紅茶
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紅茶(こうちゃ、black tea)とは、摘み取った茶の葉と芽を乾燥させ、もみ込んで完全発酵させた茶葉。もしくはそれをポットに入れ、沸騰した湯をその上に注いで抽出した飲料のこと。なお、ここでいう発酵とは微生物による発酵ではなく、茶の葉に最初から含まれている酸化酵素による酸化発酵である。
世界で最も紅茶を飲むのはイギリス人で、朝昼晩の食事だけでなく、起床時、午前午後の休憩にもお茶を楽しむ。このため、茶器、洋菓子なども発達し、洗練された。なお紅茶の文化は18世紀にアイルランドに伝わり、現在国民一人当たりの消費量ではアイルランドがイギリスを抜いて世界一となっている。
紅茶の語源はその抽出液の水色(すいしょく)から、また、black teaはその茶葉の色に由来する。茶およびteaの語源は茶の項参照。
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[編集] 紅茶の種類
紅茶は伝統的に中国で栽培されていた低木の茶樹(中国種)の葉から作られていたが、1823年にインドのアッサム地方で高木の別種の茶樹(アッサム種)が発見され、以後インドやスリランカなどでは後者の栽培が盛んになった。ただし、ダージリン等中国種の栽培も各地で行われており、また両者の交配も進んでいるため、産地のみでいずれの種類かを特定することはできない。また混合種を指して「クローナル種」と呼んでいる場合があるが、誤用であり、実際には継ぎ木や挿し木で増やした茶樹を指す言葉である。
紅茶に用いられるアッサム種から得られる茶葉には渋みを示す成分が非常に多いと言われている。一般に、アッサム種または混合種の方が安価であり、中国産以外で目にする紅茶の多くはこれらである。
[編集] 茶葉
紅茶の場合、産地で茶葉が分類される。特にブレンド前の茶葉(原茶と呼ぶ)をブレンドに対し、エリアティーと呼ぶことがある。
[編集] インド
一般にインドの茶葉は葉が大きく、渋味が強い傾向にある。代表的な産地としてアッサム、ダージリン、ニルギリが知られる。
- アッサム(Assam)
- インド北部産。水色は澄んだ濃い目の紅色でミルクティーに適する。甘い芳醇な香気を持ち、くせが無く、渋味も弱いがこくのある濃厚な味。
- ダージリン(Darjeeling)
- インド北部産。水色は透明度の高い琥珀色でストレートティー向き。世界最高と称される特徴的な香気(マスカットフレーバー、あるいはマスカテルと呼ばれる)と、好ましい刺激的な渋味(一般にパンジェンシーと表現される)を持つ。特に硬度の低い水を用いると良く香りが出ると言われる。ダージリンには、100以上の茶園が存在し、そのうちの約半数が毎週茶葉を競売に出しているようだが、日本にも知られた「キャッスルトン」「チャモン」「リーシュハット」「マカイバリ」などの高級茶葉は高値で落札されている。
- ニルギリ(Nilgiri)
- インド南部産。スリランカに近く、特長もスリランカのハイ・グロウンに似る。水色は濃い橙色でミルクティーや特にスパイスを用いるバリエーションティーに適する。フレッシュですっきりとした香気としっかりとした風味を持つ。
- ドアーズ(Dooard)
- インド北部産。水色は濃橙色。ミルクティー向き。強い渋みはなく、こくのある味だが、香気に劣る。
- シッキム(Sikkim)
- インド北部産。ダージリンに似るが、渋味が弱めでこくがあると言われる。
- アルナチャル・プラディッシュ(Arunachal Pradesh)
- トラバンコール(Travancore)
- テライ(Terai)
- カングラ(Kangra)
[編集] インドネシア
- スマトラ
- ジャワ
[編集] スリランカ
一般にはセイロンで知られる。ウバ、ヌワラエリヤ、ディンブラ、キャンディ、ルフナの五種をまとめて、セイロン・ファイブ・カインズと呼ぶ。
- ウバ(Uva)
- セイロン島南東部。水色は明るい鮮紅色で優れ、ティカップに注いだときに見られる、内側の縁に浮かびあがる金色の輪は、ゴールデンカップ、あるいはゴールデンリングと呼ばれている。好ましい刺激的な渋味(一般にパンジェンシーと表現される)を伴う芳醇な風味と、一般に薄荷に似た、ときに甘い花のような香気(茶葉により様々に変化する)を持つ。飲んだときメントール香を感じられるものが高品質とされる。濃い目のミルクティーに適する。ダージリン、キーマンと並ぶ三大銘茶の一つ。
- キャンディ(Kandy)
- セイロン島中央部。水色は輝きのある紅色で冷めても濁り(クリームダウンと呼ぶ)を生じにくい。バリエーションティーやアイスティーに最適。香りは控えめで、渋みが少なく、軽く柔らかだがこくのある味。
- ディンブラ(Dimbula)
- セイロン島中央部。水色は上品な橙色でアイスティーやバリエーションティーに最適。薔薇の香りに似た柔かいが強い香気を持ち、爽やかな渋味(ブリスクと表現される)を伴うが、柔らかくマイルドな風味。
- ヌワラエリヤ(Nuwara Eliya)
- セイロン島中央部。水色は淡い橙赤色。ストレートティー向き。'草いきれのする'と称されるさわやかな香気を持ち、優しく穏やかな、しかししっかりとした味。
- ルフナ(Ruhuna)
- セイロン島南部。水色は深紅色。ミルクティー向き。独特の強いスモーキーな香気を持っている。あくの重い濃厚な渋みを持つ。
- ギャル(Galle)
- ラトナピュラ(Ratnapura)
[編集] 中国
中国種の紅茶として有名なものには、祁門紅茶(キーマン・コウチャ)、正山小種(ラプサン・スーチョン)などがある。これらはインドやスリランカのものと比べて、茶葉が細かく砕かれていない、なんとなく燻製っぽい香りがする、渋味が出にくい、という特徴がある。また、香りを吸着させるのに便利なためか、アールグレイなどの香りをつけた紅茶は、中国産の紅茶を利用していることが多い。
[編集] アフリカ
アフリカでは、ケニヤ、タンザニア、マラウイ、モザンビークなどで生産されているが、その多くがブレンド用である。ケニヤに産するものは比較的良質と言われる。
- ケニア
[編集] ロシア
- ジョルジ(Georgie)
- 水色は深橙色。ストレートティー向き。甘い味を持つと言われる。
[編集] 日本
1876年(明治9年)に紅茶用茶樹の種子が導入され、鹿児島、福岡、静岡、東京に紅茶伝習所が設けられ、紅茶の製造がはじまった。1971年の紅茶輸入自由化以降、国内の紅茶生産は壊滅状態となったが、現在では九州南部、静岡県及び長野県、三重県、山陰地方などで生産された国産紅茶が若干量流通している。
[編集] ブレンド
紅茶の場合、コーヒーと異なり、比較的ブレンドが重視されている。以下に良く知られるブレンドの一覧を示す。
- ブレックファスト
- 名前の通り、朝起き抜けに、あるいは朝食に添えて飲むためのブレンド。水色がかなり濃く、比較的強い渋味を持つ。イングリッシュとアイリッシュの二種があり、特に後者は渋味が強い。通常ミルクを加え、ミルクティーにして飲む。
- アフタヌーン
- 午後のひとときに味わって飲むためのブレンド。香り高く、味のバランスの取れたものと言うことになるが、このあたりは銘柄によって様々。
- HMB (Her Majesty's Blend)
- 女王陛下のブレンドと言う意味。通常リッジウェイの物を指す。渋味の抜けたスッキリとした味わい。
- アールグレイ
- ベルガモットの香りを付けた着香茶のこと。名前は19世紀の英国首相グレイ伯爵を由来としている。
- レディグレイ
- アールグレイをベースに、柑橘類の果皮、と矢車菊の花を加えたトワイニング社のブレンドティ。フルーティーで爽やかな風味。
- プリンス・オブ・ウェールズ
- キーマンをベースにした、蘭の花のような香りが特徴。名称の由来は英国・皇太子時代のエドワード8世。
- ダージリン
- アッサム
- セイロン
著名な産地の名を冠したものは、各々の産地の特徴的な香味を出しつつ年毎の茶葉の質の変化を調整し、改良したもの。この他、様々なブレンド・着香茶が存在する。メーカー(パッカー)により当然味が異なる。また、同一パッカー同一銘柄のものでも、各地の飲料水の水質に合わせる、地域により嗜好が異なるなどの理由で、出荷先に応じてブレンドを変える事がある。
[編集] 等級
紅茶は、茶葉の茶樹上での部位と、仕上げの茶葉形状により分類される。
- フラワリー・オレンジ・ペコー(FOP)
- 枝の先端の新芽(チップとも呼び、芯芽と表記されることもある)を使用したもの。単体で出荷されることは稀で、通常はオレンジ・ペコーのうちチップの含有量が多いものを指す。
- オレンジ・ペコー(OP)
- 先端から2枚目の葉を使用したもの。葉は若いものとなる。
- ペコー(P)
- 先端から3枚目の葉を使用したもの。葉は短い。
- ペコー・スーチョン(PS)
- 先端から4枚目の葉を使用したもの。葉は短いが巾広になる
- スーチョン(S)
- 先端から5枚目の葉を使用したもの。ラプサンスーチョンに使われる。葉は大型となる。
- ブロークン・オレンジ・ペコー(BOP)
- オレンジ・ペコーを裁断したもの。
- ブロークン・ペコー(BP)
- ペコーを裁断したもの。
- ブロークン・ペコー・スーチョン(BPS)
- ペコー・スーチョンを裁断したもの。
- ブロークン・オレンジ・ペコー・ファニングス(BOPF)
- ブロークン・オレンジ・ペコーをさらに細かく裁断したもの。
- ダスト(D)
- 粉のように細かく裁断したもの。主にティーバッグに使われる。
特に高品質の茶葉には、以下のものがある。等級と価格、品質は概ね比例しているものの、この等級が絶対的要因では無い。
- ゴールデン・フラワリー・オレンジ・ペコー(GFOP)
- FOPのうち、チップ表面の産毛(毛葺と呼ぶ)か発酵時に紅茶液に染まり金色となったもの(ゴールデンチップ)を含むもの。
- ティッピー・ゴールデン・フラワリー・オレンジ・ペコー(TGFOP)
- GFOPのうち、チップの量がとても多いもの。
- フラワリー・ティッピー・ゴールデン・フラワリー・オレンジ・ペコー(FTGFOP)
- TGFOPのうち、ほとんどがゴールドチップから成るもの。香りの良いチップを含む高級茶葉である。
インド政府紅茶局によれば、FTGFOPの先頭のFはフラワリーを表す。つまり、先頭のフラワリーはティッピーにかかる修飾語、あとのフラワリーはオレンジペコーにかかる修飾語である。但し、一般に日本の紅茶取り扱い業者の間では、先頭のFはファインと表示される場合が多い。 - シルバー・ティッピー・ゴールデン・フラワリー・オレンジ・ペコー(STGFOP)
- TGFOPのうち、ほとんどがシルバーチップから成るもの。STGFOPもスペシャル・ティッピー・ゴールデン・フラワリー・オレンジ・ペコーと表示される場合がある。
- シルバー・フラワリー・ティッピー・ゴールデン・フラワリー・オレンジ・ペコ(SFTGFOP)
- この等級は本来のカテゴリには無く、後にディーラーが作った物と推測されるが、チップの量・質ともに優れているものに付けられている。ゴールドチップ、シルバーチップ共に多く含む最上級茶葉である。同様にSFTGFOPもスペシャルファインとかスーパーファインとかの表示がされる場合があるが、本来の意味から考えるとこれは誤りと言えよう。
更にTGFOP1とかSFTGFOP1とか最後に'1'を付けた物もあり、これはナンバーワンというような意味である。
[編集] 旬
旬によっても分類される。
- 早摘み茶(Early First Flush)
- ファーストフラッシュのうち、特に早い時期に摘んだもの。初売りのファーストフラッシュとして競って店頭に並べられる。
- ファーストフラッシュ(First Flush)
- 春摘みといわれる紅茶。低温期に生産を行なわない地域での新茶となる。香りが強く、発酵の浅いものが多いため、水色も緑色を帯びるものが多い。
- インビトウィーン
- 中間摘みといわれる紅茶。あまり出回らない。
- セカンドフラッシュ
- 夏摘み、もしくは2番摘みといわれる紅茶。味、香気ともにバランスがとれ、水色に優れた非常に高品質な紅茶が得られる時期。
- オータムナル
- 秋茶とも呼ぶ。秋摘みという意味の紅茶。品質はセカンドフラッシュに比べ劣る。茶葉のツヤも無く、荒れた品質となる。香気は弱いがしっかりとした味の紅茶となる。
- ベスト・シーズン
- スリランカにおいて、特に生産量の増える季節のこと。
- クオリティ・シーズン
- スリランカにおいて、特に高品質の茶葉が得られる季節のこと。
[編集] 紅茶の生産
[編集] 生産
紅茶の最大の生産国はインドで、次いでスリランカ、以降ケニヤ、トルコ、インドネシアと続く。中国は茶の生産ではインドとスリランカの間に入るが、緑茶と区別した統計が無いため、詳しい所は分らない。
一般に高い標高の冷涼な環境で栽培されるものには、香りの優れたものが多く、強い日射の低地で栽培されたものに味に優れ(ただし、比較的アクの強いものとなる)、水色の濃いものが多いとされる。ダージリン、ウヴァ、キーマンなどは前者に、ルフナ、アッサムは後者に入る。一般に前者のものが高価である。近年では強い渋味を好む中近東地域で低地産紅茶の消費が増えている。
セイロン(スリランカ)紅茶の場合、産地の標高により明確に分類され、1,219m(4,000ft)以上のものをハイ・グロウン、610m(2,000ft)以下のものをロウ・グロウン、その間のものをミディアム・グロウンと呼ぶ。
収穫期によっても品質は変化する。
ダージリン紅茶の場合、一番茶の採れる3・4月には、香りの優れた緑がかったもの、続く5・6月には味・香りともに優れたものが採れる。7・8月の雨期には香りの無い低品質のものとなる。9・10月に採れる秋茶は主にブレンド用とされる。
セイロン紅茶の場合、産地により最高品質の茶が採れる季節(クォリティーシーズンと呼ぶ)が異なる。例えば、ウヴァは7・8月、ディンブラは1・2月となる。
[編集] 栽培
次の条件を満たす地域が茶樹の栽培に適するとされる。
収穫期に、乾燥した日内寒暖差の激しい日が続くと香気に優れた茶葉が得られるとも言われる。また、茶樹の栽培から茶葉の収穫にかけて人手がかかるため、安くて良質な労働力が求められることも重要である。
茶樹は、病虫害や気候の変動に比較的良く耐える植物であるが、良質な茶葉を生産するためには専門の管理士の指導のもと、比較的人手のかかる作業を含む監理が必要である。
[編集] 収穫
茶の収穫(茶摘みと呼ぶ)は、通常人手で行なう。通常鋏などは使用しない。枝の先端の芽(芯と呼ぶ)と、その下二枚の葉までを摘む方法(一芯二葉摘みと呼ぶ)が理想とされるが、実際はもう一枚下の葉まで含めて摘む方法(一芯三葉摘み)が一般的になっている。ダージリンの「マカイバリ」茶園の高級茶葉は一芯一葉摘みなので、チップを多く含んでいる。
[編集] 紅茶のできるまで
現在の紅茶の製造法は、19世紀中頃、イギリスが中国紅茶の製法を参考に、インドアッサム種を用いて製造した方法が改良されたものである。 紅茶の製造は以下の工程からなる。
生産(栽培、収穫) ⇒ 萎凋 ⇒ 揉捻 ⇒ 玉解 ⇒ 篩分 ⇒ 揉捻 ⇒ 発酵 ⇒ 乾燥(⇒ 抽出)
簡単に言ってしまうと、収穫した茶葉を放置し、しおれさせた後に揉み潰してまた放置、茶葉が褐色に変化したところで乾燥させる。という工程の並びになる。(しおれさせる工程を萎凋、揉み潰す工程を揉捻、茶葉が褐色に変化するのを待つ工程を発酵と呼ぶ)
従来は、茶葉の形状を残し、針状にまとめたもの(リーフタイプと呼ぶ)が一般的であったが、近年では、揉捻の際茶葉を磨砕し細かくしたもの(ブロークンタイプと呼ぶ)が増えている。萎凋を浅くたブロークンタイプのもの(CTCタイプと呼ぶ)や、萎凋前の茶葉を裁断して作るもの(レッグカットと呼ぶ)もある。
「もともと、東アジアにあった茶の葉が輸送中に発酵してしまったことから、そういうものであるとヨーロッパの人たちが思ったことから、茶の葉を発酵させて作る。」というのは俗説である。前述の通り、紅茶における発酵は、茶葉に含まれている酸化酵素による発酵である。すでに製品として仕上がっている茶葉が、ヨーロッパへ運んでいるうちに発酵して紅茶になる、というようなことはない。本当にこのような発酵が行われたとすると、それは菌による発酵であろう。菌を使った発酵を行う茶としては、後発酵茶である黒茶(プーアル茶など)がある。
[編集] 生産
茶の生産については紅茶の生産の節を参照。
[編集] 萎凋
次工程での加工のため、茶葉に含まれる水分量を調節する工程。実際には、萎凋棚に生茶葉を広げ、通風環境下で18時間程度静置する。通常茶葉の重量が元の茶葉の55%に減少するまで行なう。この操作により、茶葉は柔軟になる。また、この際萎凋香(いちじく様の香りといわれる)を生じる。
香りの強いダージリン紅茶の場合は、この萎凋を強くし、茶葉の重量が元の40%になるまで行なう。一方、水色に重きをおくCTC紅茶では萎凋を弱くし、茶葉の重量が元の70%になったところで次の工程に入る。
[編集] 揉捻
萎凋の終った茶葉を40分程度かけて揉み潰し、細胞膜を破壊することで紅茶の成分を抽出しやすくすると同時に、茶葉中の酵素やカテキンを浸出させ、酸素を供給して次工程の発酵を開始させる。一回の揉捻で全ての茶葉を揉み潰すのは困難な為、以下の二工程が追加される。
[編集] 玉解と篩分
揉捻により塊状となった茶葉を解きほぐし(玉解)、細かくなった茶葉をふるい分け(篩分)する工程。通常器械を用いて同時に行なう。細かくなった茶葉は次の工程を飛ばし、発酵の段階で元の茶葉とあわせる
[編集] 再揉捻
30分程度かけて再び揉捻を行ない、茶葉を形状を整えるとともに、揉捻を完全にさせる。
[編集] 発酵
茶葉中に含まれる酸化酵素の作用を利用してカテキン類を酸化発酵させる。実際には、気温25℃、湿度95%の部屋に2時間程度静置する。この際、茶葉は褐色に変化する。
[編集] 乾燥
十分に発酵した茶葉を加熱し、茶葉中の酵素を失活させることで発酵を終了させるとともに、60%近くある茶葉の水分量を3%程度にまで減少させる。
[編集] 飲み物としての紅茶
茶葉を熱湯で抽出し、その抽出液を飲用する。抽出の方法には幾つかの種類があり、淹れる人毎に各々の決まりがあると言われている。 好みにより、砂糖、ミルク、レモン、ジャムなどを入れて飲む。ティー・バッグを使えば、手軽に紅茶を楽しむことができる。
紅茶とミルクを合わせたもの、いわゆるミルクティーをいれる際に、ミルクを先に入れるか、紅茶の中にミルクを落とすかが、紅茶好きの間では常に議論の種になる。イギリス王立化学会が2003年6月24日「完ぺきな紅茶の入れ方 (How to make a Perfect Cup of Tea pdf)」として発表した論文によると、ミルクを先に入れたほうが良いとのことである。これは、熱い紅茶の中にミルクを注ぐとミルクのタンパク質が変質してしまうことが、化学分析の結果明らかになったためである。
紅茶の水色は抽出に用いた水の硬度により大きく変化する。通常、硬度の高い水で淹れた紅茶は水色が濃く、暗い色調となる。飲料水の硬度が比較的高い欧州で飲んだ紅茶の水色を参考に、硬度の低い日本の水で紅茶を淹れると、味としては非常に濃い紅茶になるので注意すること。また、軟水は硬水に比べ紅茶の成分、特にタンニン類を引き出す能力が高いため、同量の茶葉を用いた場合でも軟水で抽出したものは味が濃く、きつい紅茶となる傾向がある。
[編集] 紅茶の淹れ方
紅茶の入れ方には大きく別けて、淹茶式、煮出し式、煮込み式、濾過式の四つが知られている。
[編集] 淹茶式(えんちゃしき)
ポットなどの容器に茶葉を入れ、熱湯を注いで蒸らし、茶葉を濾別して抽出する方法。家庭における一般的かつ本格的な方法と言われる。ティーバッグを用いる場合もこれに分類される。
おいしく紅茶を淹れるコツは、良質の茶葉を用い、新鮮なくみたての天然水を使い、十分に沸騰(ただし、沸騰したてのもの)させてから茶葉に注ぐことである。ポットの中では茶葉が対流で浮いたり沈んだり(ジャンピング)するようにする。茶葉を充分に蒸らし、葉が開ききってからカップに注ぐ。ポットには蓋付きのものを用い、ポットもティーカップもあらかじめ温めておくと良い。
抽出時間はBOP等の粉末状の茶葉なら2分以内、OP以上の茶葉の形が残っているものなら3~5分がよいとされる。この抽出時間はあくまで目安であり、紅茶の産地や水質、茶葉の量や紅茶の濃さによって調整する必要がある。
ジャンピングは、美味しい紅茶を淹れるための絶対条件ではない。だが、確実なジャンピングを起こさせる事にこだわる人が淹れる紅茶程、確かに美味しいとも言える。
[編集] 煮出し式
鍋や釜に湯を沸かし、茶葉を入れてそのまま煮出した後、茶葉を濾別する方法。煮出す時間は普通30秒程度。煮出している最中は蓋をすること。鍋一つでも出来る、比較的簡便な方法ではあるが、一度に多量に抽出出来る上、抽出時に変化が与え易く、応用の効く方法である。
- ロイヤル・ミルク・ティー
- 水の代わりにミルクを用いたもの。クリームを加えてより濃厚に仕立てることもある。日本独特の呼び名であり、本場英国では、'あえてロイヤル・ミルク・ティーと呼ぶなら、それは紅茶にミルクを加えたもの'であることには注意すること。
- スパイス・ティー
- 水の代わりにミルクを用い、更にシナモンやクローブなどのスパイスを加えたもの。
[編集] 煮込み式
煮出し式に似ているが、水の代わりにミルクを用い、抽出に比較的長い時間をかけるもの。インド・チャイがこれに当るが、ハッキリとした定型が無く、煮出し式との区別はむずかしい。多くの場合、多量の砂糖とスパイスが入る。またミルクを使った煮出し式と比較すると、煮出し式は茶葉の香りを飛ばさぬようミルクが完全に沸騰する前に(俗にいう「吹かさないように」)火を止めるが、煮込み式の場合はあえて何度も煮返して水分を飛ばし、茶葉の香りよりはミルクの濃厚さとスパイスの香りを重視して作る場合が多い。店頭では常時沸かしっぱなしになっていることが多い。
[編集] 濾過式(ろかしき)
茶漉しやネル袋に茶葉を入れ、上から熱湯を注ぐ方法。このときにネル袋を抽出液に浸漬したり、茶葉を搾るなどの操作が加わる。上から熱湯を注ぐだけでは「色つきのお湯」程度にしかならないし、逆に揉んだり絞ったりすれば非常に濃い紅茶となるが、いずれにせよ良い方法とは言えない。多量の砂糖とミルクを添えて味を誤魔化さねば飲みにくい代物である。
[編集] 紅茶の飲み方(作法)
上記は主に英国流のマナーに沿って述べてきたが、もちろんそれだけではなく世界各地でさまざまな流儀がある。
[編集] インド
植民地時代にイギリスの影響を受けたのち、独自の喫茶文化を発達させた。詳しくはチャイを参照。
[編集] 香港
イギリス流のアフタヌーンティーも盛んであるが、庶民はエバミルクと砂糖をたっぷり入れたミルクティーや、レモンを1/3個分程使った、レモンティーを特にアイスで楽しんでいる。また鴛鴦茶というコーヒーと合わせた香港独特の飲み物もある。
[編集] チベット
中国雲南省などで作られる磚茶(せんちゃ。茶葉と茎を蒸して固形化したもの)とバターと岩塩、プンドを、ドンモやチャイドンと呼ばれる筒形の容器に入れ、攪拌して作る。バター茶とも呼ばれ、チベットでの重要なビタミンC摂取源である。どちらかというと味はスープに近く、主食のツァンパを練るのにも使う。
[編集] ロシア
日本で一般に「ロシアン・ティー」と言えば、紅茶にジャムを加えて飲むものとされているが、そこには大きな誤解がある。一人分ずつ供されたジャムをスプーンですくって舐めながら紅茶を飲むのが本場ロシアでの作法である。寒い土地で紅茶にジャムを入れると、温度が下がるので体を温めるのに適さないし、だいいちお茶そのものが渋くなってしまう。
[編集] トルコ
トルコでは、トルココーヒーのイメージがあるがこちらは高級品で、紅茶が身近な飲み物になっている。独特の形をした紅茶をだすための器具があり、真ん中がくびれた細身のガラスコップに入れて客に振舞ってくれる。この地を旅行すると、必ずこのような紅茶にお目にかかる。さっぱりとしたアップルティーが一般的で、これとは別にハーブティーなどがある。
[編集] 紅茶の化学
[編集] 紅茶の成分
[編集] カフェイン
紅茶茶葉中には、重量にして3%程度カフェインが含まれる。この量はコーヒーの三倍の量に当る。しかし、一杯当りに使用する茶葉・豆の量(抽出の効率も)が異なるため、飲用時のカフェイン濃度はコーヒーの方が高くなる。(カフェイン濃度はコーヒーに比べ半分程度とされる。しかし、品種や抽出条件(加えてコーヒーでは焙煎状態)により大きく変化するため、厳密に評価するのは難しい。)なお、紅茶に含まれるカフェインはタンニンと結びつくためにその効果が抑制されることから、コーヒーのような覚醒的作用は弱く緩やかに作用する。
[編集] タンニン
紅茶におけるタンニンは、エピカテキンやエピガロカテキンなどのカテキン類とその没食子酸エステル誘導体が主となっている。一般に、カテキン類は苦味を、その没食子酸エステル誘導体は渋味を持つと言われる。生茶葉中にも多量に存在する。紅茶製造においては、発酵過程において生成されるテアフラビンなどの赤色色素の前駆体となっており、その抽出液の水色に大きな影響を与える。なお、タンニンはポリフェノール化合物の一種でもある。
紅茶には、茶葉重量の11%程度タンニンが含まれている。生茶葉中に、乾燥重量に換算して20〜25%含まれる。
紅茶によく用いられる茶樹の品種であるアッサム種では、このタンニンの含量が緑茶に用いられる中国種に対し1.2〜1.5倍程度多く含まれている。
[編集] 呈色成分
紅茶の水色は主に紅茶フラボノイドによって決まる。紅茶特有の呈色成分として知られるテアフラビンとテアルビジンが良く知られており、これらの水色に与える影響は大きい。この二つの成分が多い程、水色は鮮やかな濃い赤色となり、良品とされる。
[編集] 香気成分
紅茶の香気はリナロール(レモン様)やゲラニオール(花の様な)といったテルペン類による影響が強いが、その他にも青葉アルコール(ヘキセノールのこと。青臭い若葉)などのアルコール類、青葉アルデヒド(ヘキセナールのこと。青臭い若葉)のようなアルデヒド類、ネロリドール(ウッディな)、サリチル酸メチル(湿布薬)をはじめ多くの物質が関与している。
なお、リナロールやゲラニオールなどのテルペン類は、生茶葉中では配糖体など不揮発性の前駆体として存在しており、これが萎凋や発酵の過程で遊離すると考えられている。
[編集] 萎凋における香気成分の変化
萎凋の際、生茶葉に含まれる青葉アルコールや青葉アルデヒドは蒸散し、次第に減少して行く。一方、細胞内の酵素の作用によりテルペン系の香気成分が集積してくる。
[編集] 発酵における赤色色素の生成
茶葉に含まれるポリフェノールオキシダーゼ(ラッカーゼとも言うEC 1.10.3.2)の作用により、カテキン類(タンニンと考えても良い)が酸化重合し、テアフラビン(橙赤色)やテアルビジン(赤色)などの赤色色素が生成する。これらの物質は茶葉にもともと含まれる紅茶フラボノイドとともに茶の水色を決定する。また、この際、いくつかの香気成分も生成される。
[編集] 乾燥における香気成分の変化
乾燥における熱風処理でかなりの香気成分が散逸する。また、糖のカラメル化も起こる。また、水分量が激減するため、製品の品質は安定する。
[編集] 関連項目
[編集] 関連書
- 『一杯の紅茶の世界史』 磯淵猛 文春新書 文藝春秋 ISBN 4166604562
- 『カルカッタのチャイ屋さん』 堀江敏樹 南船北馬舎 ISBN 4-931246-09-5 C0026
- 『紅茶の本 -増補改訂版-』 堀江敏樹 南船北馬舎 ISBN 4-931246-04-4 C0077
- 『紅茶で遊ぶ観る考える』 堀江敏樹 南船北馬舎 ISBN 4-931246-06-0 C0077
- 『紅茶をもっと楽しむ12ヵ月』 日本紅茶協会監修、日本ティーインストラクター会編、講談社刊 ISBN 4-06-212817-9