ほか
[編集] 小説・映画への登場例
- 『亡国のイージス』
- 『Twelve Y. O.』
- 『ゴジラ×メカゴジラ』
- 『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』 - 防衛海軍のSH-60Bが登場。
- 『ガメラ2 レギオン襲来』 - 実機のSH-60J日本映画初登場。
- 『ゴジラ (1984)』 - 海自仕様のSH-60Bが登場。
- 『ジパング』 - 「みらい」の艦載機として登場。
- この他、『沈黙の艦隊』や『WXIII 機動警察パトレイバー』等にも登場している。